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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
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登るヤツですわ

「要するに、ここと……あそこをオレンジにすればいいのでしょう?」

「いや、ルール。色変えるなよ。登れ、普通に」


 いつも通りの休日、俺達は義姉さん運営のアミューズメント施設に来ていた。

 これだけでは多分説明不足が過ぎるので、簡単な例えとしてスポ〇チャを連想して欲しい。伏字でわからない人は伏字ごと検索したら多分出る。

 とにかくそういう施設に遊びに来ていた。

 で、今やっているのはなんとボルダリング。俺は身体能力がさしてないのでかなりキツイのでやらないが、俺以外はかなり楽しんでいる様子だ。

 まあ、楽しみ方が正しいかは、別として。


「同じ色、形、数字の印されたホールドを追ってゴールするゲームなのに、勝手にそれ書き換えるなよ……」

「じゃあルールに追加しないといけないですわね、書き換え禁止、魔法禁止って」

「追加しなくてもわかれ。デジタルゲームで言うチートだからな、それ」

「じゃあ身体能力強化は?」

「いいと思うのか?」

「まあなくても登れるからいいですわね、どっちでも」

「さいですか……」

「さいですわ……っと」


 とまあ、こんな下らない話をしながらも、シュエリアはすいすいと壁を登っていき、ついに大声じゃないと話すのがちょっと面倒な距離まで登っていく。


「サルかな……」

「あん?!」

「なんで聞こえんだよ……」


 かなり距離できたから、聞こえないかと思ってなんとなく口にしたのが聞こえてしまったらしい。


「ここから飛び蹴りかましてもいいかしら?」

「いいわけないだろ?!」

「あー、聞こえないですわね、返事がないってことはOKってことですわね、よーし」

「さっきのが聞こえてこれが聞こえないってどういうことだ!!」


 そう俺が叫ぶと、結局俺の言葉なんて無視して飛び蹴りをかましてくるシュエリア。

 正直距離があるし、避けようと思えば避けられるのだが、これ避けると後がめんどくさそうなので腹をくくって、甘んじてこれを受けた。


「へぶぅっ!!」

「決まりましたわ。サルのように登り、蜂のように刺すと言ったところかしら」

「……サル肯定してんなら蹴らないでくれる?」

「殴られる方がいいと」

「そういうことではない!」


 これ以上余計なことを言うとまた何かされそうだな……。


「はぁ。アイネ達は……なんかまた、あっちもあっちでボルダリングとしてどうなのかって感じだな」

「っていうかサラッと次に思考切り替えるあたりユウキって色んな意味で頑丈ですわよね」

「お前と居たらそりゃこうなる」

「わたくしのコーチングが最適だったわけですわね」

「ポジティブ過ぎる」


 俺としては嫌味のつもりだったが、この阿保には届かなかった。いや、届いているからこうなのかもしれないが。


「さて、とりあえずアイネ達の間違いでも指摘しに行ってみるか」

「楽しい話ができそうですわね」

「いや、ボルダリングしろよ……」


 まあ、話すなとは言わないけど、しかしボルダリングしながら談笑する奴もそんないないんじゃないかな。

 いや、ほとんどやったことないからわからんけれど。

 とまあ、それはともかく、アイネの様子でも見に行こうか。


「で、アイネ、何してんですの?」

「う? ボルダリングですっ」

「え……いえ、ならなんで毎回一気に上まで跳んで、上から下に攻略してるんですの?」

「上にGって書いてあって、下にSって書いてあるからですっ」

「なんでそれが分かっててそうなるんですの……」

「ゴーから始まってステイで止まるですよっ」

「スタートとゴールという発想はなかったか」

「新説ですかっ?」

「通説じゃないかしら……」


 うちの妹の奇怪な行動はどうやら読み間違えから始まったものだったようだ。

 というか……。


「最初にその辺のルール説明しなかったっけ?」

「シュエリアさんの無駄話に付き合っていたので聞いてないですっ」

「おいコラ、クソエルフ。話聞けよおい」

「な、なんのことかしら」


 シュエリアの奴もルールをちゃんと理解していると思えない発言をしていたのはこの辺が原因のようだな……。

 ったく、この様子だと他の二人も怪しいもんだ。

 そう思い、アシェの居る方に足を向けたのだが……。


「で、アシェは何してんだ?」

「壁を登るのに最適な形態を模索中よ」

「あ……そう……」

「いや、ツッコミなさいよ」


 いや、だって、すっげぇ真顔で真面目にこんなこと言われたらな……。

 本人恐らくボケてる気無いし、めちゃくちゃ真面目に自身の体を改造してらっしゃる。

 その証拠に両手足に黒くて鋭い鉤爪のようなものまでついている。


「それ、元に戻るのか?」

「そっちの心配ですの?」

「いや、美少女にあるまじき姿というか……」

「こういう娘が一人くらい居てもよくない?」

「それはまあ、人によるだろうが……俺は無しかな」

「今すぐ戻すわ」

「アシェってユウキにどう見られてるか気にし過ぎですわね」


 いや、本当に気にしすぎてるならこんなこと言わなくてもしないで欲しいんだが……。


「わたくしだったら面白さを優先しますわね」

「俺より?」

「ですわ」

「普通即答するか……? せめて悩めよ……」

「大丈夫よ、どうせ冗談だから」

「ですねっ」


 何故かアシェとアイネはそう言ってくれるが、コイツの普段の様子からして、本当に面白いのを優先しそうな気がするのは俺だけなんだろうか。


「冗談のつもりはないのだけれど……」

「ふうん。じゃあ、ユウキに嫌われても自由に楽しく遊ぶのと、ユウキの意見を聞き入れて一緒に楽しく遊ぶの、どっちがいいのよ」

