序章2 ④
序章はこれで終わりです。
「マルク男爵! どうなっているんだ!?」
先程の巨大な砂煙を確認したマキシウスは、本陣に戻ってきたマルク男爵に声をかけた。
「それが、シャルル将軍、ルーベンス将軍、カイル将軍の3人が、あの、化け物をおびき寄せるため、に囮になり...」
馬に乗っているのに、汗でびっしょりと額を濡らしたマルク男爵は、息を切らしながら応えた。
「なんだと⁉」
椅子が倒れる勢いで立ち上がった。それを気にしている暇はマキシウスにはない。
歯を嚙む力が強くなり、手から血が吹き出そうなほど強く手を握った。
「彼らはこれからの国づくりに必要な将軍だ! 今すぐに連れ戻せ!」
「しかし、すでに彼らは————」
「くっ」
悔しさを隠しきれず、顔をそむける。
(ルキウス。まだか)
心の中でここにはいない弟に呼びかける。
そのとき、
「マキシウス様! 帝都の方を!」
その声にはじかれるように顔を上げる。帝都のある方向から白い煙が上がっていた。合図の煙だ。
「マキシウス様!」
「ああ」
ゆらりゆらりと、足を歩ませ、膝を地面につく。
「勝った。勝ったぞ!!」
勝利を謳う声が挙がった。それにつられるように、1人、また1人とそのことに気づき、喜びの声を挙げた。
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一方その頃、森の中では、
「おいシャルル。大丈夫か⁉」
「ああ、馬がへばりそうだがな」
カイルは少し後ろを走るシャルルに声をかけた。
森の中では馬の俊敏さは機能が制限されてしまう。
それでも、将軍にまで上り詰めた彼らは、洗練された手綱さばきで後ろから追ってくる怪物から逃れていた。
「ルキウス様はまだなのか」
「予定ではそろそろだ。もう少しの辛抱だ」
「ああ、そうだな」
ルーベンスが2人を励ますと、ちらりと後ろを見る。
馬と同等の早さで森を駆け抜けてくる。1人の男がいた。
「あいつ、本当に人間かよ」
苦笑いを浮かべながら、後ろを見る。
男が大剣を横なぎにすると、木がへし折れ、その破片がこちらに向かってくる。
「気をつけろ! 頭にあたったら死ぬぞ⁉」
破片を避けながら2人にカイルが声をかける。
「ぐわっ⁉ しまった⁉」
しかし、その一部がシャルルの頭に直撃し、シャルルは落馬してしまう。
「シャルル!!」
2人は急いで戻り、彼のそばまで駆け寄る。
「どうだ⁉」
「気絶しているようだ。したが軟らかい土でよかった」
しかし、その間に男は間近にまで迫っていた。
「仕方ない。カイル。シャルルを乗せていけ!」
「ルーベンス将軍⁉」
「お前はまだ若い。ここで死ぬのはダメだ!」
「しかし、将軍には娘さんが!」
「・・・・・・・・あとは任せたぞ。行け」
カイルは悔しそうにしながらも、シャルルを自分の馬に乗せ、再び走らせた。
「さて」
ルーベンスは重い腰を上げると、腰の剣を引き抜く。
「・・・・・・・・・」
ちょうどそのとき、男がルーベンスに追いついた。
〝彼〟が通った後は、木はへし折られ、岩は粉々に砕かれていた。
「1つ聞いていいか?」
「・・・・・・・・・」
「あんたは、なんで戦う?」
「皆を救うためだ」
「・・・・そうかい」
そういうと、ルーベンスは剣を構える。
「こちらも、守るものがあるのでね」
「俺は戦う。だから、どうか死なないでくれ」
「は! 今から殺そうとしている相手に言うことかい?」
2人はしばらくにらみ合うと、ほぼ同時に駆け出した。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!」
「・・・・・・・・っ!!」
2人の武器がぶつかり合うその瞬間。
「ちょっと待ったーーーー」
突然の声にぴたりと手が止まる。ルーベンスの剣は、〝彼〟の大剣の力でへし折れる寸前だった。
「カイル⁉」
声の正体は、先ほどシャルルを連れて逃げたはずのカイルだった。
「双方戦い辞め。決着はついた」
「何⁉」
「何だと⁉・・・・・まさか!」
「ああ、ルキウス様がやってくれた」
「そうか、よかった」
緊張から解き放たれ、腰が抜けてしまった。
「負けた。皇帝軍が⁉ それでは⁉」
「・・・・・・・」
大剣を地面に落とし、顔に暗い影を落とした男がそこにいた。
「なあ、戦いは終わったんだ。降伏しろ、そうすれば————」
ルーベンスが〝彼〟に降伏を勧めようとしたとき、突然彼の首輪から、黒い鎖のような模様が広がり、〝彼〟を包み込んだのだ。
少し荒くなってしまいましたが、後の説明は、本編で。