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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
92/266

キックオフですわ!

今回、二話分くらいの長さです。

パロ多めにつき知らない方、ごめんなさい。

「サッカーやろうぜ、ですわ」

「なん……だと……」

 いつも通りの休日にいつもとは違った様子のシュエリアが俺の隣でリフティングしながら話しかけて来る。

「何を驚いてるんですの?」

「珍しくまともかつ具体的な話だからついな。いつもなら『暇』とかなんか面白いことしろとかメタ発言してるだけの生き物なのに……」

「嫁を『生き物』って呼称するのどうなんですの……」

 そう文句を言いつつも何だかんだまんざらでもなさそうな顔なのが意味不明だが、なんだ、嬉しいのか、今の?

「というか室内でリフティングするなよ」

「自室だからいいでしょう?」

「……まあ、そうか?」

 コイツの部屋でリフティングしてなんかやらかす分には自己責任だし、いいか。

「という事でサッカーするからシオンに言って場所と機材を用意して欲しいですわ」

「いいけど、義姉さんだってサッカー場持ってないかもしれないぞ?」

「その時はその時ですわ」

「はいはい」

 ま、そういう事ならさっさと義姉さんに連絡しよう。

「送信――返信はやっ。こえぇな、あの人文章作って待ってたレベルの返信速度なんだが」

「マジでやってそうだから嫌ですわね……」

「ちなみにサッカー場は持ってないそうだ」

「えー、じゃあどうしたら――あっ」

 なんだろう、何か妙案でも思いついたのだろうか? 

