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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
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働く意味ですわ

「仕事辞めようと思うんですの」

「……オムライス一つ」


 いつもと変わらない日常、今日は久しぶりにシュエリアの仕事姿が見たくてこうして「しす☆こーん」に来たのだが……。


「やめようか、もうやめようか、この仕事」

「なんで五七五」

「凄く辞めたいからですわ」

「なんでまた……」


 というか、一応今は仕事中で、俺の接客中なわけで。

 客に仕事辞めたいとか堂々と言うのはどうなのだろう。


「わたくしユウキと結婚したじゃない?」

「そうだな」

「つまり嫁ですわ」

「うん」

「養われてもいいですわよね?」

「……まあ」

「だから働きたくねぇですわ」

「えぇ…………」


 コイツ、俺よりいい収入してるんだから、勿体ないと思うんだが……。

 まあでも、本人が辞めたいって言うんだから、勿体ないは理由としては弱いか……?


「何か乗り気でなさそうだけれど、わたくしが仕事を辞めたらユウキにもいいことがありますわよ?」

「ほう、例えば?」

「今よりもっと一緒に居られるようになりますわ」

「……まあ、俺基本的に仕事入らないと自宅に居るしな」

「ですわ? それに仕事疲れがない分一杯ユウキの相手ができますわ」

「それは俺がお前を構わなければならなくなるという話では」

「後わたくしにご飯を作る頻度が上がりますわ」

「負担では?」

「おいしいご飯を可愛い嫁と食べる。嫁が喜ぶ。どう考えてもプラスですわね?」

「なんだろう、確かに俺の価値観からするとそれはプラスなんだが、それをお前に言われるとなんか違う気がするのは」


 なんというか、これは俺の価値観であって、俺がこれで勝手に喜ぶ分には俺の自由だが、それをわかったうえでシュエリアに上手く利用されている感じがこう……腑に落ちないというか。


「仕事中ずっと傍にいてあげてもいいですわよ?」

「お前が居たら仕事にならん」

「あら、わたくしのことばっかり考えてしまって手が付かないと」

「ある意味間違ってねぇけど」


 コイツが変な事しでかさないか、気が気でないのは確かだ。

 と、いうか。


「お前、早く注文通せよ」

「え?」

「え? じゃねぇよ。接客! 仕事中だろ?」

「あぁ。そういえばそうでしたわね? 注文はよ」

「おまっ…………オムライスって言ったよな?」

「申し訳ないけれど『オムライスって言ったよな』という商品は取り扱ってないですわ」

「そんなベッタベタなボケする必要ねぇから! オムライス一つ!」

「え? なんで?」

「え?! なんで?!」


 なんでと言われても……なんで…………なんでだ?


「食いたい……から?」

「何言ってるんですの?」

「え?? いや、オムライス頼んだら、なんで? って聞かれたから、食いたいって……答えたんだけど」

「わたくしが聞いたのは『なんで一つなのか』ですわ」

「いや、なんでって……一つあれば十分だからだろ」

「二人で食べるのに?」

「お前も食う前提かよ!!」


 なんとなくそんな気してたけど! なんでコイツ仕事中に俺に奢らせんのかなぁ!!


