第2章1話 突破口
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日陰には雪も残る冷たい春の大地が降り注ぐ朝日に包まれ、眠っていた虫達が目を覚ます。それらを求めてやって来た鳥のさえずりが静かな朝の学院に響き渡っていた。
自室に朝食を運んでもらいバルコニーで清々しい空気を目一杯吸い込みながら、朝食を楽しんだラズマリアはまだ時間に余裕がある事を脇目で確認して紅茶を飲んでいた。
本日は魔法制御学の講義があるため身に付けているのは制服ではなく運動服である。動きやすさを重視している為、貴族の女性が身に着ける衣類の中では露出が多く、白磁のようなふとももが顔を覗かせていた。
「お嬢様、寒くはありませんか?」
「お気遣いありがとうございます。ちょっと寒いですが、その分おひさまの暖かさがとっても心地よいです。ですが、もっと良い事を思い付きました」
主人を案じたメイドのリタがブランケットも持ってきていたが、気温程度で活動に支障をきたす程ラズマリア・オリハルクスはやわな生物では無いが当然寒さは感じる。
最後の一口を飲み干し、ティーカップをテーブルの上に戻すとおもむろに立ち上がって綺麗な姿勢で立っていたリタに勢いよく抱きついた。
「お嬢……様?」
「こうすれば、二人とも暖かくなります!」
厚い包容によって間もなく限界を迎えたのは鉄面皮を被ったメイドの方だった。
「これはまずいです。強烈な多幸感で脳が焼けて、ラズ様を鼻血で汚してしまいます」
「何故にですか!?」
「尊いからです!」
リタは表情筋を1ミリも動かすことなくぷるぷると震えながら、深く鼻で息をしており明らかに色々とダメそうだった。
「よくわかりませんが、仕方ありません……」
名残り惜しそうにラズが柔らかいホールドから開放したときには、虹彩の中にハートマークを幻視するほどに目が潤んでいる。
「今日もお嬢様が眩し過ぎてそろそろ目が見えなくなるかもしれません。女神様このような聖寵を与えくださって心より感謝を申し上げます」
「もう、リタはいつも大袈裟ですねぇ。では、わたくしそろそろ授業に行ってきますので、リタもお仕事頑張ってくださ〜い」
「はい。いってらっしゃいませ!」
ぶんぶんと大きく手を振ってから部屋の外へと去っていく主人を慇懃な物腰で頭を下げて送迎する。再び昼頃に戻ってくるのを楽しみにしながら。
――転職して……本当に良かった。
リタは心の底からそう思った。
自室から出たラズが向かったのは訓練場ではなく講義室である。今回の講義はまず座学から始まるらしい。
何を行うのかは聞かされていないので、学生達は何処かそわそわしていた。
席について程無くして、ネイビーのレディーススーツ姿のアン先生が現れる。
ちなみに別の意味で目のやり場に困ること請け合いの短いスカートから石柱のようなふとももが顔を覗かせていた。
「みんな、おはよぉん。今日もアン先生の楽しくて気持ちいい授業はじめていくわよぉん!」
「は〜い」
何がどう「気持ちいい」のかと疑問を覚えた殆どの学生は開幕からトップスピードのアン先生に全くついていけず、例のごとく返事をしたのは常に全速力のラズだけだった。
「今日はみんなに運命の相手を探してもらっちゃいまぁす。それも、5、6人で一組のねぇん」
「それはパーティを編成するということでしょうか?」
「正解よ、ラズマリアちゃん。楽しい時も苦しい時も支え合えるのが最高のパーティよぉん。選んだ仲間達とはいずれダンジョンに潜ってしっぽりしてもらうからそのつもりでいてちょうだい!」
大人しく話を聞いていた学生達がざわめき始める。ここで決定したパーティは余程の理由がない限り卒業まで一緒なので皆少しでも良い相手と組みたいと考えていた。余程突出した能力を持つものでもない限り評価はパーティ単位でされる為、卒業後の進路に大きく響く事になる。
もっとも授業の名前の通り、まずは魔力制御の訓練が一定の水準に達するまではダンジョンなどずっと先の話なのだが。
「ただし今から名前を呼ぶ人は駄目よぉん。ギルバート殿下、ウォルターちゃん、ルーカスちゃんとアイザックちゃん」
――パーティ、パーティあのパーティです!
