第2章6話 初めての休日
ウォルたんとデート。
オルヴィエート王立学院の入口には白色の大理石を削り出した門が設けられている。建造されてかなりの年月が過ぎているにも関わらず壮美だ。
その趣きある門を越えて現れた待ち人はこちらを見つけて柔らかくはにかんだ。
「おはようございます、ウォルター様。お待たせしてしまいましたか?」
「いいえ。俺も先程着いたばかりです。本日のお召し物もラズ様らしくて大変似合っておいでですよ。まるで白百合の妖精が姿を表したのかと思ったぐらいお美しい」
「まあ、お上手ですね。ウォルター様もとってもかっこいいですよ。今日はよろしくお願い致します」
足首程まで丈がある純白のワンピースは清楚な彼女の印象によく馴染んでいた。同じ色のつばの広い帽子を被って微笑む風貌は深窓の佳人そのものである。その洗練された魅力たるや面前に出るだけで手に汗握るほどだ。
あまり深く考えていなかったがこれではまるでデートみたいだ。そう考えると急に緊張して来た。
専ら剣術に打ち込むばかりで女性のエスコートどころか禄に話した事もない俺が何故彼女と待ち合わせをする事態になったかと言うと、発端はつい昨晩の事であった。
☆
それは地下訓練場で繰り広げられた激戦……というよりほとんど一方的な蹂躪であったが、その一件から半日ほど過ぎた夜の出来事。日課である鍛練に励み、ちょうど素振りを終えたところであった。
「三百九十八…………三百九十九…………四百……」
部屋から持って来た武器は愛用のロングソード一本のみ。ラズ様に負けて以来、複数の武器に手を出すのはもう止めた。圧倒的強者の前で一矢報いる技量すら無い者が、たらればの状況を気にしたところで無意味だと思い知らされたからだ。
今考えれば傲慢であった在り方を是正してくれた彼女は運動服姿で腰を落として正拳突きを放っていた。
後ろに束ねた長い髪を揺らしながら、全身の捻りが乗った重い一撃が振るわれる度に周囲の大気が震えていた。
一切軸のブレない姿は抜身の剣の様である。
空突きに満足したのか「ふぅ〜」と一息吐いて、こちらに振り向いた。
「明日は入学してから初めての休日ですね。ウォルター様はどのようにお過ごしになられるのですか?」
「そうですね……普段だったら、騎士団の訓練に参加するところですが、来週からダンジョン探索をするので、武器や道具を揃えに行かなくてはいけませんね」
愛剣のメンテナンスに包帯やポーションといった医療品、ロープやナイフといった小道具など必要なものは色々とある。
まだダンジョンに挑戦するのは当分先と考えていたが、結果過程を数段飛ばしにして早まったので準備に追われる形になってしまった。
「お買い物ですか〜、いいですね。わたくしも街に出ようと思っていたのですが、道やお店がわからないのでどこに足を運ぼうか迷ってたんですよ〜」
「もし良かったら俺がご案内致しましょうか? 俺は結構前から王都に居るので、ある程度ならお連れできますよ」
騎士団に入り浸るようになってからは王都の屋敷で生活していたので、それなりに土地勘はある。
「ほ、本当ですか! すっごく助かります。でしたら、明日の朝九時に学院の門の前で待ち合わせでよろしいですか?」
「ええ、構いませんよ」
「うわぁ、今から楽しみです。どうしましょう、今夜は眠れないかもしれません」
「ふふふっ。汗を流してから横になればきっとすぐに眠たくなりますよ。それでは今夜はこれで失礼致します。また明日」
鞘に戻した長剣を腰から下げて、俺は自分の部屋に戻ったのだった。
☆
