アイネとこれからどうなるんですの?
『カランカランッ』
デート三連戦初日、アイネとのデート日。
俺は今「しす☆こーん」に居た。
「なぜここに?」
「なんでだろう……」
そして今、接客に来たシュエリアに、凄く嫌そうな顔で問い詰められていた。
「アイネとデートの日よね?」
「うん……」
「はいっ」
「なんでここに居るのよ」
「いや……なんでだろう?」
「なんであんたが疑問形なのよ……」
はぁっと溜息をつくシュエリアと、隣で首をかしげているアイネ。
……そういやアイネがおやつがどうのと言っていた気がする。
時間を確認すると丁度3時になろうかというところだった。
なるほど、3時のおやつか……でも。
「なんでここなんだ? アイネ」
「う? 面白いからですっ」
「初見だよね」
「ですねっ」
「話がかみ合ってる気がしない!」
「??」
俺はなぜ初見なのにここが面白いと思ったのか聞きたかったのだが、普通に肯定されて終わってしまった。
「なんでここが面白いと思ったんですの?」
「それはシュエリアさんとトモリさん、義姉さまがいるからですっ」
「シオンはいないわよ?」
「じゃあ義姉さまはいいですっ」
「シオンこの兄妹からの扱い悪いわね……」
まあ俺も義姉さんがいない方が色々と安心だ。
今あの人の顔見たらアイネに変な事吹き込んだことをしこたま怒ることになりそうだし。
「それで、注文は?」
「もうちょっと丁寧に接客できませんか」
「できませんわ」
「即答」
コイツここでのバイトもうほとんど一年になるだろ……いいのか、こんなんで。
「で、注文」
「……俺はこのジャンボチョコレートパフェで」
「男がパフェ」
「偏見だからなそれ!」
男が甘い物好きで何が悪いか!
「あーはいはい。で、アイネはどうするんですの?」
「うっ? うーー」
「ん?」
見ると、アイネもデザートのページを見ているのだが、悩んでいるのか、中々注文しようとしない。
「どした? アイネ」
「……めっちゃ高いですっ」
「いや……うん」
まあこういう店でリーズナブルな物は出てこないだろう……。
もしかしなくてもアイネ、初見だからこういう店の値段設定まったく知らなかったのでは。
「うーっ」
「唸ってますわね」
「だな」
「今可愛いとか思ったでしょう」
「人の心読む魔法使うなって」
「使ってねぇですわ」
「……マジか」
「マジよ」
コイツ、いつの間にそこまで俺の事を理解したというのか。
彼女の自覚が出てきたのかもしれない?
「って、シュエリアの奴もう戻ってるし……注文最後まで聞いてけよ……」
しばらくするとシュエリアがパフェを二つ持って戻ってきた。
「おい、一つしか頼まなかっただろ?」
「別に人数分でもいいじゃない」
「いや……まあ、いいけど」
まあ多分だけど、値段設定に驚いて唸っていたアイネに対して、シュエリアなりに気を使ってくれたのだろう。
「で、まあ、そこはよかったんだが、なんだこの伝票の『ジャンボチョコレートパフェ 3ツ』は。一個増えてるじゃねぇか」
「人数分でいいって、ユウキも言ったじゃない」
「お前の分は要らねぇよ!!!」
なんでコイツはバイト中に俺に集ろうとしてるわけ?!
