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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
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なんだかんだ初デートですわ

今回初の火曜日定期更新になります。


 時は巡って冬。12月。

 俺はとある場所でとある人物を待っていた。

 とある人物。というか、シュエリアだが。


「お、遅い……」


 時刻は13時半。

 今日はシュエリアとの最初で最後のデートの約束なのだが、約束から30分程経過している……。


「いや……女性を待つならこのくらいは普通……なのか?」


 デートの経験なんて身内である義姉さんしかない俺はこういう常識っていうものには疎いわけで。

 そんなことを考えていると突然後ろから腕を引っ張られた。


「ぬおっ?!」

「待たせましたわね」

「お、おぉ。シュエリアか」


 どうやら俺の腕を引っ張ったのは待ち合わせの相手、シュエリアだったようだ。


「少し準備に時間が掛ったんですの」

「ん、そうか……」


 そういうシュエリアはいつもの面白Tシャツではなく、流行を取り入れた清楚さと大人っぽさを兼ね合わせたファッションだった。

 髪もいつもと違ってゆるふわのハーフアップだ。


「可愛い」

「そう」

「反応薄っ」

「お互い様ですわ」


 俺がなんとなしに褒めると、シュエリアも一言だけ返してくれたが、もうちょっと喜ばれるかと思っていたのであまりの反応の薄さにツッコんでしまった。


「それで? どこに行くんですの?」

「あぁ。それはな」


 俺はそこまで言うと、事前に義姉さんに用意してもらっていた遊園地のチケットを取り出す。


「ここだ」

「これって……」


 それは地元でも結構有名な遊園地で、某夢の国ほどではないが大人気のテーマパークだ。


「中々いいセンスですわね」

「だろう?」


 正直、俺のセンスではなく義姉さんの物なのだが、それは敢えて言うまい。


「ってことで、早速向かおう」

「えぇ、そうですわね」


 俺はそう言ってシュエリアの手を引きエスコートを……始めなかった。というかできないのだ。

 アシェ曰く、こういうところで無理に背伸びしてもシュエリアのようなエスコート慣れしてる姫には通用しないそうなので、無理ない範囲で彼女を大事にしてあげるデートをすればいいとのことだった。