つい流れで案内役を買って出たが、お出かけ用の服を纏った彼女を見ると一瞬ドキリとしてしまった。あれで一騎当千の英雄も怯懦になる圧倒的強者なのだから世の中理不尽だ。
こんなデートのようになるのであれば昨日の内に行き先の希望を聞いて、計画をたてるべきだったかな。
いや、まずはこの現状を打破しなくてはいけない。希望なら今聞けばいい話だ。
「ラズ様は行き先に希望はありますか」
「行きたい場所はですね。まず、苗があるお花屋さんと本屋さんも充実していると聞きましたし、オシャレなカフェにも行ってみたいですね。ああ、紅茶とお菓子もお土産に買っていきたいです。あと、とっても大きくて綺麗な公園があると聞いたのでそこも見てみたいと思ってました。他にもいっぱいあります」
想定よりも遥かに多いです。全部終わるのは多分数日後だ。
「……一日で全部回るのは無理そうですね。近いものから順番に立ち寄るのはどうでしょうか?」
「急ぐものは無いのでそれでいきましょう。あ、でもウォルター様の用事は喫緊に必要な物があるでしょうから優先してくださいね」
「承知致しました。では、僭越ながら花屋からエスコートさせて頂きます。今日は朝市がやっている筈ですから、花屋が来ていれば良いものがあるかもしれません」
「まあ朝市ですか! 楽しそうです」
朝市の開かれる広場までは徒歩で10分程度と然程遠くないが、ラズ様はのんびり歩かれるので、ペースを合わせて進むと大体15分くらいだ。
街の中央にそびえ立つ時計塔の針はまだ九時過ぎを刺していた。短針が反対側に来るまでにどこまで行けるだろうか。
しかし……何を話せばいいだろうか。入学パーティで令嬢と会話をした時も話すような内容がまるで見当たら無くて困ったのは記憶に新しい。何せ武芸に励むあまり趣味の1つも持たなかったので、話題に乏しいのは当たり前の事であるが、根本的に令嬢との接し方がわからなかった。
そんな自分が彼女を誘ってしまったのは剣を交えてるせいで騎士の仲間と遊びに行くような感覚で話が出来てしまうラズ様の親しみやすさによるところが大きい。
こちらの逡巡など知る由もなく隣を歩く彼女はかなり浮かれているようだった。陽気にも鼻歌混じりでニコニコと歩いている。
「街に出るのはそんなに楽しみですか?」
気になって思わず聞いてしまったが、帰ってきた答えは俺にとって意外なものだった。
「恥ずかしながらこのような大きな街をゆっくりと回れる機会が今までなかったんです。というか聖女としてのお稽古が忙し過ぎて領地の外に出る事自体が初めてだったので、本当に毎日新しい発見に溢れていてとても幸せです。こうしてウォルター様にもお会いできました」
にへら〜と柔らかく笑う彼女からはそれがどれほど大変であったかは俺にはわからないし、想像も付かない。だが何の心の準備もなくある日突然聖女になる事を求められるのは決して簡単には受け入れられないだろう。元々は辺境伯家でのんびりと過ごされていたのだろうから尚更だ。
「聖女になる事に戸惑いもあったでしょうに、何故そこまで頑張ることが出来たのですか?」
「わたくしのやりたい事をやらせて頂いてたので、どちらかと言えば頑張ったつもりも無いですかね。正しく学べる環境は願っても無いものでしたから。ですが、これからはお稽古と修行が一段落したので趣味優先で色々やってみようと思ってます」
噂が本当なら王族も真っ青な教育課程をこなされている筈だ。加えて比類なき武術を体得なさったのだから気骨があるなんてものじゃない。
それでいて鼻にかけるわけでもなく、他者を見下す訳でもなく、誰に対しても明るくて気さくな生き様は畏敬の念すら抱く。きっと、なんの穢れも知らぬ純真な心の持ち主なのだろう。