「どうした?」

「今更だけど、作ったらいいんですわよね」

「今から作るのか? 阿保なのか?」

「阿保じゃないですわよ、天才ですわ」

 シュエリアはそういうと、思いっきりドヤ顔をしたかと思うと、目を閉じて動かなくなった。

「……死んだ?」

「…………」

「へんじがない、ただのしかばねのようだ」

 俺のボケに、シュエリアはすぐに眼と、口を開いた。

「死んでねぇですわよ。今ちょっと集中してただけですわ」

「なんでまた急に」

「作ってたからですわね」

「何を」

「サッカー界を」

「…………はい?」

 何を言っているのだろうか、俺の阿保嫁は。

「さて、皆が揃ったら行きますわよ」

「何処に?」

「サッカー界ですわ」

「…………うーん」

 これは俺の嫁の頭が本格的に使い物にならなくなったのかもしれないな……。

「じゃ、皆を呼びますわね」

「お、おう……」

 とりあえず皆が来るまではそっとしておくか……。

 それから30分後。

「さ、行きますわよ、会場に。皆わたくしに掴まってくださる?」

「転移魔法でも使う訳?」

「ですわ」

「では~」

「乗って良いですかっ?」

「……良いですわよ」

「良いのかよ」

 色々ツッコミたいけど、一々ツッコみすぎても進まないから追及はしないが……。

「お姉ちゃんも乗って良い?」

「黙って捕まってろですわ」

「なんだろう、変換が酷いことになってる気がするよ……?」

 などと冗談をかましつつも、皆シュエリアに掴まり、一人(一匹)頭の上だが。シュエリアは転移魔法を発動した。

 転移が終わるとそこには広々とした大地に、芝生が広がり、なんかいい感じにサッカー場が出来ていた。

 ただ、なんだろう、ここには凄く違和感を感じるんだが。

「シュエリア、今更だけどこれ掴まる意味無いわよね?」

「無いですわね、わたくしなら視界外ですら強制転移出来ますわ」

「今話題に上げるのそこか……?」

 むしろこの光景の方が問題だと思うんだが……。

「空低いねー」

「マナもありますねっ」

「太陽が~違います~」

「そりゃそうですわよ、この世界は地球ではないもの」

「って、お前まさか……」

「そのまさかですわ。さっきも言ったけど作ったんですの、サッカー用に、新しい宇宙と星、まあ所謂、異世界を」

「頭いてぇ……」

 俺の嫁は規格外で馬鹿で阿保だとは思っていたが……これ程とは。

「じゃあさっきの集中とサッカー界ってのは……」

「短時間だから作り込みが甘いけれど、まあサッカーするだけだから良いですわよね?」

「いいけど……サッカーするだけなのに……」

 サッカーするだけに世界を創造する馬鹿っているんだな……。

「シュエリアさんはサッカーの神様になったんですかっ?」

「ペレ? 違いますわよ」

「シュエリアは馬鹿の神様になったのよ」

「アシェ、消しますわよ」

「間違えたわ、暴虐の神だったわ」

「アシェー? 調子乗るとホントに消しますわよぉ?」

「ひっ?!」

 なんかアシェがシュエリアをからかおうとして怒らせてるんだが、これに関していうとアシェに同意したい部分がある。

 コイツの馬鹿は『馬鹿の神』を名乗っていい段階にまで行っている、間違いない。

「なあシュエリア」

「何ですの?」

「お前ってこういう風になんでも出来るのに、何でもはしないよな」

「ん? そうですわね?」

 俺の質問に若干疑問形ながらも応えるシュエリアだが、ホント、何でだろう。

「出会った時からそうだけど、なんで何でもできる力があるのにやらないんだ? 例えばほら、耳とか隠すのはアイネにやってもらってただろ? 料理も初めは失敗してたし、他にも色々、お前なら自分で何とでもできただろ」

「まあ、そうだけれど。自分一人で何でもかんでもできたってつまらないでしょう? だからわたくしはそもそも出来ないことを魔法で出来るようにしたりはあんまりしてないですわ。それこそ料理とか。魔法で料理の才能をスキル化して自身に付与すれば天才的な料理を最初から出来るけど……出来ないことを練習して出来るようになった方が面白いでしょう?」

「そう言うモンか……?」

「そういうモンですわ」

 そう言うシュエリアだが、結局出来ることをやってないだけだから、それは楽しいのだろうか……うーん、天才の気持ちはよくわからん。

「それじゃあシュエリア、サッカーなんだが」

「ん、そうですわね、やりますわよ」

「いや、そうじゃなくて」

「何ですの?」

「この人数じゃできないだろ」

「…………」

 俺の言葉に真顔で固まるシュエリア。どうした。

「マジですの?」

「サッカーは11人のチームでやるもんだろ、2チーム必要だから最低22人」

「そんなに友達いる奴いるんですの……?」

「え、いや……」

 リアルに考えて流石にフルメンバーでサッカーできるレベルの友達がいる奴っているんだろうか……仮に人数居ても社会人ともなれば皆が皆サッカーやるとか、暇とか、そういうのはあんまり無さそうではあるな……。

「人数は6人居るし3対3で良いんじゃないかなー?」

「そうね、それでいいんじゃないかしら」

「そ、そうですわね」

 という事で、チーム分けが開始されたのだが……。

「なあ、なんでこのチーム分けなんだ?」

「無難ですわよね?」

「これ完全に結城姉弟で組ませただけだよなぁ?!」

 こちらのチームは俺、義姉さん、アイネ。相手はシュエリア、アシェ、トモリさん。

 なんだこの無理ゲーは。

「普通最弱の俺とシュエリアはセットだろ?!」

「いやいや、わたくしとユウキをセットにしたら誰がGKやるんですの?」

「……は?」

「わたくしのシュート止めようとしたら十中八九死にますわよ? ユウキがGKじゃなかったらわたくしが安心して蹴れないじゃない」

「お前はサッカーをなんだと思ってんだ……」

「戦争?」

「少林サッカーする気かお前は!!」

 ヤバい、もう嫌な予感しかしねぇ!!