 なので、とりあえず歩くときは車道側。歩きは歩幅を合わせて、レディファーストを大事に? そのあたりを気を付ければいいとアシェからは教わった。


「……寒いですわね」

「ん、そうだな?」


 遊園地へ向かう道中。ついアシェからの助言の遂行に気を取られて口数が減ると、シュエリアからそんな言葉を受けた。

 そしてその言葉で、ある義姉さんとの会話を思い出し、ついシュエリアの胸を見てしまった。


「ユウキ、なんで私の胸を見ているのかしら」

「いや、その……」

「ん?」


 シュエリアの顔は笑顔そのもの、しかしその笑顔の内側にはもうすでに怒りの炎が燻り始めている。


「……実は以前義姉さんと女性のバストの話をしてな」

「姉となんて話してんのよ」

「……ゴホンっ。でだ、その時に義姉さんが言ってたんだよ『胸が大きいと胸元に熱がこもって暑くなるんだよね』って、夏場なんか汗疹できたりして大変なんだそうだ」

「……そう」

「だからシュエリアの場合は胸が寒そうだなぁって」

「つまり私の胸は熱を持つほど大きくない、むしろ熱を蓄積できない分に寒そうだと言いたいのね? ようは貧乳だと」

「……まあ、平たく言えば、平たい胸だったなぁと」

「死ぬ覚悟はできているのかしら」


 っと……ついつい言わなくていいことまで言ってしまったぞ。

 シュエリアさん、笑顔が崩れてますよ。


「ユウキ、一応言っておくわね?」

「ん?」

「胸が小さいからって、特別に寒いなんてことはないのよ? 男だって胸板薄くても特別寒くはないでしょう?」

「なるほど、つまりシュエリアの胸は男と同じだと」

「…………んなとこいってねぇですわ。大体、今のサイズは着やせの魔法も解いたから普通に大きいわよ」

「あぁ……確かに」

「まったく……」


 そういってシュエリアは怒った様子を解き、最近のテンション低めなシュエリアに戻ってしまった。

 うーん、いっそ感情的になってくれた方が話しやすい気もするんだが……。

 そこまで乗り気にはなってくれないか。


「ところでシュエリア」

「何かしら」


 駅近い遊園地だが、ここまでの無駄話で道半ばといったところ。

 俺はもう一つくらい無駄話できる暇があるとみて、彼女を退屈させまいと話を振る。


「デートってなると特別なイベントなわけじゃないですか」

「まあ、そうですわね?」

「で、ラブコメとかだとちょっとエロい展開とかも、なきにしもあらず」

「ですわね」

「ということでパンツを見せて頂けないだろうか」

「……は?」


 ここで俺の粋な下ネタ? でシュエリアを笑わせれば下ネタ好きのシュエリアとのデートの雰囲気も良くなるはず。


「……なんでパンツ見たいのよ……どうせ何回かパンチラ見てるでしょうに」

「馬鹿野郎!! たまたま見えちゃったのではない、見せてくれるという状況がいいんだろうが!!」

「なんでわたくし怒られてるのかしら……」

「お前が愚か者だからだ」

「うっわ、この変態めちゃくちゃ腹立つわね。わたくしなんでこんな奴好きなのかしら」

「こんな奴だからだろ」

「……否定できないのがまたなんとも腹立たしいわね」


 そう言いながらシュエリアが「それでも見せませんわ」というのに対して、これは俺の冗談は少しは面白い話として彼女の気分を紛らわすことができたのかもしれないと思う。

 シュエリアが少し笑っているのがその証拠だ。


「さて、無駄話はここまでだな」

「無駄話の自覚あったのね」


 そういうとシュエリアは「はぁ、まったく」と溜息をついた。

 うーん、やはりシュエリアに溜息は似合わんな……なんというか、面白くないというか。


「目的地に着いたんだし、早速入場しよう」

「えぇ、そうね」


 そういって俺達は入場列に並び、数十分待ってようやく入場を果たした。

 流石人気テーマパーク、入場にかかる時間も結構なものだ。


「さて、無事入場したわけだが、シュエリア」

「何かしら?」

「別れ話考え直す気は無い?」

「あんた馬鹿ですの?」


 おっとこれは酷い、とても辛辣な発言を頂いてしまった。


「駄目かぁ」

「駄目っていうか、それ以前ですわ。デートの話の段階でなんとなく引き留めようとしている気はしていたけれど、まさかこんな雰囲気もクソもない状態で確認してくるとは思いませんでしたわ」

