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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
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デート初日ですわね

「うーん、寒い」


 土曜日、いつもと違った日常を肌身に体感する俺。

 いつもなら部屋でぬくぬくだらだらと駄弁っているだろうが、今日はデートの初日だ。


 デートは待ち合わせから! という相手方の意向でこうして今、俺は寒空の下で待たされている。

 ちなみに、そのお相手は……。


「兄さまーっ!」

「おう、アイネ」


 本日、三連休デート連戦の初日のお相手はアイネである。

 なんでもデートを言い出したのはアイネが最初だったらしく、優先順位的にアイネからになったそうな。


「今日はどこに行くんですかっ兄さまっ」

「お、乗り気でいいな」


 いつも通り元気で、可愛らしいアイネで大変結構。

 デートなんて言い出したくらいだからちょっと変わったアプローチをしてくるかと思ったが、どうやら杞憂だったようだ。


「それでは兄さまっ」

「んー?」

「腕を組みましょうっ!」

「おう」


 言って、俺はアイネと腕を組む……というか、組まれる。

 流石に身長差があるので俺からアイネにというのは無理があるので、アイネが俺の腕に抱き着く感じだ。


 に、しても。


「今日はちょっとおめかししてる?」

「! 流石兄さまですっ! もうお気づきですかっ!」


 そういってアイネはきらきらと目を光らせる。

 あーもう、俺の妹超可愛いな。


「今日は髪型が違う!」

「そうですっ! ポニーテールです!」

「あと服も違うな!」

「はいっ今日の為に一生懸命選びましたっ!」

「そしてメイクも違う!」

「はいっ! 義姉さまに可愛くしてもらいましたっ!」

「トータルで見ていつもの倍以上可愛いぞ!」

「ありがとうございます兄さまっ!」


 うんうん、流石俺の妹、超可愛いな!

 シュエリアに比べて褒めたらしっかり喜んでくれるから褒め甲斐もある。


「でもでもっあと一つ、違うところがあるんですよっ」

「おっ、そうだったのか」


 ま、まずい、それは気づかなかった……なんだろう、カバンとか、アクセサリー類だろうか……それとも実はもっとわかりやすい物だったりして……。


 俺がなんのことかわからずに悩んでいると、アイネの口から答えが告げられた。


「下着が勝負下着ですっ!」

「そりゃわからん!」


 なるほど下着ね。わからないわけだ。

 ある意味わからなくて正解だったな。


「ということで兄さまっ」

「ん?」

「今日は勝負ですからねっ」

「う……うん」


 なんだろう、これ、意味わかってて言ってるんだろうか。

 勝負下着で勝負って。それ、あの。その。

 多分アイネのことだから意味はよくわかっていないんだろう、と思いたい。

 っていうか誰だ。アイネにこんなこと吹き込んだ奴。


「義姉さまに聞きましたっ」

「さらっと人の思考に返事しないように」

「あっすみませんっ兄さまっ」


 俺の言葉にすぐさま謝るアイネ。素直でとってもいい子だ。

 さて……それにしても、アイネに変な事吹き込みやがった義姉さんには後でキッチリ落とし前付けさせないとな。


「それで、兄さまっ」

「ん?」

「今日はどちらに行くんですかっ?」

「あぁ。それな」


 それに関してはちょっと考えがある。

 というか、まあ、なんだ、あれだ。

 俺にデートスポットなどをリサーチする能力は無いわけで、だからこそ、自分のホームグラウンドで戦うことを選んだ。

 要するに。


「おぉ! アキバですねっ」

「うん、楽しそうでなにより」


 俺達は電車に揺られて十数分、秋葉原に到着していた。


「兄さまらしいチョイスな上に、自分の得意なステージを選んで最大限楽しませてくれようとしているのがわかりますっ」

「うん、説明ありがとう」


 本当に俺の妹は超いい子だ。

 こんなセンスの欠片もないデートスポットに文句を言わず目をキラキラさせて喜んでくれる。

 可愛くて仕方ない。


「さてアイネ、行きたいところはあるか?」

「う? 兄さまにお任せしますっ」

「そっか」


 うん、とりあえずアイネにここに行きたいというところは無いのかな。

 しかし遠慮しているという可能性も……。


「遠慮はしてないよな?」

「してないですっ」

「そっかそっか。じゃ、行こうか、アイネ」

「はいっ」


 アイネの返事を受けて、俺はアイネと共に歩き出す。

 向かう先はとりあえず……ラジ館かな?


