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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
28/266

夏と言ったら……ですわ

 夏、俺達はいつもの邸宅ではなく、観光地もある海に来ていた。

 なぜ海に来ているのか、それは季節が夏であり、俺達が若者? であり、そしてどっかのエルフが思い付きで行きたいと言い出したからだ。

 主な理由は最後の一つであり、最初のいくつかは後付け設定というやつだ。


「こんなクソ暑いのに態々熱い砂浜……もとい海とかほんと、なんだ、サービス精神旺盛なのか」

「まあそりゃあ、こんな美しいわたくしの水着姿を見せるんですもの、サービス精神だけで言えばそう、サービス精神の女神様と呼んでも差し支えなくってよ?」

「なんだそのダサい女神様……」


 そんな女神様とはご一緒したくないな。

 というかそれだけ聞くと逆に見せたがりの痴女のようではないだろうか……。


「誰が痴女ですの? ぶっ転がしますわよ?」

「あのさ、お前ら魔法で人の心読むのやめろよ……」

「違いますわよ、本文と言えばいいのかしら、そこを読んでいるだけですわ」

「尚更質が悪いわ!!」


 どちらにしてもそういうのを読んじゃうのはやめて欲しい物だ……。なんというか、やりにくいから。


「というかユウキ、わたくしの水着姿を見たのだから、感想くらい言う物ですわ」

「そういうものですか」

「そういうものですわ」


 感想……感想ねぇ。


「拝見させて貰い誠に感謝申し上げます?」

「なんて他人行儀に尽きる感想なのかしら……それもはや社交辞令ですらないですわ」

「じゃあなんと言えばいいのやら」

「語彙力皆無なんですの……? 普通にお似合いですね、とかお美しいですねとかでいいですわよ」

「普通にお似合いですねとかいうのつまんなくね?」

「ん……確かに。では何か面白いのを一つお願いしますわ」


 あ、ヤバい、地雷踏んだな。

 いつも面白いことを~とばかり言うシュエリアが「普通に」とか言うもんだからつい面白くないのでは? 等と指摘してしまったが藪蛇だったか。


「……そうだな。お似合いです……似合い……うん、よし、整いました」

「なんで大喜利風なんですの……? まあいいですわ。続けてどうぞ」

「では…………その水着、お前の最高のパートナーだな!」

「ふむ、なるほど。似合いであることと一心同体のような水着をパートナーと例えたのね……大喜利風にしていたからどうにもそちらの要素を欲しがってしまう点があるから、そうね、少し甘めで35点にしてあげますわ」

「ぐっ……きびしいな」

「そういうもんですわ」

「そういうもんですか」


 まあ正直上手い事言えてないので仕方ないといえば、仕方ないか。


「で、だ。アイネとトモリさんは?」

「あぁ……アイネは、うん。アレですわ、トモリに選んでもらった水着がえげつなく露出が多くてあたふたした挙句に転移魔法を使って自分で水着を買いに行きましたわ」

「……それはそれで見たかったような」

「今の録音しましたわ」

「やめてくださいお願いします」


 その録音を何に使うのかは知らないがアイネや姉さんに使われると不味い。前者の場合は恐らく暫くアイネに顔を合わせられなくなる。後者の場合は即死効果が発生する。

 俺がその録音の使用内容に恐怖していると、シュエリアがすっと肩に手を置いてきた。


「昼飯は海の家でラーメンが良いわねぇ……微妙に美味しくないラーメンが」

「ぜひ奢らせてください!」


 くそ……まさかうっかり発言したことを録音されてしまうとは……。

 というか本文読んだり会話を逐一録音したり、コイツなんかアレだな、色々ダメな子になってないか? メタ構造的というか、なんというか、うん。


「で、まあ、アイネはいいとして、トモリさんはどうなんだ」

「トモリは……シオンに連れていかれましたわ」

「え……なんで義姉さんに?」

「まあアイネに選んだ水着もそうなのだけれど、トモリの水着に至っては殆どヒモだったというか、ただでさえ大変なボディしてるのにエロ水着を持ってきていたからシオンの判断で水着を買い直しに強制連行されましたわ」

