機嫌取りの話ですわね
「ユウキって声豚もとい耳奴隷じゃない?」
「開口一番になんて失礼な奴だろう」
いつも通りの日常。昼。
シュエリアに呼び出されて(呼び出されなくても来るが)来てみたらいきなりこれである。
と、いうか、コイツまた変な単語覚えやがったな。
「事実でしょう?」
「……まあ、音には敏感かな」
いいつつ、とりあえず俺はシュエリアの隣に座る。
この当たり前のように彼女の隣に座れるというのも、案外得難い幸せだなぁと思う。
思うが、いきなり失礼な発言は要らなかったな……。
「という訳でユウキ」
「ん?」
「耳かきしてあげるから横になりなさい?」
「どういう訳だ」
俺が声豚だのどうのという話、どこいきましたか。
「好きでしょう? 耳かき音声とか」
「好きだけど」
「じゃあ決まりですわね」
そう言ってぽんぽんと自分の膝を叩くシュエリア。
どうやら膝枕で耳かきをするつもりのようだ。
……許せん。
「膝枕で耳かき。そんなことしたら耳垢が奥に落ちるだろうが!!」
「まさかの耳かきガチ勢ですわ?!」
俺の耳垢は乾燥タイプなので濡れているタイプと違い奥に落ちやすく面倒なのだ。
「俺がソファに仰向けで横になるからシュエリアは床に座るなりして横から掻き出してくれ」
「……耳かきの為なら彼女を床に座らせる精神には若干引きますわね」
「言い出したのはお前だろ?」
「まあ、そうだけれど」
いいつつ、シュエリアは渋々床に座った。
「せっかくの膝枕を棒に振るかしら、普通」
「耳かき舐めんなよ」
「あーはいはい、わかりましたわー」
そう手をひらひらと振りながら答えるシュエリアは明らかにめんどくさそうである。
むぅ、これが価値観の違いという奴か。
「で? なんで耳かき」
「今更ですわね。まあちょっと、色々話したいから、ユウキの好きそうなことで機嫌でも取りながら話そうかと思って」
「おう、そういうのはぶっちゃけるな?」
まさかの機嫌取りだった。
いや、まあ、いいんだけどさ。
「で、話ってなんだ」
「ん、そうね……ユウキってわたくしの声、好きかしら」
「……んー? それ機嫌取ってまで聞くことか?」
「これはジャブですわ」
「なるほど?」
これはまだ話の核、本題ではないようだ。
「で、どうですの、声豚さん」
「失礼だな彼女さん。まあ、そうだな、好きだよ」
「大好きな声優さんとどっちが好きですの?」
「金元さん」
「そこで彼女じゃなくて声優の名前を即答できる神経にはある意味関心しますわ」
そういって若干手に力のこもるシュエリアさん。
あの、耳かき中なんでめっちゃ怖いんですが。
「はぁ。まあいいですわ」
「一応言っとくけど本当に好きだぞ?」
「金元さんがですの?」
「それもだけど、シュエリアの声だよ。ずっと聞いてたいくらいだ」
「それ最初に言って欲しかったですわ」
やれやれ、と首を振るシュエリア。
今は手を止めているからいいけど、危ないから皆は真似しないように。
「それで、耳奴隷の彼氏さん」
「何かな、とっても失礼な彼女さん」
「わたくしの耳かき、どうかしら」
「ん? うーん。うん。悪くない」
「よくも無いんですの?」
「うーん、膝枕されてないと寂しいよな?」
「あんた刺すわよ」
そう言ってすごむシュエリア。
刺すって耳かきをだろうか。
洒落にならん脅しをしてくる奴だ……。怖い。
「いや、耳かきの効率と効果を考えれば膝枕はあまり推奨できないわけだ」
「そう」
「でも、やっぱり彼女の膝枕で耳かきというのはとても夢があると思うんだよ」
「ならなんで断ったのよ」
「……耳かきに掛ける些細なプライド?」
「本当にどうでもいいことで断ってやがるわね」
そう言われるとぐぅの音もでない。
実際膝枕されたい感にもう負けそうである。
「耳かきの巧さはどうですの」
「まあ、普通?」
「上手くはないと」
「エルフと耳の構造が違うからか知らんけど、今一歩かゆいところに届いていない感があるんだよなぁ」
「そうなんですの?」
