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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
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度し難いブラコンですわ

 シュエリアをバイトさせるために外に連れ出してからというもの、いつもはうっとおしく五月蠅いシュエリアが非常に静かになっていた。

 しかしもうそろそろ目的のバイト先が見えてくるというころ、シュエリアは口を開いた。

「あ~~~……働きたくねぇですわ……」

「お前なぁ、ここまで来てそれいうか」

「はぁっーーーーーーーーーーー…………!!」

 大きなため息を吐きながら、シュエリアがニートオーラを発し始めた。

 なんかオーラがドラ〇ンボールっぽい。

「はぁ……大体エルフなんですのよ……? 人間の中で働ける訳ないじゃない……」

「そこは問題ないと言ったはずだ。ここの店長兼オーナーは俺の身内だし、さらに言えばお前みたいにコスプレのような見た目の奴にも理解がある」

「コスプレじゃないわよ! 本物のエルフよ! 希少価値なんですのよ? もしバレたりしたら……ハッ! 逆に希少価値の天然記念物として国に保護してもらえ――」

「ねぇよ」

 俺はシュエリアのアホ丸出しな提案を若干食い気味に否定した。

「ぐぬ…………即答ですのね。いい案だと思ったのに」

 コイツどんだけアホなら気が済むんだろうか。

 普通に見つかったら間違いなく事案だ、よくて保護という名目で研究対象として飼い殺しか、悪くすれば抹殺されるだろう。

「というか、本当にエルフでも大丈夫なんですの?」

「あぁ……それな」

 まあ確かに、普通に考えればいくらエルフとかの空想の存在、サブカルチャーに理解のある相手でしかもそれが身内だとしても、リアルエルフを紹介するというのは大分無理がある。