「そっちもかよ……」


 なんというか、それは見なくてよかったなぁと思う。

 アイネに見せても悪影響待ったなしだし、そんなものをみたら俺も色々ヤバそうだし、主に義姉さんに狩られる気がする。


「って、義姉さんも来てたんだな」

「えぇ、たまたま、偶然来ていたらしいですわよ」

「……胡散臭いな」

「えぇ、本当に……はぁ、本当に」

「ん? どうし――」

『ドッシャアアア!』


 シュエリアがあまりにも深いため息を吐くものだから俺がどうしたのかと確認しようとしたとき、俺とシュエリアの間の砂浜が爆発した。


「姉様! その水着姿、お綺麗です!! 後ユウキさんは死んでください」

「なっ! リセリア?!」

「はぁ……やっぱりシオンと一緒に来てたんですのね」

「姉様達が海に行くと聞いて来ちゃいました!」

「って……聞いてたんですの?」

「えぇ、姉様のお声を聴きたくてたまーにですけど、盗聴しているので!」

「ハッキリ犯罪宣言しましたわね……これだからシスコンは」

「シュエちゃん! シスコンは悪くないよ!! だからゆう君もシスコンになってお姉ちゃんとイチャイチャしよう? ね! いいでしょ?」

「って義姉さんまで……いつの間に」


 なんというか、この二人がいるだけで無駄に騒がしくなったな……。


「というか、義姉さんはトモリさんと水着買いに行ったんじゃないの?」

「うん、だから買ってきたんだよ? ほら、あそこにいるでしょ、トモちゃん」


 そういうと姉さんは広い浜辺のあるところを指さした。

 そこに居る人物は周りの人の視線を一身に集めており、しかし本人は全く気にした様子もなく。のほほんと、日傘の下でシートを引き、正座していた。


 その人物こそがまさに話の中心人物であるトモリさんだったのだが、その視線の理由は何もトモリさんが偉く美人だからということだけでもない気がする。

 なにしろ俺はその姿にはかなりの違和感を覚えた。


 何が違和感の正体なのか、それがはっきりしているだけにこれは違和感というより不自然感とでもいうのか、非常識感と言った方が良いのかもしれない。

 兎にも角にも変だった。特に義姉さんが選んだはずの水着が。


「なんでスク水なんだよ!! ありえねぇだろあのチョイスは!!!! どうみてもアレのせいで視線集めてるだろ!! てか! なんでツインテール?! 阿呆なの!!?? どう見てもコスプレだし! イヤらしい大人の犯罪臭がするよ!!!!」

「待ってゆう君。言いたいことは分かるよ? あのグラマーな体系でおっとりしたお姉さんがスク水で海水浴場にいる犯罪臭、というかもはや企画ものの何かっぽさはわかるよ。でもね? アレには理由があるんだよ……」

「理由……?」


 理由って、どんな理由があればあんな完全な犯罪臭が出せるというのか、あれならまだエロ水着のほうが似合っているとか、らしさがあるだけに自然体ともいえる。

 あのアンバランスさは……凶器だろ。


「トモちゃんに色々水着を着せたんだけど、どれもトモちゃんには生地が狭すぎて……というか殆どまともにサイズの合う水着が無かったというか――」

「でも日頃の感じだと、体系は義姉さんとそう変わらないだろ?」

「いや……アレは日頃着物を着てて、しかもアレでもさらしを巻いて押さえつけてるみたいだから……お姉ちゃんもびっくりしたよ……まさか脱ぐとあそこまでの凶器を持っているなんてね……実際お姉ちゃん自分のスタイルとか結構自身あったけど……アレだよね、上には上がいるよね……」


 そんなまさか……トモリさん和服の上からでもすげえ胸大きいなぁとか思ってたけど、あれでもさらしで押さえつけていたって……それほどのリミッターを掛けていても常日頃あれだけ男性を魅了してやまないあの乳が……彼女のおっぱいの戦闘力はいくらあるというのだ……。


「結果から言うともうどう考えても特注品でしかサイズを合わせられなくてね……仕方なしにさらし装備でも違和感を軽減できるスクール水着になったという事なんだよ……お姉ちゃんにはこれが精いっぱいだったの。ごめんねゆう君」

