この時期にクリスマスの話ですわ
「今日は性夜ですわね」
「いきなりアウトー」
いつも通りの日常にいつも通りのシュエリア。
今日は12月25日。クリスマスという奴だ。
「今日は性夜ですわねぇ」
「なんで二回言った」
シュエリアはうんうんと頷きながら俺を見る。
「そろそろプロポーズとか欲しいですわね?」
「唐突だな」
「クリスマスってムードがあると思わないかしら?」
「まあ、あるな」
「プレゼントに指輪とかも素敵ですわよ?」
「ま、まあ……」
……困った。
これは非常に困った。
「期待してますわよ?」
「知ってる」
うん……どう見ても期待されてるし、正直クリスマスにもなればこういう話になるかなとも思っていた。
なので……。
「(実は指輪はあるんだよなぁ)」
指輪は準備したのだ。
したのだが……。
「ふんふんふ~ん。性夜~クリスマス~指輪~プッロポーズ~」
「…………」
とても、とても渡しにくい。
祭り好きのシュエリアがクリスマスにテンションが上がるであろうことはわかっていた。
だからこそ、楽しい気分に合わせてプロポ―ズしようとも思った。
思ったのだが……。
「るんるんる~ん」
実際このテンションのシュエリアを前にしたら、凄く言い出しにくくなってしまっていた。
何故って……その。
気の利いたプロポーズのセリフを、考えていないのである。
「それで。ユウキの今日の予定は?」
「え、そうだな……」
「じーっ」
「……デートしないか、シュエリア」
「待ってましたわ!」
うん……だろうね。
目が雄弁に物語ってたよね。
「ということで、どこ行こうか」
「…………」
「シュエリア?」
まずい、もしかして俺が予定を組んでいると思っていたのだろうか。
こういう時、やはり男性側が巧くリードすべきだったか?
「おーい、シュエリアさーん」
「……ですわ」
「ん?」
「ケーキ屋がいいですわ」
「でた食い気」
コイツの事だからクリスマスともなればケーキと言い出すだろうとは思っていたが、まさかこんなに早い段階で言ってくるとは。
俺の勝手な認識だが、大抵どこのご家庭もクリスマスパーティをしたり、クリスマスケーキを頂くのは夜だと思うんだ。
だから言われてももっと後だと思っていた。
というか。
「一応言っておくがクリスマスケーキなら用意があるぞ?」
「別にクリスマスケーキが欲しいわけでは無いですわ」
「ん。そうなのか?」
なら一体何故クリスマスに、わざわざ混んでいそうなケーキ屋に行きたがるのか。
「朝からケーキを食べるという贅沢をしたくなっただけですわ」
「さいですか」
「さいですわ」
そんなのわざわざクリスマスでなくてもいいだろうに。
それこそクリスマスが終われば余り物が安く売られるし……。
まあ、デートプランも浮かばない俺の言えたことではないか。
「さ、行きますわよ」
「ん、おう」
シュエリアの言葉に答えると、俺はシュエリアの手を握って歩き出した。
「うわー当たり前のように握って来るわね」
「ダメか?」
「いえ、いいけど、なんか慣れられてる感じがして腹立つわね」
「えぇ……」
手を繋いで怒られるとか、俺の彼氏としての立場は大丈夫なんだろうか。
「次からは繋ぐ前にもうちょっと躊躇ったり、確認を取ったりしなさい?」
「はあ」
どうやら俺の彼氏レベルは「確認しないゃ手を繋げない」レベルのようだ。
「それで、どこのケーキ屋さんにいくんですの?」
「一番近場なら不〇家だな」
「せっかくのデートを近場で済ませようと?」
「ダメ?」
俺の言葉に、思いのほかしばらく悩んだ後、シュエリアは答えた。
「寒いからとっとと買って帰るわよ」
「よしきた」
ということで15分後、不二〇。
「ユウキ」
「んー?」
「混んでますわ」
「お前馬鹿なのか」
そりゃそうだろう、今日はクリスマスだぞ……。
「とりあえず、ゆっくり品定めでもしておけ」
「ショートケーキがいいですわね」
「もう決めてるし」
「好きなんだもの、ショートケーキ」
「さいですか」
「さいですわ」
まあ……注文決まってるなら、あとは順番を待つだけだな。
「…………」
「…………」
なんだろう、この沈黙は。
周りの喧騒に対して静かすぎる所為で微妙に耐えかねる空気だ。
「ユウキ」
「何かな」
「ここら辺で一つ、面白い話で暇をつぶしてほしいですわ」
「ハードル高っ」