わたくしはどなたをお誘い致しましょうか。エリさんは確定として、あと3人か4人ですが人数が多いほうが楽しいはずなので4人誘う方向でいきましょう。やっぱりこういうのは男子禁制女の子パーティが1番カッコいいです。わたくしなら後衛でも前衛でも遊撃でもなんでも出来るのでバランス度外視でも問題無いですね。あ、でも女の子で前線に出たい方はあまりいらっしゃらないでしょうから、わたくしがタンクになりましょう!
タンク……最高にカッコいい……!
最前線で味方を守るため躰を張って敵を押し返し、自らの犠牲を厭わぬ騎士道の塊!
決めました。わたくしタンクになり――
「それとラズマリアちゃん」
ネットゲームのキャラクターメイク画面を前にした時のような期待感に溢れ、成層圏程まで飛び立ってしまっていたラズの空想が突然海溝のどん底にまで叩き落された。
「……はえ?」
「あなた達は現時点で十分な魔法制御力があるわぁん。むしろ既に差が開き過ぎて、他の子と組んでもきっとついていけないから、この面子で決定よぉん。早速来週からダンジョンに潜ってもらいまぁす。魔法制御訓練に混ざってもぉ、邪魔なだけなのであなた達は来週の準備でもしてらっしゃい。もし連携の練習がしたければ地下訓練場を使うといいわぁん」
ガチガチに引き締まった大胸筋の谷間を強調するポーズで前かがみになりながら、手の先をしっしと払われてようやく我に返る。
実力差があるから他の学生とは組めない。アン先生の話を要約すればそういう事だ。今すぐ飛躍的に能力が向上するのは不可能だが、今後の伸びしろがあればいいのだ。近い内に成長する人物に心当たりがある。
「でしたら、アン先生……お願いがございます」
「あら、何かしらぁん? 先に行っておくけどパーティを変えるというのは無しよぉん」
「わかっています。ですから……――エリさんをわたくしにください」
「なんでぇ!?」
「う〜ん……いいわよ。でも、ちゃんと最後まで面倒見るのよ?」
「あたしゃ猫かっ!?」
突如名前が上がって困惑したエリーゼであったが置かれている状況に気付き、断固として拒絶する構えを見せる。ラズを筆頭に全員が初級ダンジョンに入った経験のあるエリート集団に何の訓練もして無い素人が放り込まれても碌な状況にならない。
ギルバートやウォルターは勿論のこと、ルーカスも魔法に精通し、アイザックも家柄上それなりの訓練を積んでいる。
「嫌よ。なんで即ダンジョン行きの危険なパーティにあえて私が入んなきゃいけないのよ。じっくり1年かけて魔法制御を覚えてからで十分だわ」
「そしたらわたくしが女の子一人のパーティになっちゃうじゃないですかぁ……、それにエリさん別に魔法制御はもうかなり出来ますよね?」
「……なんでそう思うのよ?」
「勘です。それにエリさんは絶対に強くなると思ってます!」
「……勘と言われてもねぇ」
しかし、ラズにとっても男4人と薄暗いダンジョンへ頻繁に出入りするなど到底耐えられるものでは無かった。彼女をを害することが可能な人物はどう考えても存在しないが生理的に嫌なので仕方がない。だから、こうして同性のエリーゼに必死で泣きついている。そして、必死に勧誘する姿を受けて強力な助け舟を出すものが現れる。
「私からも頼むよ、エリーゼ。ラズマリア嬢1人と組むのが4人の男では不安になるのも無理はないだろう。それにこのクラスで1番君のことを必要としているのは彼女だ。そうだろう、みんな?」
王太子殿下に微笑まれてまでエリーゼを欲しがる者は居なかった。もともとエリーゼを欲しがる者もいないが。
