新世界の話ですわ
「そろそろ新しい世界でも創って置こうかと思うんですの」
「……マイ〇ラ?」
いつも通り過ぎていく昼下がり、いつも通り頭の可笑しい発言が飛ぶシュエリアの部屋。
俺の隣でスマホで遊んでたシュエリアが急に妙な事を言い出した。
「スマホでもマ〇クラあるけど……違いますわ。ほら、この間サッカー用の世界創ったでしょう?」
「あぁ……してたな、そんなこと」
「あの世界を他にも色々遊べる世界に作り替えたんだけれど、その時に思ったんですわ。『あぁ、そういえばそのうち引っ越すように命のある世界を創って置こうかなぁ』って」
「そんな思い付きで命を創造するとかお前に倫理感はないのか」
正直コイツがヤバイ奴なのは知り合った当初からあんまり変わってない。まあ若干鳴りを潜めた気がしていたけど、能力の高さとその能力の使い道に問題がある点は相変わらずで……今回は生命の創造とかいう神プレイをする気らしい。
「生命を生み出すだけなら他の生物でもしているでしょう。問題はそこに何処まで責任を取るかですわ」
「と言うと?」
「ぶっちゃけ世界を創って、そこに命を産み落とす……あぁ、これは比喩だから、実際には魔法で作るのだけれど。そしたらわたくしとしては、最初の世代には責任を持つつもりだけれど、後はそこに生きる者たちの自主性に任せるつもりですわ」
「ふむ……大分、放任主義だな」
「神様だってそんなもんでしょう。ならわたくしもそうするってだけですわ。そもそもわたくしは自分の箱庭を創ってそれを好き勝手に弄って遊びたい訳ではなくて、あくまでも将来的に暮らす世界を創る為にやるんだもの」
「将来的に……? あぁ、そういう事か」
そう言えば俺らは不老不死だった。で、以前世界の終わりまで生きられるような話をしたが……この地球で暮らせないとか、そういう事になったときの為に別の世界が必要で、それならその世界を自分で創って置こう、という事だろう。多分。
「その考えであってますわよ。だから新しい世界についてどういう世界にするか、方針を決めようかと思って」
「人の思考にサラッと返事するな、と言いたいがまあ今回はいいや。でも方針を決めるって、自主性に任せるんだろ?」
「そうだけれど、最初の人間……エルフでもいいけれど、そこら辺に何を教えるかで世界の成り立ちは変わりますわよ? 多分」
ふむ。そういうもんだろうか? 無駄に天才なコイツが言うんだからそうなのかもしれないけど。
「例えば魔法を教えたら、当然それが発展した世界になる確率は十分あるわけだけれど、基本的な科学を教えたら科学の発展した世界になるでしょうね」
「両方教えたらとある世界になりそうだな」
「……ならないと思いますわよ?」
なんだ、ならないのか……俺の感覚だと科学と魔術が交差する時物語は始まる気がするんだけどな。
と言うか広義的に(?)見れば俺とシュエリアもそうだし。
「まあとりあえず、そういう感じでどんな基礎知識を与えるかくらいは考えておこうかと思ったわけですわ」
「なるほどなぁ……でもそれでさ、例えば力を与えて戦争とかになったらどうするんだ?」
「言ったでしょう、最初の世代はわたくしが見るから問題ないですわ。そして後はその世界に生きる物の決めることだもの」
「うーん……なんか倫理的に駄目な気がするのは俺だけだろうか。結局どれだけ時代が流れても、元はお前が生み出した命な訳だろ? 最後まで面倒見るべきなんじゃ……」
「それこの世界の神様にも言ったらどうですの?」
「……お前は神ではないだろ」
「神がやっていいのにわたくしがやってはいけない道理はないでしょう」
いや、道理はある気がしないでもないんだが……具体的に説明するのは難しいんだけどさ。
「でもな……」
「わたくしは別にそこの世界の人間を飼う気は無いですわ。もし飼うなら、飼われることで安定した生活を安全は与えられるけれど自由は無いですわよ。完璧な管理をするのであれば自由は与えられないもの。でもわたくしは飼う気はないから最初の命には親として守るべき責任を果たすつもりだし、でもそれ以上の干渉はしない。自由意思は尊重しますわ。そしてその次の世代は親になる者が守り導く、何も変な事ではないでしょう?」
「それは……まあ、そうかもしれない……」
確かに普通に考えて、人間であれば命に責任を持つのはせいぜい孫くらいまでだろう。それ以降はあんまり考えることはないと思う。数千年数万年先の子孫にまで責任は持てない……。
でもなんというか、どうにも腑に落ちないというか、納得しきれないのはやはり不老不死であること……そしてシュエリアの強大な力があるからだろうか。
その力があれば何でもできるだろうから……守ってやって欲しいと言うのは俺の勝手な願いだろうか。
「ユウキの考えは覗くまでもなくわかるけれど、ユウキは優しいし、甘すぎですわよ。その優しさにつけ込んでここで暮らし始めたわたくしが言うのもなんだけど。それでも人を甘やかし過ぎますわね、ユウキは」
「そんなつもりはないけどな……割と言う事は言ってるし」
「言うだけならね。でも、何だかんだ言ってユウキは人に優し過ぎるところがあるから、駄目ですわよ、そういうの」
「うーん……」
俺個人としては全く優しいつもりはないんだが……むしろ俺の嫁共々、結構アレな性格している方だとすら思うんだが……?