面白い話で暇をつぶせとか……なんて無茶振りを。
まあ、こんなこともあろうかと、俺は常日頃からネタを仕入れているわけだが。
「……世は大海賊時代……男達はワン〇ースというひとつなぎの大秘宝を――」
「ストップ」
俺の『面白い話』に待ったをかけるシュエリア。
なんだろう、何か気に障っただろうか。
「どうしたんだシュエリア。まだ物語は始まったばかり……」
「あんたそれどこまで語る気なんですの?」
「今週号のジャ〇プまで?」
「一日あっても足りませんわ!!」
俺の発言に痛烈なツッコミを入れるシュエリアに、しかし俺は納得しかねていた。
「面白い話しろっていうから」
「そういう意味じゃねぇですわ! よく人様の話パクろうと思うわね!!」
「じゃあアラバ〇タ編だけ聞く?」
「ヒトの話聞きやがれですわ?!」
そういって俺の手をギリギリと強く握りしめるシュエリア。
「痛い痛い痛いっ」
「他に、面白い話は?」
「……ったた……実は俺の彼女が暴力女でいたたたたっ!!」
「ほ・か・に・は?」
「……うぅ……無いかな」
「ったく、使えない奴ですわね」
そう言いながらもちょっと楽しそうな辺り、この絡み事態には満足いただけたようだ。
俺の手が犠牲になったが。
「なんて、話しているだけでも結構列が進んだわね?」
「そうだな」
見ると、俺達の番までもうあと二人といったところだ。
「シュエリアはショートケーキでいいとして、アイネは何がいいかな」
「アイネはユウキと同じがいいんじゃないかしら」
「ふむ……なるほど」
「で、トモリはチーズケーキね、バイト先でいつも食べてるから」
「なるほど?」
そういえばアイネとのデートの時にも食べてたな、トモリさん。
「っと、ほら、注文はよ」
「あぁ。ミルクレープ2つと、チーズケーキ1つ。ショートケーキを……3つお願いします」
俺が注文を終えると「かしこまりました~」と言った店員さんが凄まじい速度でケーキを用意し、俺達に差し出してくれた。
『ありがとうございました~!』
俺とシュエリアは店の邪魔になっては悪いので、用も済んだしとっとと店を出て、帰路についた。
「なんでショートケーキ3つなんですの?」
不〇家からの帰り道、シュエリアにそう尋ねられた。
「なんでって、食うからだろ」
「そう。わたくしの分を3つ用意するなんて良い心がけですわね」
そういって「うんうん」と満足気に頷くシュエリアだが、違う。
「これ、義姉さんとアシェの分だよ」
「は? なんであの二人なんですの?」
「露骨に機嫌悪くなったな。今日はクリスマスだろ。多分来るじゃん、あの二人も」
「……まあ、そうですわね」
「アイネとトモリさんにだってケーキ買っただろ?」
「…………むぅ」
どうやらこれは義姉さんとアシェに買ったのを怒っているというより、自分を大事に(?)してくれなかったことに怒っているようだ……。
うーん。
「あ、そうだ」
「……なんですの」
俺の閃きに、若干刺々しい態度のシュエリアが答える。
「コンビニ寄ろう」
「……まあ、いいですわよ」
そうは言いながらも、早くケーキが食べたいのか、チラッと俺の手にぶら下がるケーキに目をやるシュエリア。
……怒っていようと食い気は変わらずか……。
「で、コンビニに何の用なんですの」
「ん、今日はクリスマスだからな、豪勢な料理もいいが、お菓子とかもあるといいかと思って」
「……なるほど」
「で、シュエリア」
「何かしら?」
「好きなの選んでいいぞ、シュエリアの好きにしていい」
「え、いいんですの?」
「あぁ。ケーキをシュエリアの分多く買わなかった詫びということで」
「ふ、ふぅん……そういうことなら……いいですわよ?」
そう言ってお菓子を選び出したシュエリアはちょっと上機嫌だった。
うん……機嫌を取りやすいちょろインで大変助かる。
しかし……。
「これとーこれと。それとっこれとこれっ……にーこれ!」
「めっちゃ買うな」
機嫌よく選んでいるしそもそも俺が言い出したことなので、まあ、文句を言う気はないし、
いいんだが……容赦ねぇな。
そんな風なシュエリアの様子をしばらく見ていると、買い物籠いっぱいにお菓子とジュースを入れたシュエリアが寄ってきた。
「こんなものかしら!」
「お、おう」
「ユウキ?」
「ん?」
「重いですわ」
「でしょうね!」
そりゃあこんだけ入れたら重いでしょうよ!