「あーはいはい。そろそろ休憩だから行きますわ?」
「面倒な客扱い?!」
そして、シュエリアはヒラヒラと手を振りながら店の奥に消えてしまう。
あの駄エルフ、気を利かせたフリをして休憩中のデザート奢らせやがった。
「兄さま兄さまっ」
「ん?」
「あーんですっ」
「お、おぉ」
これはなんか、こういう店のイベントっぽい。
……相手が店員さんじゃない辺りが何か違う気がしなくもないけど。
まあ、シュエリアが仕事しないおかげでアイネにしてもらえるんだから、いいか。
「あーん……んくっ……旨いなこれ」
「おぉっおいしいんですかっ」
「うん、アイネも食べろ?」
「あーんしてくださいっ」
「おぉ。あーん」
「パクッ……ん。おいしいですっ」
そう言ってキラキラした笑顔を向けて来るアイネ。
うん、可愛い。
「はぐはぐ」
「……」
「もぐもぐ」
「……」
「パクパク……?」
「可愛いな」
なんだこれ、永遠に見てられるぞ。
可愛い妹がパフェを食べる姿。可愛すぎて目が離せない。
「兄さまっ?」
「ん、なんだ?」
「食べないんですっ?」
「え、あぁ。食べるよ」
そう言って、俺は目が離せないどころか手も動いてなかったことに気づいた。
危ない危ない、いくら冬でも店内は暖房効いてるし、パフェのアイス溶けるって。
「あーんですかっ?」
「あ、いや」
「あーんですねっ?」
「……はい」
どうやら俺が中々食べないから「あーん」して欲しいのだと勘違いさせてしまったようだ。
まあ、して欲しいか欲しくないかなら、断然して欲しいんだけど。
「あーんっですっ」
「あーん」
「あ~ん……パクッ」
「あー……何してんですかトモリさん」
俺がアイネにあーんしてもらおうとしていたら、隣から出てきたトモリさんに持っていかれた。
「シュエリア~さん~が~。交代で~休憩に~入りました~」
「で、接客に来てくれたわけですか?」
「はい~」
なるほど、そういうことだったのか。
「で、なんで食べちゃうんですか」
「おいしそう~だった~ので~」
「それで食べてたら商売あがったりですよ?!」
飲食店でその理屈を通すと全部食い尽くしかねないんだが?
「後は~」
「ん?」
「イチャイチャ~し過ぎて~ちょっと~」
「ちょっと、ですか」
「はい~ちょっと~イラッと~」
「怖い怖い怖い」
魔王様イラっとしてらっしゃるよ。
この発言、間延びした口調で言われた方が怖いとは思わなかったわ。
「トモリさんもパフェ食べますかっ?」
「いえ~一口で~十分~ですよ~」
「そうですかっ? もぐもぐ」
「……チーズケーキ~入りますね~」
「パフェではないけど!!」
結局食うのか、この人。
「ダメ~ですか~?」
「い、いや普通に考えて駄目っていうか」
「シュエリア~さんには~パフェを~?」
「うぐっ…………」
そう言われるとトモリさんにだけ奢らないのは不公平な気がしてきた……。
「……どうぞ」
「わぁ~ありがとう~ございます~」
「皆でおやつですねっ」
「ですわね……もぐもぐ」
「オイ待てコラ」
「?」
諸悪の根源、ここに現れたり。
「お前休憩なんだろ」
「そうですわ」
「なんでここに居るんだ」
「見てわからないんですの? 休憩してんですわ」
「なんでここで休憩してんだよ」
「それはほら、面白そうだから」
「バイト中も平常運転かっ!」
ていうか俺一応アイネとのデート中なんだけど?
なんでこの二人当たり前のように参加してくるかな。
「わたし~は~接客~ですから~?」
「人の心読まないでください。あと客に集る接客はキャバ嬢の物です」
「ド偏見じゃないかしらそれ……」
そう言って俺の発言にツッコむシュエリア。
ちなみにさっきからもぐもぐしているコイツの手にはチョコレート『ケーキ』が。
「一応聞いておく、シュエリア」
「何かしら?」
「そのケーキは自腹だよな」
「……レシートに付けときますわね」
「勝手に付けんな!?」
なんでコイツさらっとケーキまで食ってんだよ。
せめて一言聞くとか……コイツにあるわけないか。
「ハーレムの主って出費がえぐいわね?」
「そう思うならそのケーキは自腹で――」
「可愛い女の子に囲まれて、たったのこの値段。安すぎて草生えますわ」
「お前ホントしばくぞ」
手首が360度可動式なんじゃないかと思うレベルの掌返しだ。
「うー」
「ん?」
「兄さまシュエリアさんと仲良すぎですっ」
「す、すみません」
デート中の女性の前で他の異性と仲良くするのはよくなかった……これは俺が悪い。
……いや、仲良かったか?