「……まさか自覚無いんですの?」
「何の自覚だよ」
「優し過ぎてる自覚ですわ」
「無いな」
「……あのねえ、わたくしに始まり、妹だと判明してないアイネを拾ってきたり、わたくしが拾ってきた魔王の面倒見たり、ポッと出令嬢の彼氏のフリして助けたり、アンタ結構やってますわよ? 普通ならしないだろう行動を」
「それはほら、お前という頭の可笑しいエルフに毒されたからだろ……優しさとは違うんじゃないか?」
「……はぁ、じゃあもうそれでもいいですわ」
なんか溜息吐いてコイツ駄目だな……っていう顔をしてるシュエリアなんだが、今挙げた例って全部そうなるべくしてなったって言うか、優しさ故にというのとは違うと思うんだよな。
「どちらにしても、わたくしは世界の最初の方しか面倒は見ないですわ。その時に知識と一緒に基本的な倫理感とか道徳も教えますわよ……後は勝手に成長した頃にその世界に移り住めばいいでしょう」
「……わかったよ。それでいい」
正直まだ納得しきれない部分はあるけど、いつか俺達はこの世界で暮らせなくなるだろうからな……それこそこの世界での俺の年齢は徐々に『人間』だった結城遊生とは変わって行ってしまう。不老不死故に、俺はいつかこの世界で生きるには難しくなるだろうし、それは案外早く来るかもしれない……。
そうなった時、俺達は既存の世界に移り住むか……今回話したシュエリアの世界に移り住むか選ぶことになっただろう。それを今、選んだって話だ。
「他人の世界にお邪魔してお前がパワーバランスぶっ壊すよりはマシ……だよな」
「なんかわたくしの事を天災みたいに言われている気がするけれど、そんなことしないですわよ……」
本人はこう言っているし、実際この世界ではやらかしたりはしてないけれど、他の世界でもそうとは限らないしなぁ……。
「まあ、そんなことより新しい世界の話をしようか」
「そんなこと……まあ、いいけれど。それなら他のメンバーもいた方がいいですわね。一緒に生きる世界なのだから」
「そうだな……」
皆とはこれから先も一緒……なんだもんな。
「じゃ、連絡とって呼びますわよー」
「おう」
30分後。
いつものフルメンバーが揃った状態で話を始めることに。
ちなみにシュエリアが左、アイネが膝上、トモリさんが右まではいつも通りだがアシェは対岸の席(いつもは俺の後ろから抱き着いてたり足の間に挟まって座布団に座ってたりする)で義姉さんはその隣という事だろうか。まあ、足の間に居られても困るからいいけど。
「シュエリアさんはついに神様になるんですねっ!」
「シュエリアが統治する世界とかロクなもんじゃないわよ、絶対」
「統治しないから問題ないですわ」
「そう~なんですか~?」
「えぇ。その辺は――」
シュエリアが先に俺と話し合ったことについて説明し、とりあえず皆、新しい世界の必要性については納得してくれたようだ。
「でもシュエリアが倫理とか道徳を説くって可笑しくない? 少なくとも一番そういうのから縁遠いでしょ、トモリの方がいいわよ」
「言うに事欠いて魔王の方がいいってどういうことですの」
「でもでもっ、トモリさんは実は一番常識人ですっ!」
「実……は~……」
アイネの言い方に傷ついたのか、トモリさんがどんよりした顔をしている。魔王でもそこで傷つくんだな……まあ、魔王って肩書と服装以外は結構普通だからな……。
「あっ! すみませんっ」
「というか俺はトモリさんに常識人度で負けているのか……」
「あぁっ! 兄さまはっ……優しいし、道徳心というか、倫理観は良いと思うのですが……常識的かと言うと……ちょっと……」
「ぐはぁっ!」
まさかアイネにそんな風に思われていたとは……。
「って言うか優しいのはまあ、良いとしてもコイツ倫理観は意外と死んでますわよ」
「おまっ! なんてことを言うんだ! 死んで無いわ!!」
「アイネが全裸で転がり込んできた時にガン見してたし、一人の女性に決めずに複数侍らせている時点で終わってますわよ」
「……思ったより正論で言い返せない……」
唯一言い訳するならハーレムは俺一人の責任でもなくない? と……いや、完全に言い訳だけど。俺が決めた事だし。
「でもかといって、トモリだけだと不安なのも事実だから、一応変態を除けばまともなユウキにもお願いしておきますわね?」
「お、おぅ……」
「で、後は……経済とか、自活する方法は……シオンですわね」
「! もがーーー!!」
「……今更だけどなんで義姉さんは口を塞がれているんだ?」
「シオンに発言権を与えると話が逸れると思って」
「そんなことも無いんじゃないか……?」