「っていうか最悪それで俺とお前が分かれるのはわかるがなんで義姉さんまでこっちなんだ? 流石に義姉さんがハイスペックとは言っても異世界人に勝つのは……」

「大丈夫ですわよ、そっちには炎のエースストライカーが居るし、なんならこっちにはゴミ……ポンコツ……アシェが居ますわ」

「今私の事ゴミって言わなかった?!」

「本心が漏れただけですわ」

「なんのフォローでもないわね!!」

 まあでも、確かにそう聞くとアシェよりは義姉さんだけど……。

 アシェはポンコツにはツッコまなくていいんだろうか。

「義姉さんよりトモリさんの方が強くね?」

「…………まあぶっちゃけ姉弟で組ませましたわね」

「さっきまでの話が無駄話と化したな」

 つまりただの言い訳じゃねぇか……。

 というか炎のエースストライカーって。コイツまさか……。

「さ、動きやすい格好に着替えたらキックオフしますわよ!」

「お、おぅ」

 うーん、すげぇ心配だが……まあ、とりあえずはやってみるか。それこそ死にはしないしな。

 で、着替え終わって整列。

「シュエリア……お前その格好……」

「さあ! スタートですわっ!!」

 俺の言葉をまったく聞く気のないシュエリアが声を掛けてキックオフ。

 しかし、あの格好、マジで……。

「必殺!! ワイバーンクラ〇シュ!!!!」

「やっぱりか!!!!」

 開幕早々、シュエリアの奴は『超次元』の技をぶっ放してきやがった。

 そうだと思ったんだよ! 炎のエースストライカーとか、あの雷〇中の11番ユニフォームとか、あと頭とか!!

「にゃっ?!」

「ちょお?! あぶなっ!!」

「げぼぁっ!?!!」

 アイネは避け、義姉さんの隣を掠めていったワイバーンク〇ッシュは見事にゴールに突き刺さり、同時に俺もゴールに突き刺さった。

「よっしゃあぁああああああ!! ですわぁああああああ!!」

「ぐふっ……あんの……くそえるふ……」

 完全に『超次元サッカー』しやがったエルフが一人でぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。

 くっそ……可愛いなクソ…………頭アレだけど。

「さー、次はそっちの番ですわよ!」

「待て待て待て、その前に確認だ」

「ん? 何ですの?」

 そう言ってシュエリアは丸くなった頭で首を傾げ、こちらの反応を待っている。

「まず、これは『超次元サッカー』だな?」

「ですわ?」

「ってことはそのユニフォームと頭は……」

「シュエ岡さんですわ」

「コイツ…………」

 それ完全に『染岡〇ん』じゃねぇか。なんでサッカーするのに頭を染〇さんヘアーにしてんだコイツ……阿保過ぎる……。

 っていうかイナ〇レ知ってるならなんでサッカーが11人競技だって知らなかったんだ。どんだけ馬鹿なら気が済むんだコイツ。

「あ、髪なら魔法でそういう風に見えるようにしているだけだから、元に戻せますわよ?」

「……はぁ。まあ、それはいいけど、それならこっちも必殺技ありなんだよな?」

「ですわ」

「はいよ……」

 まったく、これなら確かに俺がGKじゃないと死ねるな……。

「それじゃ、再開な」

「楽しくなってきましたわ!」

「さよで」

 ったく、この阿保心底楽しそうにしやがって。まったく。

「アイネ、パスするから全力で行っていいぞ」

「全力ですかっ?」

「あぁ、ちなみに見てわかったと思うがあぁいう異能の力もアリだ」

「わかりましたっ!!」

 とは言ったが、露骨にファールくさい魔法とかぶっ放さないよな? 大丈夫……だよな?

「ほら、アイネ! ボール行ったぞ!」

「はいっ! 行きますよ……!! ファイアート〇ネード!!」

 アイネはそういうとボールを蹴り上げた後、それを追うように飛ぶと炎を纏った超回転をしながらボールを蹴り飛ばした。

 うん、完全に超次元の技だな。アイネも見てたのか。

「トモリ! 行きましたわよ!!」

「はい~」

 どうやらあちらのGKはトモリさんのようだが……大丈夫なのか?

「魔王ザ〇ンド~G5~」

「何気にクッソ強い技出して来た?!」

 って言うかアレ絶対に魔王を掛けた人選だよな……なんか着せられてるユニフォームも20番だし。そしてトモリさんも知っているのは何故だ。仕組んだのはシュエリアの阿保か?

「よく止めましたわ! さあボールを!」

「はい~」

 シュエリアの指示を受けてボールをパスするトモリさんだが……あれは相手が違うのでは……?

