真面目な話ですの?
今回ほんのり短めとなります。
「シュエリアさんや」
「……なんですの?」
いつも通り……とはいかない休日。早朝。
先日なぜか別れ話を切り出された後、俺は訳も分からぬまま部屋を追い出された。
で、その翌日である今日、俺はシュエリアの部屋を訪ねて、声をかけた。
「あの後色々考えたんだが」
「……」
「結局なんで別れるって話になったのかさっぱりわからん」
「……」
俺の言葉にシュエリアの返事はない。
「……で、まあ。それはいいとしてだ」
「いいんですの?!」
俺の発言についツッコんでしまうシュエリアに、俺はさらに続ける。
「シュエリアに最後にお願いがあるんだ」
「最後……なに、かしら」
俺の最後の願いとあって、聞いてくれる気はあるようだ。
さて、聞くだけ聞いて断られないといいのだが。
「シュエリア。俺と――デートをしよう」
話は遡って昨日。俺の部屋。
「――というわけで、シュエリアに別れ話をされてしまった」
俺は自分の部屋にアイネ、トモリさん、アシェを集めて事の顛末を話した。
まあ、部屋に居るのは5人で、つまり呼んでない義姉さんも入れて5人なわけだが。
「話を聞く限り恐らくシュエちゃんは付き合いが長くなるほど辛くなるから、今から別れる選択をしたんじゃないかな?」
「そうなのかな」
「どうでしょうっ。シュエリアさんですから、意外な理由があるかもしれませんっ」
「暇~だから~でしょうか~?」
「そんな理由で別れるほど馬鹿じゃ……いえ、馬鹿ね」
俺の話に各々、意見を出してくれる。
しかしそこはシュエリアの考えること、皆、色々と予想はしてもあたっているのかは本人にしかわからない。
「それで、兄さまはどうしたいのですかっ?」
「俺は……」
アイネの言葉に俺はすぐに返答できなかった。
それは、シュエリアから別れを告げられたショックからか……それとも自分の気持ちに整理がついていないからか。
いや、その両方か。しかし、それでも俺は言葉をひねり出す。
「俺は……嫌だな」
「別れたくないのね?」
「あぁ」
アシェの言葉に俺はそれだけ答える。
「なら~やるべきことは~決まって~ますね~」
「え、そうなんですか?」
ただ、別れたくないと答えただけの俺に、トモリさんが答えを提示してくれるようだ。
話が早くて助かるが……一体なんだろう。
「引き止め~ましょう~」
「でも、どうやって」
確かに引き止めたい……それはそうなのだが、しかし、シュエリアの悩みの種である『寿命の差』は何ともしがたい……。
「う~ん~それは~」
「これから」
「私たちがっ」
「一緒に考えてあげるわよ」
そう。皆で口を合わせて答える姿を見て、俺は一瞬、救われた気がした。
まだ、何も解決していないが。それでも。
こうして協力してくれる仲間……いや、ハーレムメンバーだが、それが居ることが心強く感じた。
「ありがとう」
「うわ、ゆう君が素直だ!」
「うわとか言うかこの空気で」
「兄さま兄さまっ」
「ん?」
俺が義姉さんの発言にツッコミを入れると、アイネが俺に抱き着きながら話をしてくる。
「デートがいいと思いますっ」
「ほう」
「デートでシュエリアさんに別れはまだ惜しいと思わせるのですっ。面白ければきっと成功しますっ」
「おぉ……悪くない」
確かに面白いことに目がないシュエリアだ。
まだシュエリアとはそれらしいデートはしていないし、そこで俺に対する興味が俺を失うそれ以上になれば、先の発言を取り消して貰えるかもしれない。
「ならデートは王道の遊園地がいいよ!」
「それは何か理由があるのか?」
「うん! 遊園地なら私が経営してるのがあるからサポートも万全にできるし、恋人らしい演出掛かったイベントも用意できるからね!」
「なるほど」
義姉さんがそういうなら、当てになるかもしれない。
初デートに遊園地、悪くない。
「でしたら~後は作戦~ですね~」
「作戦ですか」
「そうね、ただデートしても意味が無いわ」
「面白ければいいのでは?」
さっきの話だと普通に面白くデートできればそれでよさそうな感じなのだが、やはりそれだけでは足りないのだろうか。
「平常時のシュエリアならそれでいいかもしれないわ? でも、アイツ柄にもなく悩んでるんでしょう? なら、その悩みも解消してあげないと駄目よ」
「なるほど? でもそんな方法あるか?」
「大丈夫よ。そこは私に任せなさい?」
「お、おう」
本当にアシェに任せていいのかわからないが、それでも俺にはどうしようもなくて今相談しているわけだし、ここは素直に頼ってみるとしよう。
「で、作戦とは」
「はい~」
そういってトモリさんは髪を結う。
ん? なんで急に髪を?
