夢を語りますわ
「夢について話したくなってきましたわ」
「へぇー」
いつも通りシュエリアの部屋で座りながら猫姿のアイネを撫でていると、さっきまで少年漫画を読んでいたシュエリアがいきなりそんなことを言い出した。
夢なぁ……。
「ちなみに俺のは空飛ぶ富士山を探し求める少年パ〇ーことナスーが鷹に騎乗している物だったなぁ」
「それかなーりファンタジーな上に、正月の縁起がよさそうな夢の話ですわよね? わたくしが言っているのは将来の夢の話ですわ」
「正夢ってことか?」
「出来る限りボケ倒す気なんですの? ……違いますわよ将来なりたいものとか、ロマンを語るでしょう? そういうことですわ」
「あぁ、確かに騙るな、そういうの」
「何かしら、今凄く偏見ありそうな誤変換がされていた気がしますわよ?」
何か妙なツッコミを受けたが、気のせいだと思う。誰も夢を騙る奴を信じてないとかそういう事は無い。現実主義なだけだ。……エルフと結婚しといて今更だけど。
「まあ、日本人のユウキに言っても仕方ないとは思っていましたわ?」
「それはどういう……」
俺が訳も分からずに問い返すと、シュエリアはすぐに答えた。
「日本人って夢ないじゃない」
「尚更どういうことだ……」
日本人って結構夢見がちな妄想癖な奴多いと思うけどなぁ……。
「いえ、だってね、日本人の、子供とかに将来の夢を聞いた時の返事、ヤバイですわよ?」
「……なんて?」
「ネットで調べたら2020年の情報で男子がスポーツ選手や医者、職人。女子が保育士、看護師、パティシエですわ」
「……普通じゃん」
「…………マジで言ってんですの?」
え、何か変だっただろうか……聞いた年齢にもよるけど、仮面ラ〇ダーとかプリキ〇ア居ないのがおかしいとか……だろうか?
「……マジでわかってなさそうですわね。あのね、将来の夢ですわよ?」
「……だから?」
「将来の『職業』じゃないんですわよ? なんで皆働くことしか考えてないんですの? どんな洗脳教育受けたらこんなに仕事の事しか考えなくなるんですの?? ヤベェくらい社畜根性培ってますわよね?」
「い、いや……うーん……」
言い方よ。別にいいと思うけどな、やりたい仕事があるって言うのは、それはそれで。
とは言えシュエリアの言いたいことも分かるんだけどさ。
「あ、おい、このサイトだろ? 見たの。これ職業ランキングだよ、よかったじゃないか。これじゃなかったらきっとみんなもっと夢のある回答してるよ」
「でも正義のヒーローとかも職業っちゃ職業ですわよ? 夢なさすぎるでしょう」
「ま、まあ……でもほら、皆現実的ってだけだろ……?」
「それこそ夢が無いですわね、現実なんだから」
「……まあ、そうだけど」
とは言え実際どうなんだろう、将来の夢と言ったらそれ自体が『将来なりたい職業』を指している日本の風潮は実際にあると思う。
それだけに確かに、社畜感あるし、洗脳されているつもりは無いが、夢は無いようにも見える……かもしれない。
「でもまあ、スポーツ選手なんて狭き門だろ? そこを目指すってのには夢があるんじゃないか?」
「……ふむ、確かにそうかもしれないですわねぇ」
どうやらこれにはシュエリアも納得したようで、うん、と頷いた。
「でもやっぱり、ロマンが欲しいですわね?」
「うーん、ロマンなぁ……ちなみにお前の夢はロマンあるのか?」
「…………黙秘しますわ」
「おーい」
話を振った本人が黙秘してどーすんだ。
「そ、そういうユウキはどうなんですの?」
「待て、この話をするなら全員でしよう。せっかくだから」
ここで俺だけが夢を暴露してもコイツが逃げる可能性がある。
でも他のメンバーが言った後ならコイツも逃げにくいはずだ……というか逃がさん。
ってことでアシェ、トモリさん、義姉さんを招集。ちなみにアイネはさっきから膝の上だ。
「夢ねぇ……まあいいけど、シュエリアって乙女脳よね。夢について語り合いたいの! なんて。ホント乙女かって」
「そんな風に言ってねぇですわ。ただの暇つぶしですわよ」
どうやらアシェはあんまり乗り気しないのか、シュエリアを煽りながら嫌がっている。
