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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
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新年の、あいさつですわ

「新年あけましておめでとうございま――」

「なんで初詣じゃないんですの?」

「――お前は黙ってろ」

「…………あら」


 俺の新年のあいさつにわけわからん戯言を重ねて来るシュエリアにツッコむ。

 しかしこれはまずい、この場でこれはまずかった気がする。

 何故って。


 ここはシュエリアの母、エルゼリアさんが住まう日本の住居、フローレス邸で、今目の前にいる人こそ、この阿保エルフの母であり元エルフの国の女王である――


『エルゼリア・フローレス』さんだからだ。


「彼女の親の前でもそのツッコミ、いいですわね、ユウキ」

「お前なぁ」

「ふふっ、怒った顔もいいですわ」

「……お前なんか浮かれてない?」


 なんかいつもと微妙に違うシュエリアに悪寒が走る。

 もしかして母に彼氏を紹介するとあってちょっと舞い上がっていたりするんだろうか。


「シュエリア、貴女随分とこの方と仲がいいのね」

「えぇ、だってこれ、わたくしの未来の夫だもの」

「え…………これが?」

「えぇ。これが」

「これっていうのやめろ?」


 そう言っても、一瞬親子で目を合わせると「これが?」「これが」と相変わらず「これ」の応酬をする二人。

 なにこれ、俺、フローレス邸に来る段階でアウェーなのはわかってたけど、まさか嫁まで敵側だとは思わなかったわ。


「相変わらず勝手ね、貴女は」

「お母さまも若いころは好き勝手してたって聞きましたわ?」

「……まあ、そんなこともあったわね」

「でしょう? ならいいんじゃないかしら。今更、国も姫も無いのだし」

「……それもそうね。相手がこれだけど」

「話はやっ」


 思ったより速攻で話に決着が付きそうだぞ。

 俺は未だに「これ」扱いだが。


「まあ、私が良くても、妹達は反対するでしょうね?」

「あー……めんどくさっ。お母さまから言ってもらえると楽ですわ?」

「いやよ。めんどくさいもの」

「…………」


 もしかしてこの親子、めちゃくちゃ似ているのでは。

 よく見ると容姿もシュエリアがまんま大人になったような感じだし。

 違うのは胸のサイズくらいか……母は平なんだなぁ。


「こいつ今お母さまの胸を平とか思ってましたわよ」

「言ってねぇよ?!」

「思ってはいたでしょう?」

「……まあ」

「ほら、こういう素直で面白い奴なんですわ」

「貴女、母の前で恋人の印象が悪くなるようなことよく言えるわね……」


 シュエリア母にツッコまれて「何が?」と首をかしげるシュエリア。

 コイツ的にはアレでも褒めているつもりなんだろうなぁ……。


「まあいいわ、娘の事よろしくね。えーっと」

「ユウキです。結城遊生です」

「劇団ひ〇りみたいな自己紹介ね」

「あ、今本当にシュエリアのお母さんなんだなって思いました」


 すげえ納得できるツッコミだった。

 一瞬シュエリアに言われたのかと思うくらい。


「ていうか今までなんだと思ってたんですの?」

「シュエリアとは似ても似つかない大人の女性だなぁと」

「あんたはっ倒すわよ」

「まあまあ、本当に仲がいいわね」


 俺達の様子を微笑ましそうに眺めながら言われるその一言はなんというか、母の愛のようなものを感じた。


「ユウキさん」

「はい」

「シュエリアは才能はあっても器量のいい娘ではありませんが」

「あぁ……なんとなくわかります」

「なんかすごーく失礼なことを言われた気がしますわ?」

「――ですが、いい意味で面白い子なので、飽きるまでよろしくお願いします」

「飽きるなんてとんでもないです」

「お母さまー? 褒められてる気しませんわよー?」


 俺とエルゼリアさんの話にちょいちょいツッコミを入れて来るシュエリア。

 しかし、おかげで少しここでの会話に慣れた気がする。

 なんというか、こう、シュエリアを二人相手にしているような感じだ。

 まだエルゼリアさんの方が大人なだけ話が分かる感じがするが。


「さて、シュエリア?」

「なんですの、お母さま」

「私からは尺の都合上すぐに許可は出しましたが、まさかこのまま上手く行くとは思っていないわよね?」

「尺の都合」

「……まあ、このままで行ったら確実に妹共に台無しにされますわね」


 いやまて、まずエルゼリアさんの「尺の都合」っていうところにツッコめよ。

 俺のツッコミを盛大に無視したシュエリアにそう言いたいが、それはそれで話が進まなくなりそうな気がするのでやめておく。


「えぇ。だから、帰る前に会っていきなさい?」

「わかってますわ……はぁ。めんどくさ」


 そう言って一層深い溜息をつくシュエリアに、一体どんな妹達なのか心配になってきた。


「それじゃ、とっとと話を付けたいから行ってきますわ。あの子達、どこですの?」

「アーとルーなら二人の自室に待たせてあるわ」

「あぁ……あの子達相変わらず部屋が同じなのね」