「でしょうねって、そう思うなら彼女の代わりに持ってあげるべきですわ」
「身体能力俺の方が低いのに?」
「関係ないわよ、重い気がするんだもの」
「気がするだけかよ……まあいいや。ほれ、貸して」
「ふふっ、そういう素直なところが素敵ですわよ、ユウキ」
「さいですか」
「さいですわ」
正直全然褒められている気がしない……というか、乗せられている気さえする。
で、コンビニ帰り。
「コンビニって便利ですわよねぇ」
「そうだな」
「あれで夜中でも買い物できるって、一部の人たちには心強い味方ですわ」
「確かにな。俺も世話になった思い出がある」
「でも深夜のコンビニって店員少ないですわよね?」
「なんでそんなこと知って……まあいいや。そうだな。流石に昼よりは客も少ないし、大抵ワンオペだな」
「ってことは恋人呼んで奥で色々ヤっててもバレないわよね?」
「コンビニの利便性の話は何処に行ったんだ」
「コンビニの利便性を活かして何処でイクかって話でしょう?」
「お前ホントに下ネタ好きだよな」
「えぇ、話す分には好きですわ。実際やるとなるとどうかしら、下の話って茶化しやすいから好きですわ?」
「なんだろう、それはそれで最低な理由な気はする」
というか、茶化す以前にコイツが単純にエロフなのではないかと思っているんだが、俺は。
「今日は性夜だから特にコンビニエンスしてそうよね?」
「コンビニエンスをなんだと思っていらっしゃる」
「便利とかの意味でしょう?」
「意味はあってるけど」
「都合のいい関係ってことよね」
「違うわ!」
それじゃあコンビニエンスカップルじゃなかろうか。
あれはストアなので、利便性のある都合のいい商店であって……。
「違うんですの?」
「違う」
「そう……まあどうでもいいわね、人様の性夜なんて」
「まあな」
「問題は――」
シュエリアはそこまで言いかけると、俺の腕に絡みつき、やたらと密着して、耳元で囁いてきた。
「今夜、わたくし達がどうするか、ですわ?」
「おまっ、やめっ」
「あん? あぁ……くすぐったいんですの?」
この野郎……わかっててやってやがる。
「ふふっ、はー、反応が面白くていいですわー」
「俺、からかわれてますか」
「ユウキをおちょくってない日なんてないですわ」
「おちょくられてた……」
からかわれてる方が、まだ可愛かった気がする。
シュエリアは俺の耳元から顔を離すと、ケラケラと笑っていた。
コイツ……。
「くっそ……」
「何よ、怒ったんですの?」
「いや、可愛い、腹立つわ」
「どっちよ……」
どっちと言われても、両方なのだから仕方ないと思うんだ。
腹立つけど、可愛い。可愛いから許せる、そんな感じだ。
「はぁ……さっさと家帰ってケーキ食うぞ」
「ん、そうですわね。ほら、さっさと行きますわよ!」
そう言ってシュエリアは俺の腕を引っ張り、走り出す。
こうして俺とシュエリアのクリスマスの午前中デートは幕を閉じた。
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