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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
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温泉いきますわよ

「ビバノンノンってなんですの」

「……さあ?」


 いつも通りの日常にいつもよりはいくらか理解できる発言を発するシュエリア。

 今日は温泉の話かな。


「温泉用語なのでしょう?」

「いや、それは何か違う気がするが」

「じゃあなんですの?」

「いや、何かと聞かれると、なんでもないのではないだろうか」


 特に意味のない、語呂のいいだけの言葉な気がする。


「まあ、そんなことはどうでもいいのだけれど」

「だろうとは思ってた」

「で、温泉行きたいですわね?」

「よし、行くか」

「うっわ、ノリいいですわね」

「ノリよくて『うっわ』とか言われる意味が分からん」


 なんで若干引いてんだよコイツ。


「もうちょっと嫌がられたりして話が伸びるというか、広がると思っていたのだけれど?」

「と言われてもなぁ」

「なんで温泉に行きたいのかとか、思わないんですの?」

「なんで行きたいんだよ?」

「なんとなくですわね」

「なんで聞かせた?」


 なんとなくなら別にいいじゃないか、このまま普通にいけば。


「ま、いいですわ。アイネとトモリにも声かけて、皆で行きますわよ」

「義姉さんとアシェも呼ぶか……」

「そうね。そっちは任せましたわ」

「おう、了解」


 ということで30分後。


「義姉さんが車出してくれるとは意外だった」

「この人数でぞろぞろ歩いて行くのもなんだしね。まあたまにはこういうのもいいかなぁって思って」

「シオンの運転で大丈夫なのか心配なんだけど?」

「確かに心配ですわね」

「おっと、お姉ちゃん全然信用されてないね?」


 まあ正直、義姉さんが車を自ら運転するイメージとかつかないから、俺も不安ではあった。

 ただ、この人もシュエリアみたいに器用な天才なのでなんだかんだ大丈夫そうだな。


「まあ、シオンの運転が不安なのはいいとして、温泉って結局なんですの?」

「何って、お前そんなことも知らないのか? 風呂入るんだよ、風呂」

「そんなことは分かってますわ。自宅と何が違うんですの?」

「そりゃあ、体に良い効能があるとか、露天ならきれいな景色を見ながら入れるとか、色々だな」

「ふーん、他には無いんですの?」

「知らない人と入ることになるな、大抵は」

「男女一緒に入るんですの?!」

「違うわ! 男湯と女湯で別々だけど、公共施設になるからどこそこの人かも知らない人と一緒に湯につかるって話だ」

「なるほど……」

「まあ、混浴もある場所にはあるが」

「結局あるんですのね……」

「でも大概はカップルとかがヤってるけどな」

「…………ダメじゃないかしらそれ」

「今時カラオケでもするんだから、まあ、どこでもいいんだろ」

「サラッと童貞の恨み妬みみたいなものを感じますわね」


 童貞の妬みとは失礼な。大体俺にはシュエリアが居るんだからその内童貞ではなくなるわけで……。


「他に無いんですの? お風呂に入れるだけ?」

「ん、後はまあ、コーヒー牛乳とか」

「そんなもんコンビニにもありますわ」

「いや、温泉から出て飲むコーヒー牛乳は別物だぞ?」

「そうなんですの?」

「あぁ。あとは……温泉卵なんかもあるか」

「……たまご……ブルッ」


 卵と聞いて青ざめるシュエリア。相変わらず卵にはトラウマがあるようだがアレは一応火が……通っているっていうのか、アレ。


「後はマッサージチェアとか……サウナとか、案外色々楽しめるぞ」

「ふうん、ちょっと楽しみになってきましたわ?」

「そりゃあよかった」

「……ところでユウキ」

「ん?」

「それって猫入って大丈夫なんですの?」

「…………大丈夫じゃね?」

「今の間なんですかっ」

「い、いや」


 正直ガチで猫を入れるのは問題あるが、アイネは今人の姿だし、問題ないだろ……多分。


「お風呂ならいつも兄さまと入ってたじゃないですかっ」

「いや、家の風呂と大衆浴場は違うぞ?」

「むぅっ」

「っていうかいつもっていうほど一緒にお風呂入ってたんですの? 猫なのに」

「にゃんですかそれはっ差別ですかっ」

「差別っていうか区別ですわね……」

「むむむぅっ」


 わかっちゃいたけど、風呂の話となるとアイネは弄られるよな、猫だし。


「まあ昔からアイネは俺とずっと一緒にいたから、風呂も付いてきて一緒に入ってたんだよな」

「そうですっ苦手でも兄さまと一緒なら頑張るんですっ」

「苦手なら無理しないでいいんじゃないかしら……」

「アイちゃん昔っからゆう君と離れるの嫌がる子だったからねぇ」

「苦手なお風呂より兄さまと離れる方が嫌ですからねっ」

「うらやま~しい~です~」

「どっちがですの?」

