アンデットとかの話ですわ
「不老不死ってアンデット寄りですの?」
「あー……どうだろうな」
いつも通りの日常と暇、そして駄弁り。
今日も今日とて下らない会話が始まろうとしている。
「アンデットなら火に弱いかもですっ」
「ユウキ、焼かれてみなさいよ」
「アーちゃん怖いこというなぁ。ちなみにお姉ちゃん的にはヘッドショットが良いと思うよ!」
「水~も~苦手~かもです~?」
シュエリアの発言に釣られて集まっていたメンバーが次々に意見を口にしているんだが、これ、俺に試す流れではないよな? 無いと思いたい。
「頭部破壊と水攻め、どっちから行く?」
「俺アシェになんかした……?」
何故かアイネ達が上げたアンデットの弱点を俺で試そうとするアシェに、普通に恐怖しかない。
「っていうかユウキって再生力はどうなんですの?」
「知らねぇよ、不死だけど、そういうのは無いんじゃないか?」
「あの秘薬にそういう効果は無いわよ。死なないだけで、生きてもないような状態になるわね」
「それを知ってて焼こうとしたりしてたのか、お前」
「大丈夫よ、飽きたら治すから」
なんかアシェが満面の笑みで恐ろしいことを言っていやがるんだが……。
「なあシュエリア――」
「飽きたら治しますわ」
「…………」
いや……ホント似てるなぁ……このクソエルフ二人。
「てかやるならシュエリアでもよくないか? 不死だぞコイツも」
「最低ね、こんな屑男、初めて見たわ」
「ホンットに最低の屑ですわね、どういう神経してたらそういう事言えるんですの?」
「ブーメランだよなあ?! それ! 俺のセリフだからな!!」
なんだ、この二人は俺に言ったこと覚えてないのか? 阿保だからか?
「っていうかなんで急にこんなこと言い出したの?」
「ん、最近ゾンビゲーやってて、ふいにゾンビって何なのかと思ったんですわ?」
「何なのかって……なんだよ」
俺の質問に、シュエリアは待ってましたと言わんばかりに応じる。
「そもそもゾンビって死んでますわよね?」
「まあ、そうだな。動く死体だな」
「生きてないですわよね?」
「まあ、そうなんじゃないか?」
「なんで頭潰されたら『死ぬ』んですの?」
「いや……まあ、定義的に『死ぬ』って言うだけで、動かなくなるっていうか」
「なんで頭無いと動かないんですの?」
「え……脳がないから……?」
「もとより知性のかけらもないのに、脳依存ですの?」
「いやあ、知らんけども」
「もう生きてますわよね? アレ」
「まあ……そうとも言える……のか?」
正直アレで生きているとは言わない気がするが……。
「で、それがどうかしたのか?」
「死んでいるけど動いてて、明確にゾンビとして死ぬこともある。不死のようでそうでもない、微妙な生き物ですわよね」
「ま、まあな」
「ついでに焼けても死にますわよね?」
「そういう描写がされる作品もあるな」
「マジで何なんですの、ゾンビ」
「う、うーん」
そう問われると、確かになんだろう、ゾンビって。
「しかも作品によっては音に敏感だったり、かと思えば視覚は無かったり、本当に謎ですわよね……」
「まあ……そうだな」
確かに、めっちゃ視界良好なゾンビは、あんまり聞いたことないかも知れない。
「とまあ、ここまで色々言ったけれど」
「ん?」
「ぶっちゃけゾンビはどうでもよくて」
「どうでもよかったのか」
「どちらかと言うとそっち系全般について話したいと言うか……ほら、アンデット系って変なの多いですわよね? まさにファンタジーですわ」
「確かにそうかもしれないな……謎多き、という点において特に」
「ですわよね、ってことでトモリに聞きたいのだけれど。そういうアンデット……謎生物について何か知らないかしら?」
そう言ってシュエリアはトモリさんに話を振るが、大丈夫だろうか……。
ぶっちゃけアンデットとか以上に謎というか、天然なトモリさんにこの話をして会話は成立するのだろうか。
「魂は~あります~」
「……え? なんですの?」
「スピリチュ~アル~?」
「……は?」
ほらもう、既に話が通じてない。
「スライム~の~話~なのですが~」