「それならば、王都はたくさんの物や文化が揃っているのでとても良い環境ですよ。しかし、趣味と言いますと何をなさるおつもりなんですか?」
「まずは家庭菜園とガーデニングから始めたいのですが、肝心の畑と花壇をどう用意するかでまず悩んでいます。学院の敷地を勝手に耕したら怒られますよね?」
「……恐らくは」
学院の敷地で個人用の畑作りを試みた人物はいないと思う。殿下に頼めばなんとかなるような気もするけど。
「そうですよね……。編み物は冬にとっておくとして、後は料理に裁縫、キャンプ、旅行とかですかね」
「そのあたりでしたら、必要な物はいつでも手に入ると思いますよ」
雑談しているうちになんとか目的の広場が近づいて来た。無言で歩くのも普段は苦にならないのだが少し薄暗い道を行く今は確実に気まずい。
王都の道は狭隘な場所が多く、今通過している路地も馬車1台がギリギリといった幅しか無い。
だから場所によっては歩いて移動した方がむしろ早い事もある。もちろん複雑に入り組む道を正しく覚えていたらの話だが。
広場に出ると遮蔽物が無くなり、眩しい陽光が俺達を包んだ。
「わあ、賑やかですね〜。お店がたくさんあります。あっちに何か変わった野菜が売ってますよ。あ、見てください、あれは何でしょうか?」
あちらこちらを指差して綺麗な横顔が驚いたり笑ったり目まぐるしく変化していた。
広場を埋め尽くすように出店が並んだ朝市は、週に2度だけ見られる圧巻の光景だ。初めて来たときは俺も結構興奮した。
貴族の嫡男が一人でうろつく場所では無いが、度々遊びに来ているお気に入りの場所だ。城を抜け出した殿下ともこっそり訪れたことも何度かあった。
「あれはナッツの量り売りですね。あっちは串に刺さった鶏肉を香草と一緒に焼いた料理を出してる露店です。一口かじると肉汁が溢れて来るぐらいジューシーで最高でしたよ。……レディにおすすめする食べ物では無かったですね。今のは忘れて下さい」
馬鹿な事を言ってしまった。このような下品な食事を令嬢が召し上がるはずも無い。彼女を困らせるだけだ。
「いえ、買いましょう!」
「あの、ですから――」
「そこまで美味しそうに言われてしまってはわたくしの方が我慢できませんよ。よだれが垂れる前に買ってきますね」
長いスカートの裾を持ち上げてちょこちょこと走り、快活に喋る男店主と軽く話した後、肉の刺さった串を2本受け取ってゆっくりと戻って来た。
何故か赤面しながらわなわなと震えている?
「い、一本……どうぞ」
「そんな申し訳ありませんよ。お金を払いますから」
「わたくしは一本しか買ってません。か、彼氏と食べな、とお、お、おまけしていただいたので、これはウォルター様がご賞味ください……」
屋台の親父の方を見ると親指を力強く上げていた。
よ、余計な事を!?
ラズ様が片方の串を突き出したまま固まっている。
受け取らない選択肢は無さそうなので、素直に貰うことにした。というか、このままの状態は俺もかなり恥ずかしい。
「わかりました。いただきます」
「で、では、わたくしも。あむっ」
がぶりと二人で肉に噛み付く。ああ、相変わらずうまいな……。
口いっぱいに頬張った彼女は目を見開いた。
「ほ、ほれはおいひいれふ!」
食べながら喋るほど美味しかったらしい。頬を木鼠のように膨らませたままニッコリと微笑んだ彼女に気付いたらこちらも笑顔になっていた。
マナーの講師が見たら卒倒する料理にも関わらず文句の一つも言わず、美味しそうに食べてくれた事に嬉しいと思う自分がいた。
そういえば初めて殿下を連れてきたときに喜んで食べてくれた顔が今だに胸に残っている。
――あれ……俺、毎回同じ事やってる?
