海辺の街は
今日は少し短いです。
その日から〝彼〟————アルケイデスの猛勉強が始まった。
のちに、アルケイデスの講師を担当した者はこう述べた。
「ありえない」
と。それだけ彼の吸収力はすさまじかったのである。
枯れたスポンジが水を吸収するほどとよく言うが、これまで何も学ばず、ただ剣を振るっていた彼は、さらにその上を行った。
算術の公式とその解きかたを2日で習得し、旧帝国や周辺国の位置や地理なども3日で覚えた。
講師が教えるべきことは、最初の2週間で終了してしまったのである。
困った、マキシウスは、彼に本を与えた。彼は用意された本を、今では政府の立法府となっている旧帝国の元老院があった施設の地下にある、かつては裏切り者をひっそりと処断するための地下牢で読んだ。
あの戦いの後、彼の存在は秘匿されていた。そのためにその地下牢が用いられたのだ。
彼は残りの2週間、多くの本を読んだ。歴史書から思想家の書いた書物etc...彼は知識をむさぼった。
そして、1か月後。
アルケイデスは、港湾都市ルクルーゼに来ていた。
彼は初めて海を見た。風は少し湿っているが、熱くはない。陽光は、水面に反射してより強く感じられた。
そんな彼が馬車の停留所から降りて、地図を確認する。
(学園は、この通りを北に行けばいいのか)
北の方には、店が軒を連ねており、見たことも無いものを売っている。
(これが、外の世界か!!)
表情はさほど変わっていないが、彼の心の中は高揚していた。
彼の見るものすべてが、新鮮で、美しいのだ。
ふと、彼は周囲から視線を感じた。
彼は首をかしげる。服装は(特注ではあるが)中層階層の平民と同等のレベルである。目立つところいえば、両手首を覆っているギプスのようなものであろう。
しかし、彼は気付いていない。この世界の男性の平均身長は170cmほど、2mをゆうに越えるアルケイデスは周囲の人からすれば明らかに目立つ。
実際、周囲からは、「誰?」「でかい!!」「巨人だ⁉」と少しだけ騒ぎになりつつあった。
アルケイデスはそれに全く気付かないまま、学園に向けて足を運んだのだ。
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しばらく歩くと、道は坂になっておりその上に白亜の建築物が見えた。
大きな時計塔が立ち、その横に複数の窓がついた建築物が建っている。あれが学園だ。
アルケイデスはそこに向かって再び歩みだした。
彼の横を、一際豪華な装飾がついた馬車が通ていく。石畳に車輪があたる音が複数後ろから同様に聞こえる。
馬車に乗るのは、貴族や裕福な承認などの上級階層である。
平民は彼と同様、道の端にある歩行者専用の道を歩く。道幅が広いため、混雑はない。しかし、学園に近づくたびに他の道から来た学生が、次々とアルケイデスと同様の方向に歩いていった。
その最中もちらちらと彼は学生から見られていた。
しかし、当の本人は周囲には目もくれず、黙々と学園を目指した。
そこにある新しい世界に飛び込むために。
今日は、学園の入学試験日である。
次回、試験です。