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序章4話 転生者

 無駄のない動きで手近な敵を殴り飛ばしながら光属性の魔法を撒き散らして的確に数を減らし、結局殆どラズマリア一人で中規模の盗賊団を潰してしまった。


 人数が多い上、上手く撹乱してきた盗賊に手を焼いてはいたが護衛の中で大事に至った者は居なかった。私含め軽傷者はラズマリアにまとめて治療してもらったので、大量の盗賊の身柄を抱えている事と馬車が破損したこと以外は特に問題も無い。


 その馬車もオリハルクス家の馬車に同乗させてもらえる事になったので、何とか目的地にはたどり着ける模様。


「とりあえず、助かったわ。ありがとう。で、『アンタも転生者ってことでいいのよね?』


 お礼を言いつつも、日本語で話しかけてみる。

 ゲームのラズマリアは戦国武将のような名乗りはあげないし、徒手格闘戦はヒロインなので一切行わない。何より雰囲気というか性格がかなり異なるようだ。ゲームでは常に凛然としていた印象だったが、目の前に座る少女はどちらかという柔和な感じだ。

 格闘ゲームのコンボはこの世界の人間であっても再現は難しい。この世界独自の武術とは考えにくいだろう。

 これらの要因として思い当たるのは転生者かその関係者である。それを確認するのに日本語(ぜんせご)は最適だ。誰かに会話の中身を知られる心配も無い。

 念の為ラズマリアが連れていたメイドには席を外してもらい、今は御者の席に移動している。玉突きで席から追い出された護衛の男ともう一人の護衛が1頭の馬に乗せられるという、腐女子垂涎ものの展開になったのは予想外だったが。


『も、とおっしゃいますとエリーゼ様も転生なさったのですか?』


 戦いの最中に放っていた有無を言わせぬ圧倒的強者の威圧感は鳴りを潜めている。おっとりとした口調で垂れ気味の大きな瞳を見開いて驚く。

 ……ラズマリア(ヒロイン)の姿でやたらゆるい感じがまったく落ち着かないわ!


『ええ、3歳の時に前世の記憶が戻ったのよ。私以外にも居る可能性は考えてなかったわ』

『そうでしたか。そういえばわたくしも同じく3歳の時に記憶が戻りましたね』

『まさか、ヒロインが転生者とはね』


 ふぅっと息を吐く。つまり原作より早く聖女として覚醒したのは転生が原因ということだろう。

 しかし、ラズマリアは怪訝な顔で首を傾げた。


『ヒロインってなんですか〜?』

『あら、知らなかったのね。摩訶不思議なことにこの世界は乙女ゲーム、聖域の(メイデンオブ)乙女(サンクチュアリ)に酷似しているわ。そしてそのゲームの主人公……つまり、ヒロインがラズマリア・オリハルクスなのよ』

『乙女ゲーム……ですか。ゲームは色々やっていましたが、そのジャンルは手を出した事がありませんでしたねぇ』

 

 困ったような表情で、頬に手を当てて首を傾けている。

 ……それだけでかわいいとかヒロインってヤツはやはりチートね。攻略対象がホイホイ釣られるわけだわ。


 って、そんなことよりもだ。この千載一遇のチャンスを逃すなんてヘマは絶対にやってはいけない。

 満を持し、『仲良くなって助けてもらおう作戦』始動よ!


『そして私はアンタをいじめて破滅する悪役令嬢、エリーゼ・テラティアなのよ』

『え、わたくしイジメられるんですか? そんな、どうしましょう。せっかくお友達になれると思ったのに……』

『設定よ、設定。人の話を最後まで聞きなさい』

『それよく皆さんから言われます』

『ええ、そうでしょうね。じゃなくって、いじめはゲームの話であって、私にアンタを害するつもりは一切無いわ。むしろ逆で、どうにかして自分の破滅を回避するために、アンタには味方になって欲しいと』

『なります!』

『早いわよ!?』


 今にも星が飛び出してきそうなまでに目を輝かせながら手を上げるラズマリアに思わず頭を抱える。


 コイツ、自由だわ……!


『まあ、そう言ってくれるのはとてもありがたいけどね。ここまで何もかもが空振りだったから少し気持ちが楽になったわ』


 思わずまたため息が漏れる。確定事項にも見えた破滅がようやく揺らぎ始めた。それだけでも生きた心地がしてくるというものだ。


『という事で、わたくしのことは気軽にラズと呼んでください!』

『わかったわ。よろしくね、ラズ』


 差し出した私の手をラズが握り返して握手する。ヘビィ級を大きく上回るパンチを何発も繰り出した手は柔らかくてすべすべだ。解せぬ。


『はい、エリさん。よろしくです!』

『その呼ばれ方をすると複雑な気分になるわね』

『お気に召しませんでしたか?』

『いえ……ただ前世の名前が絵里だったのよ』


 今生よりも長く使った名前に思い入れが無いわけではない。


『転生したのに名前があんまり変わらないなんて事もあるんですね〜』

『むしろ名前のせいで転生したかも、と最初は思ったぐらいよ。ちなみにアンタはどうなの?』


 そんな微妙な理由で死亡フラグばかりの悪役令嬢に転生させられたとは考えたくないが、なにぶんわからないことだらけではある。


『わたくしの前世は男ですからねぇ。あまり参考になりませんよ?』

『へぇ〜、おとこ……男!?』


 待て待て、乙女ゲームのヒロインが元男だと。誰得よ、それ。


『ですが、今は身も心も普通のかわいい女の子ですよ!』


 とりあえず、色々と普通の女の子から乖離してる件について言及するのはやめておくとしましょう。

 そんなことより確認したい事がある。

 なぜ、ラズは早期に覚醒したのか?

 どうやってストーリーから道を外れたのか?

 破滅回避のヒントがあるかも知れない。


『ならまずは教えてもらえるかしら。転生してから今に至るまでのアンタの行動を』

『モチのロンですよ〜。あれは――』


 ラズは体の前で手を組むと、ゆっくりと語り始めた。

次回からラズの語り口調になります。

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