こたつですわ
「三が日ですわねぇ」
「だなぁ」
「にゃ~」
「にゃん~」
「なんか猫多くない?」
「それトモちゃんだよ」
いつも通りの日常にいつものメンバー。
今日は皆でこたつに入ってまったり団らんだ。
ちなみに配置は俺の左隣にシュエリア、上にアイネ、右隣にトモリさん、俺の真正面にアシェで義姉さんは左手側に座っている。
「なんでトモリまでにゃんにゃんにゃーにゃ―言ってるのよ」
「にゃん~?」
「トモリさんも兄さまに愛される猫になりたいそうですっ」
「今の短い一鳴きにそこまでの意味が?!」
「いや、これは事前に話してあったパターンだろ」
まあ。もしかしたら意味があったのかもしれないが……。
でも、流石にただにゃんにゃん言ってるだけだしなぁ。
「トモちゃんの猫耳いいなぁ、お姉ちゃんもしたらゆう君に愛されるかなぁ」
「ない」
「あはは、駄目かぁ」
「何か今日は随分ノリが軽いわね」
「んー? なんかーこたつでダラーっとしてると、どーでもよくなっちゃってー」
「義姉さん昔からこたつ入ると極端にダメ人間化するから」
「元からダメ人間なのに?」
「そう」
「うわーひどいー」
「……本当に駄目そうですわね」
義姉さんの余りのダメっぷりにシュエリアが呆れている。
この人昔からこたつ入ると極端にだらけてこうなっちゃうんだよな。
「私的には猫の姿じゃないのにユウキに乗っかってるアイネも気になるんだけど」
「にゃ?」
「アイネは俺の上に居るのはいつものことだから」
「はいっ」
「あ、でも、今日は猫耳出てるな」
「トモリさんとお揃いですっ!」
「にゃん~」
「なるほど?」
よく見るとアイネのも頭につけるタイプの猫耳で偽物のようだ。
っていうかアイネは本物の猫なんだから普通に耳出しとけばいいだけなのでは。
「それで、ユウキ」
「んー?」
「三が日ですわ?」
「だなぁ」
「にゃー」
「にゃん~」
「なんか猫多くない?」
「それトモちゃんだよ」
「この会話ループさせる気ですの?」
「どうだろう」
シュエリアは周りの反応に「相変わらず妙に連携取れてますわね」と呟くと「ふはぁー」と長い溜息をついた。
「で、三が日がどうしたんだ?」
「あー……そうですわ。初も……」
「ん? 初詣がどうした?」
「……めんどくさいですわ」
「行かなけりゃいいだろう」
自分から言い出して言い切らずにめんどくさくなっちゃう俺の彼女ぐうたら可愛いな。
「えー、お祭り騒ぎしたいですわー」
「どっちなんだよ……」
行きたいのか行きたくないのか、どっちかにしろよ……。
っていうか初詣はお祭り騒ぎするものではない。
「あっ、ユウキ」
「ん?」
「カニ……」
「カニ?」
「食べたいですわ」
「ふむ」
カニか、そういや正月だから蟹だの寿司だのおせちだのと色々用意してあったな。
「持ってくるわ」
「ちょっと待ちなさい」
「んだよ」
「あんたよく何もなしにこたつ出ようとできますわね」
「というと?」
「普通ここはこたつを出るのを嫌がってじゃんけんとかするでしょう」
「えー、いいよ、俺行くし」
「……つまんないですわー」
「はいはい」
なんて、とりあえずシュエリアは無視して俺は正月用の馳走、おせち等と取りに行こうと思ったのだが。
「……アイネ?」
「にゃ?」
「立つからどいて欲しいなぁと」
「こたつから出たくないですっ!」
「うーん」
困った、アイネは俺の上に居るからどいてもらわないと動けない。
「猫の姿でこたつに入るのはどうだろう」
「にゃ……それはそれで魅力的ですがっ」
「うんうん、じゃあそういうことで」
「にゃにゃ?!」
俺はアイネとの話を終わらせると、そそくさと立ち上がった。
アイネは若干不満そうだが、渋々猫の姿でこたつに吸い込まれていった。
「他に何か欲しい人?」
「お姉ちゃんミカン~」
「私紅茶が欲しいわ」
「にゃん~」
「最後のだけわからん」
トモリさんじゃなければ……アイネなら何言ってるかわかるんだが、トモリさんだとただ「にゃん~」と言ってるようにしか聞こえない。
「というか一緒に来るんですね、トモリさん」
「にゃー」
「今日ずっとそれですか……?」
俺の言葉に「にゃ」と返すトモリさんに、今日は意思疎通が難しそうだと感じる。
いや、だって、アイネじゃないと何言ってるかわからないし。
これ言ったらシュエリアあたりに「猫バカ」って言われそうだけど、事実アイネのはわかるんだよなぁ……しぐさとか鳴き声の感じで。
「うーん」
「……駄目~ですか~?」
「うおっ喋った」
急に喋られてなぜかビックリする俺。今日はずっとこの調子かと思っていたから助かるけど。急に素に戻るからなぁ……って、こっちは素じゃないか。
「駄目ではないんですが、意思疎通に難がですね」
「にゃあ~」
「うん、わからん」
「にゃぁ~」
「まあ、可愛いんですけど」
トモリさんが「にゃーにゃー」言っている姿は可愛らしくはあるのだが、それでも意思疎通困難なのが痛すぎる。
「可愛いけど、話せないんで、語尾だけ猫っていうのはどうでしょう」
「にゃ~る~ほど~にゃ~」
「もう既に語尾だけじゃねぇ」
いや、可愛いけど! 可愛いけども!!