「わたし~も~アイにゃんと~入り~たいです~」

「よかったですわね、振られたわよ、ユウキ」

「今のは振られたというのか?」


 というか、振られたのは「よかった」には入らない気がする。ちょっと残念だったし。


「まあ、これから一緒に入るんだからいいんじゃない? 温泉」

「そう~ですね~」

「にゃあ、兄さまが居ないお風呂は初めてですっ」

「……あら?」

「……どうしたシュエリア」

「いえ、ならアイネは今までお風呂どうしていたのかと思って」

「あっ、それは――」

「兄さまと一緒に入ってますっ!」

「…………どうしてるんだろうな?」

「ロリコン」


 うん……こうなると思ったよ。はいはい、ロリコンロリコン。


「もうそれでいいよ」

「開き直りましたわね」

「可愛い妹と風呂入ってロリコンなら本望だ」

「私は本望ではないのですがっ」

「あら、アイネは嫌なんですの? ユウキがロリコンなら有利ですわよ?」

「それ以前に私とお風呂入ってたらロリコンってどういうことですかっ、それじゃあ私がロリっ子みたいじゃないですかっ!」

「みたいっていうか、ロリっ子よね?」

「ですわね?」

「にゃーっ!!」

「お前らアイネをからかうのも大概にな……」


 兄として可愛い妹がからかわれていたら助けてあげたいのが兄心というものだ。

 まあ、からかわれてるアイネも可愛いので言い方がちょっと控えめになってしまったが。


「アイにゃんは~大人~ですよ~?」

「そうですよっ」

「アレも~しますし~」

「にゃ?」

「アレってなんですの?」

「はい~。ゆっ君~の~シャツを~くんくん~しながら~……」

「にゃっ?! にゃーっ!! にゃーにゃーにゃーっ!!」

「トモリさん、もうギリギリっぽいので勘弁してあげてください」


 流石にこれ以上は不憫だ……にしても……いや、気にしないでおこう。


「さて、アイネもいい感じに壊れてるし……アシェの話でも聞こうかしら」

「私? 何よ? 私はアイネみたいに変な事しないわよ?」

「それとは別ですわよ。アシェはお風呂、入ったことあるんですの?」

「流石にそれはアシェに失礼だろ」

「そうかしら……?」

「そうだろ」


 いくらなんでも風呂に入ったことあるかどうか女子に聞くなんて失礼すぎるのでは。


「どうなんですの?」

「まったく、ユウキの言う通りよ? 失礼しちゃうわね」

「だよな、普通入ったことあるって」

「そうよ。こっちの世界に来てからは毎日入ってるわ?」

「そうそう…………あれ?」


 なんだろう、俺が思っていたのとちょっと違う答えが返ってきた気がする。


「アシェさんや」

「ん? 何よ」

「こっちの世界に来てからは……とはどういう?」

「そのままの意味よ?」

「つまりこっちの世界に来る前は、入ってなかったと?」

「ええ。そうよ」

「えぇ……」


 そんなまさか……これもハーラルド家の教育方針だとでもいうのだろうか……。


「あー、ユウキ?」

「……なんだよシュエリア」

「勘違いしているかもしれないけれど、お風呂には入ってなかっただけですわよ?」

「何も勘違いではなかったんだが」

「いえ、そうじゃなくて、わたくし達の世界にはお風呂、なかったのよ?」

「……はい?」


 風呂がない……世界……だと?!


「厳密には人間社会にはあったみたいだけれど、エルフは水浴びくらいしかしなかったんですわ」

「……なるほど」

「だから、別に不衛生なわけでは無くて、単純にお湯につかるとか、そういう習慣は無かったって意味ですわよ」

「え、何、私もしかして汚物扱いされてたの?」

「い、いや、そうは言わないが」

「言ってないけど思ってたわよね?」

「…………ちょっと?」

「コイツ締め上げていいかしら」

「駄目に決まっていますわ。わたくしの物ですわよ?」

「いやね。シュエリアのじゃなかったら殺してるわよ」

「すみませんでした!」


 このままだとシュエリアの見てないところでうっかり転がされそうなのでしっかり謝っておかないと……!


「まあ、勘違いだってわかったなら、許してやらなくもないわね」

「勘違いとは言え、申し訳ございませんでした」

「わかればいいのよ」

「アシェも大概ユウキに甘いですわよねぇ。蹴りの一つも入れたらいいのに。そのくらいなら許しますわよ?」

「まあ、惚れた弱みっていうヤツね。惚れてもない男なら問答無用で首落としてるわ」


 何このエルフ二人の会話。怖いんだけど……。

 その後も俺達は楽しくおしゃべりしながら暇をつぶし、数時間後。


「お喋りしてるところ悪いけど、もうすぐ目的地だよー」

「おう、了解―」


 義姉さんの言葉に皆が窓の外を見る。

 そんなに気になるもんだろうか、温泉。


「ついに温泉についてしまいました……っ」

「アイネ、無理しなくていいんだぞ?」

「いえっトモリさんが期待してますからっ」

「う、うーん、ほどほどにな?」

「はいっ」


 俺と一緒じゃないお風呂って大丈夫かちょっと心配だけど、まあシュエリア達が居るし、大丈夫か?