「とりあえず嫌がってて面白いからアシェから夢を語ってもらいますわね」
「ホントに良い性格してるわよシュエリア。……はぁ。私は、そうね、今は満足してるから、将来的な夢として、ユウキと一緒に居たいわね」
「何、真面目に答えてんですの?」
「シュエリア、あんたいっぺん殴っていい?」
「殴り返しますわよ?」
「……くっそ……」
アシェがボソッと悪態をつく。俺の隣にいるシュエリアにも聞こえているだろうが、楽しそうに笑っていやがる。性格悪いな俺の嫁。
「いいでしょ、一緒に居て居心地いいのよ……駄目な訳?」
「良いですわよ? いいけど、芸人としては正しくない答えですわね」
「芸人じゃないわよ……」
「アシェは生きているだけで面白い生き物だと思っていたのに……見損ないましたわ」
「あぁもうホント殴りたい……」
シュエリアのあまりに酷過ぎる対応にアシェが拳を固めてプルプルしてる。しかしやったらやり返される上に明らかに勝ち目がないので手も出せない。ひでぇ絵面だ。どう考えてもシュエリアが悪役でしかない。
「まあ、冗談はこのくらいにして、アシェ、わたくしもアシェとは一緒に居たいですわよ」
「……へ? 私はユウキとだけ一緒に居たいわよ?」
「…………今までの態度から自業自得なのはわかっていても、ちょっとイラっとしましたわ」
わかっているなら止めてあげればいいんじゃなかろうか……。
「……まあでも、そうね。皆一緒だと、楽しいかもね」
「ですわ。わたくしがここまでえげつないことを容赦なく言えるのってアシェくらいだし」
「全然嬉しくない評価をありがとう」
まあ、確かに、シュエリアがここまでボロクソ言うのはアシェくらいだ。他の人には酷いこと言っても、ここまで酷くはない。アシェと比較したらって話だけど。
そう言う意味では一種の信頼みたいなものかもしれない。良く言えばだけど。
「それで、他に夢は……シオンはどうですの?」
「ん、ゆう君と結婚したい。愛されたい。敷物になりたい」
「……とりあえず皮剝ぐ所からですわねぇ……」
「リアルに敷物にしようとすんのやめろ……」
なんつう恐ろしい事考えるんだこのエルフ。頭可笑しいんじゃ……いや、可笑しいんだった。今更だった。
「でも結婚とかはその内出来そうですわよ。そう考えたら、ほら、残りの夢も叶えてあげたいでしょう?」
「なら俺が義姉さんに座れば良いんじゃないか」
「……ユウキ、そういう発言は控えた方がいいですわよ……? 非常識ですわ」
そう言ってドン引きしましたって顔をするシュエリアに軽い怒りが湧く。
もう本当に、これっぽっちも納得いかない。コイツにだけは言われたなくない。
「確かにお姉ちゃん的にも今の発言は要らないかなぁ」
「言い出したの義姉さんだよな?!」
俺がまさかの裏切りに驚くと、義姉さんは頷きながら答えた。
「うん、だから、無言で椅子にして欲しい。そっちのが嬉しいよ」
「…………」
「ユウキがフリーズしましたわね」
モウ、ナニイッテンノカワカンネェヤ。
「それで……トモリは夢、ないんですの?」
どうやら義姉さんについてはこれ以上言及の必要性は無いと思ったのか、はたまた満足したのか……兎に角トモリさんの話に移るようだ。
「わたし~は~子供が~欲しいです~」
「またリアリティあるの来たなぁ」
「茶化しようがなくて困りますわね?」
「ま、まあな」
シュエリアの言っていることも分からなくはない。話が広げ難い、真面目な話なだけに。
「……そうだ、どんな子が欲しいと言うか、育てたいと言うか、ありますか?」
「そう~ですね~。剣の~才がある~男装の~麗人~?」
「思ったより凄い方向性に育てようとしててビックリするわ」
なんで男装指定なんだろう。トモリさんそういうのが好みなんだろうか。
「まあトモリの娘なら美人になりそうですわよねぇ」
「101~人~いれば~ひとり~くらいは~?」
「何だろう、凄まじい数の子供を求められている気がする」
と言うか何か、以前に心理テストで言った時の子供の人数じゃないか? これ。トモリさんマジだったのか?
