温泉の話ですわ
久し振りにシュエリア視点です。
「はふぅ……いいお湯ですわ~」
「です~ね~」
「にゃー……熱いですっ……」
「アイネって熱がりなのねぇ」
「猫舌っていうくらいだしね、熱いのは苦手なんじゃないかな?」
いつも通りの日常に、いつもと違うお風呂を楽しむわたくし達。
今ここにはユウキはいない、まあ女湯だから当たり前だけれど。だから何かと言われたら、特に何もないが。強いて言うならちょっと物足りないかも知れない。
「別に熱いのが特別に苦手なわけでは無いですよっ。好きかと聞かれたら嫌いですがっ」
「あっちに水風呂あるけどそっちの方がいい?」
「それはそれで嫌ですっ」
「猫って水嫌がるわよね」
「本能的に駄目な気がするんですっ」
なるほど……本能ね……。
「でも水は飲むわよね?」
「う? はい、飲みますよっ」
「でも苦手なんですの?」
「うー、飲むのはいいですが、濡れるのは嫌ですねっ」
「ふうん、じゃあ今ってやっぱり嫌なんですの?」
「そうですね……髪が濡れて肌に張り付く感じが非常に気持ち悪いですっ」
そういってアイネはブルブルと頭を振っているが髪が乱れてやたらと肌にくっ付くだけで何も解決しているように見えない。
「にゃあ……」
「うーん、やっぱりアイちゃんはお風呂あがった方がいいんじゃない? 体もキレイにしたんだし、ね?」
「うぅ……そうしますっ」
「なら~わたし~も~」
「トモリさんもですかっ?」
「わたし~も~ご一緒~します~」
「! ありがとうございますっトモリさんっ」
話がつくと、そそくさと二人で風呂場を出ていく魔王と勇者。ホント仲いいですわね、あの二人。
「もう既に三人しかいないですわね……」
「まあ実際、浴場にも私たちしかいないしね」
「そだねー」
「シオン、まさか貸し切りにしてないでしょうね」
「したよ?」
「はぁ、やっぱり」
「え、駄目だった?」
「いえ、とってもご都合主義でありがたい話ですわ」
「あはははは」
「なんで笑ってんですの……」
シオンは笑い上戸なのか、よくわからないところで笑いだすことが多い。ユウキが居るとよく「笑うな」ってツッコまれてる。
本当に、何がおかしくて笑ってるんだか。
「あははは……はー。ホント、シュエちゃんってゆう君のお嫁さんって感じだよねえ」
「そうかしら?」
「うん、なんていうか、すっごく似てる」
「えっ……そんなに似ているかしら」
「すっごく嫌そうな『えっ』だったわね」
「そだね……普通似たもの夫婦って言われたら誉め言葉なんだけど」
な、なんでこんな困ったやつを見る目で見られているのかしら。似てるなんて言われてもあんまり嬉しくないのだけれど……変かしら……。
「シュエちゃんさ」
「なんですの?」
「周りにどんな夫婦に見られたいなーとか、無いの?」
「無いですわね」
「うわー、きっぱり言い切るわねコイツ」
「だってないもの。周りにどう見られようが関係ないですわ」
「せっかくなら仲良しに見られたくない?」
「別にどう見られたってわたくしとユウキは変わらないですわよ?」
「まあ、それはそうだろうけど。シュエリアあれよね、最近ユウキしか見えてないわよね」
「なっ、そんなことないですわ。っていうかどうしたらそういう話になるんですの?」
「いや、だって。仲良し夫婦に見せとかないと、もしかしたらユウキにちょっかい出す奴出て来るかも知れないわよ?」
「アシェとか?」
「私を真っ先に挙げるってどういうことよ……」
「悪い虫の代表みたいな女だもの」
「そういう家柄で育ってるから凄く言い返しにくいけど腹立つわね」
「でもアーちゃんじゃなくても、ゆう君に手を出す子は出て来るんじゃないかなぁ」
「シオンとか?」
「シュエちゃん私に何か恨みでも……?」
「いえだって、自分の旦那のストーカーやってる女だもの」
「うっわ、凄く言い返し辛いのが余計にムカつくね!」
なんか悪女二人が怒ってるけど、これわたくしが悪いのかしら。ハーレムって言い出しちゃったのはわたくしだけれど、それにかこつけてちょっかい出しているのは彼女達なわけで……。
普通ハーレムとか言い出されてもその提案に乗らないんじゃないかしら、まっとうな娘なら。
いえ、まあ。言い出したわたくしが言うのは憚られるから、言わないけれど。
「シュエちゃん、まだ私達はシュエちゃんとゆう君の関係を応援する立場でもあるからいいけど、そうじゃないライバルが現れたらどうするの?」
「どうするって、転がすわね」
「あんた結構物騒よね……」
「アシェに言われたくないですわ」
「私はあんたよりマトモよ……」
わたくしってそんなに変かしら。まあ、色物の自覚はあるけれど、それにしたってアシェに物騒とか言われる程ではないと思う……多分。
「そもそも、ユウキはわたくしのこと大好きだから、他の女が現れても問題ないですわよ?」