「まあ、そんな感じでお願いします」
「はいにゃ~」
なんか美人でスタイル抜群なトモリさんが猫耳で「〇〇にゃ~」とか言ってるとコスプレ臭というか、大人の世界の匂いがしなくもないが……まあ、いいだろう……多分。
「それで、話している間にもあらかた準備はできたんですが、トモリさんは何かありますか? 食べたいもの、飲みたいものとか」
「お酒~ですにゃ~」
「好きですね、お酒」
「にゃ~」
俺の言葉に同意したんだろうな、今のは。
これだけはなんとなくでわかったわ。
「じゃ、戻りましょうか」
「はい~にゃ~」
ということで、戻ってきたシュエリアの自室。
「カニ持ってきたぞ」
「大義ですわ」
「大げさな」
「紅茶はあるの?」
「あるよ、ほれ」
「ミカンー」
「あぁ、はいはい」
「兄さまっ」
「わかったわかった」
みんなに呼ばれてさっさと持ってきたものを分配する。
なんか一人だけ俺を要求してきた子がいたが。俺がこたつに入るとまた上に乗っかってきた。
「カニ、多いですわね」
「そりゃあ人数分あるからな……」
「ふむ……あら?」
そう言ってシュエリアは皆にカニを分けると、一杯残っているのに気づいたようだ。
「なんか一杯多いですわよ?」
「それお前の分」
「あら」
「お前なら食うかなぁと」
「そろそろユウキもわたくしの扱いが本格的に良くなってきましたわね?」
「まあ、一応未来の嫁さんだしな」
「一応は余計ですわよ」
コイツが食い意地張ってるのはよく知っているので、一人多めにしておいたのだ。
まあ他のメンバーからブーイング覚悟の上でやっているので、その分、他のメンバーにはサービスよくするつもりでいたんだが。
「(思いのほか誰からもブーイングがない)」
これはこれで怖い。
なんか全員して後で、ここでは口にできないような何かを要求してくるんじゃないかと思ってしまう。
「それじゃ」
『いただきますっ』
皆で声をそろえて食べ始めたカニであった、が。
これがあんまりよろしくなかった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
全員無言。
カニを食べるとき皆無言になっちゃうよね、うん。
で、まあ……。
この絵面、非常によろしくない。
メタ的な意味で。
「全員無言とかノベルとしてどうなんだ」
「なんの……話ですの?」
「メタの話だよ」
いくらカニ食ってるとは言え、全員無言はまずいだろ。
これがバラエティ番組なら放送事故だぞ。
「んしょっ……ゆう君ゆう君」
「ん?」
「カニ剥いたよ! 食べて食べて!」
「まさかのカニ」
「?」
いや、正直なんか一生懸命剥いてるからミカンでもくれるのかと思ったらカニだったからついツッコんでしまった。
カニ剥いてもらうなんてそんなに無いんじゃないかな。どうかな。
「紅茶入ったけど、要る?」
「カニに紅茶」
「要らないと」
「要る」
「最初から素直にそういいなさい?」
そう言ってアシェが淹れてくれた紅茶を頂く。
……うん、落ち着くな、この感じ。
「あっ、もしかしてミカンがよかった?」
「今気づいたか」
「あ、わたくしも欲しいですわ」
「じゃあシオンが全員分剥くということでいいわね」
「アーちゃんサラッと人をパシろうとするよね……」
などと会話している間、アイネは俺の膝の上で甘いおせちを食べ。トモリさんはお酒とカニを堪能していた。
うーん、なんというか、正月から妙に騒がしいな……。
「とりあえずミカンくれ、義姉さん」
「駄目! ゆう君のはお姉ちゃんが剥いてあげるの!」
「は? ユウキのはわたくしの物ですわよ?」
「シュエリア、それ意味違うから」
まったく、どうしてこうも騒がしいのか。
ミカン一つ貰うのに手間が掛かるもんだ。
はぁ、なんていうか、こう。
「……正月……早く明けねぇかな」
「何言ってんですのユウキ、まだ初詣も行ってないじゃない」
「……行くのかよ」
こうして、俺と愉快な仲間たちの正月は騒がしくも始まったのである。
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次回更新は火曜日です。