表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
75/266

ファンタジーの話をわざわざしますわ

「ファンタジーな話をしたいですわ」

「ほう」


 いつも通りの日常に、いつも通り唐突なシュエリアの発言。

 ファンタジーな話とは一体。


「具体的にはどういう話を?」

「そうですわねぇ。ユウキはファンタジーと言えばどんなものを想像するかしら?」

「んー。異種族とか、魔法とか?」

「ふうん」

「シュエリアは?」

「わたくしは元々そっち系だから……何を見ても『あぁ、あるある』って感じですわね。強いて言うなら日常的な感じ?」

「うーん、なるほど?」


 まあファンタジーな世界から来たシュエリアからしたらこの世界で言うファンタジーは日常なんだよな……。

 っていか、それならファンタジーな話って何を話したいんだよコイツ。


「ここはアレですわね。ファンタジーの住人として、非ファンタジーなユウキの質問に答える形式で話をしようかしら」

「ふむ。なるほど」

「何か気になることとか、ないんですの?」

「んー。そうだな」


 気になること……か。


「あぁ。そういやあったな」

「何かしら?」

「前にお前、魔力とマナがどうこうって言ってたけど、それの違いって何」

「ん? あぁ……あれは簡単ですわよ。魔力が知的生命体が纏うエネルギーで、マナが草花や鉱石、大気等に存在する体外で利用可能な魔力のことですわね」

「ふむ……?」

「もうちょっと説明した方がよさそうですわね。そもそも魔力って何に使うと思いますの?」

「魔法だろ?」

「ですわね。大概はそうですわ。そして大概の魔法使いは自身に宿る魔力を消費して魔法を行使しますわね」

「ふむふむ」

「そして、大抵の魔法使いはマナは使用できないですわね。他所から力を借りるには高いスキルが必要なんですの」

「なるほど?」

「で、その高いスキルを持った一部の者が、自身の魔力とは違う別の魔力を借りるときに、同じ魔力でも自分のものでないところから、混同しないようにマナと呼ぶわけですわね」

「ふむ……それで、そのマナって単語が出てきたってことは、シュエリアは使えるのか? マナ」

「使えますわね。というか、わたくしはもっぱらマナを使う方だし」

「自分の魔力は使わないのか」

「使わないことはないですわよ? ただそうね、わたくしの一番得意……というか、便利に使っている魔法があるのだけれど、それの特性的に、マナを使った方が効率いいからですわね」

