異世界にでも行けばいいのに。ですわ
「なんて言うかホント、リアルですわよね」
「んー。そうだな」
義姉さんに誘われてプレイ中のVRゲームでの戦闘後、なんとなくアイテム整理しながらだらだらしてると、シュエリアがなんてことない様子で話を振って来た。
そしてなんとなく「そうだな」と言ってしまったが、ぶっちゃけ何をもってしてリアルとするのかによってこの返事は大分変わる気がする。なにせ俺達の世界に魔物とか居ないし。そういう意味ではシュエリアからしたらリアルなのかもな……元の世界に魔物居たのかは知らんけど。
「こうリアルな世界で冒険するならいっそアレですわね、異世界行けばよかったんですわ」
「いや……それ俺普通に死ねるから」
「不死なのに」
「不死なのにな」
いやでも、実際社会的にというか、死ぬんじゃないかな。俺。
異世界でまともな労働力になれる自信皆無だ。
「ていうか、これはゲームだから面白いんであって、お前のスペックで異世界行ったら本当に無双するだけして終わっちゃうだろ」
「そうですわねぇ。こういう不自由な方が面白いのは事実ですわね。できないことができるようになる体験、これってゲームの醍醐味と言えますわ」
「お前ホントなんでもできるもんなぁ」
「褒めても炎くらいしか出ないですわよ」
「出さなくていいよ」
っていうかコイツの場合炎以外にも色々ヤバイもの出せるだろ。なんで炎。
「なんでって、放火魔が反応するでしょう」
「人の思考に返事するな。っていうか放火魔って誰だ」
「火でお困りですかっ!」
「……もしかして」
「放火魔ですわ」
「放火魔っ?!」
なるほど、そういえばいたな。炎とか使うの得意そうな勇者が。
今は短剣使いだが。
「放火魔って何の話ですかっ?」
「アイネが放火とか好きそうって話ですわ」
「にゃっ?!」
「してないからなそんな話」
なんで俺まで共犯にしようとしてんだコイツ。俺はそんな話初耳だぞ。
「冗談ですわ。太陽の勇者ってくらいだから、炎の話とかしたら釣れるかと思って」
「普通に話しかけてくれればいいのではっ」
「……盲点ですわ」
「えぇ……」
「シュエリアさんは阿保ですねっ」
「なぜか炎の話で釣られる阿保勇者に言われたくないですわ」
まあ実際、普通に話しかければいいだけなのにわざわざ下らないワードで釣るシュエリアは間違いなく阿保だが、それで釣られている方も大概なのは間違いない。
「アイネはこのゲームでも火の魔法使うのか?」
「短剣だけだと戦闘向きではないそうなので、魔法も覚えましたっ、なんかしょぼいですけどっ」
「太陽出す阿保の子からしたらそうかもしれないですわね……」
「いうて序盤だけどな」
まあどっちにしても、最終的にそこまで阿保な魔法は使えないだろうけど。いや、ゲームバランス知らんから、絶対とは言い切れないが……。
「それで、なんで私は釣られたんですかっ?」
「なんとなくですわ」
「相変わらずノリだけで生きてんなぁ」
「脈絡も無ければ筋道も立てない、ホント無駄な会話でしたわね?」
「いつものことですねっ」
そう、いつものことなんだよな。ホント、これが何の伏線でもないんだから、マジでただの無駄話でしかない。
「さて、そろそろ行くか」
「はいっ」
「ですわね」
とまあ、無駄話の間にもアイテム管理もできたし、他のメンツにも声を掛けて再度冒険を開始する俺達。
ちなみにメインストーリーの方はいざ行ってみたら難易度調整しくじってるレベルで辛かったので、今は隣町を目指しながらレベリング&スキル上げ中だ。
「にしてもホントにリアルですわね」
「またそれか」
「いえ、だって、普通に疲れるもの、これ」
「お前にとって疲労感はリアルではない気がするが」
「……まあ、わたくし実際、肉体的疲労はしたことないですわね」
「シュエちゃんステータス高すぎて日常生活で疲労とかしなさそうだよね」
「実際私と殺り合った時なんて3日戦い続けたのにケロっとしてやがったもの」