「い、いや……それ程の猛者であれば仕方ない……むしろあそこまでその力を制御した義姉さんはよくやったよ……」

「なんですのこの姉弟の会話。頭悪いですわねぇ……」


 俺と姉さんの会話を頭悪いの一言で一蹴したシュエリアはなんか機嫌が悪そうだった。


「なんだ、どうした。えらく機嫌が悪そうだな」

「まあ、ちょっと、以前トモリにまな板呼ばわりされたことを思い出したのですわ……」

「あ、あぁ」


 まあ正直シュエリアも無いわけではない。というか人間の平均で見ても普通より少々控えめな程度でツルツルのまな板ではない。

 しかし、トモリさんや義姉さんと比べれば流石にお世辞にも大きいとは言い難い胸ではある。

 それも本人曰く『凄く着やせするタイプ』だからそう見えるだけらしいが。


「というか、水着はそれで納得できてもなんでツインテールなんですの? アレが余計に犯罪臭増してますわよ」

「あー、あれはトモちゃんが『たまには~こういう~のもいいかと~思います~』って言ってたから、本人の意思を尊重した結果だね。スク水にする前からああだから、後になってヤバい組み合わせになった感じで」

「そ、そうですの……」


 若干だがシュエリアが苦笑いしている。気持ちはわからんでもない。あのトモリさんが自主的にツンテールにするとかなんかこう、怖い。何か狙っているとしか思えない。


「で、アイネは?」

「あー、アイちゃんかぁ。トモちゃんと一緒に着替えるっていってたけど、私たちは先に来ちゃったしなぁ……トモちゃんに聞けばいいよ?」

「ん、そうか」


 ということだったので俺はシュエリアと一緒にトモリさんのところに行った。


「……今更だけど気になるから先に聞いておこう。トモリさん、なぜ正座?」


 遠目に見ていた時からそうだったがトモリさんは日傘の下、シートの上に正座している。

 砂浜で海を見ながら正座している人って普通居ないと思う。スク水も普通着ないが。


「あらぁ~? ゆっくんと~シュエリアさん~ですね~」

「そうですよ。で、何してたんです?」


 俺が再度話を促すと、トモリさんはとてもいい笑顔で口を開いた。


「それは~ですね~。夕日を~待っているん~です~」

「…………はい?」


 夕日? 待ってる? 何を言ってんだこの人は。

 大体それってわざわざ正座じゃなくて良くない? とか。まだ昼前なんですけど? とか。

 ツッコミどころが多すぎて……。


「海辺で見る夕日~は~綺麗だというので~心待ちにして~いるんです~」

「は、はぁ……」


 なんだろうな……すごく、すごく今の会話だけで夏の熱気を、海辺のテンションを奪い去られた気がする。そのくらいの脱力感が今のトモリさんの話にはあった。


「そんなことより、アイネはどこなんですの?」


 そんな俺とトモリさんの会話を聞いてシビレを切らしたのかシュエリアは先ほどまでの会話を「そんなこと」と一蹴してアイネの場所を聞き出した。


「あぁ~アイネちゃんは~ですねぇ~。水着を着た後~外に出るのが恥ずかしいようで~まだ更衣室で心の準備~をしているかも~しれないですねぇ~?」

「なるほどですわ……というかアイネと一緒に来なかったのね?」

「夕日が楽しみ~でしたから~」


 トモリさんが凄くいい笑顔で素直に答えた時、シュエリアは限界に達していた。


「ぐっ……そっ……そう、ですのね……くふっ……ふふ……ぶふっ……」


 コイツ笑い堪えてたのか……。

 ダメだ、シュエリアが笑いを必死に堪えている様がむしろ笑える。

 昼間から正座で夕陽待機する人なんて、きっとこの世にこの人しかいないと思う。その不自然さと今のトモリさんの恰好とがあわさって、もう色々ヤバい破壊力を持っている。


「と、とりあえずアイネを探しに行きますわ」

「そうだな」

「あ、中まで付いてきたらぶっ飛ばしますわよ?」

「わかってるっての」


 なんでシュエリアの中だと俺ってちょいちょい変態扱いなんだろう。流石に更衣室まで一緒に入らねぇよ。相手がトモリさんとかならまだしも相手は妹分のアイネと知らない人多数だぞ? 流石に覗こうという気にもならないしかといって堂々と入る気もさらさらない。