 だがまあ。

「あの人なら大丈夫だ。ちょっとアレだが、かなり頼りになる人だからな。お前の事も素直に話したら快く面倒を見てくれるってさ」

「ちょっとアレっていうのが凄く気になるのだけれど……」

「まあまあ。そこは会ってみたらわかる感じだから……っと。んなこと言ってる間に着いたぞ、ホレ」

 俺とシュエリアが今時割と珍しい取っ手のある手動ドアを開けて店内に入ると元気のいい挨拶が届いた。

「いらっしゃいませ~! コスプレ喫茶しす☆こーんにようこそ~!」

 俺達が辿り着いた店『コスプレ喫茶しす☆こーん』

 俺の身内が経営している店であり今日からシュエリアがお世話になる予定の場所である。

「患者様は何名様ですか??」

 ナースのコスプレをした活発そうな女の子が接客してくれる中、隣のシュエリアはその少女を下から上へと嘗め回すように見た後に店内、他の店員を観察していた。

「えーっと、今日は隣の奴の面接に来たので。ね――店長のシオンさんに取り次いで貰えますか」

「あぁ! シオン様が言っていた方ですねっ! こちらへどうぞ!」

 俺が要件を伝えると店員の子にも話は通っていたようで店の奥に入れてくれた。

 シュエリアは尚も店内をキョロキョロと見回している、何がそんなに珍しいのか。

 ……というかサラッと流してしまったがシオン『様』って言ってたな。なんていう呼ばせ方してんだあの人。

 などと考えている間にも店内を進み、女の子は一つの扉の前で歩みを止め、何故か最敬礼をした。

 ホントどういう教育してんだ。

「失礼します! シオン様が仰っていた面接の方々がいらっしゃいました」

「えっ! マジでっ?!――ゴホン。えーっと……ふぅ。よし、ではお客様をお通しして」

 少女の声掛けに対し中から俺には聞き覚えのある人物の若干どころではなく浮ついた声が聞こえると少女は言葉通りに扉を開けて俺達を部屋に通してくれた。

「六々ちゃんご苦労様。さがって良いわよ」

「はい、失礼します!」

 六々――ろくろ――と呼ばれたナースコスの少女はそういうと静かに扉を閉めて部屋を後にした。

 残されたのは部屋の主である女性店長と俺、そしてさっきから妙に挙動不審なシュエリアだ。

「ふぅ……さてと――」

 部屋の主は一息ついて掛け声をすると立ち上がり、ゆっくりと、徐々に速度を上げて歩み寄ってきた。

 ヤバい気がする。

「ゆうく~~~~~んっんんんんん!!!! ひっさしぶりぃいいいいいいいいいっやっほぉおおおおーーーおおおおおぅううううううっ!!」

「ぐふぇあっ! ちょ、やめっ! まて!!!」

「んなっ?! なんですの! 何事ですの?!」

 歩み寄ってきた部屋の主、シオンは俺の名前を呼ぶと思いっきり抱きしめてきた。

 抱きしめる力はとてつもなく強く、万力かと疑う程の圧力なのだが、その抱きしめる体は非常に女性らしく柔らかい。

 そしてそんな絞殺されそうな俺を見て、シュエリアは珍しくオロオロしている。

「久しぶりすぎるよぉ! 声聞いたのは2日と13時間4分56秒ぶり? それまでは3年と38日4時間2分13秒ぶりだったもんねっ? ねぇっ?」

「う……ぐぅ……とりあえず落ち着いて……もらえませんっ……か……姉さん」

「え~? うーん。まあいっかぁ……今日はお仕事の話、だもんね?」

 そういうと姉さんは俺の体から離れ、身なりを整えると俺達をソファーに座るよう促し、自らも反対の席に着いた。

 てかなんだ、2日と13時間とか云々、この人相変わらずそんなもんカウントしてんのか……。

「あの、ユウキ、この方って――」

 シュエリアが俺に姉さんのことを訪ねようとすると、横からとんでもなく鋭く冷たい声が浴びせられる。

「は?……遊生?」

「え……ちょ、えっ? なんですの?」

 突然の姉さんの雰囲気の変化にシュエリアは困惑している。

 それはもう、どす黒いオーラ全開だし、眼とかもう今にも殺っちゃいそうな感じだ。

 まあ、初めて見たらこうなるよな……見慣れても怖いけど。

「シュエリアちゃん、だっけ? なんで呼び捨てなの? ゆう君とはなに? 同居してるとは聞いてるけど、付き合ってるの?……お前」

「え……っと……わたくしは、アレですわ、えっと、アレ……アレですわ!」

 おぉ……珍しい、シュエリアがめっちゃたどたどしいしオドオドしてる。しかもこっちに助けを求めて視線が泳いでいる。

 にしても名前確認しといてお前って……姉さん相変わらず怒ると口悪いなぁ……。

「姉さん、シュエリアは同居してる俺の、まあ親友みたいなものだ。だから名前で呼んでもおかしく無いだろ?」

「うぇ……親友とか言われると気持ち悪いわね……」

「お前はっ倒すぞ」

 せっかく助け船を出してやったというのに、シュエリアは言いながらも口元を手で押さえている。本当に吐きそうになってんじゃねぇか。なんて奴だこの駄エルフ。

 しかもこのやり取り、姉さんに見られてるんですけど。

「……ふーん、そっか。そうなんだ? 親友、ね……まあ、いいけど。同居してるなんて言う話だったからもしかしたら『そういう関係』なのかと思ったけど……もし私のゆう君に手を出したら、その口元を抑えている手を腕ごと一生使えなくしてあげるから、感謝してね?」

「…………あ、はい……ですわ」

 そこで「覚悟してね?」とかではなく「感謝してね?」という辺りが姉さんらしい……

 このあたりが俺が3年ほど連絡一つ取らなかった理由でもあるんだが、なんか時間が空いた分、若干悪化している気がしないでもない。

「そいでまあ、もうわかっただろうけどシュエリアの聞こうとしていたことに答えると、この人は俺の姉さんだ。ちなみに義姉で血縁は無い、あとブラコン」

 俺が姉さんとの関係を告げると、それを聞いた姉さんは姉さんで、とてつもなく生き生きと俺の言葉に続いた。

「そうなの!! 義理!! 血縁の無い義理の姉っ!! だから結婚することもできる萌えるお姉ちゃんだよ! さあ、ゆう君も私に萌えて俺の嫁とか言っちゃっていいんだよ!」

「言っちゃわねぇよ!」

「な、なるほどですわ……」

 あぁ、シュエリアがドン引きしてる。

 まあ無理もないけどな……こんな美人なのにこれだけ残念だとギャップが酷いしな。

 そしてもしかするとシュエリアはこういう妙なテンションの人は苦手なのかもしれない。

 姉さんは昔、小さい頃は今ほどに特段可愛いとか美人とかそういうこともなく、むしろ陰のある地味な印象の少女だったんだが、以前の姉さんを知る人曰く、養子で義弟の俺と暮らすようになってからどんどん変わっていって勉強も運動もできて美人で人当たりがよく気さくで家事も仕事もできる人になったらしい。

 それらの高評価は学生時のモノで、社会に出てからも職場においてはリーダーシップを発揮し完璧なトップとして君臨しながらも、時にはサポートに回り、適材適所の人選と完璧な補佐によりフォローの達人とも呼ばれ、そのいついかなるポジションでも圧倒的に完璧な様から正しく非の打ちどころの無い美人という大変素晴らしい評価を受ける人物だ。