「って私?!」

「なっ……もういいですわ! そのまま蹴るんですわ、アシェ!」

「え、えぇ!? っと…………えいっ!」

「「「「「あ…………」」」」」

 アシェにボールが行った瞬間分かってはいたが、アシェの蹴りはすっぽ抜けてしまった。全員が気の抜けた声を出し、ボールを見つめる中、微妙に転がったボールはゆっくりと義姉さんの方へ。

「流石アシェ、10番を着せた甲斐がありますわ」

「それどういう意味なのよ?」

「使えない目金って意味ですわ」

「意味わからないけど馬鹿にされてるのはわかったわ……」

 などとエルフ二人が話している間にも義姉さんはゴール前にボールを上げている。

「いっくよートモちゃん! シュートッ!」

「はっ! させませんわ! アシェは相手のゴール前待機!!」

「わわわ?!」

 義姉さんがシュートしようとした瞬間、さっきまでは中央付近に居たシュエリアが一瞬で義姉さんの横に移動、あっさりとボールを奪っていった。

 ……あれ、瞬間移動の魔法使ってね?

「シュエちゃんずっこい!」

「はーはっはっは! 身体能力の差が出ましたわね!!」

「わ、私が止めますっ!!」

 そう言ってシュエリアに突っ込むアイネだが、まあ、わかってはいたがシュエリアにあっさり躱されてしまった。

 もうアイツ一人で良いんじゃねぇかな……。

「アシェ! 行きますわよ!!」

「え……え?!」

「ドラゴンクラ〇シュ!!」

「あんにゃろうまた染〇さんの技か!! って、ん?」

 確かにシュエリアはドラゴンク〇ッシュ風な技を放ったのだが、その方向がおかしい。

 具体的に言うと、ゴールではなく、ゴール右前方にいるアシェに飛んで行っている。

「え?! ちょ、これ! ヤバッ――ぐふぅっ?!」

「な、な……なんだと?!」

 あ、アレは……あの技は……!!