「まあいいや……じゃあ二つで」

「ではオムライス二つとチョコケーキ一つですわね」

「当然のようにデザート追加するなお前。しかも一人分」

「え? ユウキもケーキ食べるんですの?」

「いや、要らないけどさ」

「じゃあオムライス二つ、チョコケーキ一つ、コーラ一つですわね」

「確認するたびにお前の注文増えてるの何なの? あとコーラは俺も欲しい」

「はいはい。で? 注文はもういいかしら?」


 そう言ってめんどくさそうな顔を向けるシュエリアに若干イラっとしないでもないが……これで一々突っかかっていてはこの阿保エルフの相手は務まらない。

 とはいえ、仕事は仕事でちゃんとやれよとは思うが。


「しかしなんだろう、この扱いに納得いかないのは俺が変なのか?」

「よくわからないけど、大丈夫ですわ。ユウキは基本変だから」

「フォローの言葉とかお前に期待してなかったけど、追い打つのはやめてくれない?」


 しかしまあ、そんな俺の言葉もろくに聞かず、シュエリアはさっさと厨房の方に消えていく。

 うん、まあ、話が逸れてまた注文の件とか繰り返されてもアレだから、さっさと仕事してくれるのはいいんだけどさ。


「いいんだけど、なんでチョコケーキ二つに増えてんの」

「シオンも食べるっていうから」

「お姉ちゃんもたまには女子っぽいところみせないとね!」

「義姉さんの女子っぽさはケーキを奢らせることなのか」


 というか、そもそもなんで義姉さんが居るのかっていう話なんだけど……まあ、どうせたまたま店舗に居たとか、最悪俺をストーカーしてたまでありそうだから、下手にツッコまないでおこう。


「大丈夫! 今回の会計はお姉ちゃんが持つから!」

「そういうところがなぁ……違うんだよなぁ」

「え? 何が??」

「素直に奢られといた方が可愛げがあるって意味ですわ」

「え…………」


 シュエリアの言葉にぽかんとした様子の義姉さんだが、何か今シュエリアは変な事いっただろうか……?


「シュエちゃんがゆう君の事を思ったより理解してる?!」

「なん……だと……!」

「コイツ等腹立ちますわね」


 確かに、シュエリアのくせに妙に知ったようなことを言いやがったな。なんだ「素直に奢られといたほうが可愛げがある」って。


「アイちゃんみたいなこと言うようになったね……狙ってやってるんだ……」

「ちがっ! 人聞き悪いですわね! アイネみたいって!!」

「そこが人聞き悪いのか……? というか集りのくせによく言えるよな。奢られといた方が可愛いなんて」

「え、でも実際可愛いでしょう? ユウキってなにかと面倒見るの好きだし」

「まあ、うん。そうなんだけど」


 これは俺を理解してくれていると喜ぶべきなのか、それとも理解されて上手く利用されているのを悲しむべきなのか。


「というか義姉さんには言ったのか?」

「言ってないですわ」

「ん? 何を??」

「コイツ、仕事辞めたいって」

「え?! そうなの?」

「え、えぇ。まあ」

「そうなんだ……そろそろシュエちゃんにチーフやってもらおうかと思ってたんだけどな」

「えぇっ?!」

「何かしら、わたくしも驚いたけれど、ユウキに驚かれると凄く腹立つのだけれど」


 そう言って眉間にしわを寄せてガンつけて来るシュエリアだが、いや、普通驚くだろ、これは。


「義姉さん正気か? シュエリアだぞ? 客に集るような奴だぞ?」

「いやあ、お姉ちゃんこれでも実力主義というか、結果を出している以上はちゃんと認めるというか」

「結果?」

「こう見えてシュエちゃんはうちで一番人気で、一番売り上げに貢献してるという事実があってね?」

「それ一部の信者からお布施貰ってるとか、あるいは脅して貢がせてるとかじゃなくて?」

「あんた殴り倒して蹴り入れますわよ?」

「……これだぞ?」

「いやいや、お姉ちゃんも理解はできないんだけど。事実として人気で、たくさんのお客さん付いてるし、なんなら何故かうちのスタッフからも信頼されてるし、こう見えて人望あるところもあるっていうか」

「何かしら、全然褒められている気はしないですわね?」


 なんかシュエリアが納得いかないと言った様子だが、正直こっちも納得できない。

 いや、ホント、これだよ? この阿保エルフのどこにそんな……えぇ?