「出たわね過度な自己愛。しかも真実の愛とか信じちゃってるからユウキが浮気しないと思ってるわよ」
「そもそもハーレムやってる段階で浮気性なのは明らかなのにね」
「う、うっさいですわっ」
だ、大丈夫ですわよ……ユウキはわたくしの事大好きだし……そりゃ他の可愛い子にデレデレしやがることはあるけれど、でも、ちゃんと一線引いて、わたくしを一番大事にしてくれる……ハズ…………多分。
「ちょっと心配になってきた顔してるわね」
「うん、これはマズイね」
「……ユウキのとこ行ってきますわ」
「わー! やっぱり!! ダメダメ! ゆう君今男湯だから!!」
「貸し切りなんでしょう?! ユウキ以外に見られたりしませんわ!」
「そういう問題じゃないでしょ! あんた少しは恥じらいなさいよ!」
「アシェに言われたくないですわ! ってどこ触ってんですの!!」
アシェとシオンに抱き着かれて行く手を阻止されるが、それにしたってなんで胸とか太ももとか、こう、妙なところばかり触るのか。
「とりあえず落ち着きなさいよシュエリア! 大丈夫、ユウキならまず間違いなくシュエリアが一番だから!」
「そうそう! ゆう君は絶対シュエちゃん第一だから!」
「……そ、そう?」
『うんうん!』
ま、まあ……この二人がそこまで言うなら……大丈夫かもしれない。特にユウキをずっと見てきたシオンが言うのだから、少しは信用できる。
「っていうか自分で言っててちょっと傷ついたわ……」
「うん……ゆう君ってあれでどうあってもシュエちゃん最優先だもんね……」
「ちょ……なんで二人が落ち込んでるんですの」
よくわからないが二人して肩を落として暗いオーラを放っている。全身濡れているせいか余計に悲壮な空気までまとって。
「二人だってユウキに大事にされてますわよ」
「どの辺が?」
「え……そ、そうですわね……今回温泉行くのだって、誘ったのはユウキでしょう?」
「シュエちゃんが言い出したからじゃないの? 自分で言うのもなんだけど、お姉ちゃんゆう君にあんまり好かれてないし」
「本当に自分で言うのもなんですわね……アシェとシオンを誘おうって言い出したのはユウキですわよ」
「本当に?」
「えぇ、だってわたくしが誘おうと思ったのアイネとトモリだけだもの」
『それはそれで傷つく』
どうやらわたくしの言葉に本当に傷ついたらしく、二人とも目が死んでいる。そ、そこまで傷つくことかしら……。
「なんでお姉ちゃんを誘ってくれないのさ!」
「だってシオンはユウキに変な事しそうですもの」
「じゃあ私はなんでよ?」
「単純に忘れてましたわ」
「ひどっ!?」
そうは言っても、わたくしの言葉にいくらか納得したのか、先ほどまでの露骨に傷ついた様子はなくなっていた。
「はぁ……まあシュエリアらしい理由ではあるわね……」
「正直温泉イベントでゆう君に手を出さないかと言われたら、確実に出すから、間違ってはないよね」
「わたくしが居るから出させませんわよ?」
「うー、わかってるよー。あっ、そうだ」
「ん? またロクでもないこと思いついたんですの?」
「お姉ちゃんをなんだと思ってるのさ……違くて、ゆう君に話した? 子供の話」
「あー、しましたわよ」
「ゆう君はなんて?」
「わたくしとの後なら、いいそうですわ」
「そっかぁ、よかった!」
「いや、よくないでしょ」
「え?」
アシェの言葉に疑問で返すシオンに、正直わたくしも「よくはないわよね」と思う。
「だってエルフの妊娠率ってめちゃくちゃ低いわよ? そんなんじゃ何十年後になるか分かったもんじゃないわよ」
「そ、そうなの?」
「ま、まあ……そうですわね」
「うぅ……じゃあお姉ちゃん、シュエちゃんとゆう君の子作り応援する!」
「そういうの大声で言うのやめて欲しいですわ!」
他に誰も聞いていないとはいえ、こんな声の響く浴場で言われると恥ずかしさが増す気がする……。本当にやめて欲しい。
「はぁ……もう。このままだとのぼせそうだし、気分を変えてサウナにでも行きますわ」
「ん。なら私もそうしようかしら」
「お姉ちゃんもいくー」
そう言って二人はわたくしの後を付いてくる。……別に単独行動してもいいのに。
「それにしても、サウナってなにするところなんですの?」
「それも知らないんだね……サウナはね、我慢大会するところだよ!」
「さらっと嘘教えてるのはさっきの仕返しなの?」
「嘘なんですの?」
「嘘よ。サウナって言うのは熱気を用いた蒸し風呂で美肌効果や疲労回復の期待もできるものよ。決して我慢比べするところではないわ」
「でも我慢比べもできるよ!」
「なんでかたくなに我慢比べしたがるのよ……」
どうやらシオンは我慢比べがしたいようだが、本来の楽しみ方はそういうものではないようだ。
「我慢比べならシュエちゃんに勝てる気がして!」
「わたくしに勝ってどうするんですの」