「これが……アシェクラッシュですわ!!」

「要するにメガネ〇ラッシュじゃねぇか!!」

 アシェにヒットしたボールは角度を変えてゴールに向かって飛んでくる。

 俺はボールを止めようと腰を落として受け止める態勢を取ったが、流石に直に飛んできたシュートではないとは言え、俺に止められるだろうか。

「ぐっ……と、止められッ――」

 一瞬、その場で踏ん張り、確かな手ごたえの様なものを感じたが……しかし。

「なーーーーーーーーいっ!!」

 俺はあえなく吹き飛ばされ、またしてもボールごとゴールネットに突き刺さった。

 そしてそれを見たシュエリアが俺の元に寄って来る。

「なんだかんだノリ良いですわねぇ、ユウキ」

「くっ……必殺技が無ければ止めることはできないのか……!」

「マジでノリいいですわねぇ……」

 くそう……これではサッカーやってるんだかサンドバッグやってるんだかわからないぞ……。

「……ってそうだ、シュエリア」

「何ですの?」

「アシェクラッシュは止めてやれ。死んではいないがノビてるぞ」

「…………」

「……マジですわね」

 見ると、アシェは思いっきり白目を向いて気絶していた。可哀そうに……。

「シュエリア、謝れよ、流石にこれは酷いぞ」

「うっ……とりあえず治しますわね」

 そう言ってシュエリアはアシェに回復魔法を使い、ほんの10秒ほどするとアシェは起きた。

「う……んん…………はっ! 殺される?!」

 起きるなり物騒な事を言い出すアシェだが、気持ちはわかる。

「おい、シュエリア」

「わ、わかってますわ。アシェ? その、ごめんなさい」

「へ? あ、れ?」

「あの技はもう使わないから、許して欲しいですわ」

「あ……私死んでた?」

「気絶してただけですわ! そこまでは絶対してないですわ! ねえユウキ?!」

「あぁ、気絶してただけだよ、大丈夫だ、アシェ」

「そ、そう……まあ、なら……許してもいいわよ、代わりに今度なんか奢ってよね」

「えぇ、良いですわよ」

「よし、じゃあ次からは気を付けろよ。楽しくやりたいだろ?」

「ですわね、反省しますわ」

 という事で、サッカーを再開することになったのだが……。

「シュエリアの奴、急にGKに変わりやがって……」

 あれどうやって得点したらいいんだよ、あんなの相手に……無理だろ。

「そしてなんでトモリさんはユニフォーム変わってるんですか」

「必殺技~に~合わせて~用意~しました~」

「自前だと……」

 まさかの自前。この魔王滅茶苦茶乗り気じゃねぇか。しかもどう見てもあの服は雷〇中のじゃない……別キャラの動きする気満々かよ。

 ちなみにシュエリアが蹴らないなら死なないよね、という事でアイネと俺でGKを交代すると言う話も出たのだが流石に危ないから止めた。まあ「でぇじょうぶだ。魔法でいきけぇる。ですわ」とかいうどっかのサ〇ヤ人の様なとんでも発言した奴の所為もあるが。どちらにしろ止めといた方が無難だろう。

 それはともかく、俺のパスからゲームスタートだ。

「義姉さん任せた!」

「おっけー! 身体能力強化――分身フェ〇ント!!」

「ちょ?! なんでシオンが魔法――」

 アシェが突然の事に驚いている間に義姉さんはアシェを抜き、おっとりしているトモリさんはディフェンスには動かず、さっさとゴール前にボールが運ばれた。

「遅い遅い! アイちゃん!」

「はいっ姉さまっ!!」

 義姉さんの掛け声に答えるようにアイネが義姉さんの傍まで行く。まさかあの二人……。

『必殺! 炎の風〇鶏!!』

「なっ――協力技ですの?!!!」

 余りの事に驚いたシュエリアだが、それも一瞬。

「ゴッドハ〇ド!!」

 シュエリアは即座に技を出したが……あれって……。

「ぐっはぁ!!」

「だよな……」

 炎の〇見鶏にゴッ〇ハンドって、負けた組み合わせじゃねぇか……。

「シュエリア、敵チームの俺が言うのもなんだが、何やってんだ」

「ゴールに突き刺さっているユウキを見たら楽しそうでつい……」

「アレ楽しそうだったか?」

 コイツの感性はイマイチ分からない時があるな……。

「というか、義姉さん、さっきの技って……」

「うん! 風〇一朗太だよ!」

「そっすか……」

 つまり義姉さんが風〇でアイネが豪〇寺か……。思いのほかアシェ以外ノリノリなのでは。

 そう思っていると、当の本人、アシェが近寄って来た。こっちのゴール来てどうすんだろう。流石にまたアシェクラッシュされたりはしないだろうけど。

「ねえ、サッカーってこんな危険な遊びなの?」

「い、いや……これは超次元サッカーと言って普通のサッカーではないな」

「そう……この世界にも異能者っているのね」

 何かアシェが勘違いをしている、流石に訂正しておいた方が良いよな。これでまだまともな方のアシェにシュエリアのような変な常識を持たれても困る。

「いや、居ない、基本的には」

「じゃあこれ何なのよ」

「……ゲームおよびアニメ作品の真似?」

「……馬鹿丸出しじゃない……」

 うん、まあそういう反応になるよね。子供のごっこ遊びを大人の能力者がガチでやっている絵面だし、これ。

「何してんですのアシェ、パスしますわよー!」

「えー? んもう、仕方ないわね」

「なんだかんだ言ってやるのな……」

 というかこの位置でアシェにパスしたら普通ならオフサイドなんだけど、まあ超次元サッカーだしな……よくあることだ。

 という事で、アシェとのPKの図面になったわけだが……。

「必殺! 視える魔球!」

「いっそ定番のボケだけどそれただのシュートじゃねぇか……あと滅茶苦茶遅い」

 流石にアシェはイ〇イレ知らない様だから既存の技ではないが、それにしても酷い。もはや魔球でも必殺技でも何でもない、ただのヨロヨロの球だ。

「はいキャッチ」

「そんな……馬鹿な……!」

「なんでそんなに驚けるんだよ……」

 ノリの良さは認めるが、コイツもコイツで色々分からん奴だな……。

「ほら、アイネー。パース」

「はいっ、任せてください兄さまっ!!」

 とりあえずアイネにボールをパスしてさっさとゲームを再開した。

「速攻決めます!!」

「させません――」

「にゃにゃっ?!」

 俺のパスを受けたアイネが前へ出ようとすると、一瞬でトモリさんがアイネの懐に潜り込んだ。

「やらせはし――にゃんと?!」

「遅い……! 必殺――」

 どうやらトモリさんはいつの間にかスイッチを入れていたようで、結った髪を棚引かせながらボールと共に空へ上がって行った。

「必殺……流星ブレ〇ド!!」

「やっぱりその技か!!」

 あの衣装ならそうだろうと思ったよ! 来るぞ……股間が!

