危険な二人ですわ
デート三連戦……2日目。
本来三連戦だったデートは2戦目でクライマックスとなり、相手は二人。
アシェとトモリさんという二大悪を相手にしたお家デートは今。
「ユウキ、何してんのよ」
「目隠しだよ」
「……なんで?」
「ここが風呂場で、お前らが裸だからだよ!」
アシェの当然とは言い難い疑問に、俺は心からの叫びで答えた。
「うーん」
「……なんだよ」
「裸見たの?」
「見てねぇよ!」
コイツ人の話ちゃんと聞いてないんだろうか。
裸を見ない為の目隠しであって、見てたら意味ないだろうが。
「あんたトモリの胸が揺れてるのはまじまじ見ていたくせに裸は見れないとか初心というか義理堅いというか」
「根が~真面目~ですから~」
「恐らく世界でも最高峰に不真面目な二人に言われてもな」
方や悪の令嬢。方や魔王である。
この二人に真面目だの義理堅いだの言われても……褒められている気はあんまりしない。
「ていうかユウキ」
「なんだよアシェ」
「私水着よ?」
「……はい?」
「あ、トモリもよ?」
「はい~」
「はい??」
水着? 風呂場で? なんで。
「あんたが気にすると思って、二人で水着してるから、目隠し要らないわよ?」
「そういうの先に言ってくれない?」
俺はアシェの発言を受け、素直に目隠しを取る。
すると。
「嘘だっ!!!!」
「まさかのひぐらしね」
「あらあら~」
完全に騙された。
こいつら二人、水着じゃねぇ!!
「なんでYシャツ!!」
「わかってるからよ」
「トモリさんは裸エプロンだし!」
「なんとな~く~です~」
風呂場でYシャツ姿のエルフと裸エプロンの魔王。
何この組み合わせ。
っていうか頭おかしいのかコイツら。
「風呂場で濡れ透けYシャツとか結構ツウじゃない?」
「誰向けだよ!」
「ユウキ向けに決まってるじゃない」
「俺をなんだと思ってるんだ!」
「トモリのデカ乳が揺れてるのをご満悦で眺めていた変態野郎かしら」
「とても腹が立つが言い返せない!」
コイツの言い回しが凄くシュエリアに似ている気がするのはきっとシュエリアの悪友だからなのだろう。
むしろ、シュエリアが口悪い時あるのってアシェの影響なんじゃないかと思う事すらある。
「で、どうなのよ、ユウキ」
「何が」
「濡れ透けYシャツの感想」
「……悪くない」
「それだけ?」
「……眼福?」
「目隠し外してよかったでしょう?」
「う……まあ、うん」
「ふふっ。素直でいいわね!」
俺に褒められた(?)のが嬉しかったのか、上機嫌になるアシェ。
そして……。
「ジィー」
「な、なんですかトモリさん」
「いえ~? なに~も~?」
「うっ」
これ、完全に感想期待されている奴だ。
「……凄く、エロいかと思います」
「あら~」
「それ褒めてんのかしら」
どうなんだろう……自分でもよくわからないけど。そうとしか言いようがなかった。
トモリさんの長い艶のある黒髪が濡れて肌にぴっとりと張り付いている感じとか、エプロンで前だけ隠れているところとか、胸が大きいゆえに本来なら横から見えるであろうエプロンと体の隙間が濡れたエプロンのせいでしわを作って体に絡みつく感じとか。
もう、兎に角、エロいとしか。
「トモリが居るとどこでもエロネタが発生し得る気がするわ」
「ここ風呂場だからむしろトモリさんの領域な気がするがな」
風呂場と言えばエロの宝庫である。
地形適正を得たトモリさんが猛威を振るうのは想像に難くないわけで。
「なんか今日はずっとトモリにマウント取られている気がするわ」
「貧相な体系だからな」
「沈めるわよ?」
「ごめん」
「許さないけど」
「シュエリアなら許してくれるけど?!」
「私はあの子程甘くないわ」
さ、さすが悪役令嬢。すごむと怖い!