「うん。もうちょっと奥とか、後はくぼみとかをだな……」
「ふむふむ」
その後もシュエリアは俺の細かい耳かきの注文に耳を傾けてくれる。
こういうところはいい奴だなと思う。
人の好きなこととか、一生懸命に付き合ってくれるところ。
「じゃあもうちょっと強めに、奥は優しく、凹凸に溜まる耳垢に気を付けてやってみますわね?」
「うん、お願いします」
そう言ってとりあえず一通りは終わった右耳から左耳にシフトする。
その際、膝枕するかを再度聞かれたが今更してもらうのもバツが悪かったので遠慮しようかと思ったのだが、床に座らせっぱなしの方が気になり、膝枕を承諾した。
「それじゃあ、始めますわね?」
「はーい」
「ごそごそ」
「うぬん」
うん、心地いい。ちょっとしたアドバイスでここまで即座に上達できるとは、流石。
手先の器用さと本人の賢さ、要領の良さが伺える。
「それで、ユウキ」
「なんだー?」
「本題なのだけれど」
「おうー」
どうやらついに本題のようだ。
しかしまあ、なんというか。
本題の為の機嫌取りということだったが、非常に良い。
膝枕の幸せと耳かきの快感で多好感が凄い。とてもいい気分だ。あとめっちゃ眠くなる。
「この前女子会したじゃない?」
「んあー。してたなー」
「で、そこで結婚について話してしまったのだけれど」
「んー? 俺が話すんじゃなかったのか?」
「えぇ、だからまずはそれを謝っておこうと思って」
そう言って手を止めて頭を下げるシュエリア。
ふむ、コイツにしては随分と殊勝な態度である。
これは何かほかにやったな、コイツ。
「まあ、それはいいけど、お前。他に何かやっただろ」
「流石ユウキ、話が早いですわ」
「んで、何やった」
俺が話の先を促すと、シュエリアはこくんと頷いて話し始める。
「アイネ達に結婚を認めてもらうために取引をしたのだけれど」
「ふむ」
「全部支払いがユウキ本人なのよね」
「なるほど」
「怒らないんですの?」
「まあ、そればっかりは仕方ないだろ」
どうせ俺が話しても同じことだっただろうし、シュエリアの所為で、などとは思わない。
「それで、何を払えばいいんだ」
「それなんだけど……」
言って、ちょっと目を伏せてその先を口にするシュエリア。
「シオンは子供、アイネとアシェ、トモリはデートを希望していますわ」
「一人頭おかしいのが居るんだが?」
後者3人のデート要求はわかるんだが。
え、何? 子供?
「シュエリアと結婚するって話したのに子供要求されたのか?」
「えぇ。駄目かしら」
「……シュエリアの後なら」
「そこで正妻を優先してくれる配慮は地味に嬉しいけれど。シオンは納得するかしら」
「そこはさせるよ。俺だって譲れないことくらいある」
流石に義姉さんだって馬鹿じゃない。
これだけ大きなメリットを得ようとして、簡単にいくとも思っていないはずだ。
っていうかサラっと子供を要求するあたり、あの人本当にえげつない交渉センスしてるよな。
ここぞという時を逃さないっていうか。
「で、後は他の三人とデートか」
「えぇ。それくらいはいいでしょう?」
「もちろん構わない、というか、逆に三人の美少女にデート迫られているとか裏山すぎる展開では」
「まあ、そうですわね」
「むしろシュエリアはいいのか? 俺がデートしても」
「仕方ないでしょう? ハーレムとか言い出しちゃったのわたくしだし。この要求は正当性がありますわ」
「んまあな」
確かにその通りだ。
まあ、そのハーレム案に乗ってしまった俺にも当然責任はある。
ちゃんと皆を幸せにする、ハーレムの責任は取るべきだろう。
「と、いうことで」
「ん?」
「今度の連休にデートを三回セッティングしましたわ」
「お、おう、了解」
……こうして。
俺のハーレムメンバーとのデート三連休が幕を開けようとしていた。
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次回更新は金曜日18時です。




