余談1 ヘレティックリッチの手記
筆者はスマホで書いていますが、機種変更を行なった為、執筆環境が変わりました。使い勝手が違いすぎて戸惑ってます。
アンドロイドからあいほんへの移行しんどー
この手記を君が読んでいるということは恐らく吾輩を撃破してくれたということなのだろう。
まずは感謝の意を表したい。
実を言うと何の因果か気が付いたら吾輩の研究所がダンジョンになってしまったのだ。
何を言っているのかさっぱりわからないと思うが、その経緯について記載したい。
まずは何故このような辺鄙な場所に拠点を構えることにしたかと言うと、それは吾輩が錬金術師である事に起因する。知っての通り錬金術は忌々しき教会により邪悪なるものとして迫害され多くの同志が命を落とした。
そしてこの優秀すぎる故、既に聖騎士に目をつけられていた吾輩はかつての研究所を放棄して、新たなる隠れ家を築くことにしたのだ。
まず場所の選定に当たっていくつか候補を絞ろうと思ったが、聖騎士に見つかりずらい場所かつ研究に必要な薬草や様々な魔物の素材が常時手に入る場所という難題を満たす適地などそうは無い。
だから、オルヴィエートを見つけた時は感無量だった。
さっそく吾輩は土魔法で崖に穴を開けて転移魔法陣を設置する。さらに特に意味の無い祠を作って置いておく。ただの趣味だ。
転移魔法を起動させる為には3周回る必要があるので万が一洞窟に迷い込む者がいたとしても問題無い。
一度別の場所からさらに穴を掘って研究所へと至る通路やリンクする転移魔法陣を設置すると共に外敵が攻めてきてもいいよう罠や戦闘用のゴーレム、ガーゴイルなどを配置している。
この時は使わない事を祈ったが皮肉にも無くてはならない者になってしまった。
空間さえあれば内部の構造は『地創』で固めながら作ることで自由自在なので客を呼ぶ予定も無いのに展示室とかまで築造したが、後悔はしていない。
至る所に換気用のパイプを巡らせたり、明かりを設置したりと大変面倒ではあったが、そんなこんなで地下研究所は完成した。
錬金術師はこれくらいの土魔法が使えないと話にならないのだ。
……土魔法しか使えないから錬金術師になったんだけどな。
それからしばらくの間は変装をして王都に出入りし情報や素材を集めて研究所に戻る、というのを繰り返していた。この国は魔物の素材が手に入りやすいので研究が非常に捗った。
転機が訪れたのはすっかり馴染みになった酒場で飯を食べに来ていた時の事だ。たまたま、知り合いの錬金術師にばったりと出くわした。酔っ払っていた吾輩は愚かにも自分の研究所へ彼を招いたらしい。仔細は記憶に無いので定かでは無いがそうらしい。
そして、吾輩の偉大な研究所を目の当たりにした彼は膝をついて仲間を連れてきても良いかと請われ、それを承諾した。いや、してしまった。
研究所が褒められて気分が良くなり、他の者もここを知れば賞賛するに違いないと調子に乗ってしまった。小さな自尊心を満たしたかっただけで、深く考えていなかった事を今は反省している。
保護を求めてやってきた彼等の存在は聖騎士に嗅ぎつけられていたのだった。
かなり前から追跡されていたらしく、入口の場所どころか魔法陣の起動方法まで漏洩している始末だ。
説得を試みるがいかれた狂信者を前に話し合いなど成り立つはずも無く、吾輩は最終的に徹底抗戦することを決める。
それから始めのうちは一方的な展開で圧勝を繰り返す。並の兵士ではゴーレムには刃が通らないので、当然の結果だ。
それでも奴らは撤退を知らない。研究所に至るまでの通路はおびただしい死体で溢れ返っていた事だろう。怖くて自分では見に行けなかったが。
しかし、優位は長く続かなかった。
教会側もこちらを脅威として認識したのか、遂に教会最高戦力である五聖剣の一角が現れてしまった。またたく間に深部へと入り込まれ、数名の同志が抵抗を試みたが鎧袖一触で斬り捨てられてしまう。
とうとう吾輩の実験室にまだ到達した難敵と相見えることになった。
しかし、吾輩は土魔法使い。まともに戦って勝てる見込みなど毛ほどもない。
だから、罠と手近な薬品を主体に応戦し、苦難の末これを討伐するも、此方も既に虫の息。
刺し違える形で我が生涯は幕を閉じた。
と思っていたらすぐに意識が回復する。なんの痛みも無く立ち上がったかと思えば、刺された腹に傷が無かった。そればかりか腹が無かった。
だが、理解が追いつかず戸惑っている間にも状況は変化していく。
『新たなるダンジョンが誕生しました。異端の骸魔導をダンジョンマスターに設定しました。ファイナライズを実施します。世界に接続しました』
頭の中に次から次へと一方的な情報が流れ込んでくるが、よく意味がわからない。
とりあえず鏡を見てみた。ただのしかばねが写っていた。
どういう訳か吾輩の今際の際に着ていた服を纏っている。
その後あれこれ試すが自分はどうやらリッチになったことがわかった。
生前の思考そのままに魔物に堕ちたわけだ。そのまま死ねれば良かったと思ったが、魔法を使ってみて考えが一変する。
なんと、魔法がありえない速さで発動する。全ての土魔法使いの夢を叶えてしまった。魔力容量も膨大。
腹も空かなければ、眠くもならないという研究の為だけに作られたかのような肉体を意図せず手にしたのだ。いや、肉は無かったから骨体か?