「ねえシュエリア、アレは何なのよ」

「あれは、迫る股間……別名、流星ブレ〇ドですわ!!」

「…………ホントこれどういう遊びなの?」

 シュエリアがアシェに解説していたが、アレは逆じゃなかろうか。

「くっ……何としても止め――あれ?」

 兎に角、俺はトモリさんのシュートを止めようと思ったのだが……。

「ふっ……ゴールですね」

「え……あぁ……はい」

 トモリさんの流星ブ〇ードは思いっきりゴールの左端を捉えて入って行った。

「ちょ! 何やってんですのトモリ!! そこはキーパーのいるところにボールを送り込むのがお約束ですわよ?!」

「勝負の世界は常に非情なんです……」

「そういう問題じゃねぇですわ! 盛り上がりとか、見せ場的な意味ですわ!!」

「でもゆっ君は必殺技無いですよ?」

「…………それもそうですわね」

「丸め込まれてるし」

 まあ俺としても直撃しなかったからある意味助かったんだけど。なんだろう、オイシイところを持っていかれた感がある。やってくれるな天然魔王。

「というかさ、今更だけど、普通にサッカーしようぜ」

「ホントに今更ですわね。まあ、いいけれど」

「いいのかよ」

 自分から言っておいてなんだが、こだわり無いな、コイツ。

「じゃあ、こっから先は魔力、魔法の使用は禁止な。あと、チームもそれに合わせて変えよう」

「で、どうするんですの?」

「そうだな……」

 とりあえず魔法無しなら、身体能力で決めるべきだろうから……。

「シュエリアとトモリさんって、魔法無しならどっちの方が身体能力高いんだ?」

「ん、魔法無しでトモリに勝てるわけないでしょう。トモリって基本的に魔法無しであの身体能力ですわよ」

「……さっきの技は?」

「魔法~無しで~す~」

「マジかよ……」

 魔力無しであの技ぶっ放して来たのかこの人。さすが魔王。

「じゃあトモリさんと義姉さんが俺のチームで」

「うーん、アシェはユウキと交換できないんですの?」

「どっちも戦力にならないんだからどっちでもよくないか?」

「ならなおさら、ユウキの方がいいですわ。気分的に」

「言いたいことはわかるけど、凄く納得いかないのは私だけ?」

 アシェが思いきり不満そうな顔をしているが、別にシュエリアはアシェが嫌なわけではない。俺と組みたいだけだ。

 まあ、アシェもそれはわかってるだろうけど。

「じゃあ、俺、シュエリア、アイネで組むか」

 ということで、チーム分けをしたところで3対3の普通のサッカー、キックオフ。

 ちなみにこちらのGKはアイネ、相手はアシェのようだ。

 あれじゃ守りは絶望的だな。攻めに特化する気か。

「先手必勝! 行くよトモちゃん!」

「ぽけ~」

「なんかやる気無さそう?!」

 なんだろう、集中するのに疲れてしまったのだろうか、トモリさんがぽけ~っとしながらてくてく歩いている。あれじゃ戦力にならんのでは。

「し、仕方ない、お姉ちゃん力みせてやんよー!」

 なんか追い詰められた義姉さんが、変な喋り方し始めたし。

 あっちのチーム駄目なメンツしかいないな。

「おいシュエリア、義姉さん止めるぞ」

「無理ですわ」

「……は?」

 なんて? 今なんて?

