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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
82/266

空を飛ぶ話ですわ

今回からレイアウト変更に伴い、改行を減らしました。

横書きである為読み難く感じるかもしれません。

改行をした方がすっきりしそうではあるのですが、しばらくこれでやってみようと思っています。

「これ何が楽しいんですの?」

「開口一番それか。失礼な奴め」

 いつも通りの日常、いつも通りのシュエリア、いつも通りの暇つぶし。

 今日はシュエリアの思い付きでとあるスポーツ? に興じていた。それがこれ。

 スカイダイビングである。

「だってこれ、魔法で飛んで、落ちても同じじゃない?」

「そもそも魔法と比べないでくれ。この世界ではそういうことできないから」

「どっちにしろ落ちて何が楽しいんですの?」

「え、いや……さあ?」

 そんなことを俺に聞かれても困る。だって俺高所恐怖症だし、こんなん微塵も楽しそうに感じない。

 そんな俺がシュエリアの相手に困っていると、後から降りて来たアイネ達もやって来た。

「シュエリアさんが真顔で落ちている姿は結構面白かったですよっ」

「そういうアイネは何故かドヤ顔してたわね」

「綺麗に着地できる自信があったのでっ!」

「猫~ですか~らね~」

「お姉ちゃん的にはトモちゃんが笑いながら頭から落ちていくのが凄く心配だったけどね……」

 そう言ってゲッソリした様子の義姉さんを見るに、主にトモリさんの面倒を見るのが大変だったと見える。

 まあトモリさんのことだから何の危機感も無くボーっと落ちようとしてたんだろうしなぁ……。

「これ何が楽しいんですの?」

「いや、だから、知らんて」

 そもそも飛んですらいない俺に聞かれてもな。

「流石にシュエちゃんには刺激が足りなかったかぁ」

「刺激、ですの?」

「うん。これやる人は大体、スリルとか刺激を求めてやるんだと思うなぁ」

「へぇ……あぁ、ならもっと高速で落ちて、ギリギリでパラシュート開く競技にした方がいいんじゃないですの?」

「シュエちゃんは命大事にしようね?」

「不死ですわよ?」

「いや……うん……そうだけど……」

 なんだろう、義姉さんが久しぶりにまともな事言ってるのに、俺の嫁がヤバイ奴過ぎて通用してない。

「シュエリア、不死だからって敢えて死ぬような……いや死なないが、危険を冒す必要はないだろ」 

「でもそのくらいしないとスリルが足りないですわよ。こんなのパラシュートが不良品でもなかったら普通に安全な位置で開いて、降りて、終わりでしょう? 何が面白いんですの?」

「いや、失礼が過ぎる」

 確かにこのスポーツの面白さは俺にもわからないが、しかしこう、言い方があんまりにもあんまりだと思う。

 こういう時、楽しさを語れる立場の人が居ればいいんだが……。

 とは言えこのスポーツ、他のメンツは楽しんでいるのだろうか? 他のメンツも微妙な反応してそうだよなぁ……。

 そう思い、チラッと様子を伺うと、思ったより乗り気っぽい奴が一人いた。

「ねえシオン」

「何? アーちゃん」

「今日はあと何回飛ぶのよ」

「えーっと、シュエちゃんがやる気ないからもう終わりじゃないかなぁ?」

「え、何よそれ……私まだやりたいんだけど」

 どうやらアシェは気に入っていたようだ。なんでかは知らんが、これは助かる。

 この阿保エルフにこのダイビングの楽しさを教えてやってもらおう。

「なあアシェ、ちょっといいか?」

「ん、何よ」

「シュエリアがスカイダイビングはつまらないって言うんだが、アシェの方から楽しさを教えてやってくれないか?」

「それ私に得あるの?」

「俺がシュエリアに『暇だ暇だ』と言われなくなる」

「それ私の得じゃないわよね?」

「俺の手が空いたらアシェの相手もできるな」

「……一緒に飛ぶんなら考えてあげなくも無いわよ?」

「あ、やっぱいいや」

「冗談、冗談よ。高いの無理なんでしょう? なら、そうね……今日は私一人を褒めるっていうのはどうかしら」

「なんだそれ」

「今日一日、スカイダイビングをしたり、何をしても、私だけを褒めるのよ」

「それに何の意味が?」

「私が優越感に浸れるわ」

「そ、そっすか……」

 なんつうか……まあ、そのくらいなら別に……いいか。

「あぁ、言っとくけど、他の娘に言っちゃ駄目よ? あんたの事だからシュエリアとかに素直に『アシェに言われたから』とか言いそうだけど、そんなことしたらせっかくの優越感台無しだもの」