ちなみにダンジョン化した研究所はダンジョンマスターに与えられた機能なのか、好きな時に好きな場所を念じるだけで見ることができて便利だ。
浅い階層は死体がたくさんあったからなのか、アンデットやリビングアーマーが徘徊していた。後半は吾輩が用意したゴーレム達がモンスター化してた。
何よりも驚いたのは趣味が高じて飾ったドラゴンの標本がまさかのスカルドラゴン化を遂げていた。
なおドラゴン以降の深層はリッチのみだ。恐らく同志達の成れの果てと思われる他に魔物になるものがなかったのだろう。
なお、ここに来た君はホムンクルスと対峙したかもしれないが、あれは魔物では無い。
さて、こうして吾輩はダンジョンの主となった訳だが、目的が半ば失われて、もはややけくそ気味ではあったが研究を続行することとした。
そして、即刻頓挫する。
素材が買いに行けない。そこで生み出した物こそ前述のホムンクルスである。見た目は人との区別がつかないので買い出しに行かせようと目論んだ。
しかし、ここでも問題が発生する。
ホムンクルスに着せる服が無かった。裸一貫で街に送るわけにいくまい。
だが、私の部屋はダンジョンになった際に消滅していたので、着替えの類いは一切無い。この実験室は手付かずのままダンジョン化したくせに、何故私室を潰したのだ……。
そこで思い付いたのが召喚魔法だ。体系的には転移魔法の延長上にあるはずなので、挑戦する価値はあると思った。
結論から言うならばあっさり成功した。ただ本意とは言い難い部分がある。
まず実験として鉄鉱石の召喚から始めようと考えた。大雑把な指定でも召喚出来そうなものを選んだのだ。
いきなり成功するとは考えておらず、危険のない範囲で失敗する予定だった。ところが何故か魔法陣の真ん中にあったのは服だった。その後も何度実験しても衣服が召喚された。それも女物ばかりである。
ホムンクルスは全て女性型だから助かるのだが、中には扇情的な衣装も多く含まれており、頭を抱えた。
どうにもこの召喚魔法はなんらかの干渉を受けているように思われる。
それも次第にどうでも良くなって服を着せるのが楽しくなってきた。結果、明らかに不要な数のホムンクルスを作ってしまったが後悔はしていない。
さらに服を着替えさせる為だけの魔法陣まで開発してしまった。素早く別空間に保管してある服と着衣中の服を入れ替える究極の着せ替え魔法だ。
詳しくは巻末の資料篇にまとめるので、ここでは割愛する。
そんなこんなでのらりくらりと日々を過ごしている間に百年ちょっとが過ぎ去った。
最近になってそろそろ意識が怪しくなってきた。
頻繁に自分が無意識の内に徘徊し、時間が大きく経過しているという事象が発生している。痴呆ならいいのだが、リビングデットの吾輩に脳はない。
人格が失われつつあるようだ。
吾輩は近く完全に魔物となるだろう。
本来はそれが正統な姿であり、化物になってまで吾輩は異端な存在だ。
願わくば人として消える事を望むが、この百年は教会からの刺客も音沙汰がない。
いや、今更救済を請うのも虫の良い話か。
この手記はいずれ来たる自我の消滅に向けて書き残した遺言である。
せっかく私を殺してくれた君に何も無いのは申し訳ないので、ダンジョン内の隠し部屋に報酬を用意して置いた。15層より上の各層に分けて、私が持てる全ての技術を注いだ究極の装備を隠しておいたので、売るなり着るなりして欲しい。
と、思っていたら彗星のような君が来た。
人である内に遺書を認めようと思ったが不要になってしまったぞ。
まさしく神の使いだ。
君のあまりの侵略の速さに最後の言葉をゆっくり考える暇も無さそうなので、手短に一つ頼み事をさせてもらうぞ。
錬金釜は戦う意志のある土魔法使いにくれてやってくれ。全ての錬金術はそうした意地から始まっておる。そういった者にこそこの異端と呼ばれた秘術を与えられるべきである。ちなみに触れるだけで吾輩が発見したレシピが頭に浮かぶ様になっているので活用して欲しい。
ついでにもう一つ、あの装備は是非着て欲しい。
『土魔法使いのなれの果てより』
ラズのダンジョン探索は丸々カットの案もありましたが、この話を書くためだけに挿入しました。
次から新章の予定です。