 そう言ってシュエリアは俺を連れて部屋を出た。


「なあ」

「なんですの?」

「アーとルーって誰」

「前に話した妹、アリアとルリアですわ」

「ふむ……。これからその子達に会うのか?」

「えぇ、そうですわ。あの子達、わたくしのことになるとリセリアよりしつこいから気を付けるんですわよ?」

「お、おう……っていうか、お前ホント妹達から好かれてんのな」

「好かれているっていうか……んまあいいですわ、そんな感じで」

「?」


 なにやらシュエリアの反応を見るに好かれているというのとは違うようだが……。

 ほんと、一体どんな姉妹なのだろうか。


「あ、ここですわね――入りますわよ」

「え、ちょっ、いきなり入っていいのか?」

「あー、大丈夫ですわよ。どうせ――」

『シュエリアお姉さま!』


 シュエリアの言葉に被せるようにシュエリアの名を呼んだのはツインテールのちっこいシュエリア二人だった。


「久しぶりね。アリア、ルリア」

「姉さまこそ――」

「お元気そうで――」

『何よりです!!』

「……おぉ」


 なんかこの二人、凄く息があってるな。


『って、なんですかこの男は』

「ん、わたくしの旦那ですわ」

「どうも」

『…………。…………はぁ?!』


 見事な間、見事なハモリだ。

 まさかこの二人。


「この子達って双子?」

「流石ですわねユウキ。正解ですわ」

「ふむふむ、なるほどなぁ」


 今まで美少女の双子とか見たことなかったけど、これはスゴイものだな。


「双子とか好きですの?」

「んや、特には」

「そう」

『何を悠長に駄弁ってるんですか姉さま!』

「何をって、旦那の趣味趣向の話?」

『それよりこれが旦那という話の方が問題です!』


 また「これ」って言われちゃったよ。

 エルフから見ると俺って「これ」扱いが丁度いいんだろうか。


「別にいいでしょう? 面白い奴ですわよ。ユウキは」

『シュエリアお姉さま、男選びは面白さではありません、誠実さです』

「俺が誠実ではないと」

『他に複数の女の香りがします』

「あら正解。この子達凄いですわね?」

「他人事かお前」

「いえだって、素直に凄くない?」

「……すごいけど」

「ですわよね?」

『仲良さそうにするな!』


 おっと、シュエリアの阿保の所為で双子ちゃんに怒られてしまった。


「仲良さそうというか、仲いいのよ? 結婚するくらいには」

『そんなの許せません! 大体この男のどこが――』

「相変わらず息ピッタリねこの子達、一糸乱れず言葉が被ってるもの」

「お前話聞いてやれよ……」


 思いっきり双子ちゃんの話に被せて感想を呟くシュエリアに流石に苦言を呈する。


「でも息ピッタリよ?」

「まあ、確かに」

「でしょう?」

「うん」

『だから! 二人だけで話をしないで!!』


 またまた、シュエリアの阿保の所為で怒られてしまった。

 ていうかシュエリア、絶対わざとやってるだろ。めっちゃ笑ってるし。


『……シュエリアお姉さま、本当にこんな男を選んだのですか?』

「えぇ、そうよ?」

『この男からは他の異性の香りもしますが?』

「それわたくしがそうしろって言ったんだもの」

『え?』

「いえ、だから、わたくしが他の女にちょっかい出すように言っているのよ」

『え?……………………え?!』


 うん、混乱するのも分かる。

 普通自分の惚れた相手に、他の異性にも手を出していいとかいう阿保、居ない。


「わたくし含めて、5人は囲ってるわよ、この男」

『5人も?!』

「いやあ、ははは」

「なーに照れてんですの」

「いや。なんか改めて言われると俺って意外とモテるんだなぁと」

「なんか腹立つわねコイツ」

『腹立つといかいうレベルじゃないです!!』


 そう言って憤る双子ちゃん。

 うーん、これ以上怒らせたら話できなくなるのでは。


「まあ、無駄話はさておき」

『無駄話になったのはシュエリアお姉さまの所為ですが』

「わたくし、ユウキと結婚するのは告げたから、もう帰りますわね?」

『へ?』


 これには双子ちゃんだけでなく俺も驚いた。

 え、何言ってんのコイツ。


「さ、帰りますわよ、ユウキ」

「え、ちょっ――」

『待ってください!!』


 シュエリアが俺を連れて部屋を出ようとすると、双子ちゃんが立ちはだかった。


「……ふぅ。なんのつもりですの?」

『このまま帰すわけにはいきません』

「ま、まあそうなるよな」

『当然です!!』


 俺の言葉に余計に怒った様子を見せる双子ちゃんに、これ以上何を言っても怒られそうな気がしてきた。

 が。


「ふん……アリア、ルリア」

『なんですかシュエリアお姉さま』

「一応、忠告してあげますわ」

『……?』


 双子ちゃんたちが後に続くであろうシュエリアの言葉を待ち、首をかしげると、シュエリアは目を細め、今まで聞いたことの無いような恐ろしい声色で言い放った。


「どきなさい、これ以上わたくしのユウキとの道を邪魔するなら、殺すわよ」

『…………っ!』


 シュエリアの言葉に、その存在感、圧に負けた双子達が、膝から崩れ落ち、それでも抵抗の意思を見せると、その様子を見て、シュエリアが俺の手を引っ張り、部屋を出ようとする……。


