第4章23話 修道女ステラ
感想ありがとうございます!
ワクチンガチャは打ったら熱もないのに寒くて布団から出られなくなるパターンでした……
快晴であった昨日とうってかわってあいにくの曇り空となった聖都のはずれを馬車が走る。滅亡の危機に瀕した国を救済した聖女一行はまるで夜逃げでもするかのように、聖都を足早に後にした。現在はオルヴィエート王国への帰路を辿っている真っ最中である。
ドラゴンによって破壊された箇所をおおかた巡り終えたラズ達は聖都の中心街でも指折りの豪華な宿で一夜を過ごした。
ようやく、宿に転がり込んだ頃には既に一行の噂は高級宿街にまで届いており、歓喜に満ちた店主一同より熱烈な歓待を受けた。
軽い食事を取ったらすぐに休もうと考えていた彼女達からするとありがた迷惑な話だったが、救国の英雄である聖女とその下僕達を前にして興奮するなという方が無理な要求である。
人とすれ違う度に拝まれたり、感謝の言葉をかけられ続けたりしたラズがあまりの居心地の悪さに早期出立を提案。これが満場一致で可決となり今に至る。
気品の漂う二台の馬車がまるで往来のない早朝の街道をのびのびと進む。車体には聖光教会の紋章が金の塗料で描かれていた。
これはやんごとなき人物しか乗車を許されない特別なものである事を意味している。
これは教国が気前よく貸してくれた。
更に言うならば聖女専用車にと献上されかけたが、質素を好むラズは丁重にお断りした。
本来ならば要人の輸送となると護衛や世話係が同伴する大旅団となるところであるが、全てラズ達が辞退したため極小規模な形に落ち着いた。、戦力に関してはラズ抜きでも過剰で、世話などはリタという主人への偏愛以外の欠点がないスーパーメイド一人で余裕、ということですべて断った。
御者と旅に必要な荷物だけを提供してもらい王都を目指すことになった一行であったが、出発してからの反応は様々である。
国外旅行ということでウッキウキのラズに昨日の疲れで溶け出しそうなほどにだらけているエリーゼ。そして、不服そうな顔を浮かべるギルバートである。
「どうして貴様がこっちの馬車に乗っているのだ? お前はオレと一緒にあっちの馬車だろうが」
借り受けたのは二台の馬車だったが、結局片方に集まって乗車しており、もう一方はもぬけの殻である。
地方のダンジョンを回るためにパーティーで遠方へと移動する際の配車は男女で分けている。今回はステラを含めた四人が女性用に用意した片方の馬車へと集中したため、手持ちぶたさになってギルバートが雪崩込んできたのだ。
それでも設計上の定員は八人なのでまだ車内の空間にはゆとりがある。
威厳を示す意味合いも兼ねて作り自体を大きくしてある馬車であったのが幸いした形だ。
「この格好のまま王太子殿下と二人だけで馬車に乗ってしまっては要らぬ誤解を招くかもしれませんので、皆様には申し訳ありませんがこちらに同席させていただきました。なにか不都合があったでしょうか?」
「大丈夫です。ステラちゃんはかわいいから、なんの問題もないですよ〜」
殺し合い演じた時の鋭い眼光はすっかりと失せて、眉をハの字にしたまま上目使いで見上げるステラを前にギルバートはたじろいだ。
元々物覚えは良い方だが、昨日の巡回の最中に行われたラズとエリーゼの熱い指導により早くも女性らしい所作を会得しつつあるステラである。
既に厳格で勇猛な聖騎士の面影はどこにもない。
「うわっ、あんたのことエロい目で見てるわよ。あの変態王子」
「い、いくらなんでも私相手にそんなはずないですよ……?」
客観的に見るとか弱いシスターを密室に連れ込もうとしている男の構図になっていることを理解したギルバートは思わず眉をひそめる。
「わかったでしょう。ここに居るのがおかしいのは断然あんたなのよ。ほら、さっさと一人で向こうの馬車に移ってぼっち旅行を満喫してなさい」
しっしと手を振るエリーゼに対して、ぐぬぬと唸るギルバートを不憫に思ったステラが気を使っておずおずと提案する。
「……一人の旅路がご不満でしたら、エリーゼ様