 しかし、世の中そんなに甘くはない。

 どんな人間にも欠点と呼ばれてしまうものは存在するのだ。

 故に、それらの評価には全てこの語句がつく。


 弟が居なければ、と。


 これは姉さんが今のような出来過ぎな完璧超人になったことにも由来するのだが、姉さんは俺と出会ったときに俺に一目惚れしたのだ。

 その後、当時孤児であった俺を養子にするように父に頼み込み、俺を傍に置く事に成功すると俺に好かれ俺の気を引くために様々なことに挑戦し、それらを完璧に修めていった。

 一番わかりやすくヤバい例をあげると、姉さんの誕生日に俺が「お姉ちゃんがして欲しいことを僕がするよ!」と言った年から毎年姉さんの誕生日になると「ゆう君はどんな女の子が好き?」と聞いてくるようになって、その情報を元に毎年増える「ゆう君の好きな女の子のタイプ」を習得するためにその年を費やし年々完璧度が増していく程に。

 それ程に重度のブラコンの姉さんは今では俺絡みだとブラコンな上にヤンデレのくせに実は寝取られに萌える(妄想のみ)という本当にどうしようもないダメな人になっている。

 そしてそんな姉さんの姿はいつもの姉さんを知っている人なら下手すれば気絶するレベル、知らない人ならドン引きする程度の姉、である。

「――で、シュエリアちゃんはここで働いてくれるんだよね?」

「う、はい……」

 うわ、シュエリアの奴めっちゃ嫌そうな顔してるな。気持ちは分かるが、ここは我慢してもらおう。

 エルフでも働ける場所なんて、ここくらいしかないからな。

「そっかそっか。そうなったらゆう君とも繋がりが今まで以上に持てるし私としても歓迎! ここならエルフとか関係ないから安心していいよ? こう見えて私そういうの慣れてるから」

「は、はい…………え? そういうの? ですの?」

 姉さんはシュエリアの言葉に頷いた。

「うん。他にも色々異世界人とか亜人とか見たことあるし、というか実際私の持ってる企業ではそういう人たち雇ってるとこも多いから、ここも猫又とか九尾とかリアルなコスプレっていう設定だけど、実際は本物が働いてるからね」

「え……マジですの?」

「マジマジ、マージ・マジ――」

「あ、義姉さん。そのネタもうやった」

 俺の言葉に義姉さんは驚愕した様子を見せるとがっくりと項垂れた。

 こういう所は義理ながらもやっぱり姉弟だなぁと思う。

 ちなみに姉さんが異世界人に慣れているのには今回のことで初めて知った。

 俺が知ってたのはコスプレ喫茶をしていることと、俺が頼めば何でもしてくれるとても便利で危険な姉ということだけだ。

 だからここがコスプレ喫茶という名のご本人喫茶だったと知った時はかなり驚いた。

 あまりにも身近すぎるファンタジーだ。

「あぁ……なんていうかそういうところは似ているのね……少し安心できた気がしますわ?」

「そこで安心するのか」

 まあ、安心できたならそれが何よりなんだが。

「お姉ちゃん的には似てなくていいから、お似合いなのがいいなぁ」

「これはどうツッコめばいいのか……」

「やだ、突っ込むなんて……でもお姉ちゃんゆう君にならいいよ!」

「…………ユウキ?」

「…………もう喋りたくねぇ」

 なんか異種族の話からここまでで、なんとかシュエリアと姉さんの最初に発生した険悪ムードは緩和した気がする。

 気がするだけかもしれないが。俺が現実に目を向けたくないだけか。

「ま、冗談はさておき。とりあえず履歴書は見せてもらったし、これは取っとくね。まあ特に使わないけど形としてね、無理やり働かせてるとか言われちゃうと困るのよ。なにしろ人間以外を雇ってるってだけでもたまーに怖いオジサン達が私に殺され……んんっ。転がされる為にいちゃもん付けに来るから……」

 なんか今すっごく物騒な単語を聞いた気がするけど「殺され」って、まさかマジで殺ってないよな?

「あ! 大丈夫よ? 社会的に転がるだけだから! 私は会社の運営では安心安全に一番気を付けているからね? ふふふっ」

「そ、そうか……まあ姉さんの所ならシュエリアも大丈夫だろう。エルフって言っても他にも亜人は居るんだからな、特別特異な感じにはならないだろう」

 正直今の姉さんの笑顔には闇しか感じなかったんだが、突いても絶対に良いことが無いのでスルーしよう。

 例え後ろ暗い事だったとして、放っておいても姉さんなら下手に問題になるようなこともないだろうしな……。

「そうだねぇ、純正のエルフちゃんはうちでは初めてだけど、ハーフの子とダークエルフなら居るからねぇ」

「そうなんですの? それなら確かに、安心感はありますわね…………店長が怖いですけど」

「ん? 何々? 奴隷売買の商品になりたいって?」

「な、なんでもありませんわ!」

 うーん……打ち解けてはいないな……恐怖による圧制とか起きなければいいのだが。

 てか奴隷売買とかしてんの? それマジなら亜人とか関係なくアウトなんじゃ……。

「ちなみに奴隷売買は冗談ね? 買いはするけど基本的にその後は社会復帰させてるから、限りなく白に近いグレーだよ? っと、まあそれはいいとして。とりあえずアレだね、今日から採用するってことで、とりあえず小一時間程研修して行こうか」

 え? 話し戻すの? まあそれは良いとして、と言えないレベルのかなり黒めなグレー発言があった気がするんですが?