「では中を見てきますわね」

「はいよ」


 シュエリアは更衣室の扉を開けてするりと中に入ると、少ししてアイネを引き連れて出てきた。


「お待たせしましたわ」

「あ、あう……兄さま……ふぅううう……」


 シュエリアに引っ張られて出てきたアイネは顔が真っ赤で、なんかもう湯気とか出ちゃってるくらいにあっつあつになっている。


「どうした、体調悪いのか?」

「いえ、その……うぅ」

「単に恥ずかしがってるのよ。水着見られるのを」

「はあ。そういもんですか」

「そういうもんですわ」


 そんな事言われるとなぁ、余計に見たくなる気がするというか、よくよく観察してみたくなってしまった。


 アイネの水着は割とシンプルなセパレートだった。

 淡い水色の布地と可愛くあしらわれた白のフリル。他は特段露出が多いとかデザインがエキサイティングとかそういうことは全くない普通に可愛いアイネに似合っている水着である。


「普通に、似合ってて可愛いと思うんだけど」

「にゃっ……似合って、ますかっ」

「うん、似合ってるな」

「可愛い、んですかっ?」

「そうだな。アイネの可愛さを十分に引き立てていると思う」

「あ、あう……そうですか……ありがとうございまう……っうぅ」


 あ、噛んだ。よっぽど恥ずかしかったんだろうか……それとも照れてるのか。


「とりあえずこれでメンツは揃ったし、どうすんだシュエリア」

「そうですわねぇ。せっかくの海なのだし、とりあえず海らしいことをしましょうか」

「というと?」


 シュエリアはトモリさんと義姉さん、一応リセリアも連れると人がそこそこ少ない、遊ぶための空間が取れそうな浜まで移動した。


「さて、とりあえず、そうですわね。スイカ割かしら」

「今時スイカ割を本当にやる奴はいるんだろうか」

「そこを敢えてやるのがいいんですわ。まあただのスイカ割とはルールが違いますけれどね」

「というと」


 そもそも、なぜわざわざ普通のルールと変える必要があるのか。とか。

 思わないでもないが敢えては言うまい、どうせ「面白そうだから」とか言われて終わりなのはわかってる。


「基本は普通のスイカ割ですけれど、違うのは必ず本当の指示をしている人を一人、目隠しの後にくじで決める事とスイカの位置を魔法によって指示以外では認識できないようにするのですわ」

「指示云々はまあ、わかるけど、なんでスイカの位置を魔法で隠す必要があるんだ? 目隠ししてるんだしそれで充分なんじゃ……」


 俺がそういうと、シュエリアはそれを首を振って否定した。


「わたくしとかは風の精霊の力で流れを読んで物体の位置を把握できるし、アイネは心眼を使えるらしいし。トモリは魔力の塊が歩いているような魔族の王だもの、魔力に触れる対象を正確に把握できるはずですわ。それにシオンはえげつない身体能力をしているから恐らく目隠しして回しても位置を把握できてしまうでしょうし、明らかにヌルゲーになってしまいますわ?」

『確かに』


 シュエリアの言葉に俺以外の全員が頷いた。

 マジか……たかだかスイカ割りにこの人達チートすぎる……。


「だから魔法で認識を阻害して、聴覚情報だけを得られる状態にして指示を出すんですの。大体スイカ割りするにしても誰もかれも嘘しか言わないとかだと面白味がなくなりますもの、せっかくなら身体能力に寄らずに勝ち筋のあるゲームがいいでしょう?」