「まず、シュエリアさんを落とすには、楽しいデートが大前提です」
「待って下さい。普通に話し始めないで!」
トモリさんは髪を結った後から、魔王の風格を放ちながら真顔でハキハキと話し始めた。
「なぜ急に髪を結ったんです? それにその雰囲気とか」
「あぁ。私、髪を結うと気が引き締まるので、真面目な場ではこういう対応を魔王時代からしていたんです。一種のスイッチですね」
「……そ、そうですか」
なるほど……? なのか?
新しいトモリさんのキャラ設定に若干の戸惑いはあるが、まあ本人曰く真面目な話をする時用らしいし、ここはそっとしておこう。
「話を続けてもいいですか?」
「は、はい」
「楽しいデートをした上で、アシェさんの策で悩みを解決、ですがそれでもまだ足りないと、私は思います」
「な、なるほど」
なんだろう……今この瞬間、この場で、一番頼りになる人はトモリさんな気がしてきた。
いつもとのギャップの所為か、魔王の風格がそうさせるのか、とにかく頼りがいというものをすごく感じている。
「具体的には……?」
「そうですね。一度振ってしまった手前、元の鞘に戻ることに抵抗が少なからずあるでしょうから」
「ふむ」
「ですから、下手にでましょう」
「は、はあ」
「ここぞという時に下手に出て、どうしても元の関係に戻りたいと迫ればシュエリアさんの性格なら、なんだかんだ言いながら元の関係に戻ってくれるはずです」
「な、なるほど?」
ホントにそんなことで上手くいくだろうか……不安だ。
しかし他に案も思い浮かばないしなぁ……。
「とりあえず、その作戦で行ってみます」
「はい。頑張ってくださいね」
そういってトモリさんはこれ以上自分から助言はないと髪を解いた。
そしてその後、他にも色々とアイネ達に相談に乗ってもらい……。
後日、今ここでシュエリアにデートの誘いをしたのである。
「デート……ですの?」
「あぁ。まだしてないだろ。だから、思い出に」
「思い出…………そう」
「いいか?」
「……えぇ」
ふむ。
正直ここが一番のネックだと思っていたのだが、まさか普通にOKが出るとは思わなかった。
とはいえ約束を取り付けられたのだから問題はない。
俺は早速シュエリアに約束の時間と待ち合わせ場所を指定した。
「なんでわざわざ外で待ち合わせるんですの?」
「そっちのほうがデートっぽいだろ」
「……そうかしら」
「そうだよ」
これもまあ、一応義姉さんから教えられたデートプランの一つだ。
なんでも、デートとは始まる前から始まっている? らしい。
待ち合わせ場所に早く着き、待つことも重要だとか……なんとか。
よくはわからないがそういうことらしい。
「それじゃあ、また後日」
「え……えぇ。そうね」
ん? 今の「え」はなんの「え」だろうか。
よくわからんが……まあ、今はいいとしよう……。
こうして俺はシュエリアにデートの約束を取り付けると、部屋に戻り、シュエリアとの関係修復作戦の為の準備を始めるのだった。
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