「既にアンデットじゃないですわね」
「アンデット~スライム~は~知らない~です~」
「……もうそれでいいですわ。それで、スライムがなんですの?」
「スライムは~非生物~です~」
「まあ、わたくしの世界では魔法生物とか呼ばれてたけれど、命……はないですわよね?」
「多分~そう~ですね~。ですが~魂~は~あります~」
「ああ、ここでその発言に繋がるんですのね」
どうやら最初の魂云々の発言はただのド天然だったわけでは無かったようだ。
しかし魂か……。
「どうして魂があると思うんですか?」
「実験~しまし~たから~」
「実験ですの? どんな」
「魂を抜いて~完全な~非生物の~スライムに~入れなおすん~です~」
「そうするとどうなるんですの?」
「しばらく~すると~核が~できて~動きます~」
「へぇ……核って言うのは? なんですの?」
「それは~ですね~」
その後もトモリさんのスライムと魂の関係性の談義は続いたが、要はスライムの場合はスライム状の物体があれば、そこに魂さえ入れれば人で言う心臓になる核が自然発生してスライムという魔物になるという話だった。
「魂を抜いたら核はどうなるんですの?」
「消滅~します~」
「記憶とかはどうだったんですの?」
「スライム~の場合~は~引き継いで~ました~」
「それ、実験に使われたスライムに嫌われないわけ?」
「体が~新品で~喜んでまし~た~」
「そういうもんなのかしらね……」
アシェが凄く難しい顔をしているが、まあ難解なのは間違いないし、無理もないか。
というかその感性は魔族だからなのだろうか。人に例えたら人体実験だし……いい思いしないと思うんだが。
「あのっ、アンデットの話はどこいったんですかっ」
「あっ、それですわ」
「アンデット~ですか~」
アイネの発言で話が戻ると、トモリさんは首を捻って考え込む。
「スピリチュアル~やね~?」
「何かしら、そのセリフどっかで聞いた記憶あるけれど、それ以前に聞きたいのは感想じゃなくて実態ですわ」
「あら~……そう~ですね~」
シュエリアに指摘された通り、アンデットの実態について何を話すか考えているのか「うーん」と唸るトモリさんだが、相変わらず表情はぽけーっとしているので何考えているのかはさっぱりわからない。
「デュラハンは~」
「デュラハンですの?」
「はい~。首が~無いです~」
「……そうですわね」
「ツッコめよ」
トモリさんの天然に、一々ツッコんでてもキリがないが、それでもボケを放置するのは……いや、本人はマジだろうけど。それでもだ、放置すると最悪話が明後日どころか来月くらいの方向まで逸れかねない。
「トモリさん、それは割と一般常識です」
「あら~」
「他にないですか? もっと詳細な情報とか」
「ロバートは~愛妻家~でした~」
「詳細過ぎて付いていけねぇ……!」
誰だよロバート、まあ多分デュラハンのロバートさんなんだろうけど。詳細って、そういうことじゃなかったんだけど……なんて言ったら伝わるんだ、これ?
「トモリさんっ個人の詳細ではなくて種族の特徴だと思いますっ」
「あら~脱帽~です~」
「そんな台詞出て来るレベルですの?」
「それ~でしたら~」
ということでトモリさんがデュラハンの一般知識を披露してくれたのだが……。
「水が苦手、視界が悪い、死霊系、剣の腕はピンキリ、筋力じゃなくて魔力依存の攻撃力……ゲームみたいな情報だ」
「ファンタジーな話聞くとゲームっぽいですわよねぇ」
「まあ、剣の腕の話だけはなんか妙にリアルだけど。霊だから筋力依存じゃないのも納得ね」
「そしてロバートさんは奥さんと喧嘩すると頭をベッドの下に置いて寝るんですねっ」
「その情報だけ個人情報だけどな」
っていうかなんでそんなにロバートに詳しいんだトモリさん、ロバート友達だったんだろうか。
「ロバートさんはお友達ですかっ?」
「いえ~。妻のローナが~お友達~です~」
「トモちゃんの友達っていうと、サキュバス?」
そう問う義姉さんだが……いくらトモリさんがサキュバスとはいえ、他にも友達くらい居てもおかしくなさそう…………いや?
