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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
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日曜大工って給料出ないんですのね

年末年始の更新の予約をしくじってしまったこと、この場でお詫びさせていただきます。

今年も皆様に少しでも楽しんで頂けましたら嬉しいです。

「はぁ……かったりぃですわぁ……」

「……座ってるだけの奴がなにを言いやがる」


 とある日曜日、俺は庭先でせっせとノコギリで木の板を切り分けていた。

 これはある物を作る為に切り分けているもので、まあ殆ど俺の為のものだからシュエリアが座りっぱなしなのも仕方ないのはそうなのだが、そもそも態々日曜日に、買えば済むものを作ることになったのはコイツが発端でもある為にいくらなんでも手伝いもしないのはどうかとも思うわけで。


「お前が日曜大工っていうのに興味があるというからやってみるかと外に出たというのに、なんで座りっぱなしなんだよ」

「よく考えたら私って木工とか普通に得意だし、さして珍しくも無い。と思ってしまったのですわ」

「おま……お前な、それじゃあこの話これで終わっちまうじゃねぇか」

「終わっちまいますわねぇ……」

「…………やる気なさすぎだろう」


 いつもは楽しいことを求め、何でもかんでも楽しむ主義のシュエリアが今日はやたらと乗り気ではない。テンションが大分下がっているようにも見える。

 今日はアイネも朝から散歩に出てしまっていないし、そのせいか……?

 いや……。


「あぁ、もしかして重い日なのか?」

「……ぶっ転がしますわよ?」

「じゃあなんだよ、アノ日か」

「同じことですわよ!!!! アホなんですの?!」

「じゃあなんなんだよ、明らかに変だぞ、お前」

「んー……アレですわ、エルフって実は数百年に一度程だけれど、魔力が乱れる時期があるのよ」

「なんだ、エルフの重い日じゃん」


 俺の言葉にシュエリアが思いっきりため息を吐いた。やっぱり辛そうじゃないか。


「違うって言ってますわよね?……それはそれで人と同じように別にあるのですわ。今日は魔力が乱れてる日ですの」

「あぁ、別にあるんだ」

「で、それは置いておいて。この日は魔力の流れに集中していないと力が暴走して魔法とかがうっかり出ちゃったりするのよ……」

「はぁ。それで?」

「まあ、他のエルフならうっかり出ちゃっても飲み水出したり、そよ風が吹いてしまう程度だからそんなに気にもならないのだけれど、わたくしのように膨大な魔力持ちだとうっかり国崩魔法とか出ちゃうのよ」

「国崩?」


 国崩魔法ねぇ……なんか急にファンタジーな感じの単語(?)だなぁ。今までこのエルフと暮らしててもそれほどファンタジーな展開とか無かったのに、日曜大工している時にそんな展開に陥るとは。


「国崩魔法とは読んで字のごとく、国が崩壊するレベルの魔法ですわね。そんなものうっかりでぶっ放してしまいかねないくらい今のわたくしは危険な状態なのですわ」

「あの、じゃあなんで日曜大工してみたいですわ~とか言い出したんだお前。馬鹿なの?」

「馬鹿はユウキの方ですわ? 貴方ね、風邪の時や体調の悪い時、家でじっとしているよりゲームとか読書をしたりしたくなるでしょう?」

「ま、まあ」

「それと同じことですわ。うっかり魔法が出ないようにと気を使ってばかりだと気が滅入ってしまうから、だからこその日曜大工ですわ」

「でもお前さっきから喋るか座ってるだけじゃねぇか」

「…………まあ、そうですわね」


 シュエリアはそういうと手元に置いてあったペットボトルを手に取り水を飲むと、俺の手からノコギリを奪い取った。


「ちょ、なんだよ。急にやる気になったのか?」

「やっぱり見ているだけだと暇なのよね。でもこの魔力の流れが乱れている状態でこんな切断属性のありそうな武器を持ったらそこら辺をやたらめったらに切断しまくる気がするのだけれど――」

「まずノコギリは武器じゃねえ。あとそんな危ない状態なら置けよ、普通に危ないだろそれ」

「でも私、木工とか得意ですのよ? 知ってるでしょう?」


 まあ確かに、コイツは以前ハロウィンでも木彫りの等身大ヴァンパイアとか作ってたし、武器にしていた弓もお手製だそうでエルフらしくと言うのか、やたらと手先は器用なんだけど。