「得意技か……そんなものがあるのか」

「見る?」

「見せてくれんの?」


 正直いままでコイツと居てまともなファンタジー展開なかったから、ちょっと楽しみかもしれない。


「いいけれど、ここだと駄目ですわね」

「じゃあ外に出るか?」

「ですわね」


 ということで、シュエリアがなんだか得意な魔法を見せてくれるそうなので。外へ。


「で、何するんだ? 炎出すとか?」

「ん。攻撃魔法ではなく、どちらと言うと防御とか、回復寄りの魔法ですわね」

「ほうほう」

「じゃ、さっそく魔法を使うけれど、危ないから離れて欲しいですわ」

「……まあ、くっ付いているのはお前であって、俺ではないのだが」


 事実、俺とシュエリアはくっ付いているが、俺の腕にシュエリアが絡んでいる形なので、シュエリアが離してくれないと俺からは離れられない。


「危ないんだったら離れろ」

「仕方ないですわね」


 そう言って渋々離れていくシュエリア。魔法を行使する間だけなんだし、そんなに嫌そうにしなくても……。


「じゃ、いきますわよー」

「おーう」


 俺の返事を聞くのと同時に、シュエリアの周りに半径5メートル程の大きさのあるドーム状の光の壁が現れた。


「これがわたくしが得意な魔法ですわね」

「おぉ……これ、どんな物なんだ?」


 危ないから離れろと言われたが、そもそも防御や回復寄りの魔法という話だったわけで。

 どの辺が危ないのだろうか。視た感じはただの結界というか、バリアって感じだが。


「どういう物かと聞かれれば、そうね。触れたものすべてをマナに変換する魔法ですわね」

「……すべてを」

「生物無生物問わず、一切合切触れたものをマナに変換してこのフィールドの中にプールする。プールしたマナはわたくしだけが消費できる。そういう物ですわ」

「じゃあ危ないっていうのは」

「ユウキが触れたらマナになっちゃうからですわね」

「危なっ!」

「ちなみにこれ、わたくしを中心に維持されるものだから、わたくしが動いたら一緒に動きますわ」

「じゃあ近寄られたら……」

「マナになりますわね」

「危険すぎる……」


 っていうかこの魔法、えげつないくらいチート魔法なのでは。


「防御っていうのは、あれか、攻撃されてもこれに触れた瞬間全部マナになるっていうことか」

「ですわね」

「回復は?」

「まあ、マナという魔法のリソース回復ですわね」

「それ使いながら別の魔法使えんの?」

「使えますわよ。わたくしほぼ無制限に魔法を多重発動できるもの」

「汚っ」

「汚くないわよ、綺麗よ」


 そう言ってドヤ顔するシュエリアだが、そういうこと言ってんじゃないんだよな。


「いやいや、ズルいだろ、それ。どうやったら勝てんだ」

「なんで戦う前提なんですの?」

「いやあ、せっかくのファンタジー要素だし、ほら、やっぱ戦闘とかあると盛り上がるだろ」

「……まあ、そうかもしれないですわね」

「でもそうなると弱点とか無いと、ほら、な? 俺つえぇええええもいいけど、何かしら弱点ないとさ」

「まあ、強いて言うならユウキが弱点ですわね」

「俺か」

「主人公は強いけど、ヒロインが足引っ張る感じですわね」

「この場合逆だけどな」


 つまりコイツは普通に最強なのな……。


「一切合切マナにって言ってたけど、酸素とかどうしてんだ、それ」

「本当になんでもマナにしてしまうから、生命維持に必要な物はマナを使って体内生成しているから、問題ないですわ」

「食事の必要は?」

「まあ、無いですわね」

「睡眠時は維持できるのか?」

「できますわよ?」

「どうやって勝てと」

「だから、なんで戦う気なのよ。普通に勝ち目ないんだから、諦めて欲しいですわ」

「むぅ……」


 流石にこれに勝つ方法……俺には思いつかないな。


「というか、これが一番得意な魔法なんだよな?」

「まあ、得意というか、便利よね、基本これだけあればリソースが確保できていくらでも魔法行使できるし、戦闘でも全く困らないし」

「ふむふむ」

「まあ、でも、一番強い魔法という意味では……他の魔法の方がいいかもしれないですわね」

「まだヤバいのあるのか?」

「例えば世界を書き換える魔法とかはヤバいですわね、試しに使って以来、ヤバすぎて使ってないけれど」

「具体的にはどのような?」

「歴史の書き換えから記憶の消去や捏造、個人の創造や変更、共通認識や概念の書き換え、法則やルールの追加とか生命創造……まあ、ありとあらゆる『世界』を構成する要素を好き勝手に弄れますわね」