「まあ~でも~。決めるのは~子供~ですから~。好きに~幸せに生き~て欲しい~です~」
「確かに、そうですね」
親の望む子供像と、子供の望む大人、未来、それはきっと違うから。親が子に望むには、幸せくらいで良いんじゃないかと思う。トモリさんが子供に理想を押し付けたりする気が無い様でよかった。
「まあまず~は~子供で~すね~」
「そ、そうですね」
流石に101人は勘弁して欲しいけど……。
「さて、後は。アイネはどうですの?」
シュエリアが次に俺の上に丸まっているアイネに問いかけた。
「にゃあ」
「ユウキじゃないから何言ってるかわからないですわよ……」
シュエリアの言葉に、アイネはもう一度鳴くと、人の姿になって俺の上に座った。
「兄さまとずっと一緒がいいですっ」
「何て可愛い夢なんだ。アイネ大正義過ぎるだろ」
「妹に対して激甘評価なの相変わらずですわね。こんなあざとい夢で良いんですの?」
「良いんだよ、夢とはどこかあざとい物なんだよ」
「どういう持論ですのそれ……」
俺が言ったことが気に入らない、納得いかないのか、ジト眼で俺を睨むシュエリアだが……すまん、正直適当に言ったから俺もどういう意味か分からん。
「まあでも、それならアイネの夢は叶いそうですわね」
「はいっ! 兄さまと離れる気ないのでっ!」
「いや、マジ可愛いな」
言いながら俺にギュッと抱き着くところとかホント天使だ。可愛すぎる。
「さて、わたくしはいいけれど、これ以上このダダ甘な空気が流れると汚れてるアシェが浄化されて消えちゃうからユウキの話に移りますわよ」
「ちょっ! 消えないわよ!! 汚れてるけど浄化されないし!!」
汚れてるのは否定しないのか……。
「それで、ユウキの夢は?」
「好きな声優さんと結婚したかったなぁ。ていうかしたい」
「殺しますわよ?」
「ひーちゃんは関係ないだろ!」
「違いますわよ、お前を殺しますわ」
「殺さないヤツじゃん」
脅し文句が完全に殺さないフラグだ。
「別にハーレムだし、夢なんだし、いいだろ! 夢見るくらい! 絶対無理なんだし!」
「聞いてて悲しくなりますわね、色んな意味で」
自分で言ってても悲しくなってきた。夢があるんだか無いんだかわからない。
「他に無いんですの?」
「他? ……そうだな、イマドキの異世界転生の主人公になりたい」
「それ今生の夢ですらないですわよ……」
確かに、これじゃ来世の夢だな。
「だとすると…………無いな」
「…………。オタク脳過ぎて言葉出なくなりましたわ」
いや、ホントに。我ながらここまで残念な夢しかないとは思わなかった。
しかし。
「そこまで言うからには、ほら。シュエリアの夢は?」
「え? ……あー。そろそろおやつの時間ですわね」
「露骨に話逸らすなよ」
目を逸らして話も逸らすシュエリアだが、ここまでみんな話したのだ、コイツだけ話さないなんて許さない。
「話さなかったら飯抜きな」
「ぐっ……卑怯な手を使いますわね」
「皆だって話したんだから、お前もそうするべきだろ?」
「……むぅ……」
流石にシュエリアもここまで来て自分だけ喋らないのはズルいと思ったのか、しばらく唸ってから観念して、口を開いた。
「……でも、わたくし、今は夢とか無いですわよ、ホントに」
「そうなのか?」
「えぇ、だから、そうですわね。これからもユウキと、皆と楽しく暮らせればそれでいいですわ」
「そうか……なるほどなぁ」
まあ、正直面白みという意味では、全然なんだけど。別にいいか。
「それじゃ、おやつに――」
「待って」
シュエリアの夢も聞いたところで、おやつにしようとしたところを、アシェに止められた。
「シュエリア、アンタ昔言ってたわよね、将来の夢」
「……なんっ……何のことですの」
そう言ったシュエリアの声は明らかに上ずっていて、何か聞かれたらマズい話があるようだ。
「確かアレは……そう――マッチョな旦那さんが欲しい、だったわね」
「えぇ……」
なんだそれは、それじゃあまるでアシェじゃないか。
「露骨にバレる嘘吐いてんじゃねぇですわ! それはアシェでしょう! わたくしは楽しい旦那さんの可愛いお嫁さ――なんでもないですわ」
アシェのあんまりな嘘に、ついツッコみながら自分の昔の夢を暴露するシュエリアだが、途中で止めたものの、ほとんど言ってしまっている。
「前に好みのタイプ聞いた時にも近い事言ってた気がするけど。そもそもお嫁さんが夢だったとは……」
「だから言ってるでしょ、シュエリアは乙女脳だって」
「う、ううううっ! うっさいですわ!! いいでしょう?! 年頃だったんですの! 今はそんなことないですわ!!」
「でも『楽しい旦那』のユウキとこれからも一緒に居たいんでしょ? それって夢の延長じゃない。乙女よねぇ」
「……アシェ、ぶん殴っていいかしら?」
「えぇー? 『可愛いお嫁さん』が暴力は良くないんじゃなーい」
「っ! アシェーーー!!!!」
「うわっ! キレた?!」
どうやらアシェが煽り過ぎたのか、アシェに掴みかかろうとするシュエリアと、それから全力で逃げて部屋を出て行くアシェ。
「アイツら仲いいなぁ……」
「仲いいんですっ?」
どうやらアイネにはよくわからない様だ。
でもまあ、仲はいいだろう。本当に仲悪かったらシュエリアが本気になったらアレじゃ済まないはずだしな……。
とりあえず、めんどくさいから俺はおやつの用意でもしてようと、俺もそっと部屋を出た。
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最近立て続けに更新でミスやらかしてるので気を付けます……ごめんなさい。