「あぁ……アシェはめちゃくちゃ疲れてましたわね? 最後なーんにもしてないのに虫の息だったし」
「ぐっ……よく言うわね、最初はギリギリ避けられる程度に攻撃して……こっちが避ける気力も無くなったら爆風で転がしてなぶって来たくせに」
「おま……シュエリア……お前……」
流石にそれはドン引きなんだが……殺り合うことになった経緯を知らないにしても、やり過ぎでは……。
「そ、そんな趣味悪いことしないですわ? したとしても、そう。若気の至り……今はしないですわよ?」
そうは言っているが、本当だろうか……。ちょっと心配である。
っていうか、また話逸れてるし、いつものことだが。
「で、何の話だっけ?」
「え? あぁ、そうそう、このゲーム疲れますわね? って話ですわ」
「あぁ、そうだな」
というのも、このゲームが難しいから……というだけではない、勿論それで精神的に疲れる、集中力を使うのはあるんだが、それ以上に疲れる理由がある。
「この疲労っていうステータスがな……」
「疲れない体じゃゲーム感丸出しでしょ? リアリティ重視だからね!」
「まあ、わからなくはないが」
このゲーム、戦闘や採取、歩いたり走ったりすると疲労値が溜まる。するとリアルな倦怠感であったり、ステータスにマイナスの補正が掛かったりする。
もちろん流石にリアルの体で剣なんて使ってたらこんな疲労じゃ済まないだろうから、そこら辺はゲームって感じだが、きっちり休憩入れないとずっと行軍して、戦闘して……ってのはしんどい設計になっている。
まあ、だからアイテム整理がてら休んでいたわけだ。
「それにこの操作性っていうステータスもなぁ」
このステータスはキャラを作ったプレイヤーの実際の体のコントロールに影響してステータスが反映される。
例えば俺の場合両手両足の両利きだから特段不自由は無いが、アシェは左利きだったし、アイネは右利きだった。
で、それによって体の操作性が違ってくるようで、両手に武器を持って……二刀流とかするんだと、両利きの方が有利に働くようにできている。
これもゲーム内で使いこんでいけば上がるステータスで、他のステータスの振り分けに影響せず、どのプレイヤーでも使いこみさえすればカンストするようにできているそうだ。
しかもビックリなのがこれ……ゲーム内で利き腕じゃない方を使い込んで操作性が上がると、リアルでもそれなりに使えるようになるらしい。
まあ、義姉さんが言ってるだけだから、本当かは知らんが……。
「ゆう君は両利きだから困らないでしょ?」
「まあな……でもこれ両利きじゃない人はどうすんだ? まあ、流石に戦いにならないって程の不利は付かないだろうけど」
「そこはほら、この世界で頑張るか……現実で頑張るかしてもらうしかないよね」
まあ、そりゃあそうかもしれんが……こんな感じのあんまり見慣れないステータスがこのゲームには結構多い。
特にサバイバルゲームでは見ることのある空腹や水分値、睡眠欲や病気とか……そういうステータスまであって、本当になんていうかこう、この世界で「生きている」感じなんだよなぁ……。
ところどころゲームっぽいところもあるんだが、それこそ「不自由」も楽しめないとこのゲームは続かない気がする。
「ホントにライトユーザーは切り捨ててる感じが凄いな」
「まあ金持ちの道楽で作ったゲームだからね」
「自分で言うか」
「実際ゆう君がこういうゲーム好きそうだなぁって思って、ゆう君の為に作ったゲームだから。ゆう君さえ遊んでれば最悪収入無くてもお姉ちゃんの自腹で続けるし、このオンゲ」
「本当に金持ちの道楽だな」
まあでも実際……このゲーム、俺個人としてはかなり好きな部類だ。
国内でも数少ないスキル性のステータスに個別のレベルと補正されるステータス、スキルの組み合わせによって生じる職業と職業スキル、特殊補正……等。
兎に角育成だけでもやり込む要素が多そうだし、戦闘の難易度もただキャラを強くすれば勝てるようなものではなく、プレイヤーの操作技術や知識、戦術も要求される難易度調整はかなり好みだし……。