「お、おぅ……」

 確かに、俺ならシュエリア辺りに問い詰められたら即吐きそうだしな……。

「さて、それじゃあシュエリアの説得にでも行こうかしら」

 そう言ってアシェはシュエリアの元へ歩く。

「ねえシュエリア、あんたスカイダイビングつまらないんだって?」

「ん? そうですわね、正直何が面白いかさっぱりですわね。それが何ですの?」

「そう、そんなシュエリアにこの面白さを教えてやろうと思ってね」

「あ、そういうのいいですわ」

「え、いや、聞きなさいよ」

「なんかウザいからいいですわ」

「えぇ、ちょま、聞いて? あんたがやってくれないとなんかもう帰る流れになってるのよ?」

 実際、この話の流れ次第ではいつでも帰れるように義姉さんが準備し始めちゃってるしな……。

「はぁ、なんですのアシェ、貴女これ飛びたいんですの?」

「え……うん」

「あー、そういえばアシェは飛行の魔法とか使えなかったですわね……エルフのくせに」

「うぐ……」

「だから楽しいんですわ。わたくしはもう、飛ぶのとかなんも感じないですわ」

「う……ん……」

「…………むう」

 なんか最初はシュエリアを説得してやろうと意気込んでいたアシェだが、なぜだか急にテンションが下がっている。

 そしてそれを見たシュエリアがなんかバツが悪そうにしている。これは勝機では。

「シュエリア、アシェがあんなに楽しそうなんだし、付き合ってやってもいいんじゃないか?」

「む……でも、つまらないですわよ?」

「そうは言うけど、お前だって自分が好きな物を『つまらない』って言われたら、嫌じゃないか?」

「むぅ……まあ……多少は」

「それに、楽しそうにしてる奴と一緒にやってると、自然と楽しくなるかもしれないぞ」

 実際俺も、この阿保エルフと一緒だと大概楽しそうにしてるから、俺まで楽しく過ごせるってことが多い。そしてそれはきっとコイツも同じだと思う。

「それは…………そう、ですわね」

 やはりシュエリアも同じように思っていてくれたのか、俺の言葉を肯定するとアシェに向き直った。

「……アシェ、行きますわよ」

「え? やるの?」

「わたくしに楽しさ、教えてくれるのでしょう?」

「え、えぇ! 任せなさい!」

 うーん、なんだかんだ仲いいよなぁあの二人。

 というか、シュエリアがやる気になったからとりあえずこれで「暇」と言われて他にやること探す必要はなくなったわけだが。この後俺はアシェだけ褒めるっていう謎プレイをしなきゃいけないんだよな……。

 うーん、何もないといいんだけどな。

 とまあ、そんなことを考えつつも、俺は他の五人が空へと上がるのを見送り、また降りて来るまでを一人で待つことに。

「…………暇だ」

 今更だが、これ失敗だったのではないか。

 そもそも高所恐怖症の俺がここに居ても仕方ないと言うか。シュエリアの奴が「つまらない」と言い出したのだって、最悪俺と一緒じゃないからの可能性も……いや、それは無いか。

 うーん、これ、俺視点で描く物語だとしたら完全に失敗だよな。せめてこの話だけシュエリア視点で描かれていて欲しいと願うばかりだ。

 そんなことを想っていると、もう既にシュエリア達が上空に見える位置にいた。

「……早くね?」

 いや、これいくら何でも早すぎ……というか…………速過ぎないか?

