違和感の話ですわ
今回は2話更新します。二話目は手動更新ですので多少更新時間がズレますがご了承ください。
「海に行きましたわね」
「ん?」
いつも通りの昼下がり。
シュエリアは昨日海に行って遊んだことを回想したいみたいだ。
「海と言えば水着ですわね」
「そう、だな」
「わたくしの胸、見ましたわよね??」
「へ? いや……えっと」
これ、素直に答えていいやつなのだろうか。
うっかり「見たよ」なんて言ったらセクハラとか言われたりしないだろうな。
そう思っていると、シュエリアの方から答えが返ってきた。
「別に咎める意図はないですわよ。むしろ逆ですわ」
「逆?」
それはいったい……。
「わたくしの胸、妙じゃないかしら?」
「うん? 妙って?」
別にこれと言って奇怪なところなどは無いように見えるのだが……。
「周りの反応を見て思ったのだけれど、わたくしって着やせし過ぎじゃあないかと思って」
「ふむ」
そう言われて、俺は件の姿を思い返す。
シュエリアの水着姿、そして、その胸の……。
「谷間?」
「セクハラですの?」
「お前がこの話振ったんだよな?!」
「こんなやり取り前にもしましたわね?」
確かに、癖の話の時にしたきがするが……。
「冗談はさておき」
「冗談なのか」
「着眼点がいいですわよ、ユウキ」
「ほう」
「周りのわたくしに対する反応、谷間の件を誰も指摘しなかったのが気になったのですわ」
いや……人の谷間がどうとか指摘する奴も中々いないと思うんだけど……。
そうは思いながらも話がそれそうなのでそのまま話を促す。
「それで?」
「まずわたくしの胸を触っていたトモリに話を聞きましたわ」
「ふむ」
確かにトモリさんは海でシュエリアのことを回転させる際に胸を触っていたか。
「見た目よりかなり触り心地がよかったと言われましたわ」
「は、はあ」
「で、さらに気になったわたくしは、昔のわたくしはこうではなかったから、昔のわたくしを知るリセリアに話を聞くことにしたのだけれど」
「ほうほう」
「で、ユウキ何か気づかないかしら」
「へ? なんだ急に……気づくって何に……」
そういえば何か、今日のシュエリアは違和感があるような気もするが……。
髪型……いつも通り。
顔……相変わらずキレイ。
うなじと首……線が美しい。
鎖骨から胸…………うん?
胸?
「パット?」
「ぶん殴りますわ」
「まて! だってどう見てもおかしい! いつもと違い過ぎる!!」
「言いたいことはわかるけれどパットを最初に口にしたことは許しませんわ」
「ま、まっ……いたたたたたっ!」
シュエリアは俺の制止を無視して締め技をかけてきた。
そして俺は「殴るんじゃなかったのか」とか思いつつも、締められている腕にシュエリアの胸の柔らかさが伝わるのを感じて、違和感の正体に気づいた。
「いてて……シュエリアの胸の感触と目に見える大きさの差がなくなってる?」
「正解ですわ。最初からそういう答えを出せば痛い思いもしなくて済むのですわ?」
「って言われてもな……」
そう言われて、また胸を見る。
いや、彼女のものとはいえ、あまりジロジロみるのは失礼だし、よくないことだが、それでも気になる。
「見た目からして大きく見えるな……着やせしてない」
「そうですわ。水着ですら謎の着やせをしていたわたくしが、元通りですわ」
「ふむ……元通りねぇ」
「えぇ」
「それってさっき言っていたリセリアに話に行ったのと関係あるのか?」
「ええ、その通りですわ」
そう言ってシュエリアは語ってくれた。
リセリアと話し、何があったのかを。
「結論から言うと、リセリアの所為だったのよ」
「ほう」
「あの子わたくしのこと好きじゃない」
「そうだな。シスコンだな」
「で、あの子、わたくしが男達に異性として見られるのが嫌だったらしいのよ」
「だったってことは今は……」
「あぁ、今でもユウキのことだけは敵視してますわよ」
「なんで俺だけ……」
まあ理由としてはリセリアの好きなシュエリアを俺の彼女にしたのだから彼女からすれば恋敵だからな。
「で、話戻しても?」
「おう」
「リセリアね、あの子、わたくしに妙な魔法掛けていたのよ」
「妙な魔法?」
妙っていうのはどういうことだろうか。
「胸が劇的に着やせする魔法ですわ」
「何そのクソみたいな魔法」
相変わらずこの日常のファンタジー要素はこれっぽっちも仕事しないな。
「ファンタジーに対する冒涜感すらある」
「魔法なんて案外そんなもんですわ」
「えぇ……」
そんなもんって……こんな下らない使い道ばかりなのか、魔法。
「生活に便利だったり、己の欲を叶えるのに近道できるのが魔法だもの。戦闘とかにドンパチやるのだって殴るより効率いいからですわ。結局のところ使用者にとって便利ならそれでいいんですわ」
「うーん……納得いくようないかないような……」
シュエリアの言っていることは正しい気はするのだが、かといって胸が着やせする魔法ってどうなんだよ……。
「で、その魔法が今は解けているということは、リセリアが解いたのか?」
「いえ、わたくしが無理やり解いたのよ。あの子解こうとしなかったし。面倒だから自分でやった方が早かったのよね」
「えぇ……」
そこは和解してとかじゃないのか。