何より戦闘以外で楽しめるコンテンツも多そうだ。特に生産系のコンテンツをオンゲでやるのはホント楽しいんだよなぁ……。
「でもこれ、ユウキ好みに調整しすぎな感はありますわね」
「そうね、本実装するなら流石にもうちょっと遊びやすい方がいいわね、普通なら」
「そも~そも~ゆっ君~向け~ですからね~」
「そうですねっ特にアレが酷かったですっ」
「あぁ……アレは確かにね」
「ですわね」
「アレってなんだ?」
ここまで俺はそんなに酷いと思う事あんまりなかったんだが……。
どうやら俺と義姉さん以外は心当たりがあるようだ。
『猫が多い』
「へ?」
俺と義姉さん以外が口を揃えて言った言葉……その意味がイマイチ理解できない。
「なんで路地裏入ると必ず猫が一匹は居るんですの?」
「あぁ、それは。ゆう君が喜ぶかなぁって」
「わた~しは~集られ~ました~」
「一定確率で発生するイベントだね。ゆう君が喜ぶかと思って」
「私は猫に追い掛け回されたんだけど?」
「ゆう君が喜ぶかと思って」
「私に至っては喋る猫に思いっきり絡まれて喧嘩吹っ掛けられたんですがっ?!」
「ゆう君がよろこ――」
「それはねぇよ!」
流石に最後のは俺でも喜ばないわ。
俺の事なんだと思ってんだ。
「でも実際、猫が喋って、意思疎通できたらゆう君テンション上がるでしょ?」
「え……? いや、まあ……無い、とは言い切れない……かも?」
「ユウキってホントくっそちょろいですわよね」
そういって我が家のちょろいんエルフが俺に軽蔑のまなざしを向けて来る。
「ちょろくはないだろ。喋る猫とかハードルかなり高いぞ」
「でも喋らなくても猫なら釣れるでしょう?」
「……そんなことは……」
「無いと?」
「言い切れない」
「ですわよね」
むぅ……確かにちょろいのかもしれない?
「しかし、そうか、気づかなかったけど、街中そんなことになってたのか」
「アレは改善すべきですわね」
「確かにそれはなぁ……一応ダークファンタジーの世界観なわけだし、その、ファンシーな感じはなぁ」
「そっかぁ。じゃあ次の調整で変えとくね? 9割くらい減らすよ」
「今どのくらいか知らないけど、極端だな」
「大丈夫、それでも一日探し回れば2、3匹見つかるくらいにはなるはずだから」
「今どんだけ溢れてんだよ……」
それは流石に……多すぎだな。聞いといてよかったわ。
いや、でもいっそ、その量の猫に集られたり追い回されると考えると一種のホラーというか、闇は感じなくも無いが……ダークファンタジーとしては……駄目だな。
「そして、わたくし思ったのだけれど」
「ん?」
「RPGてむちゃくちゃ長く楽しめるコンテンツですわよね」
「まあ、割とそうだな」
「しかも物語とかを楽しむ要素があるから短時間でサクッと遊ぶようなものでもないですわ」
「それは……人によると思うが」
まあでも、実際のところ、俺もシュエリアもRPGはガッツリやって、最低でも一区切りまでやるプレイスタイルだ。少なくとも一節とかじゃなく1章やり切ってからやめるくらいには。
「これ、このゲームだけで何話使う気なんですの?」
「……え? いや……さあ?」
なんか突然メタい質問をされたが……そんなこと俺にわかるわけもない。
「ぶっちゃけ読者もこんな、なんの盛り上がりも無いゲームプレイなんて見ててもつまらないと思いますわよ?」
「えーっと」
「他人のやってるRPG見てるだけって、超再生数のプレイ動画ばりの努力や面白要素が無いとホント、くっそつまんねぇですわよ?」
「……つまり?」
「これ、わたくし達の日常の中でも『語られない』部分の日常だと思いますわ」
「お、おう」
なるほど……でも……それが一体何だと言うのか。
仮にこの状況を見ている者と、提供している者がいるとして、だとしても俺達は俺達の日常を送るしかないわけで……。
ぶっちゃけコイツがこの発言をした意図がつかめない。
「というわけで、ですわ」
「ん?」
「なんか面白いことして、はよ」