「え……そ、それは……まあ、その。どうせならユウキと一緒の方が……いい、ですわ?」

「ほら、やっぱりユウキ優先じゃない」

「ま、まあ? ユウキと一緒にいると何かと楽しいし? ユウキを優先するのは後々わたくしの楽しみに繋がるからだけれど?」

「はいはい、デレ隠し乙」

「ちょっ! なんですのその態度――」


 うん、なんか阿保エルフ二人がうるさいけど、凄くどうでもよさげな話な気もするからとっととトモリさんの様子でも見に行こうかな。


「――って! ユウキも何勝手に一人でトモリの方に行ってんですの?!」

「今のシュエリアのデレをスルーして行く辺りシュエリアの旦那って感じするけど」

「お前ら相手にしてると無限に脱線するからな……で、トモリさんは……っと…………これはすげぇな」


 というか厳密には一人で、ではない、アイネもあの阿保二人は無視して俺に付いてきてるし。

 で、だ。トモリさんだが、正直遠目からもなんか凄いことしてんなぁとは思っていたんだが、近くで見るとより一層凄いのが分かる。

 何が凄いかっていうと……。


「胸がすっげぇ壁に擦れてんな……」

「いやそこ? どうみても手だけで登ってんのが凄いでしょ」

「いやでも、実際凄いですわよ。いっそ同じ数字以外のホールドに胸を掛けてるから反則でもいいんじゃないんですの? アレ」

「胸を掛けるってなんだ」

「胸って便利なんですねっ」

「そういう事ではないと思うわよ、アイネ」


 まあでも、便利かどうかで言ったら不便そうだなぁとは思う。何しろ実際今、目の前に不便を体験している魔王が居るわけだし。


「これさ、一応なんで手だけで登ってるのか、聞いた方がいいと思うか?」

「聞かなくてもなんとなくわかるけどね」

「ですわねぇ」

「う? なんでですっ?」


 どうやらアイネだけはわかっていない様だが……これは余りにも差があるからなのか、そもそも遊び方を理解していなかったからなのか……。


「どうせ胸で下が視えないからですわよ」

「う??」

「あー、アイネ? 下が視えないから、足を掛ける位置がわからないんだよ」

「! だから足が使えないんですねっ」

「そうね、あそこまで来ると難儀だわ」


 まあでも、トモリさんも身体能力はそれこそ魔王級なので、手だけでもスイスイ……もといズリズリ登ってるわけだが。


「あぁ、あれがパイ〇リってやつですの?」

「おま……お前、女子が平然とそういうこと言うなよ」

「じゃあユウキが代わりに言ってくださる?」

「なんで俺が……」

「さん、はい!」

「言わねぇよ?!」

「チッ……」

「なあアシェ、この阿保になんか言ってやってくれ」

「シュエリア、アレはズリじゃなくてプレスよ、乳プレス」

「駄目だ、人選間違えた」


 コイツにまともな発言求めたのが間違いだった。アシェってまともな時はまともだが、下の話とかは平然とする奴なの忘れてたわ……。

 などと、すさまじく下らない話をしている間にトモリさんは見事に登頂し……。


「なんで降りてこないんだ、トモリさん」


 なんか登頂しきってからしばらく、そのままの姿勢で固まっていた。

 あれは……なんの遊びだろうか。


「あれは、下が視えないからでしょ?」

「あ……そういう?」

「仕方ないですわね、ちょっと行ってきますわ」


 そう言った瞬間、シュエリアの体がふわっと浮き上がり、そのままトモリさんの横まで行く。

 そしてトモリさんの事を抱えると、そのまま一緒に降りて来た。


「今更だけど、飛べるのに登る必要なくね?」

「それを言ったらおしまいですわ……こういうのは無駄な苦労を楽しむものでしょう?」

「その言い方は語弊がある気がするんだが……」


 まあ、大変な物だからこそ、やりがいとか達成感があるのだろうとは思うけど。


「助か~り~ました~」

「下視えないのに登るのは危ないですわよ? どうやって降りる気だったんですの」

「考えて~なか~った~ですが~。まあ~落ちれ~ば~いいかと~?」

「思考がマジで危ないですわね……」

「天然が過ぎるとヤバイんだな」

「これ天然って言うの?」


 まあこの際トモリさんが天然を発揮したかは別にしても、危ないのには変わりないので注意はしておこう。


「トモリさん、ケガするかもしれないし、危険な手段を取るのは止めましょう」

「危なく~ないで~すよ~?」

「そう言われると、トモリさんならこの程度の高さならケガしない気がしますね」

「! わたしもこのくらいの高さならよゆーですっ」

「アイネは猫だからでしょう?」

「兄さまの猫ですからねっ」

「ユウキのって関係あるの?」

「無いですわよ」


 まあ実際のとこ、アイネもアイネでかなり強くなっているようなので、猫じゃなくてもこの高さくらいなら平然としてそうなんだけど。

 それは置いておいて、俺の猫かどうかは関係ないな、うん。


「ところで、ここまで来て思ったのだけれど」

「ん?」

「わたくし達にボルダリング、向いてないですわね?」

「……いや…………うん」


 トモリさん以外は向いてるとか以前にルールから間違っていたんだが……一々訂正するのも面倒なので、ここはスルーしておこう。


「ってことで、他のも遊んでみたいですわ?」

「はいよ。まだ時間はあるし、色々回れそうだな」

「次はもっと楽なのがいいわ」

「わた~しにも~できそう~なのを~」

「私は兄さまとならなんでもこいですっ」


 とまあ、こんな感じで、俺達はボルダリングを後にし、次の娯楽を探して施設内をめぐるのだった。


ご読了ありがとうございました!

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次回更新は金曜日です。

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