 でも……これは。


「駄目だ、シュエリア」

「……なんですの?」

「これじゃあ駄目だ」

「……ユウキ、今わたくし凄く機嫌悪いですわよ?」

「まあ、そうなんだろうな」

「わかってるなら邪魔しない方が賢明だと思うけれど」

「それも分かってる」

「なら――」

「でも、それでも。これじゃあ駄目だ」

「…………はぁ」

『……?』


 俺とシュエリアが言い争っているのが不思議なのか、涙目の双子ちゃんから見上げられる俺。

 うん……やっぱりこれはよくない。


「シュエリア、これじゃあこの子達に、俺達の結婚を認めてもらったことにはならない」

「それはそうよ、この子達にその気はないもの」

『その……通りです!』


 そう言うと、シュエリアからの圧が解けて立てるようになったのか、立ち上がりシュエリアの言葉に同調する双子。


「それでも、脅して意見を押し通すのはよくない」

「……はぁ。わかりましたわー」


 そう言ったシュエリアはガチ目に呆れた様子だった。

 俺そんな呆れられるようなことしてるか?


「でも説得はユウキがするのよ? もし駄目なら、押し通すまでですわ」

「ふぅ……それでいいよ」


 いや、本当はよくない。

 よくないから、何とかして俺が説得しなければならない。


「なあ――」

『嫌です!』

「……シュエリア?」

「(プイッ)」


 俺の助力を求める視線に顔を背けるシュエリア。

 ……これ説得の余地ねぇな?


「話だけでも――」

『嫌です!』

「――聞いて……もらえねぇ」


 何この無理ゲー。


「シュエリア」

「なんですの?」

「帰ろう」

「ですわよね」

『この男最低です?!』

「君らに言われたくない!!」


 話も聞かずに「嫌だ嫌だ」と否定だけしてくる相手に「最低」とか言われちゃったよ俺。


「そう思うならせめて話を聞いてくれ」

『ぐっ……わかりました……シュエリアお姉さまには勝てる気しないですし』

「それ俺には勝てるという?」

『だって絶対弱いじゃないですか』

「……まあ、弱いけど」


 確かにエルフに勝てるほど優れた性能は無いしな、俺。


「っていうか何故暴力で決める前提なのか」

『話が通じないからです』

「それ自分で言う?!」


 なんかこの子達もシュエリアの妹っぽさが感じられるな。

 なんというか、人の話あんまり聞かない感じとか。


『でもこのまま帰られるわけにもいかないですし……はぁ……仕方ないですね』

「お、気が変わってくれた?」

『はい』


 どうやら俺との会話で少しは落ち着いてくれたのか、気が変わったらしい双子ちゃん。


『シュエリアお姉さまと、本当に愛し合っていると証明してくれたら、認めます』

「ふむ……なるほど」


 シュエリアと愛し合っている証明……か。


「シュエリア」

「えぇ、わかってますわ。ショートコント――」

「――痴話喧嘩……って違うわ!」

「え?」

「いや、え? じゃねえよ! なんで愛情を示すのにショートコント?!」

「夫婦漫才で仲を見せつけるんじゃないんですの?」

「無理言うな! 打ち合わせもしてないのにんなもんできるか! 普通にキスとかでいいだろ!」

「普通にキスするの嫌ですわ」

「お前俺の事好きなんだよね?!」

「初めては結婚式って決めてますの」

「……っ……あぁ、そういう……」

『…………ジー』

「はっ?!」


 この、この視線は。

 今までアイネ達からも幾度となく浴びせられた「何イチャついてんだよ」の視線!


「ま、まさか」

「ふっ……計算通りですわ!」

「マジか?!」

『……はぁっ。もういいです』


 シュエリアの天才的(?)発想に驚く俺と呆れる双子。

 でもどうやらこれで認めて貰えたようだ。


『お二人が漫才を愛しているのはよくわかりました』

「違う理解を深めてしまった!」


 どうやら盛大な誤解を受けているようだが、そういうのが大好きなのはシュエリアであって、俺ではない。

 いや、まあ、俺も好きではあるが。愛していると言うほどではない。


『冗談です』

「じゃなきゃ困るよ……」

『ふふっ』


 ここに来て、ようやくこの双子の笑顔を見れた気がする。

 シュエリアに似ているだけあって美しくも可愛い笑顔だ。

 まあちびっこいので可愛い方が強めな気がするが。


『シュエリアお姉さまがお幸せなのはわかりましたし……それではユウキさん』

「はい」

『シュエリアお姉さまをよろしくお願いします』

「ん。おう」

『あと、リセリア姉さまには私達から言い聞かせておきますね』

「あら、助かりますわ」

『シュエリアお姉さまの幸せの為ですから!』


 こうして。

 俺とシュエリアの関係はようやく、家族公認の物へと変わったのだった。


ご読了ありがとうございました!

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次回更新は金曜日です。

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