ギルバートも足手まとい必至の婚約者など正直要らなかったが、嫌がるラズをダンジョンに連れて行くのは外聞が悪い事この上ないばかりか、本人の機嫌を損ねかねない。
両者を天秤に掛けたときに、エリーゼへの嫌がらせにもなるからいいか、という結論に至ったのはごく自然の流れである。
順調に外堀を埋められたエリーゼは既に逃げ場など無いに等しいが、更に堀に向って背中が押される。
「体力ゼロのエリーゼちゃんはこっちに来ても数ヶ月はマラソン漬けよぉん」
転生してからというもの、ダンスの練習を除いてただの一度もまともに運動してこなかったエリーゼに延々と走り続けるなど、断頭台に登るようなものだ。
遂に観念して死んだ魚の目をしてゆっくりと手を上げる。
「……ラズマリアさんのパーティに入りま〜す」
事実上の敗北宣言に一際大きな歓声が湧いた。もっとも、湧いたのはラズ1人であったがとにかくエリーゼ加入先が決定し、一件落着の気配を感じ取った他の学生達はわいわいとパーティ決めを始める。
「はぁい、じゃあ決まったトコロから先生に教えてねぇん」
もはやラズのパーティは用無しとばかりにアン先生は他の学生の相手に回ってしまい、6人だけが取り残される。
「……アンタ達……こいつ借りてくけど文句ある?」
「え、エリさん?」
ラズの首根っこをわしづかみにしたエリーゼが座った目でパーティの面々に睨みを聞かせると、修羅のような殺伐とした威圧に4人は思わず無言で首を横に振った。
「ま、まさかわたくしの事を見捨てたりしないですよね?」
「……さあ、私達は地下訓練場に行くぞ」
「そんなー」
出荷される仔羊の様な目でギルバート達を見つめながら、ラズは強制的に連行されてゆく。
そのまま盛り上がりを見せる講義室を後にし、時間帯故にすれ違う人の少ない回廊を通った二人はラズの部屋へとなだれ込む。ここにはタニアがいないので秘密の話がしやすいのだ。
「うう……そんなに怒らないでくださいよ。わたくしだって本当は女の子パーティが良かったんですから」
「うるさいわね。アンタの逆ハーレムパーティに毎度毎度連れて行かれる私の居たたまれない気持ちになってみなさいよ!」
「ぎゃ、逆ハーレムパーティって言われると凄く恥ずかしいんですが。てか、わたくしが選んだのはエリさんだけですから、好きでこうなった訳じゃないですよ〜」
「んなこたぁ、どうでもいいのよ。問題はこっから私にどうしろって聞いてんのよ!」
「エリさん、またお嬢様の言葉遣いじゃなくなってますよぉ……」
沸騰したやかんよろしく尽きぬ怒りを口から吹き出し続けるエリーゼの勢いにさすがの自由な聖女様も怯んでいた。
この収集のつかない事態に終止符を打ったのリタである。
よく訓練されたメイドが怒り狂う客人の前に紅茶を差し出すと、それを乱暴に奪って飲み干す。温めに出されたお茶がヒートアップした心を鎮めるのに一役買い、何とか椅子に座らせる事に成功した。
思わずラズも固唾を飲む。
そして、怒りに呑まれていた先程までとは一転し、ため息を吐いてから今度は落ち着いて口を開く。
「あのねぇ、魔法は土属性でステータスも魔法科内最弱だったしアンタのパーティに入っても私はなんの戦力にならないのよ。アンタ一人いれば誤差かもしれないけど」
「いえいえ、これからですよ。わたくしの勘ではエリさんは絶対に強くなりますよ」
「だいたい土属性ってのは戦闘でつかえる魔法じゃないのよ」
基礎ステータスが低い上に土属性というのは魔法使い界のスライムに匹敵する存在であるとエリーゼは思っていた。レベルの上昇に合わせてステータスがよく伸びる可能性もゼロではないが、伸びたところで近接物理専門ではやはり足手まといだ。