 それでも今のシュエリアは魔力の制御が不安定な訳でうっかりそこら辺を切り裂かれても困るんだが。


「とりあえず俺がやるから、お前見てろよ」

「見ている方が面白いこともあるけれど、コレはやってる方が面白いと思うから却下ですわ」

「周りの安全より面白いのが優先っすか……」

「大丈夫よ、わたくし天才だもの。この程度のコントロールくらいは余裕ですわ? なんといっても163歳まで生きているのだもの、いい大人なのだから平気ですわ」

「ん、まあそうか。そう聞くとなんか大丈夫そ――」

『ズッバッァアアアアアアアアアアアアアアア!!』

『…………』


 俺が大丈夫そうだと言おうとした直後、シュエリアの前方にあった木の板と、50mくらい先までの地面が引き裂かれた。

 引き裂かれた地面は底が見えない程に深い切れ込みになっていて、なんか落ちたらそのまま地獄に直通してそうな感じだ。


「お前、やっぱ今日は見てろ」

「…………ちょっと手が滑っただけですわ? アレですわ、テヘぺろって奴ですわ?」


 そういうとシュエリアはテヘぺろしたが、うん、許さん。


「とりあえずこの庭と家の持ち主である義姉さんに報告されて転がされるのと、素直に謝って観客に回るのどっちがいい?」


 義姉さんの話を出したのが効いたのか、シュエリアの顔は一瞬で青ざめた。

 こんな半端ない強力な力を持っているシュエリアでも義姉さんの事は結構怖いらしい、ちなみに次いで怖いのは飯抜き、その次が電化製品抜きである。


「…………ご、ごめんなさい。ですわ」

「うん、で、ノコギリをこっちに」

「うぅ……今日は大人しくしているしかないですわね……」

「そうだな、せっかくなら見ていて面白い物を選べばよかったのに、なんで日曜大工にしてしまったかな」

「そうは言っても、どちらにしたってこれは作るか買うかする予定だったのだし、いいじゃない」

「まあなぁ」


 そういって俺はシュエリアから受け取ったノコギリを仕舞って、ヤスリを取り出した。

 木材は最後にシュエリアがぶった切ったので足りるのでノコギリは実際用済みなのだが、シュエリアに持たせっぱなしは危険だからな……余った材料で遊び出さないとも限らないし。


「でもどうせなら、もっと大がかりな物を作ると面白かった気がしますわ?」

「いいじゃねぇか、別に、椅子だって」

「でもすぐ終わってしまうじゃない? なんといってもユウキだってそれなりに器用なんだもの、こんなの山も落ちもなくてつまらないですわ……」

「まあ、イージーモードをダラダラやってる感じだもんなぁ」

「ですわ」


 じゃあ、何でやってるかって、俺の部屋の椅子が最近軋むので、新しいのを買おうかと思ったのだが……。

 シュエリアが日曜大工がどうのと言い出したので、今に至る。


「とりあえずヤスリは終わったし、これで後はなんだ、組み立てると大体終わりだよな」

「色とか塗らなくていいのかしら」

「いいよ、そのために木目の綺麗な物を選んだんだからな」


 俺がそういうと、シュエリアは残った切れ端を手にして、観察し始めた。


「ふむ、確かに木目っていいですわねぇ……そういえばヤスリってなんで表面がつるつると、平らになるのかしら」

「なんで、ってなんだよ」

「だってヤスリってザラザラしているでしょう? そんなもので擦っているのに擦られた方はザラザラじゃなくてツルツルになるのよ? なんというか、腑に落ちないというのかしら」

「て言われてもなぁ。そういうもんだからな。いいんじゃね別に」

「うわあ……話の膨らまない奴ですわねぇ……」


 うわあ、とか言われてもな……俺だって専門知識とかねぇし、膨らませようのない話題という物もあるのだ。


「しかしまあ、何だな。ツルツルと言えばアレだな」

「ん? なんですの?」

「お前の胸も――」

「ああ、そうですわね、ユウキの頭もヤスリ掛けたらツルツルになるかもしれませんわね?」

「へ? ちょっ。あぶなっ!!! お前! やめろぉ!! ツルツルになる前に出血するから! そういうのはバリカンでいいからぁああああああああああああ!!」

「私の胸だってこんなもので擦ったら出血しますわよ!!!! 誰がヤスリ掛けたようにまな板ですって?! お前をつるっつるの禿にしてやりますわよ?!!!!」

「言ってない!! まだ胸までしか言って無いだろ!!」

「まだってことは言う気だったんじゃないですの!!」

「……それは否定しない!」

「否定しやがれですわぁあああああああああああ!!!!」


 それから数十分、俺はシュエリアに頭にヤスリを掛けられそうになりながらもひたすら逃げ続けたが、ついに捕まってしまい、正座させられていた。

 ちなみに魔力と精神が乱れたシュエリアに追い掛け回されていた為、気づいたときには辺りが大分ボロボロになっていた。

 それはもう、クレーターが出来たり、吹き飛んだ地面はまるで荒野かのように岩がゴロゴロ転がっているような状態になったり……。


「あの、ほんと、すみません……」

「他に言うことはないかしら?」

「……あの、本当は、シュエリアさんのお肌は色白でヤスリを掛けた木材よりもツルツルすべすべでお美しいですね。と言おうと思っていました」

「ん、よろしいですわ」


 心からの謝罪と心からのお世辞。これにより俺の毛根と命はかろうじて救われ、その後の作業も順調に進みついに椅子も完成した。

 こうして俺とシュエリアのなんとなく始めた日曜大工は幕を閉じた。

 後日。

 俺の椅子として作ったはずの椅子は「木目がきれいで手触りも気に入った」という理由でシュエリアに持っていかれ、俺はシュエリアの以前の椅子に座るようになり、ボロボロになった庭はシュエリアが義姉さんにしこたま怒られた後に義姉さんお抱えの業者によって修復された。


ご読了ありがとうございました!

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次回更新は金曜日です。

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