が随伴されたらよろしいのではないでしょうか。ご両人は婚約されているのですから、外聞を気にする必要もないでしょうし」
「「断る!!!」」
真っ当な意見のはずが双方に真っ向から否定されたステラは首をひねった。
「こいつと同じ空間に二人きりで箱詰めにされるなんて、新手の拷問かなにかよ。御者の隣のほうがまだ快適だわ」
「全く持って同意見だな。お前の顔を見ながら馬車に乗り続けるなど、一分一秒毎に気分が悪くなる。死んでも御免だな」
「今日も仲良しですねぇ〜」
「「違う!!!」」
反射的に答えた二人の声が綺麗に重なると、どちらとも渋面を浮かべた。
これ以上なにを言っても話を聞かないラズには時間の無駄であると悟ったギルバートは話題を変えることにした。
「そんなことよりもだ。お前にはまだ聞くことが残っている。なんせ事が事だ。有耶無耶にするわけにもいくまい」
「はい……なんなりとお尋ねください。嘘偽りなくお答えする事を女神様の名において誓いましょう」
ステラが胸の上に開いた手を重ねて答えると、ギルバートは小さく頷いた。
「ではまず例の魔法をお前が使えた理由からだ」
例の魔法、というのは言わずもがな闇魔法についてである。ただでさえ未知の部分が多く、危険な魔法をもしも誰しもが使用できるとなると、到底放置してよい問題ではない。
「あれは私の力ではありません。剣に込められた魔法を発動していたのです」
「複数の魔法が使える魔剣など聞いたことがないな」
「四属性魔法なら出来無くはないですが、それでも高等な魔法になると媒体の方が保たないので、あまり作る意味もないんですよね」
マジックアイテムを自作する派のラズだが闇魔法に耐えうる素材には心当たりがなかった。
物体に刻んだ魔法陣に魔力を流す事で魔法が発動する、というのがマジックアイテムの原理原則であるが、魔力の量が増えると媒体にかかる負荷も大きくなる。そのため高度な魔法ほど魔力が必要なので壊れてしまう。
しかも二属性以上を同時に発動する複合魔法や光魔法などは刻み込む事自体がうまく行った事例がないので、にわかに信じがたい話であった。
「残念ながら私が教えてもらったのは使い方だけでした。剣で切った魔法を吸収し、魔力を蓄えることが出来るのですが、その魔力を使ってあらかじめ設定してある魔法を行使できるというのがあの剣が持つ特殊効果の全容です」
「オレの魔法がことごとくかき消されたのはそれが原因か」
圧倒する筈がおかげで苦戦を強いられた、とギルバートは不満を漏らした。
「はい。それと、吸蔵した魔力が尽きても使用者の魔力を代用して発動することも可能です。ただし、効率はかなり悪いので、低レベル帯の方では一回発動する事すらままならないでしょう。私の場合は魔法鎧から魔力を吸収して不足分を補填していましたが、負担は軽くなかったですね」
より多くの闇魔法を行使できた反面、防御は手薄にならざるを得ない。ギルバートがほぼ一撃で鎧の障壁を破ることが出来たのも、魔剣による消耗があったからこそである。
「それでもある程度魔力が溜まっていれば、誰でも魔法を使える訳か。万が一あんな物を量産されたらさすがにお手上げだな」
「証拠はありませんが彼は苦労して手に入れたと言っていました。際限なく用意できるとは思えません」
「ふむ。どこまで信用のおける言葉かはわからない以上、警戒はしておくべきだろう」
「破格の性能過ぎるからどうせダンジョン産の一点物だわ。代わりがきかないでしょうから警戒するだけ無駄よ。それよりも知らなくちゃいけないのはあんたにその剣を寄越した張本人の方だわ」
頬づえをついたエリーゼがあくびをしながらステラに尋ねる。
彼女の興味は闇魔法よりもラズという神をも脅かしかねない相手を本気で殺そうと画策する輩が何者であるかという一点のみである。
少し策を弄したくらいではとても勝ち目がないのは明白だ。だからこそ過剰なまでに大規模な布陣を敷いて敵も挑んできたのだろう。
少なくともエリーゼならよほどの理由がない限りラズに手を出そうと思わないほど絶望的な差がある。
