序章7話 詰込み聖女教育
大きな転機を迎えたのが9歳でした。ある日突然「魔法が使える」という漠然とした感覚がわたくしの中で芽生えました。今は辺境伯令嬢にも関わらず、男子中学生特有の病を患ってしてしまったのでしょうか、と不安を抱きつつも庭で試してみるとあっさり魔法が発動しました。
あの時は本当に驚きましたよ。人間の手から謎の光線が出るんですよ。しかも木が焦げるくらいの破壊力で。
ただ一番の問題はそこではありません。
わたくしの授かった魔法は光属性でした。
しかもこの時は複数の魔法が一度に解禁になってしまったのです。恐らくですが魔物の討伐を繰り返していたのでレベルがそこそこ上がっていたことによる影響ではないかと思われます。
他の魔法も順番に試していると、たまたま通り掛かったお父様が倒錯したり、国から真偽を確かめるために調査官が派遣されたりとどんどん大事になってしまいました。
そして、鑑定のマジックアイテムによって解析された情報を調査官が精査し、正式にわたくしが光魔法の担い手で相違無いという結論に至りました。事態を受けた王家から「オルヴィエート王国2代目聖女」という役職を付けて担ぎ上げる旨の通達をいただき、その任を仕りました。
そこからは激動の毎日でしたよ。
聖女として生きていく上で相応しい知識や気品を会得するため、1日のスケジュールの大半が外国語に歴史、魔術、医療と様々な習い事漬けという日々を送りました。
当家は辺境な上に剛健質実がモットーなので平時は来客が非常に少ないオリハルクスの屋敷では王宮より遣わされた教師軍団を受け入れるだけでも最初は苦労しました。その彼ら達が寄ってたかってわたくし一人に教鞭を振り回すのですから、なかなか壮観な光景でしたよ。
まあ一番苦戦したのはマナーですがね〜。もともと野山で軽鎧を纏って刀剣を振り回してたわたくしに突然ホールでドレスを纏ってにこやかに振舞えと言われても、
「はぁ」
としか言葉が出てきませんでした。住む世界が違いすぎます。
担当の先生も最初は「ゴブリンのほうがまだ上品に振る舞う」とおっしゃってたぐらいですからね。わたくしもそう思います、と笑顔で相槌を打ったら更にしこたま怒られましたが。
ですが最終試験に合格した時は泣きながら褒めてくださいましたよ。百戦錬磨の先生でさえ「これは手に負えない」と何度も心を折りながらそれでも見捨てず、最後は教え子の中でも一二を争う仕上がりとおっしゃってくださいました。なので、わたくしは作法も佇まいもこの国の聖女として何処に出しても恥ずかしくないものになったと自負しております。えっへん!
日の出から夜分まで続く激甚カリキュラムも悪いことばかりではありません。学びたい事があれば教材だろうが教師だろうがなんでもタダで手に入るんですよね。興味のあった軍略や魔物学、工学といった全く聖女と関わりの無いものでも勉強させてくださったので楽しくて仕方なかったです。
休みですか?
週に1日は休みがあったのでその日は魔物狩りに出ていました。
更にレベルが上がって光魔法でどんな怪我も一瞬で治るようになってからは一人で山に入っても誰も止めなくなりましたね。