「なんつう無茶振り」
なるほど、つまり絵的につまらないなら、面白いことを企画しろと、コイツは言いたいのだろうが。
いやいや、俺に何求めて…………いや。そうか、そもそもコイツ俺に面白いこと以外を求めていることってあんまりないな。
しかしどうしたものか……このゲームダークファンタジーなんだろ……? そんな面白そうなネタ……そうそう転がってないのでは……。
「お困りのようだねゆう君」
「お、製作者。何か面白い物に心当たりでも?」
「うん、せっかくのVRだし、ご飯とかどうかな?」
「ご飯……ですの?」
「そうそう。現実ではありえないような見た目のご飯とか、味覚的に完成された料理がたくさんあるよ!」
「それは……凄いですわね」
まあ、確かに。面白い……かは別として、シュエリア好みの話ではあるか。
「その飯ってのは、今目指してる町でもうまいもんなんだろうか」
「丁度シュエちゃんにお勧めしたい料理がある町だから、大丈夫だよ」
「それじゃ、とっとと町まで行くかぁ」
ということで……戦闘はできるだけ避け、とっとと町を目指して30分後。
ゲーム内のレストラン、「タマネギ」店内。
「店のネーミングセンス死んでるのは義姉さんの所為か?」
「え、なんでお姉ちゃんだと思ったの?」
「センス無いから」
「…………」
「あれ、違った?」
「あってるけど……」
なんだ、やっぱり義姉さんなんじゃないか……。
「で、VR初の食事だが……義姉さんのおすすめは?」
「どれもおいしいよ? でもまあ、シュエちゃんにはこの5種の肉の煮物が……オススメかな」
「凄いですわね、とてつもない肉押しですわ」
そう言ってシュエリアがなんか楽しそうという理由で義姉さんおすすめの料理に決めたようなのだが……5種って何が入ってるのか聞かなくていいのだろうか……。
「なあ、それ、何が入ってんの? 5種って結構多いけど」
「駄目ですわよユウキ、そういうのは先に知ってたら面白くないですわ」
「お前は馬鹿なのか」
それでヤバイ物とか入ってたらどうする気なのだろう……いや、まあ、VRだから体に影響はないだろうとは思うけど。
「まあ……お前がそれでいいならいいけどさ。俺にはオススメある? 義姉さん」
「このチョコレートパフェが凄くおいしいよ?」
「世界観ッ!!」
なんでこの世界観でパフェとか出てきちゃうかなぁ……!
「でも……おいしいよ?」
「…………はぁ。まあいいか」
ていうか飯食いに来たのに……パフェ勧められるってのもなぁ。
そんなことを考えつつも、他の皆も注文は決まったようなので店員を呼び。
さっさと注文して待つこと5分。全員分の料理が目の前に並べられた。
「はっや」
「ゲームですわねぇ……こういうとこ」
「いやいや、魔法だよ? ゲーム的要素じゃないとは言い切れないけど、そう、魔法」
「便利ですわね、魔法って」
「お前が言うとなぁ、なんかなぁ」
一番なんでもできる便利な魔法持ってる奴が言うと、嫌味にすら聞こえない。っていうかむしろ「お前がそれ言う?」って感じだ。
「さて、それじゃあ早速頂きますわね……5種の肉……何が入っているのかしら、ちょっとわくわくしますわね?」
「……そうだな」
正直俺としては、義姉さんがシュエリアに勧める辺り、ヤバイ物が入っている気しかしないんだが……。
本人楽しそうだから……まあ、スルーで。
「……ん。これは、牛肉っぽいですわね」
「正解~。一つは牛頭デーモンの肉だよ!」
「ダクソじゃん……」
いや、ダークファンタジーって話の時点でどっかで出てきそうだなとは思ってたよ。思ってたけど。まさか食事に出て来るとは……。
「後は……豚……? と……鳥……?」
「正解正解~! 豚っぽいのはオークで、鳥はコカトリス!」
「なんだろう、さっきから食材として不安な物しか並んでない気がするんだが」
「ん……でも旨いですわよ?」
「さいですか」
「さいですわ」
そう言いながらもパクパクと食べ勧めるシュエリアだが……うーん、まあ美味ければ……いいのか?