この襲撃を仕組んだ者の目的はなんだったのか。ゲームと関連があるのか。
なにかしらの情報があれば尋ねたが、行動を一時共にしたというステラは首を横に振った。
「残念ながら彼は私になにも明かしてはくれませんでした。どうやら教会に恨みを持っているようでしたが、目的や考えまではなにも語らず、私を充分に焚き付けたら、別の用事があると言って去って行きました」
「一応、本国に戻ったら人相と背格好だけでも諜報部隊に伝えて行方を追うしかないな。下手に刺激したくないところだが、好き勝手させる訳にもいくまい。まったく……仕事が山積みだな」
窓の向こうへと視線を移したギルバートは遠い目を浮かべた。
「ああ……重ね重ね申し訳ございません」
多大な迷惑をかけている自覚のあったステラがすぐさま頭を下げて謝罪をすると、ギルバートは少し驚いた顔をして、それを制した。
彼女が彼だった時の言動を考えるとあまりにも殊勝な態度でどうにも調子が狂うのだ。
清楚な修道女の姿でつい昨日に殺し合った時よりも高く柔らかい声で話し掛けられると、経緯を知る者でさえ本当に同一人物かと疑問を抱く。
イメージとは真逆を行くこの見てくれは看過しようのない偽装と化していた。
「……別に悪いことばかりでもない。搾取する側の教国からむしり取り放題の交渉など二度と出来そうにない経験をたっぷりと味わわせて貰ったからな。今回はなんの被害もなしに百年分の恩を売った我が国の一人勝ちだからな」
くっくっくっ、と邪悪な笑みを浮かべたギルバートをエリーゼが半眼で見つめた。
「そこら辺で自重なさいよ。王子様がしていい顔じゃないわよ」
「おっと、そうだったな」
「それで。一体なにをもぎ取ってきて、こんなに嬉々としているのよ」
「細かいのも含めれば結構あるが、大きいのは主に3つだな」
視線をラズの方に移すとギルバートは指を一本たてた。
「まずはリアの扱いだ。正式に王国所属として両者の認識を再確認した。これに関しては折衝でもなんでもないがな」
「そう言われてみればすっかり忘れてましたが、教国に横取りされそうだったんでしたね、わたくし」
頭を抱えていた王国の上層部と違って、ラズにとっては瑣末な問題だったので頭からすっぽり抜け落ちていたが、事の発端は教国側が聖女を我が物にしようとしたところから始まっている。
もっとも、圧倒的な武力を見せつけた今となっては、教会側も下手に動けないだろう。
無理やり連れてきたところで縛り付けるのは不可能だという純然たる事実を今回の一件で充分に理解した。まして、強硬策が成功する可能性は万に一つもない。
「で、2つ目が教義上での聖女という存在の定義についてだ」
「聖女は女神が人の姿で降臨している説と女神が直々に遣わした使徒である説で二分してるんでしたよね」
「より厳格に分けるならオルヴィエート王国とそれ以外だな。教会本部はこの命題に対しては中立的な態度を示していたが」
もっとも教会が判断をくださなかった理由は保守的なものである。
議論する中で定義を決めてしまったら本当に女神の降臨した際に不都合が生じるのではといった意見が教会内部から上がった。結果、諸所の解釈がありうる、という有耶無耶な考えを示してけむにまいている。
「まあ、聖女がいない国にとっては神格化する理由もないですからね。それで、定義がどうなさったんですか?」
「うむ。協議の結果、前者で統一になった」
「ええ……わたくし女神様じゃないですよ」
「隠さなくていい。リアは女神だろう。そうだな、リタ?」
「はい、間違いありません」
「リタっ!?」
ギルバートの問い掛けに主人を崇拝するメイドは迷わず返事をした。彼女にとってラズは女神であり、そう答えるのは息をするのと変わらないくらい自然な事である。
「教国としても滅亡級の国難を救ったのが女神様でした、ということにしておけば説教の信憑性が増すのだからまんざらでもない。周辺諸国の反発など面の皮が厚い教会からすれば屁でもないだろう」
「タダでは起きない、と言いますか、呆れるほどたくましいですねぇ……」
「ああ。実に宗教屋らしい見の振り方だな」