「えっと……この格好で……ってことはないですわよね?」

「もっちろん。一応コスプレとは言ってもリアルな個性を尊重するから私服とかが一番多いかな? さっきの六々ちゃんもアレで天使だからね。天使なのに白衣の天使に憧れて地上に来ちゃった天然さんでね。羽とか輪っかも本物なんだよ? ちなみに名前は六乃六々――りくのろくろ――っていう数字にして6の66で666っていう凄く天使らしさゼロな名前なんだよ? 凄いよねー」

 なんだその呪われそうな不吉な名前は……。

「あ……そうなんですのね……ったく変な奴ばっかりですわ」

「んー? それには私も入ってるのかなぁ?」

「め、滅相もございませんですわ?!」

 本当に大丈夫か心配になってきた。

 姉さんはまあ、俺絡みでも無ければあまりに物騒なことはしない人だけど、それでもシュエリアには俺と同居してるっていうかなり妬みと嫉妬の対象になる事実があるわけで……。

「さて……うちの制服は基本私服なんだけど、今回はとりあえず今店にあるもので私服っぽいの選ぼうか。どんなのがいい?」

 義姉さんがシュエリアに問いかけると、シュエリアは一瞬悩んだ様子を見せながらも直ぐに頷いた。

 あー、嫌な予感がするなぁ。

「でしたらキャラ物のTシャツとかが――」

「うん、とりあえずこの白のワンピースにしとこうか」

 デスヨネー。

「あ、あれ? なぜですの……?」

 わかる、気持ちはわかる……。

 確かに今のはひどいよな。

「流石にエルフにその恰好で出られちゃうとお客様のイメージとか夢を粉砕して最悪訴えられるから……」

「そんなにですの?!」

「そうだな……いくらなんでもそれはないだろ」

 俺が義姉さんの結論に異を唱えると、シュエリアは助け舟が来たかのようにこれに飛び乗った。

「ユウキ……! そうですわよね! エルフだってキャラTくらい――」

「俺なんて一瞬自害って言葉が脳裏をよぎったくらいだからな」

「なお質が悪いですわ?!」

 まあ流石に本当に死のうとはしなかったけど、でも俺の中のエルフ像が死んだのは間違いない。

「まあそういうことで、シュエちゃんはこのワンピを着てホールをお願いね!」

 シュエちゃんて、急に馴れ馴れしくなったな。

「えー……。わたくし、接客なんてできませんわよ」

「うん。凄くやる気のない『えー』だったね……じゃあ試しにゆう君をお客にして練習しよっか?」

「あぁ、それがいいですわ? わたくし絶対粗相をしますもの」

「妙なとこで自信満々なんだね……」

 そういうと姉さんは一旦シュエリアと一緒に部屋から出て更衣室に向かった。

 俺は一緒に入るわけにもいかないのでとりあえず更衣室前で待機だ。

 待機すること数分、なんだか機嫌がよさそうな姉さんと若干頬を染め照れた様子のワンピ姿のシュエリアが出てきた。

「さてさてシュエちゃんワンピ装備完了~! 中々にかわいいねぇ~。髪も軽く掛ったウェーブと合わさってお嬢様っぽいし!」

「お嬢じゃなくて姫なのだけれど――」

 確かにちょっと金持ちの箱入り娘っぽさがある気がしなくもない。

 というかなんで若干照れてるんだこのエルフさんは。

 もしかして真っ当に可愛い服着るのが初めてだからか?

「ところでシュエちゃんはいつもこういう髪型なの?」

「無視ですの……? いえ、まあ、いつもは違いますわ?」

「あー、そっかぁ……うーん、それは今度でいっか」

「??」

 シュエリアは脳内が「??」ばっかりのようだが俺には姉さんが言いたいことがわかる。

 シュエリアは私服にキャラTを選ぶようなエルフだ、変な髪型とかにしてそうだとでも思ったのだろう。

 まあ実際いつもは珍しい髪型してるし、今の方が無難で受けのいい可愛さがある。

「ではとりあえずゆう君には席に着いてもらって~接客開始だね!」

 そういうと姉さんはホールに向かって歩き出し、俺とシュエリアは後に付いた。

「はい、じゃあここでやろうか。まずは~注文取るところかなぁ」

「ていうかここでやるのか? 裏じゃなくていいの?」

 そこは普通に店内の、他の客とかもいるホールの一角にあるテーブルだった。

「今お客あんまりいないしいいよ~、それにゆう君にうちのメニューと店内の空気を楽しんで欲しいし」

「ちなみにこれは……」

「もちろん研修だからね、メニュー代はこっちで出してあげるよ!