「なんで」

「わたくし、基本的に魔力で体を強化して生きてるから、久々に魔力使ってない状態になって気づいたのだけれど、体動かすのって結構しんどいですわね」

「…………」

「まあ、ここ数年、日本に来てからなんて引き籠ってたし、筋力も体力も落ちてるわけですわ」

「…………」

「よって、わたくしがアレを止めるのは、不可能ですわ」

「つかえなっ!!」

 こっちにもいたわ、使えない奴。

 コイツ魔力無しだと何にもできないのか。ポンコツ過ぎるだろ。

「それじゃあ、魔力無しじゃトモリさんに勝てないっていうのは……」

「こんなもやしエルフが魔族、それも魔王に勝てるわけないでしょう」

「……ホントにどうしようもねぇな」

 そんな無駄話をしている間にも、義姉さんがガンガン攻めて来る。

「よし、アイネ! 任せた!!」

「えぇっ?! 守らないんですかっ!」

「無理だ!!」

「ユウキも大概使えないですわよね」

 そう言われると反論できない。

 俺も俺とて、一般人だ。体はまあ、鍛えてはいるけど、義姉さんに勝てる気はしない。

 単純な力比べならまだしも、技術とか才能は義姉さんにボロ負けする気しかしない。

「行くよアイちゃん!」

「む、むぅっ! 止めて見せますっ」

 アイネと義姉さんの対決、義姉さんは視線や体の動かし方でフェイントを掛けている様だが、アイネはギリギリまで動かない。

 というか、義姉さんの足がボールに触れるまで動かなかった。

「キャッチっ!!」

「うそぉ?!」

 アイネはあまりにも理不尽なレベルでボールを止めて見せた。

「なんでボールより後に動いて取れるの……」

「? 見てから反応し無かったら運ゲーですよっ?」

「…………あれ、お姉ちゃん今変な事言った?」

「言ってないよ」

 これはアイネがおかしいだけだ。

「アイネ、よく見てから動いて間に合うな」

「ネズミを捕まえるよりは簡単ですよっ」

「……あぁ、うん」

 そうか、猫だもんな。そっかぁ。

「アイネは偉いなぁ」

「にゃっ。にゃふふ」

「出ましたわね、妹バカ」

 なんかシュエリアに呆れられているが、ちゃんと出来た妹を褒めるのは、変じゃないはずだ。

「さて、シュエリア。とりあえず今度は俺らの番だ。行けるな?」

「……まあ、疲れるけど、せっかくだから楽しみますわ」

「おう」

 ということで、さっさとシュエリアにボールをパスして貰って、ゴールでも決めて来るか。

「アイネ、シュエリアにパスを」

「はいっ」

 俺の掛け声でアイネはシュエリアにパス、その後シュエリアはボールを持って前に。

 魔力による強化が無いとは言え、流石に森育ちだけあって、一般人に比べたらかなり身体能力は高い。あれでも日本で引き籠って体力落ちてるって言うんだから、結構なもんだ。

「シュエちゃん覚悟ー!」

「あ、ユウキ、パス」

「ほい」

 義姉さんがシュエリアに突っ込んだが、流石に人数少ない上に、トモリさんがぽけ~っとしている為、俺はフリーだ。パスも簡単に通った。

「んじゃこのままゴールさせてもらおうかな」

「さ、させないし!」

 アシェが真面目にボールを止めるつもりで構えているんだが、大丈夫だろうか。

 あの運動音痴がゴールを守るとか、無理じゃないか?