「ラジ館行ってみるか、アイネ」

「はいっお供しますっ兄さまっ」

「……うん」


 お供するというのはデートとして何か違う気がしないでもないのだが。

 まあ、本人が楽しそうだし、いいとするか。


「さて、何を見よう……」

「兄さまっこれ見てくださいっ」

「ん?」


 ラジ館に入ると、まず目に留まるもの、それは……。


「このお菓子おいしそうですっ」

「お、おう」


 お土産店だった。

 入ってすぐ左手側にある土産物などを中心に取り扱っているお店だ。


「じゅるりっ」

「買うか?」

「いいんですかっ兄さまっ」

「今日はいくらでも甘えていいぞ」

「! では頂きますっ」

「はいよ」


 ということで、アイネに萌えキャラの描かれた包装紙に包まれた見た目以外は極めて普通そうなお菓子を買い与えた。


「ふにゃ。美味しそうですっ」

「包装紙ごと食べるなよ?」

「兄さまってたまに私の事どう思っているのかわからなくなりますっ」


 ふむ? どう思っているって、そりゃあ。


「可愛い妹だと思っているが」

「ハーレムに入ってもまだ妹扱いでしたっ?!」


 そういってショックを受けたと言わんばかりに項垂れるアイネ。

 う、うーん。でもなぁ。


「いや、だって、未だに兄さまって呼ばれてるし、なんかな、やっぱ可愛い妹なんだよなアイネって」

「うぅっだって兄さまは兄さまですよっ?」

「うん、だから、アイネも妹なんだよなぁって」

「うぅ?」


 どうやらよくわかっていない様だ。

 なんて言ったら伝わるんだ、これ?


「アイネが俺を違う呼び方してくれたら、異性として意識できるかもしれないなって思う」

「……! なるほどですっ」


 そういってアイネは「あーでもない、こーでもないですっ」とうんうん唸っている。

 そして。


「にっ……にいに?」

「余計に妹度増してないか?」


 それ、ロリ度増して妹感足しただけでは。


「で、では……そのっ」

「ん?」

「ゆ……」

「ゆ?」

「うきくん」

「へ?」

「…………」

「……?」


 なんだろう、この間は。


「ダメですかっ?」

「え? 何が?」


 そして訪れる再びの間と、微妙な空気。

 え、なにこれ。


「ですからっ」

「うん」

「ゆうき……くんって……呼んじゃダメですかっ?」

「いいけど」

「いいんですかっ?!」

「え、うん」


 なるほど、なんとなく読めた。

 さっきの「うきくん」っていうのは、その前の「ゆ」と合わせて「ゆうきくん」って言ったのだろう。

 まあ、微妙に間があったせいで何言ってるのかわからなかったわけだが。

 にしてもゆうき君か……ちょっと新鮮かもしれない。


「兄さまは兄さまじゃなくてもいいんですかっ?」

「え。まあ、アイネに兄として慕われるのは凄く嬉しいし、好きだけど」

「そ、そうですかっ」

「うん。でも、異性として愛されるのも、いいと思う」


 これは紛れもなく本心だ。

 いやだって、こんな可愛い子に好かれて嫌とかないだろ普通。

 そりゃまあ、妹のように大事にしてきた存在だけど、だからこそ、好かれて嫌な気なんてしないし……。

 ……もしかしてこういうところがシュエリアに言わせれば「シスコン」ってことになるんだろうか?