 主に、その、速度が。

「ひぃいいいいいやっほおおおおおおおおおお!! でぇええええええすわああああ!!」

「なんか俺の嫁さんが凄いテンションで降りて来た?!」

 もう既にここからでも聞こえるような大声で何かを叫んでいる。

 どう聞いても楽しそうで、絶叫って感じではないが……。楽しそうだからいいか。別に。

 と、うちの嫁の叫びを聞きながら十数秒、凄まじい速度で落下してきた嫁が俺のもとに歩いてきた……なんか変な板を持って。

「ふっふっふ、ただいま帰還ですわ!」

「お、おう、楽しそうで何より……ってかその板何?」

「これ? これは板ですわ」

「…………うん?」

 いや、まあ、板なのは見たらわかるんだが、聞き方が悪かったんだろうか。

「ただの板なのか? というか、なんで板を持ってるんだ?」

「うん? あぁ。これはアレですわ。所謂スノーボードですわよ」

「え、あー。確かにそれっぽいな、でもなんでスノボ?」

「空から落ちる時に使ったからですわ」

「……はい?」

「そう、これはアシェ考案、エウレ〇セブンごっこですわ」

「……あぁ、なるほど」

 どうやら俺の嫁は相変わらず馬鹿だったようだ。まさかこんな阿保みたいな遊びに興じるとは。っていうかスカイダイビングの面白さ、これでいいのか?

「着地はどうしたんだ? 普通に落ちたら板ごと大事故だが」

「板を壊さないよう降りましたわ」

「どうやって」

「空中で板を手に持って抱えただけですわ?」

「板から降りた話だった……」

 俺が聞きたかったのはそこじゃないんだが……シュエリア自身がどうやって着陸したかの話だったんだが……。

「シュエリア自身はどうやって無傷で着地を?」

「そんなもん魔法に決まってますわ。こんな板切れでどうにかなるとでも?」

「いや……うん……」

 結局魔法使っちゃうのかよ……それもう……いや、いいや、言わないでおこう。気づいてないならその方が楽しいだろうし。

「もしかしてわたくしが素の身体能力だけで着地できる化け物とでも?」

「え、いや……そこまでは」

「そんなのできるのアイネとトモリだけですわ」

「これは五人中二人もできることにツッコむべきなのか、それともアイネが化け物呼ばわりされてることを怒るべきなのか」

 というかトモリさんもできるのか。まああの人ならできるか……魔王だしな……。

「とりあえず天才のわたくしを称えたらいいですわ?」

「はいはい、すご――」

 って俺、今日はアシェ以外褒めちゃいけない約束だったな……。

 ヤベェ、どうしよう。

「――あ、他の四人も降りて来たぞ」

「? そうですわね」

 思ったより褒められたい願望が強くなかったのか、話を変えても追及されなかったのは助かったが……これアシェ以外褒めちゃいけないのキツくないか?

「兄さま兄さまっ! 私空中で2828回転して着地できましたっ! あっ、でもでもっ。姉さまに止められなかったらもっと回れましたよっ!」

「え?! す――」

 っとあぶねぇ! あんまりに凄いチャレンジしてるせいで素直に褒めそうになった……なんでこういう時に限って……。

「すっ?」

「す……寿司屋でもそこまで……回らないな……?」

「? ですねっ!」

 めちゃくちゃ無理がある話の流れだった気がするが、アイネの優しさか、俺に対する共感度の高さか……とにかくアイネは話に乗ってくれた。

「ゆっく~ん~」

「な、なんですかトモリさん」

 アイネの次はトモリさんか……この人は……何やったんだろう。

 どうせこのパターン、この人も阿保ほど凄まじいことにチャレンジしたに違いない。

「パラシュート~つけ~忘れて~大変~でし~た~」

「……それは大変ですね」

「はい~おかげで~ほとんど~景色~が~たのしめなか~ったです~」

「あぁ……ホントに大変だ……」

 この人天然なの忘れてたわ。もう今更「どうやって着地したのそれ?」とか思わない。

 だって後ろにすっごい疲れた表情の義姉さんが居るから。

「ゆう君……お姉ちゃん帰りたい……」

「珍しく元気がない……一体何が」

 ホント、何があったんだ……いや、なんとなく、というか、もうさっきまでの話で想像はできているが。

「シュエちゃんは板切れ一枚で飛んでいくし……アイちゃんはパラシュート付けずに物凄い縦回転しながら堕ちてくし……トモちゃんもパラシュート忘れて落ちながらお姉ちゃんに景色が~景色が~って言ってるし……」