「そんな恐ろしい……馬鹿げた規模の魔法も使えるのか、お前」

「使えるけど、これを使って好き勝手やったことはないですわよ? 誓ってないですわ」

「いや、別にそこは気にしてないけど、なんでそこまで否定する?」

「いえ……だって…………その」


 なんだろう、急に言いよどんだりして……。


「ほら……個人の記憶とか、感情も書き換えられるけど……でも絶対、ユウキのわたくしに対する感情とか、そういうのを弄ったりはしてないですわ!」

「ん? あぁ……そういうことか」


 なるほど、それで絶対使ってないって。


「シュエリアがそんなことするなんて、微塵も思ってない」

「そ、そうですの?」

「シュエリアはゲームでチートとかグリッチめっちゃ嫌いじゃんか」

「ま、まあそうですわね」

「そんな奴が現実を好き勝手に弄って、自分の思うようにするなんてズルをするとは思ってないよ」

「……そ、そう」


 というか、もしそんなことをするような奴ならわざわざこっちの世界に「暇だから」なんていう馬鹿みたいな理由で来ないと思うし。


「というかコレ、このバリア」

「ん? なんですの?」

「一応、仮にも不死の俺が触ったらどうなるんだ?」

「……死にはしないんじゃないかしら」

「いや、まあ。そうなんだろうけど。マナにはなるんだよな? 多分」

「じゃないかしら? 試してみる?」

「俺不死だけど再生能力無いだろ? 試せるわけないだろ」

「そう」

「そう……って言いながら近寄って来るのは何故だ」

「ちょっとした興味かしら」

「ちょっとした興味で夫をマナに変換しようとするとかイカレてんのか」

「冗談ですわ。冗談」

「ホントか……?」


 これはちょっと怪しいぞ? コイツなら全身まではいかずとも、腕の一本くらいなら『試しに』くらいの感覚でマナにしかねない。


「あ、そういえば不老不死っていうのも、結構ファンタジーですわね?」

「ん、そうだな」


 確かに、シュエリアと同じく、ファンタジーな世界から来たアシェに貰った秘薬で不老不死になったくらいだしな……。


「そういえばあっさり使っちゃったあの秘薬、結構な値打ちものだったんだろうか」

「ん、そんなこともないですわよ」

「そうなのか?」

「えぇ。だってアレ作れるもの」

「そういうのもできるのか、お前」

「なんでわたくしが作れると思ったんですの?」

「できないのか」

「できるけれど、何でかと思って」

「できるんじゃねぇか。まあなんだ。なんでもできそうなスペックしてるからだよ」

「っていうかわたくしにできないことって基本無いですわよ。それこそ自己改造すればどんなチートスキルだって付け放題ですもの」

「ホント、お前って「ぼくが考えたさいきょうの」って感じのステータスなのな」


 こんなシュエリアなら何ができてもおかしくないわけだが……今更ながらアシェはどうやって手に入れたのだろう。


「ていうか、どうせアシェも自分で作ったのよ?」

「……え?」


 コイツ今、なんと?