「なんなら、アイネは俺にどう呼ばれたいとか、あるか?」

「ふぇっ私は、アイネって呼ばれたいですっ」

「そう? 愛称とかでも――」

「いえっ! アイネがいいんですっ!」


 俺の言葉に被せてそう言い放つアイネはいつもの可愛らしい様子と違った真剣そのものと言った感じだった。


「兄……ゆうき君に貰った名前……でうからっ」

「噛んだぞ、アイネ」


 噛んでるし、一瞬兄さまって言いかけたし。

 まあこういうところも、とっても可愛い妹なんだが。


 でもそうか、俺に貰った名前だからか……。


「名前、気に入ってくれてたんだな」

「もちろんですっ」


 そういって「えっへん」と胸を張るアイネ。

 うん、なんで自慢げなのかはわからないけど可愛いからいいや。


「あっ、これ可愛いですっ」

「ん?」


 そう言ってアイネが指した先にあったのは一体のドール。

 長い白髪に蒼い瞳、幼げな表情がなんだかアイネみたいなドールだ。


「うーっ」

「ん?」

「どっちが可愛いですかっ」

「アイネ」

「にゃ?」


 アイネの質問に即答した俺だが、アイネに不思議そうな顔をされてしまった。

 なんでだろう。


「そうではなくてっ、このドールと、こっちのドールですっ」

「え、あぁ。そういう」


 なるほど、そりゃ何言ってんだコイツってなるわな。

 で、アイネの言っていたもう一体のドールを見てみると……。


 それは黄緑髪に縦巻きロールの髪型をしたお上品なドールだった。

 っていうか……これ。


「(なんかシュエリアに似てるなぁ)」


 これでこの質問の意図はなんとなく伝わった。

 つまりあれだ……。


 どっちが可愛いか(意味深)ってことだ。


「そうだな……りょ――」

「どっちですかっ?」

「――うーん」


 両方と言おうとしたのを思いっきり遮られてしまい、つい唸ってしまう。

 これはまさかの修羅場なのか?


「……強いて言うなら」

「強いて言うならっ?」

「白髪の方……かな」

「にゃっ」


 俺の言葉に。やはり読み取った意図通りの意味があったのか、顔を赤くするアイネ。

 ……まあ、嘘ではない。実際可愛いのはアイネの方だ。

 シュエリアはあれだ、美人だから。可愛いっていうより綺麗なんだ、アレは。


「ふんふんっ、満足ですっ」

「ん? そうか?」


 アイネは満足だと口にすると、ドールのお店を出た。


「ドール欲しくなかったのか?」

「ふぇっ? 要らないですっ」

「そ、そうか」

「怖いですからねっ」

「怖いんだ……」


 いや、まあ、わからなくもないけど。

 夜中とか見たらホラーな絵面してるもんな……アレ。

 っていうかじゃあ、何で寄ったんだろう。


「でも最初のドール可愛いって」

「私に似てましたからねっ」

「……おう」


 たまに思うけど、アイネも相当な自信家なんじゃないだろうか。

 それこそシュエリア並みに。


「それでっ兄さま……じゃなかった、ゆうき君っ」

「もう兄さまでいいのでは」


 こんなに言い間違えるんじゃあんまり名前で呼ばれている意味を感じない……。


「ダメですよっ兄さまに異性として見て欲しいですからっ」

「うーん」


 それなら俺が努力してアイネを異性としてみればいいのかな。


「じゃあ異性として見るように努めるから、兄さまって呼んで欲しいな」

「わかりました兄さまっ」

「ちょろっ」


 まさかの即答にちょろすぎてびっくりした。

 もうちょっと粘られるかと思った。


「兄さまに異性として見られればなんでもいいですっ」

「そうなんだ……」


 別に「ゆうき君」呼びにこだわりはなかったようである。


「という訳で兄さまっ」

「ん?」

「おやつにしましょうっ」

「おぉ」


 そう言ってアイネはラジ館の外へ出ようと歩き出す。


 ……時刻は2時半……俺とアイネのデートは始まったばかりだ。


ご読了ありがとうございました!

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次回更新は金曜日となります。

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