「あぁ……うん……」

 知ってたけどこのメンツ、ヤバイ奴ばっかりだな……。

「アイちゃんの縦回転を止めて脇に抱えて……その後トモちゃんの事も回収して……人二人抱えて降りるのって難しいね……」

「……うん……ごめん」

 こんなアホ共の世話を押し付けてしまっていることにシンプルに罪悪感しかない。

 ってか縦回転止めて抱えて、そのままもう一人回収しに行くってすげぇな……凄すぎるくらいだけど、残念ながらこの功績も称えることはできない。そういう約束なので。

 っていうか、その約束したアシェは一体どこに……。

「アシェはどこに?」

「ん、あぁ……アーちゃんなら休憩してるよ、ほら、そこ」

 義姉さんが指をさした方を見ると、地面に座り込んでいるアシェが居た。

「どうしたんだ? アシェ」

「あ、ユウキ……これは、あれよ、腰が抜けたのよ」

「……なんで?」

「なんでって、そりゃあこんな高さから落ちたら、怖いじゃない」

「……まあそりゃあ……でも、ほら。楽しいんだろ?」

「気分的にはそのつもりだったんだけど、体は正直……ってやつね」

「つまり内心ビビりまくっていたと」

「言葉選びなさいよ……」

 しかしなるほど、これは……うーん。

 今日はアシェだけ褒める約束だったが……褒めるとこなくね?

 しかし、その割に、その……なんていうか。

「(キラキラ)」

「うーん……」

 すっごく何かを期待している目をしている。

 これは完全に褒められ待ちだ。それはわかるんだが。

 何を褒めればいいかはさっぱりわからん。

「あー。内心怖がっていても、それでも飛ぶ勇気には敬意を表するよ」

「……なんか思ってたのと違うわね」

 違ったらしい。なにこれ、何褒めろって。

「シュエリアを楽しませた手腕を称賛?」

「違う」

「あの阿保メンバーの中で一人だけまっとうな事を称える?」

「殴るわよ?」

「……今日もアシェは可愛いな」

「もう一声」

「合ってた」

 スカイダイビング関係ねぇじゃん。いいのかこれ。まあ本人がいいんなら……いいけど。

「今日は一段とお美しいですね?」

「なんで疑問形なのよ」

「どちらかというと愚問系?」

「まあ確かに今更過ぎるわね」

「シュエリアと同じくらい自信過剰なんだよなぁ……」

 だからなぁ、褒めにくいんだよなぁ。

 褒めても大して喜ばねぇんだもん、コイツ等。

「そう考えるとこの約束ってあんまり意味ないわね」

「そうだな……」

「……そして対して優越感もないわね」

「ホントに意味ねぇな」

「よく考えるとどう考えても他のメンツが凄すぎるのに私しか褒められない段階で自分自身、違和感しかないわ。むしろこんな約束で優越感を得ようとしているだけ惨めよね」

「駄目じゃん……」

 それじゃあ俺がさっきまであのメンツを褒めない努力をした意味とは。

「……ってことで、もういいわこれ、なんか思ったより面白くないし、気分よくもないから」

 俺にそれだけ言うと、とっとと立ち上がって義姉さんの元へ行き、また飛びたいとせっつくアシェ。

 ……好きだなぁ、飛ぶの。さっきまで腰ぬかしてたわりに。

「次はわたくしもアクロバティックに飛んでみようかしら? 側転しながらとか」

「さっきの板切れ一枚で十分アクロバティックだし……危険だからやめて?」

「私は次は装備無しで横回転しながら着地してみたいですっ」

「横回転?! やめて?!」

「景色~が~見たい~です~」

「いや……それは、うん、まっとう」

「ねえシオン、次は一緒に飛んでみたいわ」

「ん? いいよ、あーでも場合によっては他の娘を止めないとだから――」

 なんか義姉さん忙しそうだな……ああいうのみると、義姉さんはまだマトモな方なんだよな……。

 ……うん、後は義姉さんに任せて、俺はゴロゴロしてよう……。

 そんなこんなで、この日、シュエリア達のスカイダイビングはもうしばらく続いていった。


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