「これはあれですねっ」
「ん?」
「兄さまっ」
「はい」
「ちゅーしてくださいっ」
……おっと。
これはこれは、大変まずいことになったぞ?
俺の向かいに居るアイネにはキスを求められ。
接客と称して俺の左右に座っているシュエリアとトモリさんからは殺意と圧を掛けられている。
「そういうのはほら、雰囲気あるときにさ」
「この瞬間がベストですっ」
「雰囲気最悪だけど?!」
今ここでキスしようものなら俺、両サイドから刺されそうなんだけど?!
「へー、いいですわねー? キス、したらいいんじゃないんですの? ほら、デート、デート」
「あら~あらあら~盛って~ますね~?」
「怖いっ」
両サイドが怖すぎてキスとか言ってる場合じゃ……。
「うーっにゃっ!」
「ん?!」
俺が両サイドからの恐怖に脅かされていると、アイネが業を煮やして飛びかかってきた。
そして……。
「ちゅ……くちゅ……」
「?!?!?!!!?!」
「なっんですの?!」
「あ……あら……」
思いっきり舌を絡めたキスをされていた。
「……ぷはっ……おいしいですかっ兄さまっ」
「……へ? は?」
おいしい? 何が?
「あんまりキスしてくれないので仕方ないからパフェの口移しに変更してみましたっ」
「重症化っ!!」
まさかの口移しだったとは! っていうかアイネこんなのどこで……。
「うんうんっ義姉さまの言った通り兄さまはこういうのお好きなようですねっ」
「あのクソ義姉!!」
ホント俺の可愛い妹にくだらない情報ばかり仕込みやがって!!
っていうかアイネは俺のどこを見て口移しが好きだと思ったんだろうか。
と、いうか。これ、普通にキスするよりヤバい状態な気がするんですが。
「ふっ……ふふふふふふふふふ」
「あら~あらあらあらあら~」
「待て待て待て! 怖い! 怖いから!!」
俺の制止も聞かず、トモリさんが俺を羽交い絞めに。
すかさずシュエリアが俺の首に腕を回すと…………俺は一瞬で意識を持っていかれた……。
そして、目が覚めると。
「もぐもぐ……んにゃっ兄さまっ」
「あ……いね?」
状況の把握に努めると……どうやらここは俺の部屋。
ベットの上でアイネに膝枕されているようだ。
で、そのアイネは俺が買い与えた萌えるお土産を食べている。
「大丈夫ですかっ兄さまっ」
「ん……ああ。なんとか」
そうか……俺、あの阿保と魔王に意識持ってかれたんだったか。
「私がキスしたせいで……すみませんっ」
「いや、アレは……うーん」
あの場合アイネに問題がなかったかと言われると……。
「うるうる」
「悪いのはシュエリアだから気にするな」
問題ないな。可愛い妹に問題あるわけがない。
なのでとりあえずあの阿保エルフが悪いってことで、いいだろう。
と、いうか。
「むしろごめんな、デート、台無しだ」
「いえっ……それは……」
そこまで言ってアイネは顔を背けてしまう。
やっぱり怒ってるかな。
「アイネ?」
「にゃんというか」
「ん?」
「キスできたので……満足でうっ」
「噛んだ」
どうやら怒ってはいないらしい。
というか、これは照れているのだろうか。なんだこのめっちゃ可愛い生き物。
「兄さまっ」
「ん?」
「今日はまだ、終わってないですよねっ」
「えっと?」
そう問われて、俺は時計を見るが、まだ日は回ってない。
だが結構ギリギリだ。俺どんだけ寝てんだよ……。
「なので、最後にお願いがあります」
「ん?」
「もう一回……キス……してください」
「…………」
なんだろう……。
今、凄くドキっとした…………。
相手は妹で、アイネで……それでも、俺を愛してくれる一人の女性でもあると。
この時俺は。
「うん、しよう」
「! 兄さまっ」
この時俺は、初めてアイネを、異性として意識できたんだと思う。
ご読了ありがとうございました!
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