「っていうか義姉さん」

「んー?」

「今更だけど、ここ何処」

「あぁ、ここはお姉ちゃんの経営する温泉旅館だね」

「……まあ、そんな気はしてたけど」


 そもそも温泉に行くと話したら旅館の手配から移動手段まで義姉さんが準備してくれたので、何かあるだろうなとは思っていた。まあ、義姉さんの経営する温泉というだけで、特に問題があるわけではないが。


「ホントにシオンって何でもやってますわね」

「ふっふーん、凄いでしょう。いつかはゆう君とお泊りしようと思って始めたんだけど、いやー本当に使う日が来るとは思わなかったね!」

「何にでもユウキが絡むのはどうかと思うけど」

「まあお陰でいい温泉入れるんだし、いいんじゃないか?」

「そうそう、これでもお姉ちゃんなりにこだわってるから、きっとシュエちゃんも楽しめると思うよ?」

「それはいいですわねぇ」


 さて、義姉さんこだわりの温泉、一体どんなものなのか……。


「いらっしゃいませー! 萌え萌え旅館しおんへようこそ!!」

「帰ろう」

「ですわね」

「待って待って待って!」


 俺とシュエリアが帰ろうとすると、義姉さんが回り込んでストップをかけて来る。


「なんだよ、俺これから用事あるんだけど」

「わたくしも家に帰ってユウキと遊ぶ用事が出来ましたわ」

「なあ?」

「ねえ?」

「こんな時ばっかり仲いいね二人は! でも待って! 絶対二人とも満足いくから!!」

『えぇ……』

「うわ、凄く嫌そうにされた……大丈夫だよ! 名前はちょっとアレだけど、普通に温泉旅館の機能は果たせるから!」

「まあ、そういうことなら」

「仕方ないですわねぇ」


 まあ帰ろうにも車は義姉さんのだし、実際帰りようがないのだが。

 でも……旅館の名前と従業員のテンションがまったく温泉に来た感じがしない。ほぼコスプレ喫茶の方と変わらない気がする。


「はあ……もうちょっと真面目に名前考えとくべきだったよ……」

「問題はそこだけじゃない気がするわよ?」

「接客も~なにか~おかしいか~と~」

「というかこの方々……エルフさんですっ?」

「あ、そうそう。以前にシュエちゃんに頼まれて買った森がこの辺だからさ、その時働き口としてついでに作ったのがこの旅館なんだよねぇ」

「義姉さんが人の為になることをするとは……」

「ゆう君はお姉ちゃんをなんだと思っているのかな」

「褒めるところの少ないストーカーの義姉かな……」

「いつもの不肖の義姉からストーカーに昇格してる?!」

「昇格っていうんですの? それ……」


 言った俺自身、正直これは降格だと思うのだが、義姉さん的には昇格だったようだ。


「あの、それで、お客様?」

「あ、すみませんうちの義姉が騒がしくて」

「さらっと責任全部お姉ちゃんになすってきたね?」

「お部屋にお通しさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」

「あれ? お姉ちゃんガン無視?」

「和風の建物ってなんか新鮮ね」

「落ち着き~ます~」

「お姉ちゃんの旅館なのに超アウェーなんだけど?!」


 もう、せっかく建物の雰囲気だけは落ち着く雰囲気なのに、義姉さんが騒がしいせいで落ち着かないったらない。


「地球に居るうちは義姉さんはずっとアウェーだろ」

「お姉ちゃんのホームは地球外なの?!」

「そこの馬鹿姉弟うるさいですわよ」

「俺を義姉さんと一纏めにしないでくれ」

「あー、はいはいですわー」


 ぬぅ……俺まで義姉さん側に纏められてしまった。


「お部屋はこちらになります」

「案内ありがとうございます」

「いえ、それでは。ごゆるりと」


 仲居さんがさった後、部屋に残ったのは俺達6人……ん? 待てよ、これって。


「義姉さんや」

「何かなゆう君」

「俺の部屋は?」

「ここだよ?」

「……まさかと思うけど、同室?」

「うん」

「えぇ……」


 男一人、女五人で一部屋って何考えてんだこの阿保は。


「あら、ユウキはわたくしと一緒は嫌なんですの?」

「それはないが」

「じゃあ何が問題なのよ」

「何がって……いや……うーん」

「ハーレムなんだし、問題ないんじゃない? ゆう君」

「うっ……ま、まあ……」


 色々倫理的に問題がある気がするが、それを言い出したら他にも倫理的問題が山積みになりそうなので触れないことにしよう。


「まあ、ユウキの言いたいこともわかるけれど、そんなことよりも大事なのはアレですわよ?」

「ん? アレ?」

「そう、アレ…………。温泉ですわ!」

「あ、あぁ」


 そう言って部屋をさっさと出ようとするシュエリアに荷物を部屋に置いてそそくさと付いてくハーレムメンバー達を見ながら、俺は思う。


 温泉回って俺の出番ないのでは? と。


ご読了ありがとうございました!

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次回更新は火曜日です。

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