義姉さんはこれでも経営的にはプロというか天才だし。新しい世界、新しい街造りをするならかなり手腕に期待できるはずだが……。
「……ふむ。じゃあ試しにシオンに聞いてみますわね。ロクでもないこと言いそうだけど……シオンなら異世界を創って新しい人類に何を教えますの?」
そう聞きながら、魔法で義姉さんの口を塞いでいた詰め物を取ったシュエリアだったが……。
「まずは私達が生みの親であり神だと認識させて、称えさせるね! 主にゆう君を!!」
「!! 素敵です姉さまっ!!」
「ほら、ロクでもないですわ。阿保の子が共感してるのが目も当てられないでしょう?」
「おい、アイネを阿保の子と言うのを止めないか」
とは言え確かに義姉さんの発想はロクでもなさすぎる……と言うかもはや発想がクズみたいだ。神として称えさせるとか……いやいや、無い無い。
「シオンは自給自足と経済の基本を教えてくれたらいいですわ」
「えー……まあ、いいけどさぁ……」
「後はそうですわねぇ……わたくしは案外世界の調整に色々忙しいかも知れないから、アイネとアシェに他に何かお願いしたいけれど……何が必要になるかしら」
「お前が忙しくなるとか絶対無いだろ……」
ちょいちょいっと世界を創造する奴が忙しくなるような案件ってなんだよ……。
「分からないですわよ? 宇宙も作って他の星も作って隅々まで作り込んだら案外大変かもしれないですわ?」
「むしろそこまでやる必要性……」
「宇宙を舞台にした物語が始まりますわね?」
「収集つかねぇって……」
それこそ星々で戦争とかになったらどうすんだって話だ……。
「まあどっちにしても、他に何か無いんですの? 必要な物」
「倫理観、道徳と一緒にルールとかも任せていいわよね? で、自活問題はシオンでしょ? ならそうね、私にできるのは錬金術を教える……とか?」
「生活に便利な程度に留めるんですわよ?」
「わかってるわよ。初歩的な薬とかの調合とか、そのくらいよ」
確かにそれは便利そうだなぁ……後は……?
「なら私は狩りを教えますっ。猫流ですがっ!」
「悪くないですわね。剣とか槍の使い方とか、原始的な部分を任せますわ」
「争いにならないか?」
「そこはほら、トモリとユウキがしっかり教育すべきですわ」
「……まあ、そうか」
力は使う者次第……ってことだな。上手く行くと良いんだが。
「魔法は……わたくしが教えればいいですわね」
「お前人に教えられるのか……?」
「どういう意味ですの?」
「いやあ、お前って天才肌だから論理的な教導より感覚的な指導しそうだなぁって」
「言いたいことはわかるけれど、魔法ってそもそも理屈だけのモノではないから、必ずセンスが問われるものですわよ? 両方合わせて教えるから問題ないですわ。これでも初歩の初歩からキッチリ学んでいますのよ」
「えー?」
「何ですのその顔、腹立ちますわね」
コイツがそんな初歩から学んでいるとか……嘘くせぇ……。
「ユウキに言っとくけど、シュエリアが言ったことはマジよ。エルフの王族ともなれば幼少期から英才教育されているはずだから、特に長女のシュエリアはそこら辺叩き込まれてるはずよ」
「そうなのか、なるほどな」
「アシェだと素直に信じるのが余計ムカつきますわねぇ!!」
なんかシュエリアがイライラしながら俺の脇腹をグリグリと攻撃してくるのだが。これはコイツの日頃の行いの所為だと思うんだ。
俺は何もシュエリアを信じていないわけではない、むしろ信じているのだ。俺はシュエリアの事を駄目な奴だと信じて疑ってない。
「まあ後は、足りない部分を皆で補ったり修正ですわね……」
「了解。それでその世界、いつ作るんだ?」
「考えたけど、この世界で暮らすのが無理になった時に作って、そこからゆっくり暮らすのでもいいかも知れないですわね……不便な時代、生活から徐々に便利な時代にって言うのも面白いかも知れないですわ」
「まあ、その場合しばらく娯楽にはありつけない暇な時間があるかもしれないがな」
「…………時間の流れを調節して、わたくし達が暮らす頃に丁度良くなるように……うん、調整頑張りますわ」
「急に不安感のある適当さだな」
そこまで大事か娯楽。いや、大事だな。コイツには特に。
という事でまあ、シュエリアの言う新世界は当分は見送ることになった。
いつかまたこの話が出て来る日が来るのだろうが……まあそれまでは、この世界でのんびり楽しく暮らせたらいいなと、本当にそう思うのであった。
ご読了ありがとうございました!
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次回更新は来週金曜日18:00です。