正直負ける気はしないのだが、一応聞いておいてみよう、好奇心という奴だ。
「勝ってゆう君を手に入れる!」
「はいはい。とっとと入りますわよー」
「見事にスルーされたわね」
「うーん、駄目かぁ」
そんな無駄話をしながら入ったサウナだが……これ、結構熱いですわね。
普通にお湯に浸かるのとは違う意味で熱い。お風呂だったら長風呂できるだろうけれど、サウナはちょっと難しそうだ。
「ふぅ……結構熱いし、蒸し焼きにされてる感じがしますわね」
「それがいいんじゃない? 私にはよくわからないけれど」
「お姉ちゃん的にはもっと熱くてもいいんだけどね」
これより熱く……このストーカー何言ってんのかしら。
「っていうかアシェはよくサウナ何て知ってましたわね」
「道中グー〇ルで検索したのよ。温泉のこと、色々ね」
「そう……便利よね……グー〇ル」
「そうね」
「二人とも大丈夫?」
「何がですの?」
「いや、なんか声に覇気がないと言うか、ボーっとしてない?」
「そういえば、なんかこう、サウナって意識がハッキリしなくなるわね?」
「これも……サウナ効果なんですの?」
「あちゃー、二人とも。もう出よっか。サウナは無理して入ってると体に悪いから」
「えー、もうですの?」
せっかく入ったのにもう出るのか……もうちょっとこのボーっとした感じを味わうのもいいかと思ったのだけれど。
「入りたいならまた後で入ろうね? サウナは休憩しながら入るものだし」
「そう……なら……そうしますわ……」
そういうことなら、今は一旦休憩としよう。せっかく温泉に来たのだし、他にも楽しめることがあるだろうから。
「シュエちゃん、ふらふらしてるけど大丈夫?」
「だ、だいじょぶ……ですわ」
「全然そうは見えないわね……あ、シュエリア、水風呂よ」
「水……風呂?」
アシェの指す方を見ると、たしかにそこには水が張ってあった。ん? 水?
「なんで、温泉なのに……水なんですの?」
「あー。サウナって数分入ったら水風呂に数分入るものだからね」
「そう、なんですの?」
「そうそう、せっかくだし入ってくわよ。シュエリアもなんかボケーっとしてるし」
「ボケーっとは……余計ですわ……」
まあでも、実際熱にやられたのかちょっとボーっとするし、水風呂に入ったらすっきりするかもしれない。
「って冷たっ?!」
「そりゃあ水なんだから冷たいでしょう」
「も、もうちょっとぬるめの水かと思ってましたわ……」
「でもすっきりしない?」
「ま、まあ、スッキリした気はしますわね」
でもこれに数分も入ってたら風邪をひいてしまいそうだ。
「うぅ……なんで冬に水風呂なんか入っているのかしら」
「確かに余計に寒く感じるかも」
「そだねーじゃあそろそろまたサウナいっちゃう?」
「いかねぇですわよ……」
こんな冷たいものの後に暑いところに行ったりしたら体温調整がおかしくなりそうだ。
「でもサウナってそういう楽しみ方するらしいわよ?」
「じゃあわたくしには向いてないですわね……」
「そっかぁシュエちゃんは熱いの苦手かぁ」
「熱いのがっていうか、寒暖差があるのはあんまり好きじゃないみたいですわ」
こんなの繰り返していたら確実に体調を崩すと思うのだけど……人間は時々変な物を楽しむところがあるわよね……。
「んーそれじゃどうする? 他にも色々な効能の温泉あるけど……」
「そうですわね……それじゃあ次に……と言いたいところだけれど、アイネ達をあんまり待たせるのも悪いから、そろそろ上がりますわ」
「そうね、今頃私たちが居ないのをいいことにユウキとイチャ付いてるかもしれな……ちょっとシュエリア、その殺気怖いからやめなさい……?」
「別に殺気立ってないですわよ。ちょっとユウキの馬鹿がデレデレしているのを想像してイラっとしただけですわ」
「それが怖いって言ってんのよ……」
そんなに怖い顔していただろうか……それとも雰囲気? どちらでもいいけれど、自覚がないので怖いと言われても何を自重したらいいものか。
「まあまあ、とりあえず出よ? ゆう君は早風呂だし、もう上がってると思うよ」
「ですわね」
そうだ、ユウキは風呂を出るのが早いのだった……これでは本当にユウキの馬鹿が二人とイチャついているかもしれない。
そう思うと若干腹が立つ反面、ある発想が思い浮かんだ。
「シオン、浴衣とかあるのかしら」
「ん? あるよ?」
「そ、なら着ますわよ。ユウキ好きでしょうそういうの」
「あー、確かに好きかも」
「えっ? そうなの? じゃあ私も着るわ!」
うんうん、これならユウキもわたくしを見て喜ぶだろうし、先に出た二人より目立てるはずだ。
そもそも真打とは最後に登場するものですわ……。
そう思いながら、わたくしは浴場を後にするのだった。
ご読了ありがとうございました!
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