「既に俺の目論見がバレている」

「素直に肯定してどうすんですの……嘘でも否定しときなさいよそこは」


 そんなこと言われてもな……シュエリアが感づいている以上、嘘ついても無駄になるし、無駄なことはしたくないし、嘘もできれば吐きたくないわけで。


「まあ、確認だよ。さて、まずはどのアトラクションから行こうか」

「はぁ……。そうですわね、絶叫系なんていいんじゃないかしら」

「いきなり飛ばすなぁ。俺苦手なんだけど」

「わたくし、こう見えてテーマパークは初めてですわ」

「俺の苦手発言スルー? まあいいや。こう見えてって、どう見られているとお思いで」

「娯楽のスペシャリストかしら」

「異世界人だよ。こっちの娯楽をちょっとかじったくらいで調子に乗りおってからに」


 この阿保エルフは一回絶叫系で怖い目見とくといいと思う。

 ジェットコースターとかがいいよな、どうせなら。うん。


「じゃあ。ジェットコースター行くか」

「え? ジェット機があるんですの?」

「ねぇよ」

「期待外れですわね」

「期待値が高すぎる!」


 そこまで期待して貰っておいて悪いが流石に遊園地にジェット機は無い。


「ま、いいですわ」

「さよで」

「えぇ、さよで」


 そう言ってシュエリアはジェットコースターの方へ向かい歩き始める。


「シュエリアさんや」

「何かしら」

「手をつないじゃダメですかね」

「……普通そういうのってドキドキしながらも聞かずに握って来るのが初々しくていいのではないかしら」

「残念ながらドキドキ目的じゃなくて安全面確保のためだから」

「安全……? ってちょっ?!」


 そう言った傍から、シュエリアは人ごみに飲まれそうになる。

 うん、だから、言わんこっちゃない。


「っと……危ないぞシュエリア。はぐれたら合流するのも面倒だぞ?」

「た、助かりましたわ?」


 俺がシュエリアの手を掴むと、シュエリアはちょっと顔を赤くしながらも恋人つなぎをしてきた。

 うーん、照れられるとこっちも照れる。

 まあでも、悪くはない。


「……さて、行きましょうか、お姫様」

「ぐぬぅ……このタイミングで姫設定持ち出されると恥ずかしいわね」


 そう言いながらも、ガッチリ繋いだ手は離さないあたり、まんざらでもないのかもしれない。


「さて、無事列に着いたわけだが」

「1時間以上待たされるんですのね」

「まあ、ありがちではあるな」

「遊園地は待ちゲー。覚えましたわ」

「嫌な覚え方するな」

「アニメとかではこういう待ち時間はなかなか描写されないですわよね」

「そうだな」


 そう言って俺は肯定と賛同をしめし、シュエリアは話を続ける。


「そういう意味ではわたくし達はここでの話は割愛すべきなのかしら」

「どういう意味だよ……」

「だってここで面白い話しても確実にカットされますわよ?」

「それアニメの話だろ」

「ですわね?」

「俺ら関係ないじゃん」

「無いですわね」


 言ってから「でもいつかは」と言い出すシュエリアに俺は「無いから」と答えた。


「夢のない奴ですわ?」

「夢しか見てないような奴に言われてもな」

「誰が夢女子よ」

「言ってない」


 っていうかコイツまた無駄に変な単語覚えやがったのか。

 夢女子、腐女子と並ぶ? オタクな女子を区分する言葉だ。


「そんなこんな話している間に少しは列が進んだわね?」

「あぁ。少しな」

「先長すぎじゃないかしら」

「まあ、長いよな」

「アニメみたいにあっちもこっちもってアトラクションに行く時間ないですわね」

「そうだな。まあ待ち時間をいかに楽しめるかは重要だな」


 その後、遊園地などのあるあるや待ち時間の潰し方等で様々話し合い、ついに俺達の番。

 席はもちろん隣同士。絶叫系苦手な俺はここまで来て帰りたがったがシュエリアに引き止められ無理やり乗車させられた。

 よい子の皆は苦手な人に無理させないで上げて欲しいものである。

 シュエリアは若干悪い子なので、この場合見逃してあげて欲しい。



 で、ジェットコースター終わり。



「はーっ! 最っ高! でしたわ!!」

「くそっ……コイツめっちゃ楽しんでやがる」

「ユウキのビビり方がすごくツボでしたわ!」

「しかも俺の事見て楽しんでやがった。余計腹立つな」


 なんで俺こんな奴好きなのだろう……いやまあ、こんな阿保だからなんだけどさ。


「これならもう一回1時間待ってもいいですわね?」

「俺は遠慮させてほしいけどな!」

「あら、残念。なら別のところを回りますわよ?」

「素直に聞いてくれて助かるよ。で、次はどうしようか……」


 珍しく俺の話をまともに聞いてくれるのはデートだからか、初遊園地だからか、どちらにしても楽しければなんでもいいシュエリアだ、兎に角今を楽しめている証拠かもしれない。


「んーそうですわね――」


 こうして、次のアトラクションを悩みながらも園内をめぐるシュエリアに付き添い、俺とシュエリアのデートは続いていった。



ご読了ありがとうございました!

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次回更新は金曜日になります。

今後も当作品をよろしくお願いいたします!

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