 なるほど、つまり失う物は無いわけだ。

 それなら万が一シュエリアがとんでもないことをやらかしたり、変な物が出てきても問題は無いな。

「んじゃ、このメイドさんの冥土inラザニアを」

「あー……それメイドさん限定メニューだからエルフのシュエちゃんには無理だねぇ……」

「そんなんあるの?!」

 メイドさん限定メニューて……よくみたらメニューに料理と別に指名料金とか書いてある……ってか注文取りに来させるのに一回千円って……

 コスプレ喫茶怖っ、てかすげえ儲かってそう。

「うちでは店員ごとに職業と種族が設定されてて、その属性ごとの限定メニューがあるんだ~。限定メニューを頼むとそれ専門の店員さんに接客してもらえるから、アレだね、御指名だね。その分指名料入ってるからお高いけどね!」

「あ、そう、なんだ……」

 指名料って……キャバクラかよ。

 いや、まあ、似たような物……なのか?

「ちなみに、他にも白衣の天使の天誅注射とか、雌豚のトンテキ共食いとかあるよ?」

「あの、ネーミングセンスがオワコンなんですが……」

 ていうか雌豚のトンテキ共食いってなんだ、まさかとは思うけど雌豚扱いしている女の子とかいるんじゃあないだろうな……。

「じゃあ……このフリーメニューでいいや、店員さんの気まぐれドリンクで」

「あーそれなら大丈夫、店員さん誰でもできるメニューだから。シュエちゃん注文の復唱ね」

「へ?!」

 姉さんがそう促すと、シュエリアは若干驚いた様子を見せた。

 このアホ、完全に気を抜いてたな、大丈夫か? 話聞いてたのか?

「えー……では。復唱しますわ。店員さんの気まぐれドリンク一つでいいかしら?」

「よろしいでしょうかではないのか……」

「まあキャラ毎にこういう喋り方も有りってことで、ツンデレちゃんとか悪魔っ子はもっと酷いし。……雌豚とか喋れないし。じゃ、早速ドリンク淹れに行こうか」

 そういうと義姉さんはシュエリアを連れてキッチンへ向かった。

 というかこの接客より酷いって……それ接客として大丈夫なのか? てかさらっと雌豚とか喋れないって……やっぱいるのか雌豚……。

 俺がこの店の接客事情に不安を感じている中、暫くしてシュエリアが一人で戻ってきた。

「あれ? 義姉さんは?」

「シオンなら私に一通り仕事を教えて後を任せるといって戻ってしまいましたわ?」

「なるほどな……てか義姉さんも呼び捨てかお前。せめて店長とか言っとけよ」

「キャラだから問題ないと言ってましたわよ?」

 義姉さんも妙なところで寛容だなぁ……俺絡みだとすぐキレるのに。

「で、ドリンクはどうなった?」

「もちろん用意済みですわ? ありがたく受け取りなさい」

 シュエリアは若干いつもより高圧的というか偉そうに胸を張りドリンクの乗ったトレーを差し出した。

「これは……なんだ、コーラか」

「わたくしがわざわざ作って出してやったのですから、とっとと飲むのですわ」

 見た目はただのコーラなのに、コイツの「わざわざ作って」という辺りにすごく嫌な予感がするのだが……。

 まあとりあえず、飲むか。どうせコーラに他の炭酸とか混ぜたくらいだろう。

「ん……んぐっ……うん? うっ……んっだこれ……まずい」

「あら、やはり美味しくはないのですわねぇ。予想通りですわ」

 俺は飲んだ見た目がコーラのようなものを吐きそうになった。

 俺の飲んだコレはなんというかこう、凄く不味い……ということでもないのだが、地味に、素直に不味いとでもいうのかリアクションに困るまずさと言うのか。

 極端に不味くはないが普通に不味い。これは飲めない。

「おまえ……これはいったい……」

「えーっと、気まぐれドリンクは頼まれた店員が独自でドリンクを配合するもので当たりハズレ有り、可愛い店員さんの愛情を味わうメニューとなっていますわ? それで今回はなんと、濃厚なブラックコーヒーに炭酸水を混ぜましたわ!」

「お前アホだろうっ!?」

 え? 何、なんでコーヒーを炭酸割りしようと思ったのコイツ? アホなの? 人によっては行けるのか知らんが、俺には無理、普通に無理だ!

