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第3章2話 任務

評価&ブックマークありがとうございます。

 フロアボスを打ち破ってダンジョンから帰還を果たしたラズマリア達は他の学生がいない会議室でステータスチェックを受けていた。

 戻った後はすぐに報告を行なう決まりになっており、そのついでにアン先生に確認してもらえるのだ。

 もちろんラズは対象ではない。


「エリーゼちゃん。アナタ、かなりおかしいわよぉん」

「はあ」


 あんたにだけは言われたく無いわよ、という心の叫びをエリーゼはどうにか呑み込んだ。


「たったの一月でレベル18は急成長なんて言葉で片付けられる上がり方じゃないわぁん。兵士がレベル10になるだけでも半年、20に達するには最低でも数年必要よぉん。他のみんなも驚異的な早さで強くなっているけどぉ、アナタの伸び方は特におかしいわねぇん」


 入学時点ではレベル1からスタートというハンデかありながら、次点のウォルターのレベル16を抜いて断トツの一番になっていた。

 普通ではないのは間違いない。しかし、この現象を説明できる答えをエリーゼ自身も持ちあわせていない。

 本人はレベル上がってるしまあいいか、程度にしか考えていないが、周囲から見ると原因が気になるところである。


「何でもいいから部屋に返してください。いい加減ベッドで寝たいです」


 自身の数値的な成長に無関心な彼女は今すぐにでも帰りたかった。ラズの浄化魔法により身体の汚れは落とされていたが、熱い湯船とふかふかのベッドへの渇望がダンジョンで一泊過ごしたせいでいつもよりも数段強くなっている。


――寝る。私は寝る。邪魔する者は埋める!


 もはや思考が狂気に染まりつつあったが、早速阻む者が現れた。


「悪いけどまだ重要な話が残ってるわぁん」

「なんですって!?」


 アン先生にすら襲い掛かりそうくらいの危険な状態のエリーゼをラズが抱きついてなだめる。


「エリさん、どうどう」

「このようなタイミングで一体何があるというのだ? ダンジョンから戻ったばかりでは、さすがに全員が疲弊してきっている。火急の要件だとしても手短に頼む」


 エリーゼに任せているとややこしくなりそうだと思ったギルバートがすかさず前に出てきた。魔力が底を尽きかけていたので彼自身もかなりしんどかったが、それをおくびにも出さずに立ち振る舞う姿はさすがといったところか。


「ここから先はワシから話そうかのう」


 しわがれた声が遠くから聞こえ、扉を開けて入って来た人物は全員の予想を超えていた。


「おやっ……陛下が何故このような場所に?」


 ギルバート以外全員が慌てて頭を下げる。


「よい。非公式な場じゃから、そう畏まらず楽にせよ。本来じゃと、ここに居たら怒られるのでみんなワシの事は内緒じゃよ?」


 お許しが出たので、とりあえず顔を上げることにしたが依然として訳がわからないままなので、誰も口を開くことが出来なかった。

 周囲を見回してからギルバートは溜息を吐くと、話を続けることにした。


「で、親父が秘密裏に城を抜け出して、こんな所まで来た理由はなんだ?」

「いつものようにパパと呼ばんか。それに、お前だって脱走しとったじゃろう」

「一度も呼んだことないだろうが。早く要件を言え。さもなくば帰れ」

「うむむ、反抗期かのう。まあよい。それでアレクサンダーよ。結果はどうじゃった?」


 ギルバートをさらっとスルーしてパツッパツのタイトなスカートを履いたまま跪くアン先生に目を移し、すぐ逸らした。

 見えてはいけないものが見えそうで危険な風貌は王を持ってして目を向けることが憚られた。


「はっ! 『分析(アナライズ)』の結果、恐らくは可能かと」

「そうか。ご苦労であった。慌てて城を飛び出して来た甲斐があったというものだ」


 そこまで言うと国王は一度固く目をつぶる。

 そして、双眸をゆっくりと見開いて、引き締まった表情を浮かべる。


「ここに居るお主ら一団に我が国の領地を蝕む瘴気の払拭を命ずる。出立は明日。目的地はヴァトムロ侯爵領のピアル村。秘匿情報により他言は無用である。何か疑問があれば述べよ」

「親父」

「何じゃ、ギルバート」

「瘴気は何十年も確認されていなかった筈だが、なぜ今更発生した?」

「元々瘴気は自然発生するものじゃ。大抵は小さな魔物の群れが生成されて終わりじゃから話題にもならんがのう。ただ今回はかなりの規模の瘴気災害が同時に二箇所で確認されておる」

「二箇所だと?」


 国王は隠すことも無く渋面を浮かべていた。

 その表情から事態は想像以上に芳しく無いらしいとギルバート達は悟った。

 瘴気の正体は詳しく判明してはいないが、おそらく大気中の魔力が異常化したものではないかと言われている。これらが魔物の生成を助長したり、強化している。

 

「現在、一方には魔法師団と国軍に騎士団まで送って対処に当たらせておるが、規模が大きく、残念ながら終息には至っておらぬ。瘴気の中で動けるのは相応の魔力を有する者に限るが、今すぐ現場に投入出来る戦力となると目処が立たん。そこで、ラズマリアちゃんの力を借りたいと思った次第じゃ。瘴気を減らすには瘴気の中にいる魔物を倒すしかないが、初代聖女の御業は瘴気そのものを浄化したとある。情けない限りじゃが、伝説の再来に頼らざるを得ないのじゃ」