「後は……何かしら、ちょいちょい食べなれない物が入っている気がしますわね?」
「ふっふっふ~シュエちゃんにわかるかな~?」
「むぅ……一つは筋っぽくて……もう一つはなんというか、見た目が大きくカットされている割に柔らかくて……トロっとしていて……?」
「うんうん」
「…………なんですの、これ? ユウキ、ちょっと食べてみなさい?」
「え、うーん、じゃあ――」
「駄目だよそんなの食べちゃ!!」
「――義姉さん、そんなのって?」
「あ…………間接キスに…………なっちゃうから?」
「思いっきり誤魔化しましたわね、この女」
どうやら相当ヤバい物を食わせているようだ。
「吐きなさい」
「っていうかシュエリアが吐いた方がいいのでは。ヤバイ肉だぞ、多分」
「ぶっちゃけVRだから大丈夫ですわよ、多分」
「まあ、そうだろうが……」
しかし精神的に来る物だったら……吐いちゃった方がいいかもしれないよなぁと思うんだが……。その時はその時か?
「で、なんですの? これ」
「ひ、1つは……ドラゴン――」
「なんだ、ドラゴン肉ですの、これ。普通ですわね」
なんだ、異世界だとドラゴンの肉って普通なのか……。
いや、シュエリアの普通は信用できない気もするが。本人がショックを受けていないようでよかった。
「ドラゴン――ゾンビの肉」
「ぶふぅっ?!」
お、シュエリアが吹き出した。
「ドラゴンゾンビ?! なんでそんなもん食わせるんですの?!」
「いやぁ……肉は腐りかけがおいしいっていうでしょ?」
「腐りかけっていうかもう! ドロッドロに腐りきってますわよ!!」
「でもおいしいでしょ?」
「ゲームだからでしょう?! あーもう! 本当にゲーム最高ですわね!!」
なんかシュエリアが自棄になってる気がしないでもないのだが……いや、ホント、これがゲームでよかったのは間違いないな。
でなかったらそんな得体のしれない物食うべきじゃない……。と思うのだが、それこそゲームと割り切っているのか、シュエリアは気にせず食っているが。
「まあ実際にはドラゴンとか居ないから味的には熊肉の腐りかけの味を、よりおいしく感じるようにアレンジしてプログラムしたんだけど……美味しかったでしょ?」
「まあ……それは……そうですわね」
まあ確かに……なんと言っても本当にその肉を食っているわけでは無く、あくまでゲームの作り物の味を体験しているだけなのはそうなのだが……それにしても食欲が失せる話ではある。
「っていうか、後もう1個は何ですの?」
「あー……うん」
「うん?」
「うん」
「?」
「おい、シュエリア。この義姉は何かとんでもないことを隠しているぞ」
この反応、多分調子乗ってやり過ぎたと今になって後悔しているパターンだ。
言い出しにくくなるくらいならこんなイタズラしなきゃいいのに……。
「それはーほら、なんていうか、ね?」
「なんですの?」
「あー…………エルフ…………的な?」
『…………えっ』
義姉さんのとんでもない発言に、全員の手が止まる。
さっきまでシュエリアの様子を気にもせずに食事してたメンツまで動きが止まるくらい、この発言はヤバかった。
「え……なん……エルフ……ですの?」
「うん」
「あぁ……でも、そういう名前ですのよねぇ……ふふふっ」
「だ、だよな……何の肉をアレンジして作ったんだか……」
「あっ…………うん、そうそう、そんな感じ」
「そんな感じ?」
「うん、リセっちのお肉を改良しただけだから」
「ぶふっ?! ゲホッ! ゴホッゴホッ!!」
「おい義姉、ちょっとそこに正座しろ」
「え、でもそれVR……」
『正座』
「はい……」
シュエリア以外の全員に正座しろと言われて、素直に正座する義姉さん。
この阿保、とんでもないことしてんな。
「とりあえず、リセっちのお肉とは?」
「い、いやあ……その……前にアーちゃんが人体切断マジックの話……してたでしょ?」
「したわね」
「それで、その……リセっちのお肉を……分けてもらって……魔法で直したら……ワンチャン……食べられる……かなぁって……思って…………」
流石に義姉さんも、俺達が怒っているとみたのか、萎縮して声も小さい。
にしても、聞けば聞くほど頭のオカシイ話だ……。
「それ、リセリアはなんて?」
「シュエちゃんに……自分を食べられるのはちょっと……興奮……するそうな……」
「共犯なのね、あのバカ妹」
アシェが呆れて溜息を吐いているが、正直俺としてもこれは本当に……頭が痛い。
「で、でもほら、流石にそのままだと美味しくなかったから、ちゃんと美味しく食べられるように設定してるし、そういう意味では全くの別物とも言えると言うか……その……」
と、義姉さんはかなり言い訳がましいことを言いながらも、そろそろ咽るのも収まったシュエリアの様子を見ている。
そしてそれに釣られて皆もシュエリアに視線を戻したのだが……。
「ん? なんですの? 皆してこっち見て……っていうかシオンはなぜ正座させられてるんですの?」
なんか、本人……ケロっとしてる?
