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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
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本当に唐突な話ですわ

今回いつもよりほんのり短めです。


「永遠って無いわよね」

「はあ?」


 いつも通りの日常。

 そこにいつも通りのシュエリアの突飛な発言。

 今日の話題は永遠? なのだろうか。またなんとも中二ちっくな。


「はぁ……なんでこんなことに」

「なんかよくわからないが、珍しいな」

「何がですの?」

「溜息」


 こいつが真面目な顔して溜息吐いているのなんてそう見れるもんじゃない。


「わたくしだって悩んだりしたら出ますわよ、溜息。あと暇でも出ますわね」

「後者のはすごく納得」


 確かにコイツなら暇で溜息とか吐きそう。


「っていうかその感じだと悩みがあるのか?」

「えぇ、まあ、そうですわね」

「ふむ」


 珍しい。コイツに悩むようなことがあるとは……。

 しかもこの神妙な面持ちからして、真面目な悩みのようだ。


「……それじゃお大事に――」

「待ちなさいよ。あんたどういう神経してんですの?」


 俺が悩める美少女をそっとしておこうと部屋を出ようとすると本人からストップが掛かった。


「え、いや、悩みがあるなら一人にしてやろうかと」

「そこは相談に乗りなさいよ。そういう気づかいも大事かもしれないけれど、今は違いますわ」

「さいですか」

「さいですわ」


 そう言ってシュエリアは自分の座っているソファの横をポンポンと叩く。

 どうやらそこに座れと言うことらしい。


「で、なんだ? 悩みって」

「えぇ、それなんだけれど――」


 シュエリアはそこで息を吐くと、少し間をおいて口を開いた。


「なぜ……永遠はないのかしら」

「のっけから哲学」


 相談内容、哲学。

 なんて回答に困る相談だろう、ハードルが高い。


「なんでですの?」

「いや……知らん」

「使えないですわね」

「無茶苦茶いいやがる」


 大抵の人はいきなり「なぜ永遠はないのか」と問われて気の利いた答えなんてでないのではないだろうか。


「はぁ。まあいいですわ」

「いいのかよ」

「じゃあなんで永遠じゃないんですの?」

「何かもう意味が分からなくなってきた」


 なぜ永遠ではないのか。

 何が? とか。なぜいきなりそんなこと言い出したのかとか。もう気になること多すぎてどこからツッコもうか……。


「ユウキって有限よね」

「言い方……有限って何が」

「寿命よ。寿命」

「ま、まあ、有限でない命というのはないんじゃないか」


 それこそ、長命のエルフですら永遠ではないのだから……って、これそういう話?

 つまり何故人の一生は永遠ではないのかと、そういう話なのか?


「そうですわよね……はぁ」

「それが悩みの種なのか?」

「そうですわ? まあ、別に永遠でなくてもいいのだけれど」

「いいのかよ」


 悩みの前提が否定された。

 なら何が問題だというのか。


「じゃあ何が問題なんだよ」

「寿命の差ですわ」

「寿命の差」


 それはどういう意味だろうか。


「えぇ。ユウキとわたくしって差がありすぎると思わない?」

「ん、まあ、そうだな」


 シュエリアは万年を生きるエルフで、俺は数十年程度の人間だ。

 差があると言えば、差がありすぎるくらいにある。


「軽いですわね、ユウキ」

「いや、だって、わかりきってることだしな……それで何が悩みになるんだ?」

「わからないんですの?」

「え、うん」


 俺が素直に答えると、シュエリアは「はぁっ」と大きな溜息を吐いた。

 な、なんだ。何か変な事言っただろうか。


「ユウキ」

「はい」

「わたくしとユウキはずっと一緒にはいられないんですの」

「そうだな」

「それが悲しくて、悩ましいんですわ?」

「……なるほど?」


 そういう風に言われればまあ、わからなくはない。

 でもそれって結構先の話っていうか、俺まだ20代だしなぁ……。


「ユウキが亡くなった後も、わたくしは万年生きるのよ?」

「そうだな」

「それが寂しいって言ってるんですの」

「な、なるほど」


 そうか……。

 事件や事故でもない限り俺はシュエリアより先に死ぬ。

 そうなれば残されたシュエリアは残りの人生、俺を失った悲しみや寂しさと共に生きるのか……。


 考えたことなかったな。

 今が楽しければいいタイプだと思っていたが……案外シュエリアも先のことを考えたりするようだ。


「ユウキがずっと一緒なら、楽しいのだけれど」

「ふむ」

「でもそういう訳にもいかないでしょう?」

「まあ、そうだな」

「……はぁ」

「うーん」


 俺はシュエリアの溜息に唸ることしかできない。

 流石にこの悩みは哲学以上に手に余る相談内容だ。


「なんで急にそんなことが気になってしまったんだ?」

「なんでって……」


 シュエリアはそこで一旦言葉を詰まらせると、真顔で言った。


「日常物のアニメを見終わって『あぁ、永遠に続く日常はないのよね』って思ったからですわ?」

「うわすっげぇどうでもいい」


 まさかアニメ見終わって人生の終わりまで悲観する奴がいるとは思わなかった。


「どうでもいいって、言葉を選ばないですわね」

「いやだって、お前、それアニメだぞ」

「アニメで心が動くのはおかしいかしら?」

「いや、おかしくないが。アニメが終わったからって何も人生の終わりまで想像しなくてもいいだろ」

「そんなこと言われても……考えが至ってしまったんだもの」


 そう言いながらシュエリアはまた「はぁ」と溜息。

 うーん、重症だなこれは……。


「ということで、ユウキ」

「ん? なんだ?」


 俺がシュエリアのこの『日常ロス』現象をなんとかしようと考えているとシュエリアから声がかかる。


「わたくし……」

「ん?」

「ユウキと……」

「うん」


 そこまできて。

 シュエリアはふっと、一瞬俺から視界を外すと、最後の言葉を、口にした。


「ユウキと…………別れますわ」

「……は?」


 こうしてこの日。

 俺とシュエリアの関係に、影が落ちた。


ご読了ありがとうございました!

ブックマークや評価、誤字脱字の報告を頂けますと有難いです。

それと、現在更新頻度の増加を目指しており、更新が安定するようにストックを執筆中です。

この作品を目にしてくださる皆様に楽しんでいただけるよう努力していきます。

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