気が付いて苦笑が漏れ出す。
「お口に合って良かった。向こうに花屋が店を広げているはずですから、食べながら見に行きましょうか」
「はい!」
元気良くを返事したラズ様を花屋の前に連れて行くと、眼を輝かせて一つ一つ花を眺めていた。
「ヒヤシンスにストロベリーフィールド、こっちはゼラニウムでしょうか。このカトレアも綺麗ですね。ああ、今すぐ庭が欲しい……」
「庭は用意できませんが、植木鉢に入っている物を購入されてはいかがですか?」
「全部欲しいところですが、それしかありませんね。どれにしましょうか……。う〜ん、部屋に飾るならストロベリーフィールドにしましょう」
銀貨を一枚渡してラズ様が麻紐で吊られた小さな鉢を受取ったのですかさず声を掛ける。
「俺が持ちますよ。女性に重い荷物を持たせては居心地悪いが悪いですから」
「まあ、ありがとうございます。そういう事でしたらお願い致します」
彼女は朗らかに笑うとすぐに荷物を手渡してくれた。間違いなく腕力では敵わないだろうけど、それとこれとは話が別だから。
……今のはちゃんとエスコートしてる感じになっただろうか。
その後もたくさん並んだ色とりどりの果物やチーズなんかを取り扱っている店をゆっくりと回った。
俺からすると何でも無いものに興味津々で子供のように喜ぶ姿を見ているとついこちらの顔も綻んでしまう。ただ、よく出入りしている朝市なので、俺を知る出店者が皆にやにやしながらこちらを見るので居心地悪かったのは予定外である。
「次はすぐ近くの武具屋に寄らせて下さい。時間はさほど掛からないと思いますので」
「了解です。戦いには使わないですが、見るのも好きなのでゆっくりでもいいですよ〜」
武器や防具は剣士なら見ているだけで胸が躍るので、気持ちはとてもわかる。
広場から再び狭い路地に入り、何度か曲がりながら数分歩くと馴染みの武具屋が見えてくる。
扉を押して開けると、チリンチリンと付いていたベルが店内に鳴り響く。
「おう、らっしゃい。って、おやグラディオラス家の坊っちゃんじゃないですかい。それもかわいいお嬢さんをお連れで」
立派な髭を蓄えたあごをひとなでしながら、壮齢の男性がカウンター越しに挨拶をした。がたいの良い彼こそがこの店の店主である。今使ってるロングソードもここで購入した良品だ。
だから店でのメンテナンスが必要な時は必ずここに持って来ていた。刃の研ぎ直しや、重心の修正などとても丁寧に調整してくれるので気に入っている。
「買い物のついでに武器の調整をお願いしに来ました」
「ご機嫌よう。さすが王都のお店ですね。うちの領地に負けないぐらい業物がたくさん並んでますよ!」
商品棚の上に所狭しと飾られている武器や防具を食い入るように見つめながら笑っていた。
「何だお嬢さん、武器の違いがわかるんですかい?」
「ええ。こう見ても一応剣をかじっている身ですから、大雑把ではありますが物の良さはわかります」
どん、と突き出した胸を叩いて自慢気に話す。目利きに自信があるらしい。
「はっはっは、全然そうは見えないですぜ。じゃあ、そこに並んでる中で1番良いのはどれかわかるかい?」
「これです!」
「ほお、こいつは驚いた。まさか即答とは恐れ入った」
ラズが指差したのはナイフと短剣の中間ぐらいの長さをした大振りのマチェットだ。まさか、これが一番だとは思わなかった。
大剣や双剣など、大小様々の名剣が並ぶ中何故この一振りを選んだのだろうか。
店主も気になったらしく、食い気味にカウンターに手を付いた。
「参考までに何故そいつを選んだのか教えてくれますかい?」
「一目瞭然ですよ〜。かなり薄くですが刀身に風魔法のルーンが掘ってありますから、価値は桁違いのはずです」
「そこまでわかるとは恐れ入った。そいつはダンジョン産でこの店唯一の魔法剣。風の刃を飛ばせるって代物でさぁ」
「風の刃! かっこいい!」
「お安くしときますぜ。王都でもまたとない一品だがお嬢さんになら売ってもいい」