「シュエリア、お前、その、大丈夫なのか?」
「? 何がですの?」
「いや、だってそれ、ほら、エルフの――」
「あぁ、案外旨いですわよ? 食べたいんですの? しっかたないですわねぇ――」
「いや、いやいやいやいや?」
おやおや? なんだかシュエリアの様子がおかしくないか?
「シュエリア……お前……」
「え? なんですの?」
「シュエリアさんがショックで気がオカシク……っ」
「かわい……そう……です~」
「哀れね……」
「えっ、ちょっ?! なんでわたくしこんな扱いなんですの?!」
シュエリアの奴……そこまでショックだったんだな……共食いが。
「シュエちゃんごめんね……お姉ちゃんが……私がエルフ肉食べさせたばっかりに……現実を直視できなく……うっ……」
「いや、現実って。これゲームですわよ……?」
「いいんだ……無理するなシュエリア……」
「いえ、無理してないけれど……?」
「あんなに咽て……涙まで出てましたよっ」
「そりゃまあ、気管に入ったら咽るでしょう……」
『…………ん?』
シュエリアの発言に、全員が疑問を持つ。
「気管に? 入って、咽た? だけ?」
「ですわ」
「つまり、何? あんた、エルフ肉食わされてショックでとかじゃ、ないわけ?」
「言うてゲームですわよ? 流石に現実と区別してますわよ」
「でもでもっ、リセリアさんの味らしいですよっ?!」
「ですわね。エルフって意外と旨いんですのねぇ。食品価値まであるとかわたくしって万能過ぎますわね?」
「……あら~」
トモリさんがあまりの事に呆れているが……うん。俺もこれはなんというか、言葉が出ない。
コイツほんと……ズレてるな……色々。
「シュエちゃんて……怒ってない?」
「? まあ、ビックリはしたけれど、怒るようなことですの? これ」
「よっしゃ! お姉ちゃん悪くない!!」
「アンタは黙ってろ」
「……しゅん」
なんか義姉さんが復活したのがウザかったので、とりあえず黙らせる。
「なんですのユウキ、機嫌悪いんですの? あーんしてあげるから機嫌直すんですわ」
「サラっとエルフ肉食わせようとするのやめれ」
「そうですわよね、初めてはリセリアよりわたくしを食べたい、理解しましたわ」
「曲解され過ぎて話通じねぇなおい……」
というかそこだけ聞くと誤解を招きかねない発言だなぁとすら思うが……なんというか。
「凄くいつものシュエリアだな」
「……? ですわね?」
「はぁ」
なんか、コイツってホントに……。言葉にしきれない感情でいっぱいだ……。
「ま、いいや……とりあえず義姉さんは反省しろ」
「うぅ……シュエちゃんは気にしてないのに」
「俺は気にしてる。こういうことをイタズラでも、やってしまう神経が許せん」
「よくわからないけれど、ユウキ、ほら、あーんですわ」
「それ何肉」
「ドラゴンゾンビですわね」
「…………あーん」
「食うのね」
なんかアシェに突っ込まれたが……まあ、その、なんだ。ゲームだし。
「あ、食べさせるスキルが上がりましたわ?」
「…………さいですか」
なんなんだこのゲーム……。
とまあ、こんな感じで色々問題はありつつも、俺達はその日、このゲームで暇を潰し……。
後日ゲームの色々な問題点に関して俺達から受けた指摘を考慮し改善されたこのゲームは……後になぜか……本当に意味不明だが、神ゲーとしてヒットすることになった。
が、それはまあ、また別の話、ということで。
ご読了ありがとうございました!
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