そもそも「魔王」に友達っているもんなのか?
「いえ~デュラハ~ンです~」
「女騎士か」
「あ、今ユウキ絶対イヤラシイこと考えましたわ」
「考えてねぇよ! 女騎士ってだけでイヤラシイこと考えるとか思春期オタクか俺は!」
「年中発情期でしょ、ユウキの場合」
「発情期でもねぇよ?!」
「大丈夫ですよっ、私も発情期ですっ!」
「妹が援護射撃に見せかけて自爆特攻してきてる!」
「お姉ちゃんはどっちでもいいけどなぁ。なんなら思春期かつ発情期でもいいよ?」
「義姉さんの意見はどうでもいい」
「ひどっ!」
ぶっちゃけ義姉さんからどう思われてるかなんて大体わかるし、どうせ俺の事好きだから聞く必要もあんま感じない……ってなんか自分で考えて、自惚れてる感凄いなこれ。
まあ、それはどうでもいいとしても。女騎士……デュラハン……なぁ。
「それって、その、友達なんですよね?」
「友達~兼~部下でし~た~」
「兼用だった」
それ友達って言うんだろうか……いや……まあ、家庭内事情を知ってるくらいだし、仲は良かったのかもしれないけど。
「……そのデュラハンって魂入れ変えたらどうなるんですの? 体は鎧ですわよね?」
「どう~なんでしょ~う~?」
「っていうかトモリの友達の話聞いてそういう発想するとか、アンタって鬼畜よね」
「まあその友達使って薬物実験してたアシェに言われたくはないですわね」
「アシェ、お前……」
「ち、違うわよ! アレは安全よ! ただ錬金術で作った惚れ薬とか、豊胸剤を試してただけ!」
「自分で試しなさいよ」
「嫌よ、惚れ薬なんてうっかり好きでもない奴に惚れたくないし、胸だって体系崩れたら最悪だし」
「ほらコレですわ。アシェってこーゆー奴なんですわ」
「お前ら仲良くしろよ……」
もう思いっきり話逸れてるし……。
「今と~なっては~試せませ~んね~」
「出来たらやる気だったんですか?」
「興味~ありません~か~?」
「興味本位でやるのは駄目かと……」
「たし~かに~?」
なんか微妙に疑問形なんだけど……言わなかったらまったく悪気なくやりそうだな、この人。ちょいちょい倫理観が魔族的というか、魔王寄りな部分があるなぁ。
「なんていうか、こう聞くとアンデットってマジで不思議生物ですわね」
「非生物も~多い~ですが~」
「もういっそ、そういうもの。って割り切った方がいいと思うぞ」
「そういうもんですの?」
「そういうもんですよ」
基本的に世の中の物なんて余程の専門知識が無かったら大抵のものは「なんで?」という疑問の先の先にあるのは「そういうもの」という答えだと思う。
「1」が「1」であるように「あ」が「あ」であるように……俺も俺だし、ゾンビもゾンビ、シュエリアもシュエリア……そういうものだし、そういうものでしかない。
「なんかユウキがメタ構造的な事考えている気がしますわ」
「そんなことも無いが……まあ、なんていうか――」
こう考えると、あまり深く物事を考えすぎるのには意味は無いなと思う。
ある程度「そういうもの」と受け入れて、自分を納得させてやるのも楽な生き方かもしれない……そういう意味では、この阿保エルフとの出会いも、この日常も……。
「こういうもんだよな……人生」
「なんか達観したようなこと言って締めに掛かってますわ、コイツ」
「…………」
ホント……こういうもんだよなって思う……この阿保との生活は……。
こうして俺達の日常は、また無駄に、また一日、過ぎ去っていく。
ご読了ありがとうございました。
感想、評価、ブックマーク等頂けますと励みになります。
次回更新は金曜日18時です。