「仕事もできるし、なんだかんだ面倒見もいいし、スペック的には十分すぎるくらい有能なんだよね、なんでだろう?」

「……もしかして、シュエリアって仕事はできるのかもしれない」

「かもしれないじゃねぇですわ。できますわよ」

「あのオムライス一つ作れなかったシュエリアが」

「それはまあ…………そう、料理はしたことなかったから」


 まあ、そう言われたら、そうなのかもしれないのだが、なんだろう。

 凄く怪しい気がするのは、コイツが目を合わせないせいだろうか。


「シュエリア、お前さ」

「ん、なんですの」

「仕事、真面目にやってる?」

「この状況見て真面目にやっているように見えるんですの?」

「見えない」

「でしょう?」

「でもほら、それって俺が居る時の話だろ?」

「…………別に、そんなことないですわ?」

「じゃあ今の間なんだよ……」


 やっぱりそうだろ。

 コイツ、俺が居る時だけふざけてやがるな。

 そしてきっと、俺が居ない時は真面目に仕事しているんだろう。なんだかんだ言って阿保ではあるが能力的には非常に優秀な天才エルフだ。阿保だが。

 しかしまあ、なんだ、それを隠すのが何故なのかはイマイチわかりかねるのだが。


「まあいいか。にしても、勿体ないな、せっかくチーフになれるのにやめるのは」

「え、なんでですの?」

「いや、だって普通給料とか上がるだろ」

「そだね、割と上がるかな」

「え、え? ど、どのくらい?」

「今から二割増しくらい?」

「え……う、うーん……でも…………働くのはめんどくさいですわ……」

「仕事はできるのに面倒ではあるんだね」


 まあ、仕事がめんどくさいし、やりたくないのはわからないでもないんだけどな。

 好き好んで働いている義姉さんにはよくわからんかもしれんが。


「まあ、俺としてはシュエリアは嫁だし、養うのも構わないんだが……」

「だが……ってなんですの」

「お前の収入って基本的に、うちの家計の方に回さずに、お前の趣味に使ってるだろ。だから普通にお前の趣味に使える金が減るぞ?」

「……え」


 えって。コイツ、そこまで考えてなかったのか。


「当たり前だろ、俺の収入から生活費が出て、残った分が使えるとしても今よりは確実に減るぞ」

「…………」

「シュエちゃんって結構多趣味だから、お金要るんじゃない? このまま続けていけばゆくゆくはお店任せてもいいかなぁとか、思うんだけど」

「………………………」


 俺達の発言に長い沈黙で返すシュエリアだが。一体何を考えているのやら。


「……しかたないですわね」

「おぉ、やる気になったか」

「ユウキをシオンとくっつけて金策するしかないですわね」

「オイこら働けクソエルフ」


 なんつうロクでもないこと考えてやがるんだこの駄エルフ。


「なあ、義姉さんからもなんとか……」

「シュエちゃんがお仕事辞めて『上手く』行ったらお姉ちゃんが毎月お小遣い上げるね! 今の給料の3倍!!」

「おいてめぇ、サラッとシュエリア側につくんじゃねぇよ」


 俺と義姉さんをくっつけるというシュエリアの提案に乗った形で当然のように裏切りやがる義姉さん。途中まではシュエリアを働かせる方向性で居たくせに……。


「というか、そんなことしたら俺との関係が悪くなるとは思わないのか義姉さんは」

「バレなければいいかなぁと」

「じゃあ俺の目の前で話すのやめてくれる?」


 この人も大概馬鹿というかなんというか。

 いや、まあ……これでも仕事はできる人だし……つまり……アレか。


「はぁ。二人してふざけ倒しやがって……」


 まったく……この二人の相手は飽きないが……疲れるな。

 こういう時は家に帰ってアイネと昼寝でもするべきだ。


「ってことで俺帰るから」

「どいうことかはわからないけれど、会計ですわね」

「あぁ」

「…………96万円ですわ」

「俺から3倍取ろうとすんな」

「チッ」

「ったく……真面目に働け阿保エルフ」

「あーはいはい。働きゃいいんでしょう。やりますわよ、はいはい」


 というわけで……こうしてシュエリアは結局働き続けることになり。

 後日、本当にチーフになった上に、何故か給料は3割増したという……。


ご読了ありがとうございました!

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次回更新は金曜日です。

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