「オカシイですわ……? コーラっぽくて素敵な飲み物になっているはずですのに」

「見た目がコーラっぽいだけだろ?! 美味しくねぇから!! っていうかお前さっきは美味しくないのは予想通りとか言ってたよな?!」

「でも飲み物で遊ぶのもよくないですし、勿体ないから全部飲んでもらわないと困りますわ?」

「おま……お前なぁ……」

 どの口が飲み物で遊ぶのが良くないとか、勿体ないとか全部飲めとか言えるのだろうか……。

 そもそも飲み物で遊んでやがるのはこのアホエルフだろ。

「この店ってこんなんばっかりなのかね……」

「んー、そうですわね。わたくしが準備できるメニューはこっちのシンプルメニューにオプションで食べさせてもらう、おしゃべりに付き合ってもらう、とかありますわね。ちなみにわたくしのオススメはおしゃべり辺りを頼んで研修終了まで駄弁っていたい気分ですわ?」

「お前、やる気なさすぎるだろう……」

 コイツここで働いていけるんだろうか……客は少ないとはいえ他の子は一生懸命働いているのにこの駄エルフと来たら研修から手を抜こうとしてやがる。

 そういうのは小慣れてきた先輩とかが「ここ抜いとけよ」みたいな上手いサボり方を覚えてからするのではないのだろうか……いや上手かろうがサボっちゃダメだけど。

「んじゃあ何頼もうかな……一応聞くけどシンプルメニュー作るのは――」

「わたくしですわ?」

「……なんで」

 そこはキッチンのスタッフとかじゃダメなのか。

「基本注文を取った子が作って食してもらうことで客のモチベを上げる狙いがあるらしいですわ?」

「でも皆が料理できるわけじゃないだろ? 回転率も悪そうだし」

「一応マニュアルはありますわよ?……まあ料理下手でも一つのステータスですわ? あ、回転率が悪いのはサボれるから良いと思いますわよ?」

「さいですか……」

「さいですわ?」

 どうしよう……下手に手のかかるものを頼むと大惨事になる可能性があるのにメニューの大半が聞いたこともないような外国の料理っぽいのばかりだ……

 とりあえず……ここは唯一まともそうなのを。

「お、オムライスを……」

「あら、随分と簡単そうな物を選びますわね。ま、楽ができてよろしいですわ? やっとユウキにも王族のわたくしを敬う気持ちが出てきたのかしら」

「お、おう……」

 いや実を言うとそんなことは欠片もないのだが……ここで下手なことを言ってさっきのしゅわしゅわコーヒーのような物を出される訳にはいかないからな……ここは素直に肯定するのが得策。

「ちなみにシンプルメニューには料理にオプションがあるものがあるのですけれど、オムライスの場合定番の絵とか文字を書くものがありますわね、どうかしら?」

「そういうのあるのか。てか一応勧めとく辺り仕事する気はあるんだな」

「いえ、まあ。ユウキがお喋りオプション付けないせいで稼げない時間を稼ぎたいだけですけれど」

「――オプション無しで」

「ッチ……かしこまりましたわ!」

 おーい。今エルフさん最後の可愛い営業スマイルの前に舌打ちしなかったかなぁ? すっごく態度悪くない?

 本当に働きたくないんだな、コイツ。

「ま、それでもやってるだけマシってもんかな。その内積極的になるかもしれないし」

 なにしろ上に立っているのがあの姉さんだからな……真面目にならざるを得ないということもあるだろう。それにあぁ見えてシュエリアは意外と完璧主義というか、プライドが高いのでやるからには極めるタイプだ。

 注文を受けたシュエリアが裏方に消えてから数十分、なんか遅いなぁ~とか思った頃、ようやく顔を出した。

「……お待たせしましたわ。オムライスですわ」

「おぉ、時間かかったけど、問題なかったか?」

「大丈夫だ、問題ない。ですわ」

「そ、そうか……」

 なんだろうなぁ、今の大丈夫には大丈夫じゃないフラグを感じたんだけれど。

 でもまあ、思ったよりは見た目は普通にオムライスだし、大丈夫かな。

「まあ、殆どシオンにやってもらったのだけれど」

「おい……」

「ち、違いますわ! 手を抜こうとしてとか、わたくしがあんまりにも料理できなかったから見かねてとかではないんですの! シオンが自分の手作りをユウキに食べさせたいっていうからですわ!!」