「今は拳士なのでやめておきます。そのような代物を使わないのに買うのは申し訳無ないですから」
店主が驚愕の表情を浮べると、こちらに目線を向けた。剣士でも無ければ風の魔法使いでも無い。
付け加えるならルーンが読めるのは魔法学の専門家でも一握りである。マジックアイテムを作成する技師もルーンの意味は知らずに描いている。彼女は本当に底が知れない。
「……坊っちゃん、マジですかい?」
「マジです。素手でも剣を持った俺よりも強いですよ」
残念ながら偽りの無い事実である。少しでも追いつく為にも今度のダンジョン探索は実戦経験を培う為にも気合いを入れて望む所存だ。技術面でも足元にも及ばないので試せる事を試していくしかない。
「……真贋を見極められ無いのは俺の方だったか。それなら必要な物があったらいつでも来てくだせぇ。良い客には良い商品を出しますから」
見誤るのも仕方がないだろう。今の魅力に満ち満ちた清楚な姿では尚の事。
もっとも、見る目が無いばかりか勝ち目の無い喧嘩まで吹っ掛けて返り討ちにあった間抜に口を挟む余地は無い。
「ええ、その時はきっとお世話になります」
店主はよほどラズ様を気に入ったのか、剣を預けて帰るときも入口まで出て来て見送ってくれた。普段はこんな事をしない。
彼女の人徳は機嫌を損ねれば金を積んでも売ってくれない偏屈な人物の心もがっちりと掴んだらしい。
「次はここの近くの本屋にご案内しましょう」
店を後にして俺達は再び路地を移動する。
「いいですね。どんな本があるか楽しみです」
「それなりに大きいですから、きっといい本が――危ない!」
「きゃあ!」
あまり広く無い道を馬に乗った騎士が疾駆してきた為、慌ててラズ様の手を引いて胸の中に抱き止める。
ただの警らにしては随分と慌ただしい様子だ。何かあったのだろうか。
騎士団の基本的な役目の1つが王都等の都市を巡回する治安維持だ。何か事件があれば騎士は真っ先に向かう事になる。
「あ、あ、あ、あのウォルター……様?」
ラズ様の珍しく焦った声で我に返る。どうしたのだろうか。すごく柔らかくて、いい匂いがす……る?
「ああ、ごめんなさい!? すぐに離れます!」
過ぎていく騎馬に気を取られて彼女の事をすっかり忘れていたが、抱きしめたままの状態になっていた。
婚約者でも無い男に触られるのはきっと彼女も不快だろう。
急いで両手を上に挙げ、一歩後ろに下がる。
「申し訳ありませんでした」
「い、いえ、不可抗力なのはわかっています。騎士の方に怪我が無くて本当によかった」
「………………ええ」
そういえば、彼女に衝突して大変なことになるのはむしろぶつかった側だった。とはいえ、黙って轢かれるのを傍観する訳にもいかないので間違った事をしたつもりも無いが。
そんな風にお互いにどぎまぎしていると、時間差でやってきた別の騎士に声をかけられた。
「路地で女といちゃついてる不届き者がいると思ったらウォルターじゃないか」
「いちゃ!?」
「そ、そのような事は断じて行っておりません。それより何があったのですか?」
現れたのは一緒に訓練をしている騎士の一人だったので事情を教えてくれるだろう。
彼は周囲に人がいない事を確認してから、馬上からぎりぎり聞こえる声で話してくれた。
「あ〜……まあ、いつものやつだ。殿下がまた城から逃げ出した」
はあ〜と深い溜め息をはいて、彼はゆっくりと馬を前進させる。
「まったく人騒がせなんだから。見かけたら教えてくれよ」
「わかりました。くれぐれもよろしくおねがいします」
この国に殿下と呼ばれる身分の方は二人いるが「また逃げ出す」のは一人しかいない。
「ええっと、わたくし達も探したほうが良いのでしょうか?」
「いや、その必要は無い」
「「殿下!?」」
「ウォルター少し話がある」
薄暗い裏路地から急に姿を現したローブ姿の殿下に掴まれて、そのまま引きずり込まれていく。
その表情はとてもにこやかだ。目を除けばの話であるが。
最近よく地面を転がってる気がするのは何故だろう。
1話完結……できず……




