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はいえっぴお

作者: ニノ前新

水曜日、白い穴に落ちる落ちるヒュルルルルルルリ


陽射し無く赤い草むらさわさわと揺れて揺れて


柔らかい地面を進む進む踏みしめて


まっ金金なお城を目指して驀地


海が見えない長い道、いざ進まん


高らかに宣言を「はいえっぴお」


腕を振り上げ、遠くへ飛ばせ、勢い余らせ千切れんばかりに


足を動かせ、大きく大きくもっともっと


鼓動が弾む、真っ赤なジュースが体をめぐる


では、沸騰させよう


調子をとって音を刻んで


これは一体何拍子


さあ、叫ばねば、ありったけでもって叫ばねば


彼方に見える黒い花が私の声を待っている


此方の蝶々も今か今かと舞い踊る、忙しなく


いいぞいいぞ


はるか遠くの鳥たちも知らぬ旋律待ちわびて


真下のモグラもその鋭敏たる耳をすませて


いいぞいいぞ


さあ、叫ばねば、全てをかけて叫ばねば


いま再び


高らかに唱おう


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


そうだそうだ、これだこれだ


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


気持ちを持ち上げろ


心を躍らせよう、踊り疲れて眠り込んだら、叩き起こしてやろうではないか


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


そうだそうだ、これなのだ


心地よい風が吹く、纏わり付いて髪を弄ぶ


髪から離れた風が空に上って雲になる


随分黒い雲だなあ


雲は育つ、みるみる大きく大きく厚く厚くなる


おや、これはどうしたことだろう


暗い魚が降り注ぐ、ぬたうちまわってさあ大変


いや、全く一体全体どうしたことだろう


薄ら寒くなってきた


今一度のお慈悲を、おお、どうか


炎天の地上が歓喜するその瞬間を


遠点地点の天体も少し休んで、すまし顔


ああ、ああ、知らしめておくれ


恋の甘きも、愛の深きも全て忘れて置き去りにして


何にも代えて、ただあるだけの言葉を震わせるのだ


そうだそうだ


いいぞいいぞ


崩れ落ちる城を前にしたって動じてなるものか


金のメッキが剥がれている


ああ、ほらやっぱりあれは駄目だ


頭上の空がひび割れていても動じてなるものか


ツギハギがよく目立つではないか


あそこは誰かがテープでとめたのだな


地面が硬くなり、傾き出しても歩みを止めてなるものか


坂道だって登ってやるぞ


おや、下り坂であったか


周りの全てを放り出して、周りの全てを切り離して


何が起ころうと、誰が構おうと


一切合切無視してやろう


ただ、私は叫べばいいのだ


欲するままに叫べばいいのだ


発する言葉に意味がなくとも、誰が気にしようか


さあ、これで終わりか、果たしてそうだろうか


今日一番の大声で


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


とめどなく


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


この口は止まらない


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


魚は降り注ぐ


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


とめどなく、言葉は続く


とめどなく、魚は降り続く


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


暗い魚が闇を作る


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


負けてなるものか


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


見れば、あたりは黒い闇


こいつは、彼方の花ではないな、なんと生臭いことか


崩れた城も、ツギハギの空も、歩んできた地面さえ今は見えない


負けてなるものか


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


奴らがこちらに押し寄せる


魚に沈む私がいる


負けてなるものか


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


涙の一粒も奴らにくれてなるものか


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


ただこの声のみをくれてやろう


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


沈む沈む


深く深く沈む沈む


おい、口に入るとは何事だ


吐き出し、なお叫ぶ


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


魚は泳ぐ、一縷の隙間なく魚は泳ぐ


沈む、私は沈む


どこまでもどこまでも沈む沈む


沈む沈むどこまでか、どこまで


「はいえっぴお」


続けねば


「はいえっぴお」


止めてはならぬ


「はいえっぴお」


「はいえっぴお」


「はいえっぴお」


これは無限に続く舞台だろうか


「はいえっぴお」


それとも現の喜劇だったのか


「はいえっぴお」


底はあるのか、其処へ辿り着けるだろうか


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


魚は泳ぐ、奴らは疲れを知らない


疲れを私は知っているのか


「はいえっぴお」


叫ばねばならぬ、叫ばねばならぬのだ


そこに意味がなかろうと、それは毛頭関係のないことだ


今またありったけでもって