以前に聞いた様子だとシュエリアは魔法とかに関してチート性能をしているようなので、それで無理矢理に解決したというところか。
「だってあの子、魔法を解くように言ったらユウキと別れろとか言い出すのよ? 話になりませんわ」
「な、なるほど」
「なーに嬉しそうにしてんですの、転がしますわよ」
「い、いや、すまん」
別れたくないから自分で解決したとか、ちょっと可愛いじゃないか。
だから顔がニヤけてしまったんだが、怒られてしまった。
まあ照れ隠しかな、可愛い奴め。
「それで、どうかしら」
「何が」
「胸が」
「が?」
「だから、胸が……その……大きいの、どうですの」
「……はい?」
どうとは……なんだろうか。
「散々胸が無いだのまな板だの言っといて、まさか、大きいのは嫌とか言い出しませんわよね?」
「……あ、なるほど」
つまりあれか、胸の感想が欲しいわけだ、シュエリアは。
「えっと……うん、似合ってるんじゃないか?」
「……胸の感想としてどうなのかしらそれ」
「どうなんだろう……」
いやでも、胸の感想とか聞かれてもなぁ……正直回答に困る。
「ま、いいですわ。これで弄られることもないわけだし」
そう言ってシュエリアは満足気な顔で抱き着いてくる。
「あぁ、でも、ユウキはいいのよ? 弄っても」
「はい?」
「胸ですわ」
「いや、それは話の流れでわかるんだが……」
そうではなく、胸を弄っていいっていうのは、つまり。
「ユウキはほら、ハーレムの主なのだし、わたくしは本妻でしょう?」
「いや、結婚はまだだろ」
「……んじゃあ本命でいいですわ。で、本命相手に『そういう』ことをするのは別に問題ないわけですわ?」
「お前は定期的に下の話しないと気が済まないのか」
「いいじゃない、男としてはそういうのNGな女子よりはやりやすいんじゃないですの?」
「まあ、そうかもしれんが」
いや、実際ここまでオープンに来られると逆にやりづらさを感じなくもないのだが。
そもそも何故胸の違和感の話からここまで来てしまったのか……。
「あっ……違和感といえば」
「ん? 話変えるんですの?」
「駄目か?」
「いえ、面白ければいいですわよ」
「ハードル上げるなぁ」
面白いかどうかはシュエリア基準なので面白いかはわからないが、ちょっと気になることがある。
「違和感と言えば、俺、気になってることがあってな」
「なんですの?」
「お前なんでハーレムとか言い出した訳?」
「あぁ……」
シュエリアはそれだけ言うと「うーん」と唸る。
唸って唸ってひとしきり唸った後に口を開く。
「面白そうだからですわ」
「お前なぁ……」
ここでも出て来る面白そうだからという言葉。
これだけ聞くと非常に彼女らしい発想なのだが、しかしだ。
しかし。一組の男女が愛し合うという形はそれはそれで面白いこともあると思う。
そういう意味ではあえて二人だけの関係を崩してまで『面白そう』というだけの発想を通したことに違和感を感じる。
「というわけで、面白そう、意外に理由はないのか?」
「どういうわけですの? っていうか、無いですわよ。他に理由要るんですの?」
「俺と二人じゃ面白くないか?」
「うわ……そういう聞き方はズルいですわ。別に、ユウキと二人が嫌とか、物足りないわけではないですわ」
「じゃあどうして」
「むぅ……なんですの、そんなに二人きりがよかったんですの?」
そう言ってちょっと不満そうな表情をするシュエリア。
なんだろう……なんでシュエリアが不満そうなのかがよくわからない。
「いや、まあ正直助かったかなとは思ってるよ」
「でしょう?」
「なんでドヤ顔なんだよ……」
「だってユウキって複数の女の子に言い寄られたら選べないタイプでしょう?」
「ま、まあ……」
確かに、今ハーレムにいるメンツから一斉に迫られたら断る自信がない……。
「優柔不断っていうよりは全員幸せにしたいって答えがあってもそれを選べないって感じですわよね」
「お、おう」
「まあ、だから提案してあげたんですわ?」
そう言って今度はある胸を張るシュエリア。
「なんだ……ちゃんと他の理由あるんじゃないか」
どうやら違和感の正体はこれだったようだ。
シュエリアなりに俺のことを気遣った結果、ああいう事になったようである。
「別にちゃんとした理由なんかじゃないですわよ……面白そうだからっていうのも事実だもの。ユウキの為だけじゃないですわ」
「でも俺の為でもあるってのがわかっただけで嬉しいけどな?」
「そ、そう」
俺の素直な感想に照れ臭そうに顔を背けながらも体を預けてくっついてくるシュエリア。
「それで? 違和感はもうないかしら?」
「そうだな……無いかな」
「そう……ふふ。ぎゅうっ」
俺の返答に嬉しそうにぎゅっと抱き着いてくるシュエリア。
まあ正直言えば違和感ではなくても疑問はある。
ハーレムってこれからどうすればいいのかとか、なんでハーレム? 超展開過ぎないか? とか、まあ、色々。
しかし、今はこうして二人きりでシュエリアと過ごす時間が楽しいので、その疑問は今度の話題にでも取っておくことにした。
ご読了ありがとうございました。
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