 あぁ……なるほど、それはありそうだな。実際は見かねたってのもあるんだろうが。

 まあ、シュエリアの不安な手料理よりは、なんでもできる姉さんの料理の方が良いに決まっているので、今回は良いとしよう。

「……そうだな、それじゃあせっかくだし、やっぱ字でも書いてもらうか?」

 実際料理したのが姉さんじゃあコイツ自身の仕事が減ってしまうからな、これくらいはやらせてもいいだろう。

「あら、そう? でしたら望みを言うといいですわ? 書いて差し上げてよ」

「そうか……なら「ご主人様大好き、ハート」とか恥ずかしいの書いといて」

「ふむ? 了解ですわ」

 シュエリアは俺の言葉を了承するとオムライスにケチャップで文字を書き始めた。というかこれもある意味ご飯で遊んでるような気がするよな……大丈夫なんだろうか。

 神様怒るんじゃあないかなぁ……そもそも字数的にケチャップ多すぎてオムライスがケチャップの味しかしなくなりそうだし。

 てなことを考えている間にもシュエリアはケチャップ文字を書きあげて俺の前にオムライスを出してくれた。

「どうぞ、召し上がれですわ?」

「おう、いただきます」

 そういって出されたオムライスを食べようとして、俺はふと気づいた。

 それはまず、俺の手に持っているのがお箸であり、オムライスを非常に食べにくくないか? という事。

 そして書かれている文字が「ご主人様大好きハート」ではないという事。

 最後にそもそもそんな文字シュエリアが了承したのがおかしいという事だった。

「あの、シュエリアさん」

「なんですの?」

「この文字なんですけど……」

「何かしら? 変なところでも?」

 いや……変なところって言いうかさ……。

「ご主人様大好き、ハート。じゃなくて『ご主人ざまぁダイスケHARD』になってるんだけど?」

「あら、間違えましたわ?」

 シュエリアはそういうと、若干オーバーなくらいなリアクションを見せた。

「……間違えたのか?」

「うっかりですわぁ……こんな間違えをしてしまうなんてドジなわたくしが忌まわしいですわぁ……」

「……そうですか」

「そうですわ?」

 ……このやろう絶対わざとだ。

 っていうかなんだダイスケHARDって。ご主人ざまぁってのも酷いけど。

 いやまあ、十分恥ずかしい字ではある気がするのだが。

 これ俺以外にやったりしないよね……? ね?

「お前……こういうの俺だけにしろよ? 他の客には――」

「大丈夫ですわ。今のわたくしはVIP対応ですから、お客様対応とは別物ですわ?」

 VIP対応? それは一体……

「俺いつからVIPになったの? 今日初めての来店だけど」

「あら? シオンが言ってましたわよ? 『ゆう君はうちのVIPだからお客様対応とは別の特別接待をするように』って」

 なんでそんなことになってんだ……。

 というか義姉さんがブラコンなのは知っていたけれど公私混同じゃあないのかそれは……。

「ついでにこの店の名前のしす☆こーんは弟のユウキに対する願望で、コスプレ喫茶なのもユウキの趣味に合わせているそうで基本的にシフトの多い子や給金の良い子はユウキ好みのくノ一とか妖狐とか猫又とか和服美人とかで構成されているらしいですわよ?」

「公私混同が過ぎるだろう!!」

「ほんと、度し難いブラコンですわ……」

「ほんとにな…………」

 まさかこの店にそんな理由があったとは……。

 どおりでナースとかを除いて俺の趣味に近い格好や体系の子ばっかり居ると思ったら……てか義姉さんはそれでいいのか? 俺が他の子とか見てたら怒るだろあの人。

「ちなみにユウキのお気に入りになって店に貢献した子は給金UP、しかしユウキの恋愛対象になった場合は首だそうですわ」

「首か……流石に酷いな。まあ好きにはならんから問題ないだろうがそれで仕事無くなるのは洒落にならんな」

「えぇ、そうですわね……流石に打ち首は酷いですわ」

「打ち首?!」

 思ったより酷い首なんだけど……本当に、俺、大丈夫かな……いつか義姉さんに殺される気がする。

 主に心中とかで。

「まあ、ユウキが惚れたりしなければ給金上がる分むしろ歓迎でしょうし、というかわたくしをお気に入りにしとけば問題ないと思いますわ? 給金UPすれば家計にも貢献できる上に誰も困らないのですし」