教国にどんな理由があろうともラズからすればはた迷惑な話である。
偶像として崇拝されることは望むところではない。
「で、それが王国にとってなんのメリットがあるのよ」
「リアが王国を見限らないという前提で考えるとメリットしかないな。光の女神と同義になるということは教国における全ての権原を有する事に他ならない」
「例えばラズがノリで聖戦するとか言い出したらあいつらは従うってこと?」
「いやいや、ノリで戦争なんてしませんよ!?」
ラズはエリーゼの過激な発言を否定したがギルバートは神妙な面持ちで頷いた。
「そうなるな。反対しようものなら女神の言葉に背いた愚か者として最悪の場合処刑されることになるだろう」
「対応が重すぎません!?」
「要するにリアが存命の間、王国は教会に対して一方的な優位を得ることになる」
「もう迂闊に口を開けないです……」
頭を抱えたラズが深いため息を吐くのをよそにギルバートは話を続けた。
「ちなみに最後の一つは教会の支部から本部に送られる上納金についてだ」
「上前でもはねるつもり?」
「ど阿呆が。手を付けたことを狂信的な信者共が知ったら、怒り狂って襲い掛かってくるぞ。オレは王国内の教会に入った寄付については本部に上納する割合を1割にしろと交渉しただけだ」
呆れ顔を浮かべたエリーゼを見てギルバートは鼻を鳴らす。
「今までは全て上納してから分配を待つ形でしたから、寄付の多い教会にとっては朗報でしょう。しかし、少ない場所は困ってしまうかもしれません」
教会内部のお金の動きを一般人よりは多少なりとも知るステラからすると、地方の教会に限ってみればむしろ経営が苦しくなるのではないかと危惧する。
しかし、ギルバートは想定済みとばかりににやりと笑った。
「そうはならぬよう分配はこれまで通りに支給するよう釘を差してあるから心配無用だ。王国よりの布施が丸々削れたとて、懐が歪に膨らむペースが多少遅くなる程度の話でしかないからな」
「とはいえ、権益を侵すことにはなるわけですよね。教会側もよく納得しましたね」
「察しの通り猛反対だったが、教皇の国が残っただけマシだろうという意見の前に全員が口を閉ざした。ふ、神官の分際で豪華絢爛なぬるま湯に浸かりきった間抜け共に不摂生を正す絶好の機会を与えてやったのだから、感謝してほしいものだな」
少しも悪びれる素振りのないギルバートにステラは思わず苦笑いを浮かべた。
「分配が変わらないのであれば浮いたお金はなにに使うんですかねぇ?」
「孤児院の運営や低利の貸付事業、行き場のない浮浪者に寝食の提供などちゃんとした慈善事業に力を注がせる。地方の協会へは本部から直接の通達を出す手筈だから、ある程度は期待できるだろう」
「随分と回りくどいわね」
「腐っても奴らの影響力は本物だ。宗教団体は追い詰め過ぎるとなにをしでかすかわかったものではないし、塩梅を間違えればろくな事にならん。ところで、リア」
「なんですか、ギル様?」
突然名前を呼ばれたラズはたれ気味の目を見開いた。
「王国に到着してからのこいつの扱いに宛はあるのか。寝泊まりは当面の間、宿で済ますにしても正体を隠したまま働ける仕事が必要になるだろう」
こいつ、というのは言うまでもなくステラの事である。当然のことながら本人には知り合いの一人すらいないだろう。
指摘を受けたラズはうーん、と煮え切らない返事をした後、肩を落として気まずそうにリタの方を見た。
「実はとりあえず、わたくしの侍女になっていただこうと思っていたのですが……」
「ラズ様のメイドは一人で足りています。私の取り分が減るなど耐えられません」
「なんの取り分だ、ド変態……」
「お褒めに預かり光栄です」
呆れてものも言えなかったギルバートはそれ以上の言及を諦めて、視線を彼女の主人に戻した。
「……といった具合でリタに反対されたので未定です。働き口が見つかるまでわたくしが支援するのはやぶさかではないのですが、ステラちゃんが絶対に受け取らないって譲ってくれないんですよぉ」
「ここまで連れてきておいて、この体たらくはいくらなんでもがばがばすぎるわよ」