「アシェには裏社会の闇商人との取引で手に入れたと聞いたが」

「え……あっ…………そう、ですわね。それなっ」

「おい、なんだその雑な誤魔化し方」

「い、いえ? 別に何も。誤魔化してないですわ」

「白状しないと夕飯が日の丸になるが」

「アシェは錬金術の天才だから秘薬とかいくらでも生成できるから自作だと思っただけですわ」

「仲間の秘密を夕飯一つでゲロするお前本当にちょろすぎるな。拷問とか要らないタイプだわ」

「夕飯が日の丸とか既に拷問だと思いますわよ?」


 にしても、錬金術の天才……ねぇ。この才能の塊、チートスペックの頂点みたいな奴がいう天才とは、どんなものだろうか。


「具体的にアシェは何ができるんだ?」

「そうですわね。錬金術っぽいことならなんでも?」

「……なんだそのすさまじくざっくりした説明」

「いえ、だって。あの子の錬金術ってドチートよ? もはや錬金術じゃないわよ?」

「というと?」

「そもそも錬金術って言ったらほら、等価交換じゃない?」

「ん、ああ、そういうイメージはあるな」

「あの子、事錬金術において、等価交換の原則を無視できるっていう固有のスキル持ってるのよ」

「それは凄いな」

「等価交換の原則を無視できるから、思い描いたものをなんでも錬成できるし」

「それで不老不死の秘薬も作れるってわけか」

「ですわね。ちなみにわたくしのさっき使った魔法、アレもアシェなら魔法の壁を価値とか無視して別の物に錬成することで消せますわよ」

「なんでそんなことがわかるのか」

「……ずっと前に、喧嘩して殺りあったときにやられたからですわね。あれはビックリしたわねぇ」

「お前らなにやってんだよ……」


 チートスペックの阿保同士の喧嘩……いや、怖いな。何しでかすかわからん。


「でも錬金術ってほら、下準備とかいるんじゃねぇの? 錬成陣とか」

「あの子にそんなもの要らないわよ。視界に入ったものを任意に錬成できる魔眼まであるし」

「なんという卑怯な」

「視界が潰されたら使えないとかいう弱点がある不完全な能力だけれど」

「弱点らしい弱点ではあるな」

「……まあ幾分か前に千里眼を会得したらしいけれど」

「おい、弱点」

「弱点は克服してこそですわねぇ」

「そういう問題か……?」


 弱点の克服っていうか、元の魔眼と合わせて超強化な気がするんだが。


「でもあの子も無闇やたらに能力使うような子じゃないですわ」

「まあ、そうだろうな」


 チート錬金術師が好き勝手に物を作り替えたら世界のバランスなんて好きに崩せそうだし……。


「……戦闘とかに使える力なんだろうか、錬金術って」

「まーた戦闘ですの」

「いやあ、ファンタジーだし」

「まあ……使えるでしょうね。それこそ千里眼で見えたものを全て錬成の対象にできるわけだし、極端な話敵を別の物に錬成してしまえば、一瞬で勝負終わるわね」

「……お前そんなのと喧嘩するとか馬鹿なのか?」

「わたくしには効かないから平気ですわ」

「なんと」

「説明するのは面倒だから、簡単に、ありとあらゆる事象に対する防御スキルを複数所持しているとだけ、言っておきますわ」

「それで錬成されない、と」

「ですわね」

「お前なあ……」


 なんでこう、弱点らしい弱点が無いんだコイツ。正直ギャグ作品ですら許されるかわからない「全部乗せ」感が凄い。


「なんかこう話していると、トモリさんとかアイネの異世界の話も聞きたくなるな」

「あの二人もチートスキル持ってそうよね」

「まあお前ほど阿保みたいにチートスキル山盛りではないだろうけどな」

「これでネットの最強キャラ論争に参加できそうですわね」

「参加してどうすんだ……」

「荒らしますわ」

「最低か」


 俺の嫁はホントにくだらないことばっかり考えるなあ……。


「割とマジで最強キャラ論争に出て来る能力は全部使えるようにしようかと悩んだ時期はありましたわ」

「するなよ?」

「あくまでもできるってだけで、する必要性は感じないですわね。既に困らないほど持ってるし」

「さいですか」

「さいですわ」


 まあ……実際この日本でそんな能力あっても使わないしなぁ……。


「あ、ユウキにチートスキルを搭載する?」

「なんで俺に」

「要らないんですの?」

「主人公みたいなスキルなら欲しい」

「……そういえば何故か美少女にモテるスキル持ってましたわね?」

「そんなスキルを所持した記憶はないが……」


 でも実際モテている感はあるし……これ、まさかスキルの影響なのか。


「この環境がスキルの影響かと思うとちょっと空しくなるな」

「スキルなんてあってもいいものじゃないですわね」

「かもしれない」


 現実問題、魔法とかスキルで得しても空しいことも多いのかもしれないな……。


「というか、そろそろ外で立ち話も疲れたし部屋に戻りますわよ?」

「ん、そうだな」

「そしてアイネとトモリも混ぜて話の続きをしますわ」

「それもいいな」


 ということで。俺とシュエリアは部屋に戻り。アイネとトモリさんも混ぜてまた下らないファンタジーな話に花を咲かせ……。

 結果的に「コイツ等と異世界冒険したら違う意味で面白そうだな」と思ったのだった。


ご読了ありがとうございました!

感想、評価、ブックマーク等頂けますと励みになります。

次回更新は金曜日です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