「へー、エリさん土なんですねぇ。目とか髪とか赤いから火かと思ってました」
「うっさいわね。色で決めんじゃないわよ、この淫乱ピンク」
「い、淫乱ピンク!?」
「お嬢様は淫乱ではありません。無意識の内に不特定多数を誘惑しているだけで心は清純です」
「リタ、たぶんそれフォローになってません!」
涙目になって自身の専属メイドを両手で揺すると、リタはなすがままにされていたが珍しく鋼鉄の表情筋が崩落寸前になっていた。どうでもいい話だが、リタは涙目であたふたするラズがもっとも可愛いと信じて止まない趣向の持ち主であり、この状況は幸甚に他ならない。早い話ニヤニヤが止まらない。
「あ! エリさんのゲーム知識なら、ぱぱっと強くなれるアイテムとかイベントがあるんじゃ無いんですか?」
いまいちシステムを理解して無いのでよくわからないですけど、とラズが付け加える。
「そんなこと言っても戦闘時の土魔法は封印安定のゴミ魔法で、あまりに酷いからアップデートで追加された要素のオマケみたいな扱い……で……」
「エリさん?」
饒舌に回っていた舌が突然スピードを落して完全に停止する。エリーゼの頭の中をすっかり古くなってしまった記憶が急に昨日の事のように走り出した。
そうだ、追加要素があるのだ。
土魔法のみを大幅に強化するそれは、プレイヤーからすれば別に大して要らなかった。だがそれは四大属性全てを使えるルーカスにとって土は何の価値も無かったからだ。
それに対して、今はゲームの時と前提条件が違う。土魔法しか習得できないエリーゼにとってそれは必要不可欠なピースになる。
「思い……出したわ。ある、ある、あるじゃ無い! 私が無双する唯一の方法が!」
「おお、何か名案が浮かびましたか!」
「アンタが手を貸してくれるのが大前提だけどね」
「エリさんの為ならわたくし何でもしますよ!!」
興奮した様子のエリーゼに感化されたラズは胸部にある険しい丘陵地を突き出して、その一帯を片手で叩いた。ぷるんと言う音が聞こえてきそうなくらいに良く揺れている。
「では、まず服を脱ぎなさい!」
「ちょっとまってください。既におかしいですよ!?」
「いや、何でもするって言われるとつい。で、結論から言うと土魔法の戦闘運用を可能にするアイテムは何処にも無いし、イベントも無いわ」
「え、無いんですか? でしたら何であんなに歓喜乱舞されていたのですか?」
「存在はして無いけど作ることは出来るのよ。錬金システムならね!」
「錬金システム……響きがかっこいいです!」
「でしょ〜う! これがなんと複数の素材を特殊加工された錬金釜に入れて土魔法を使うだけで貴重な消費アイテムや優秀な装備品を無料で簡単に作れちゃうのよ!」
「あらまあ、凄いですね!」
気分が高揚しているせいで深夜のテレビショッピングのようなテンポで話を進めるエリーゼが今までこの大事な情報を頭からすっかり消していたのは理由がある。
「ってことで今からまず錬金釜を回収してきて頂戴ね。とりあえず、地図を出しなさい」
件のアイテムはエリーゼが逆立ちしても手の届かない場所にあるのだ。転生後早期に断念した為、失念していたが今は「なんでも」してくれるラズがいるのだから確保に失敗するほうが難しい。
「了解です。地図を出し――」
「ました」
「ナイスです、リタ!」
性癖以外はパーフェクトなメイドがローテーブルの上に地図を広げる。描かれているのは王都を中心に周辺の低地から山脈までの比較的縮尺の小さい範囲であり、山を幾つも越えた先にあるオリハルクス領なんかは入っていない。