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


魚は泳ぐ、泳いで、泳いで、泳いで、泳いで


泳いで、泳いで、泳いで、泳いで



消える


消える


消える



魚は消える、消えた


いいぞいいぞ


魚は消える


いいぞ、そうだ


魚は消える


そうだ、もっともっとだ


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


奴らは苦しむ


ぬらぬらとした目をグリグリ動かし、奴らは泳ぐ


もう少しだ


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


奴らは消える、暗さはなくなる


奴らは消える、生臭の魚め、ざまあみろ


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


私を止められるものはいない、もう私は止まらないのだ


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


魚が消える、もがき苦しむ艶姿


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


魚が消える、鰓をはためかせても無為と知れ


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


魚が消える、夜を映したかのような鱗


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


魚が消える、お前たちは朝日の反対へと走れ


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


魚が消える、落葉がごとき細い鰭


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


魚は消える、踏み潰されて軋んだ音を立てろ


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


魚は消える、ギラリギラリと煌く歯


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


魚は消える、光と混じって周囲に溶けろ


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


魚は消えた


足がついた、草がさわさわと心地よい


空は明るいぞ、これは儲けものだ


「はいえっぴお」


力が漲る、やはりいいものだ


魚は消えた、此度の戦は私の勝ちだ


気分がいいぞ、奴らの生臭も消えている


「はいえっぴお」


やはり、いいものだ


さあ、また歩きだそうではないか


冷ややかな光線に怖じることなく、ただ私が行きたい道を


実に楽しくなるぞ、乞うご期待だ


「はいえっぴお」


夢見るユーカリにも出会えるだろうか


トンチンカンな冷蔵庫が話しかけてくるやも知れぬ


はたまた、鬱屈としたティッシュペーパーが痙攣しているかもなあ


「はいえっぴお」


夢見る私はいない、それはつまらない


トンチンカンな私はいない、なんと甘美なことだろうか


鬱屈とした私はいない、自由自在に動き回るぞ、酷く最高な気分だ


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


空は橙に染まれど、明けぬ明けぬ


妄執に噛まれど、明けぬ明けぬ


「はいえっぴお」


ラピスラズリが待っている


エメラルドを砕いて土産にしてやろう


そうだそうだ、それがいい、奴もきっと真っ青になるだろう


「はいえっぴお」


ああ、素晴らしきかな


「はいえっぴお」


この身に余る至上の愉悦、いや余りあって困るものか


「はいえっぴお」


微笑んで


「はいえっぴお」


哄笑して、いやいや、これではダメではないか


はてさて、気を取り直し


「はいえっぴお」


赤の道を行こう、分かれ道は右に進もう


停滞の蜜は望まぬぞ、それはブレッドにでもかけて、投げつけてやろう


嘆く暇など与えぬぞ、そこでスレッドでも立てて、蟻のように群がるがいい


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


心ゆくまで叫ぼうではないか


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


私の世界は閉じられぬ、見える全てが私のキャンバスだ


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


映らぬジャイアントは微睡みの中にでも


醒めやらぬ猩々共は欺瞞に埋めて


蜂の大群でも渺々たる青へと千切入れてやろう


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお」


つらぬつらぬ、私は行く、つらぬつらぬ、私を引き連れて


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


刹那のうちの爆発だ


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


ただただ長く長くダラダラと、永く永く懐かしむことないように


不思議な温度で口遊もう、飽きることなく、ただただひたすらに


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


「はいえっぴおはいえっぴおはいえっぴお!」


幕は開いた、酸化被膜の向こうへ至ろう


木曜日は眼前に、さてそれは訪れるだろうか


何であろうと構わない、過去の往復だって厭わぬぞ


ただただ高らかに、無意味で愛しいこの言葉だけを携えて


遥か遠くへ届けよう



「はいえっぴお!」



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