「わ、私は連れてきていただけただけでも僥倖でございます。だから台下にそこまでしていただくわけには参りませんし、これ以上お手を煩わせることに私が耐えかねますのでどうぞご理解ください」
「……っ」
エリーゼの追い打ちでラズがさらに小さくなっていた。
ステラは遠慮したことによってむしろラズを落ち込ませてしまったがどうしてよいかわからずとあたふたしていた。
そして、リタはしゅんとしている主人の愛らしさに興奮していた。
よりカオスな状態へと向かっていた車内でギルバートは思わず苦笑を浮かべた。
「ならばオレが斡旋してやろう。なにか希望はあるか」
「本来は首を切り落とされているはずの身です。皆様のお考えに従います」
「わたくしとしては出来ることなら学院から近いところならいいです」
金銭による支援は拒まれても、新たな暮らしが落ち着くまでの間は頻繁に様子を見にいくつもりであったラズにとってはマストな条件であり、譲れないところであった。
二人の意見を聞いたギルバートは自身の顎に手を当てて、少し考えてから口を開いた。
「それなら徒歩での移動が全く苦にならない距離でぴったりの仕事がある。人もあまり来ないから秘密が露見する可能性も低いだろう。ついでに給料も悪くない」
「王都の中を頻繁に飛ぶのは流石にまずいと思っていたので近いのはとっても助かりますねぇ」
今となってはラズの存在を大衆に対して伏せる必要もないのでギルバートとしては飛んでも別に問題はないが淑女としては褒められた行動ではない為、本人は積極的に空路を活用するつもりはない。
「でも、近場にそんないい場所があったとは知りませんでした」
「人にあまり合わず、報酬もよいとなると一体どのようなお仕事なのでしょうか?」
「とある礼拝堂の管理だ。喜べ、修道服が無駄にならなくて済むぞ」
冗談交じりでギルバートが告げるとステラは浮かない顔で首を横に振った。
「せっかく殿下自らに配慮していただいておきながら厚かましい事を申し上げます。地方とはいえ神官が近くにいる環境で真実を隠し通せる自信が私にはありません」
「その点は問題ない。元々、他に誰もいないからな」
「まさか……教会の管理が及んでいない礼拝堂が取り壊される事なく残っているのですか?」
あまり例は多くないが村の小さな教会なんかは事情があって畳むこともある。だが、その場合は立つ鳥跡を濁さずが原則であって、元の建物などは必ず取り壊しを行う。
施設が残されたまま駐在を放棄するなど異例中の異例なのだ。
「お前に任せたいのは学院の中にある礼拝堂だ」
「そういえば、騎士科の前に小さな教会がありましたね。気になって覗いた時は無人でしたが」
探検と称して学内を散策した際に発見した小綺麗な建物をラズは思い出した。
「宗教と学問は相性が悪くてな。過去に神父と教師が揉めたらしく、長らく無人になっていたのだ。狭いとは思うが居住スペースもあったはずだから好きに使うといい。無論、二度と教会に関わりたくないというのであれば他に候補を見繕うのは構わんぞ」
ない事もないからな、と告げたギルバートにステラは横に首を振った。
「道を踏み外した今も主に身を捧げたこの気持ちに変わりはありません。ギルバート殿下、どうかその礼拝堂の管理を私にお任せてください」
うっすらと目に雫を浮かべたステラはどこか憑き物が落ちたように微笑んだのだった。
精悍な聖騎士達が憧れて止まない地位である五聖剣。若くして頂点の一角に座った厳粛な騎士の戦死が告げられたその日、とある可愛らしいシスターがオルヴィエート王国の一角にある小さな礼拝堂に赴任した。
彼女は教義を正しく遵守し、ひたむきに礼拝堂の切り盛りに取り組んでいた。
後に美しい容姿と健気さ、そして儚さで礼拝に訪れた者達の心を鷲掴みにして離さなかった彼女がどこで生まれ、どこからやって来たのかを知るものはいない。
そう、一部の協力者を除いて。
以上でこの章は終わりです
荒々プロットを書いた当初は、四章短すぎw、とか思ってたのに全然そんなことなかったですね……