「まあここで注文した分で給金UP分飛ぶだろうけどな。まあたまには来るよ、お前の様子見にな」

「あら。それはわたくしの普段と違った可愛い姿が見たいからですの? それだと首になる恐れがありますわ」

「いや、ねえから、むしろ心配で目が離せないから」

「嫌ですわ、目が離せないなんて、ホントに首に成りかねませんわ……」

「そんなまさか…………あっ」

 そこまで言ってなんか奥から凄い殺気を放ってこっちを見てる視線に気づいてしまった……。

「義姉さんがこっちみてるんだけど……」

「……だから首になるかもしれないと……」

「いやでも、なんで聞こえてんだよ」

「知りませんわよ。地獄耳か……借りた制服に盗聴器とか……ですの?」

「……おいシュエリア」

「え? …………まさか……………………あっ」

 俺に言われてまさかと言いながらもシュエリアがワンピースをゴソゴソと探ると、盗聴器らしきものが出てきた…………そういえばあのワンピ選んだの義姉さんだったな。

「……とりあえずあれだな。もうそろ一時間だろ? 姉さんとこ行って研修終わってきたらいいんじゃないか?」

「そ、そうですわね……」

 そういうとシュエリアは奥で殺気を放っている姉さんのところへ凄く重たい足取りで向かい、数分後着替えを終えて戻ってきた。

「今日はこれで上がって良いそうですわ。これから週四で入るらしいですわよ? 遊べる時間が減るのは痛いですわね……」

「そ、そうか……まあ給料は自分で使えるし今まで以上に欲しい物買えると思えばいいんじゃないか? 遊ぶときにもショッピングとかで新しい楽しみができるだろ」

「そうですわね……にしてもホント、弟ラヴでここまでやるってシオンは何者なんですの……」

「あー……うーん」

 研修終わりの帰宅中、シュエリアは義姉さんの事を知りたがっていた。

 俺の義姉さんか……義姉さんはなぁ……

「どうみてもただのコスプレ喫茶のオーナー兼店長ではないですわ……そもそもお店を弟一人に受ければいいからと偏った趣向丸出しで運営するとかどうかしてますもの」

「まあ、なぁ……」

 ほんとにな……義姉さんがこんなとんでもないことをする人になってしまった原因でもある俺は若干の責任を感じざるを得ない。

「で、どうなんですの?」

「……何が?」

「何者なんですの?」

「ん…………はぁ。あの人はあれだ、基本株だけで儲けて生活できる人だよ」

「は?」

 シュエリアが俺の言葉に何言ってんだコイツという顔をする。

 そりゃそうだろうなぁ……

「父は会社をいくつも経営する富豪なんだけど、姉さんが17の時だったな、父から元手を借金して株で数億単位儲けたんだよ」

「…………で?」

 もうこの時点で色々オカシイのにツッコまない辺り、シュエリアも義姉さんがそのくらいはするヤバい人だっていうのはわかっているようだ。

「うん。で、それの理由がその年の義姉さんの誕生日に義姉さんから聞かれた俺の女の子の好みに『仕事が巧くて頼りになる女の子が良い』って答えたのと俺が独り立ちするって家を出ることにしたのが原因っていう」

「…………なんでそうなるんですの」

 シュエリアの表情がみるみる苦しそうになっていく。

 おそらく理解の限界を超えて頭が痛くなってきたんだろう。

 俺も理解できない、というかしたくない。

 とはいえまあ、ここまできたら最後まで説明してやらんとシュエリアが可哀そうだから話を続ける。

「姉さんは見ての通りのブラコンだからな、俺が家を出るのが嫌で嫌で父から金を借りてそれを増やして今俺等が住んでる家を建てて、そこに俺を格安で住まわせて手元に置こうとしたんだよ」

「……あの人、馬鹿なんですの?」

「まあ、大馬鹿だな。最初こそは自分で仕事も住まいも探すって言ったんだけど、余りにも義姉さんが病んでるし色々ごり押ししてきたから結果的に家だけは義姉さんの所に格安で住むってことになったんだよ」

「な、なるほどですわ……」

 そこまで聞いて、シュエリアは大層疲れたような顔をした。

 研修終わりの疲れというより、義姉さんの話を聞いて疲れたんだろうな。

「で、結論としては義姉さんはかなりの商才を持った天才なので今となっては複数の企業を経営し、元手になる金が千円でもあればそれを短期間で好きなだけ増やせてしまうとんでもないバランスブレイカーになったわけだ」

「それ、色々大丈夫なんですの……? 経済影響とか、法とか」

「さあなぁ……まあ義姉さんは悪目立ちとかは意外と嫌う方だから、俺に好かれる範囲に留まるように一般的にありえる範囲でしか稼いでないはずだよ……多分」

「なんというか……度し難いブラコンですわね」

「だよなぁ……」

 まったく、この俺のどこにそこまで惚れ込む要素があるというのか。

 義姉さんは非凡で天才で努力家で容姿端麗。

 俺は平凡で非才で怠け者で所謂一般人ZZ。

 どうみても欠片もつり合いが取れてない。

 義姉さんのブラコンを知っている人にはなんでそこまで弟のことを……と思う人しかいない程だ。

「まあでも、それだけユウキを大切に思っている人の元でなら安心して働ける気はしますわね」

「ん、そうか?」

「えぇ、だってシオンはなんだかんだ言っても、わたくしや他の子に対してユウキとの心の距離を近づけないよう脅しては居るけれど全て牽制というか、本気で害する気はないようですし、それは自身に対するユウキからの評価が下がることを知っている、というのがあるのだと思いますわ」

 なるほど……つまり俺を好きなうちは好かれたいとか嫌われたくない気持ちが強くて下手なことはしないと。

 まあ、そうでなくても義姉さんはああ見えても基本は常識人だから大丈夫なのかもな。

「まあでも、本当にユウキとそういう仲になったら確実に抹殺されるでしょうけど」

「それは……ありそうで困るな」

 でもそれってつまり俺に姉さん以外との恋愛の自由はないってことだよな……?

「ま、これからもこの店で暫くはがんばりますわ?」

「おう、そうだな」

「そしてキツくなったらすぐに辞めますわ。現代の若者方式ですの」

「そこは真似すんな」

 たく、このエルフは結局のところ、真っ当に働く気はないのか……。

 たとえそれが身内の経営する安心な職場でも。

 たとえそれが自身の抱えるエルフであるという不利を抱えても働ける唯一の職場でも。

 それがこのエルフ、シュエリア・フローレスなのかもしれない。

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