「だめ~ですよ~?」
「ん……トモリ?」
俺が事実、湯船に沈められそうになっていると、トモリさんが助けてくれた。
「ここで~沈めると~デートが~終わって~しまいます~」
「う……でも」
「アシェさんが~よくても~わたしは~嫌です~よ~?」
「……わ、わかったわよ」
そう言って掴んだ俺の頭を離すアシェ。
あ、あぶねぇ……。
「ゆっくんも~」
「は、はい」
「発言には~気を付け~ましょう~」
「はい……」
まさか魔王にたしなめられる日が来るとは……。
「ふぅ。それじゃ。体の洗いっこでもする?」
「まて、誰が誰を洗うって?」
「まだ言ってないわよ……」
そう言って呆れ顔のアシェ。
しかし、なんということだ。
洗いっこ、なんていい響きだろう。
つまりあれだ、合法的に体を触っていいわけだ。触られて、いいわけだ。
「ぜひトモリさんに洗って欲しい!」
「それ私の裸を触りたいって言ってるのと同義だって気づいてる?」
つい欲求が口から出てしまったが、いいだろう。
というかそうか、俺も洗うんだもんな。おのずと残ったアシェを俺が……。
「いや、アシェがトモリさんを洗えば、俺、誰も触らないことになるのでは」
「ダメよ。そんなのつまらないわ」
「お前本当にシュエリアに似てるよな」
いっそ姉妹なんじゃないかと思える。
「てことで、ユウキは私を洗いなさい?」
「はあ」
「で、三角形を作って……私もトモリを洗うわ」
「はい~」
……ということで、始まった洗いっこだが。
「ちょっとユウキ、前もちゃんと洗ってよ」
「お前阿保なのか?」
「せっかくの……洗いっこよ? ちゃんとスキンシップを図らなきゃダメよ」
「そういうお前はトモリさんの胸を重点的に狙い過ぎでは?」
「それ見ているあんたはトモリの胸を見過ぎだけどね」
そんな文句の言い合いをしながらも、俺達は体を洗いあっていた。
で、先ほどから会話に絡まないトモリさんは。
「…………(ごしごし)」
「めっちゃ真面目に体を洗ってくれてるんだよなぁ」
「意外過ぎるわね」
トモリさんの事だから、何かしらいたずらをしてくるかと思ったのだが。
そんなことは全くなく、めっちゃ真面目に体を洗ってくれる。
「しかしなぜここまで真面目に……」
「……それは~ですね~」
「お?」
先ほどまで無言で必死に俺の体を洗っていたトモリさんが口を開いた。
「後で~おいしく~いただく~為です~」
「頂かれるの?!」
「やるわねトモリ」
驚く俺と感心するアシェ。
なんだろう、このまま行くと俺、この二人に大事な何かを奪われる気がしてきた。
「トモリさん、何を頂くつもりで……?」
「それは~……じゅるり」
「こわっ!」
なんだろう、物理的にも精神的にもおいしく頂かれてしまう気がする!
「トモリさん」
「はい~?」
「今日はデートですが、そういうのは無しです」
「……チっ」
「魔王怖いって」
トモリさんの舌打ち、初めて見たわ。
「なら~キスは~どう~ですか~?」
「へ? あぁ、まあ、キス……なら?」
「では~ちゅっ。ちゅっ」
「ひょわあ!」
いきなり背中に違和感を感じて、変な声が出た!
「何よひょわあって」
「いや、だって! 何今の!!」
「キス~ですよ~?」
「なんで背中にするんですか?!」
「ダメ~ですか~?」
「……っ。駄目ではないですが……」
「では~ちゅっ」
「ぬわっ!」
俺からの許可が出ると、一層容赦なくキスしてくるトモリさん。
うわなんだこれ、すっげぇゾクソクする……これが淫魔の魔王の力……?!
「トモリさん、これ以上は色んな意味でアウトです!」
「ちゅ……あらぁ~残念~です~」
「ちょっと、私もユウキにキスしたいわよ?」
「お前は駄目」
「ひどっ?!」
いやだって、コイツも絶対悪さするじゃん。
「普通にするから!」
「その発言がもう信用ならない」
怪しい奴が「怪しくないですよ」って言ってるようなもんだ。
「えぇい! トモリ、そのまま羽交い絞めにして!」
「はい~」
「なんでそこだけ妙に連携取れてんの?!」
この二人いつの間にそんなに仲良くなったんだよ……!
「さて、これで逃げられないわよ」
「ま、まて。これって絶対アウトな展開では!」
「大丈夫よ。皆さんには見せられないし、読ませられないようなことをするだけだから」
「や、やめっ……やめろーーーーーー?!!!??!?!?」
……こうして。
最後のデートで、俺は二大悪の女二人に、風呂場で大事な物を奪われてしまった気がしました……とさ。
ご読了ありがとうございました。
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次回更新は火曜日です。