「こ、こいやー!」

 とりあえず俺は、アシェに真っ直ぐ蹴るのではなく、左上を狙ってみることにした。

 理由は単純に、利き足で蹴ろうとしたら、そっちの方が蹴りやすく感じた、それだけ。

「よっと」

 全力で蹴るとコントロールできる自信が無かったため、ほどほどの力で蹴り、ボールはある程度思った通りの位置に飛んで行った。

 とは言え速度はあんまり速くないので止められるかと思ったのだが、甘かった。

 アシェの運動音痴は、そんなレベルじゃなかった。

「痛っ!」

 アシェはボールを止めようとしてるはずなのにボールと反対方向に体が動き、ついでに方向転換しただけでコケていた。

 あいつ、アレで今までどうやって生きて来たんだろう。

「……アシェ、大丈夫か? 生きて行けるか?」

「な、なんか心配のされ方が凄く不本意なんだけど……大丈夫よ、このくらいいつものことよ」

「そ、そうか……」

 いつもこうだったのか、そうか。なんて不憫な。

「とりあえず、怪我してないなら続行でいいか?」

「問題ないわ。見てなさい、目にもの見せてやるわ……トモリが」

「人任せかよ」

 そこは自分で頑張れよ……と言いたいが、まあ、いいか。

「行くわよトモリ! えいっ――あ」

 アシェのパスは見事に失敗し、地面に転がり、そのまま俺の前に。

「えっと……シュート」

 俺の蹴った球はまたもやあっさりゴールに入った。

 アシェはコケ無かったが、今度は全然動いてすらいない。

「あっ。卑怯よ!」

「えぇ……」

 俺にパスしちゃったのはアシェの責任で、俺の所為ではないと思うのだが。

「ほら、またアシェのパスだぞ」

「ぐぬぬ……トモリ、こっち来て」

「はい~」

 アシェはトモリさんを呼びつけると、勝手にリボンで髪を結び始めた。

「さあ、魔王トモリの快進撃よ!」

「……はい」

 凄い、マジで人任せだ。

 あまりの事に、トモリさんが憐みと呆れが混じった顔をしている。

「行きますね」

「止められる気しないけど……」

 とりあえず、トモリさんのドリブルを少しでも止められるといいんだけど……。

「って……クッソ速……無理だろアレ」

 アシェ側に居たのに気づいたらもうアイネの前だ。瞬間移動レベルで速い。

「これ、トモリ一人だけ強すぎてズルいですわね?」

「ズルの塊みたいな奴が良く言うよ。っていうか止める努力しろ」

 シュエリアはコート中央辺りでトモリさんの背中を眺めながら悠長に話している。

 そしてその間にも、魔王対勇者のPK対決が始まっていた。

「思いきり……蹴る」

 トモリさんは宣言した通り、思いきりボールを蹴ったのだろう。

 そして、ボールが、消えた。

「なっ。消える魔球ですかっ」

「…………」

 しかし何か、トモリさんの様子がおかしい。

 ついでに言えば、ゴールネットの様子もおかしい。

 トモリさんがボールを思いきり蹴ったなら、目に見えない速度で飛んで行ったとしても、ネットには引っかかるハズだし、突き抜けるにしてもそれなりに変化があるはずだ。

 なのに、何ともない。

 ボールが消えただけだ。

 そしてトモリさんもその場から動かない。棒立ちで固まってる。

 どうした?

「あれはやっちまいましたわね」

「なんだ? 思いきり蹴ってどこかにボールを吹き飛ばしたとか?」

「いえ、ぶっ壊しましたわね」

「……え?」

 ぶっ壊した? 何を。

「トモちゃん、どったの?」

「ボールが……破裂して……」

「あちゃー。これじゃサッカーできないね」

 どうやらサッカーボールがトモリさんの蹴りに堪えられず、破裂したらしい。

 さっきまで超次元サッカーに耐えていたボールが……どんな力で蹴ったらそうなる。

「シュエリアが用意したボールなんでしょ? 作れないのわけ?」

「うーん……。新しいボールを作ってもいいけれど、何だかんだいっぱい遊んだし、お腹も空いたから今日はこのくらいにしたいですわ」

 どうやらシュエリアは割と満足したらしく、気分はご飯に向いてしまったようだ。

 終わり方としては何か、不完全燃焼な感じもするが……まあ、結局終わりも始りもシュエリアの気分次第ってわけだ。

「皆もそれでいいか?」

「お姉ちゃんはゆう君と過ごせればなんでもいいよ」

「私は正直、もうこれ以上動きたくないわ」

「アシェの場合ほとんど動いてないでしょう……」

「私も……休憩~しま~す~」

「それじゃあ私は兄さまのお手伝いしますっ」

 という感じで、皆、サッカーを終了する方向で話は纏まり。

 皆で元の世界に戻ってまた、ダラダラ過ごすのだった。



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次回更新は来週金曜日、18:00です。


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