たくさんの村や道が書かれた図面の中の一点をエリーゼは指差す。
「ここは学院の裏……ですか?」
「そうよ。ここから学院のすぐ裏にある崖下に回ると人一人が登れる狭い道があって、中腹くらいにいけば洞窟の入口が開いてるわ。そして、その中にある小さな祠の周りを3周回って、隠しダンジョンに入る魔法陣を起動するのよ」
「隠しダンジョンって言葉を聞くだけでわくわくしてきましたよ」
まだ見ぬダンジョンへの期待が胸から溢れ出し、氾濫を起こす勢いで膨れる。「隠し」が付くだけですでに最高潮に見えたラズのやる気がさらに上昇していた。
「中に入ったら最奥にいる異端の骸魔導を倒せば、低確率でドロップするから落とすまで周回しなさい」
ぴっ、と風を切ってエリーゼが人差し指を突き出すと、ラズは立ち上がって敬礼した後、バルコニーへ至る扉を勢い良く開く。
「合点承知しました。必ずや錬金釜を手中に収めてみせます! ラズマリア・オリハルクス……出撃です!」
「えっ、ちょ、まっ!?」
まだ話の残っていたエリーゼはラズを静止しようとしたが、走り出したら大猪よりも止まらない彼女は助走を付けてバルコニーから軽くジャンプする。
「天啓!」
十八番の光魔法の名をいつもより力を込めて叫ぶと、頭上に展開した魔法陣が回転しながらラズの身体をすり抜けてつま先へと達する。
全身が淡く発光し、遅れて光の翼が高背部から広がると同時に足元に移動した魔法陣がぱっと消え去る。
魔法の効果発現から間髪入れずに建物の2階ほどまで落下した所から垂直に急上昇し、運動服姿の聖女がどこかへ飛び去っていく。
「……なんでダンジョンの中の情報聞かずに行くのよ」
「エリーゼ様、そのダンジョンは何階までありますか?」
主人が開けっ放しにした扉を丁寧に閉めると残された客人に向き直る。すると、諦めたように深いため息を吐きながら、上質なソファに座り込む。
ラズは人の話を最後まで聞かない。むしろ、最後まで話を聞かないと言えばラズである。
「20階層よ。適正レベル40で15層の中ボスにドラゴンゾンビ、最終層のボスは前後左右があべこべになるポーションだの戦闘中に何故かタライが降ってくる謎の魔法を使う錬金術師のリッチよ。戦闘はサクサクでも内部は入り組んでるから今日は10層くらいまで攻略出来れば上出来かしらね」
ダンジョンを熟知するエリーゼが出した見積はそれでもかなりハイペースであるが、リタは首をかしげて訂正を口にする。
「いえ、その程度でしたらラズ様であれば約1時間で帰ってきます」
「いくらラズでもそれは無理よ。1時間って言ったらワンフロア当たり3分じゃない。せいぜい4階層到達くらいが関の山だわ」
思わず両手を広げて首を振った。本来の適正レベルなら一層攻略するのに1時間程掛かる。だから、高レベルであることを加味しても20分は掛かるとエリーゼは踏んだのだ。
「勘が野生動物並みに鋭いのと反則的に運が良いので恐らく最短かつ高速の攻略になる事が予想されます。こちらでお待ちになるのでしたら追加の紅茶を用意しますがいかが致しますか?」
エリーゼは熟慮した。
今自分の部屋に帰ればタニアがいる。タニアは主人の怠惰を許さない。昼寝どころかまだ朝に振り分けられる現在の時間帯ではベットでぐっすりと寝る事など持ってのほかである。未来の王妃なのだから勉強でもしろと小言を貰うのは目に見えている。
「ええ、いただくわ」
安息の場所を見つけてしまったエリーゼはここ最近でもっとも穏やかな笑みを浮かべた。




