序章1
久しぶりの作品投稿です。よろしくお願いします。
歓声が聞こえてくる。
暗い牢の中で彼はその声を聞いている。
牢の中は狭く。簡単なベッドとトイレしかない。
床は少し濡れており、周辺からは獣と人間の叫び声と、鼻が曲がりそうなにおいがする。
「おい、出ろ」
しわがれた声が聞こえた。
顔を上げると、老人が立っていた。ここの管理人だ。
「今日は20人と同時に相手しろ。それぐらい問題ないだろ?」
「・・・・・・・・」
〝彼〟は老人の声にこたえることなく立ち上がった。
それは老人の身長をはるかに超えるほどの長身であった。
分厚い胸板に盛り上がった筋肉をしているが、顔は比較的端正で、グレーの髪とよく合っていた。
老人は彼が牢から出ることを確認すると、彼には目向きもせず牢が並ぶ廊下を歩いていった。
「早くしろ、武器は入口においてある」
暗い廊下を歩いていると、牢屋から手を伸ばす男や、横になる男、獣人の女などが目にとまる。
〝彼〟にとってはもう慣れた光景だ。否、このような光景しか彼は見たことがなかった。
しばらく進むと、太陽の光が差し込むところにやってきた。闘技場の入口である。
入口に向かう通路には、〝彼〟が使っている武器が置いてあった。
巨体を誇る彼と同じくらいの長さの大剣である。
赤紫色をした片刃の大剣で、装飾は一切ない。幅は〝彼〟の胴を隠すほどの広さである。
〝彼〟はそれを軽々と担ぐと、光が差し込む入口に向かった。
そこを通ると、一気に視界が開ける。周りを取り囲むような円形のとなっており、多くの市民が観戦に来ているのが見えた。
〝彼〟は砂地の闘技場の中央へと向かうと、相手の方に視線を向ける。
老人の話では、今回は20人だそうだ。見ると、こちらをにらみつける者、おびえた目をするもの、笑みを浮かべるものなど、さまざまである。
同時に、観戦客からは、応援と怒号がまじりあった声が飛ばされた。
すると、急にこれまでの熱気が嘘のように、声がぴたりと止む。
視線を左斜め上に向けると、特等席のようなところに一人の男性が立っていた。いかにも権力者であることをアピールするように、豪華な服装をしている。
男は、片手を高く挙げると、「始め」の言葉とともに振り下ろした。
それとともに、再び歓声があがる。
再び相手に視線を向ける。彼は口を開いた。
「全力で行く。だから、どうか死なないでくれ」
それと同時に相手も彼も駆け出す。
そして、大きな砂煙と、血しぶきが舞った。
頑張っていきます。感想をよろしくお願います!