 近年は戦争も無く平和であるが決して戦力が手薄い訳ではない。

 問題の根本は魔法使いの数にある。学院の魔法科に入学するのは多くても30人以下。その内卒業までに実戦で動ける者は半数程度で、国が直接抱えるのは三割前後。

 国境警備に回している人員を除くと動かせる人数は50に満たない程度だ。

 戦いで使える魔法使いは極めて希少である。


「協力する事はやぶさかではありません。しかし、わたくし一人で向かったほうがよろしいのでは無いでしょうか。飛んだら早いですし」

「年端もいかぬ聖女だけ禍根に送り出したとなると、悪印象じゃろう?」

「それは……そうかもしれませんね」


 孤立無援のまま無慈悲に魔物が跋扈する森の浄化を少女一人に丸投げしたとなると確かにいい印象とは言いがたい。ラズもそこは否定出来なかった。


「それに魔物を倒した分だけ手間が減るのだから、人手が多くても無駄にはならんはずじゃ。足手まといは承知の上で最低でもギルバートを連れて行っとくれ」

「わかりました。ギル様、よろしくお願いします」


 ラズがギルバートに向き合って、いつもはゆるゆる加減の顔が神妙な表情を浮かべ、ペコリと頭を下げる。

 

「頼むのはこっちの方だ。リア、民のために力を貸してくれ」

「既に森と村一つが駄目になってしまっておる。なんとか拡大を防いで欲しいのじゃ。少しでも歯止めを掛けてくれているうちになんとか救援を回すつもりじゃ」


 王族の二人から助力を求められたラズはその豊かな胸を叩くと強く頷いた。ギルバートの目線がそちらに吸い込まれるが、ラズは気が付かなかった。


「これは聖女たるわたくしの責務。頼まれなくても救援に向かうの至極当然です!」

「ありがとう、リア。この恩義には必ず報いる」


 ギルバートは喜びを顕にした表情を浮かべながら、ラズの手を両手で握った。


「あっ……殿下!?」


 突然手を取られてラズは若干焦り、どうしていいかわからなくなった。不快では無く、少し顔が朱に染まる。


「ごほん。俺もお供します、殿下」

「ボクも手伝うよ」

「僕も行こう」

「ああ、頼む」


 三人が参加を表明すると、ギルバートはラズから手を離して彼らとも握手をした。


――た、ただの挨拶ですよね。びっくりしました。


 いつもならばすぐに助けてくれる友人に目をやるが今日は何故か横で物思いにふけていた。

 未だ無反応なエリーゼをじぃーーーっと、ラズが凝視すると、気が付いてはいたのかすぐに嫌そうな顔に変わる。


「あのねぇ、そんな顔をしなくても私もちゃんと行くわよ。だだちょっと考え事をしていただけよ」

「なんだ、お前も来てくれるのか? てっきりめんどくさいとか寝たいとか何かしらの理由で断ると思っていたぞ」

「本当に面倒くさいけど、あんたたちは私がいないとすぐ死にそうなのよね」


 痛恨の一言にパーティーの男性陣がそろって下を向いた。

 全ての作戦も連携もエリーゼが一人で考案し、管理してきた。常に指示に従って動いていたので、命令無しに安定した戦い方が出来る気がしない。

 このパーティーは既にエリーゼの指揮にどっぷりと依存し切っている事を自覚していたので、誰も反論を持ちあわせていなかったのだ。


「状況にもよるけど現地に入ったら、基本的にラズは別行動よ。回復魔法っていう保険が無い分、いつもよりキツイ戦いになるに決まってるわ。魔物の強さがわからないけどあんた達だけじゃ自殺行為ね」

「え〜、なんでわたくしだけ一人なんですか」

「そのあたりは現地で説明するから後にしなさい」

「むぅ、わかりました」


 ラズは渋々引き下がると、すぐに何か思い付いたようにぽんと手を叩いた。


「ピアル村となると馬車で2日くらいの場所ですから急いで旅支度をしなくてはいけませんね」

「そうね」

「おやつはいくらまででしょうか?」

「あんた遠足にでも行くつもりなの? 馬鹿なの?」

「馬車にいっぱい積んで置くようワシが手配しておくのじゃ。ついでに温泉のある宿に泊まれるよう指示しておくぞ」

「一気に遠足っぽくなったわね!?」

「わ〜、ありがとうございます。陛下!」

「皆にも任務完遂の暁にはそこそこの褒美を取らすからの〜」

「ルーカス、ボクたち陛下の御前にいるんだよね、今?」

「言いたい事はわかる」


 開いた口が塞がらないルーカスとアイザックはどちらからともなくお互いに顔を突き合わせた。それを聞いたギルバートが苦虫を噛み潰したような顔をする。


「あの親父はプライベートになると煙より軽くなる。国王なのだから、もう少し威厳を出してくれといつも言ってるんだがな」

「人目が無い時はと微塵も王子らしくない殿下がそれをおっしゃいますか。この間なんてダンジョンで、あ〜ケバブ食いてぇ、とか言ってましたよね」


 ウォルターは半眼でギルバートを見たが素知らぬ顔で非難を無視した。


「という事で、諸君にはよい働きを期待しておるぞ。ワシはそろそろ城に戻らないと本格的に怒られるので帰るのじゃ。ギルバート、夕飯までにはかえってくるんじゃぞ〜」

「子供か! 早く帰れ!」


 神出鬼没の国王は真紅のマントをなびかせ、手を振りながら入ってきた入り口から去って行った。固唾を飲んで見送った後、ラズとギルバート以外は思わず吐息が漏れる。

 

「さあ、そうと決まれば旅行の準備です!」

「とりあえず、私は装備を着替えてとっとと風呂にいくわ」


 先端に三日月の飾りが施されたステッキを肩に担いで、エリーゼは部屋からすたすたと去っていった。

 それを皮切りに忙しくなる明日に備えてそれぞれが動き始めたのであった。

アン先生のスカートの中の描写は自粛しました

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