「そうだな。それならいいな」


 それなら三半規管とか身体能力が異世界人レベルで高い姉さんやリアルに異世界人でありえない補正の付いているシュエリア達相手でも勝ち目のあるゲームにはなるだろう。


「それでは、まず順番を決めますわよ」


 そういってシュエリアが用意したくじを引き、スイカを割る順番が決定。

 シュエリア、トモリ、リセリア、アイネ、シオン、ユウキ。

 こういった順番で回し、スイカが割れるまで順番を巡ることになった。


「わたくしが最初ですのね……ではスイカの移動と認識阻害はアイネにお願いしますわね」

「了解ですっ」


 基本的に次の順番の人が回すことになったのでトモリさんがシュエリアに目隠しをして、シュエリアを回す。

 回す、回す、回す……何回か回しているうちに、変なことに気づいた。


「ちょっ……トモリ! どこに触ってるんですの!!」

「あらぁ~? あらぁ。すみません~、お腹と間違え~て~。まない――お胸を触ってしまいました~」

「…………そう」


 トモリさん、本当にシュエリアの胸をいじるの好きだなぁ、二重の意味で。というか今更だが普通に自分でグルグル回りゃあいいんじゃないだろうか……。まあ、スキンシップってことで今回は見逃すが。アイネの教育によろしくないことは避けて欲しいものだ。

 しばらくシュエリアを回してから、なんだか足元がふらついてきた辺りでトモリさんが離れ、ゲームスタート。

 ちなみに回している間にクジで誰が本当のことを言う担当かはもう決まっている。

 アタリくじが余ったので、今回はトモリさんだ。


「ぐっ……これは中々ふらつきますわね……」

「シュエリアさんっ右ですよ! 右です!!」

「シュエちゃ~ん、私はここだよ~!」

「義姉さん、あんたこのゲームの趣旨理解してるのか!?」

「姉様! 殴るならどうぞこの私を!! ここに居ますよ~!!」

「お前もかよ!!!!」

「シュエリアさん~もっと~左~ですよ~」


 ゲームが始まり、シュエリアはとりあえずアイネの言う通りに右に進み始めた。

 今回は開幕で姉さんとリセリアがアホをやらかし俺がツッコんでしまったため出遅れ、アイネとトモリさんだけが方向を示しているが為に大よその検討がついてしまったかもしれない。

 ちなみにシュエリアから見て右はスイカの反対方向で、俺のいる方向だ。


「ぐぬっ……ユウキ、どこですの?!」

「あ? 俺を名指?」


 どうして俺なんだ、普通に最初のやり取りだけ聞いていればアイネかトモリさんだろ?


「ハッ…………そこですわぁあああああああああああ!!」

「ん? ……って、あぶねっ! 何すんだおまえ! 声で俺の位置わかってんだろ?!」


 シュエリアは何と俺に向かって木刀を振り下ろしてきやがった。


「だから狙っているのですわ!!」

「意味わかんないんですけど?!?!!!?!」


 なんで? どうしてこうなった? なんで俺が狙われている?……俺には思い当たることが…………あった。


「しかしまて! それはただの八つ当たりでは?!」

「知ってますのよ! トモリがわたくしの胸をまな板と言いかけた時に笑っていたのを!!!!」

「まて! それは事故というか、不可抗力というか!! ていうかスイカ割るんだろ?! 俺を狙うのはアウトだろ!!」

「問答無用ですわっ……覚悟!!……ぐふうっ……?!」


 シュエリアが視界を奪われて尚俺を追い詰め、ついにシュエリアの持つ木刀で俺が斬られようとしたとき……義姉さんの回し蹴りがシュエリアの側頭部に直撃した。

 眼の見えない状態で無防備にアレ食らったら、ヤバいんじゃないだろうか。


「な…………んですの……ガクッ」

「ゆう君を襲うのはお姉ちゃんだけの特権だからダメ!!!!」

「あの、そもそも襲わないで欲しいんですが」

「というか姉様! 殴るなら私を殴ってくださいと、言ったじゃないですか!!」


 義姉さんに蹴られてぶっ倒れているシュエリアにリセリアが身を寄せ介抱している。


「ったく……一番手からこれって大丈夫なのかよ……はぁ。次だ、次行くぞ!」


 こういう時は無視して進める、それが一番だ。じゃないとこいつ等は話を脱線させるプロだからな。

 次はトモリさんで、回すのはリセリアだったか?


「そ、それではトモリさん、失礼します……」

「よろしく~お願いします~」


 今回はシュエリアがスイカの移動を担当。リセリアがトモリさんを十分にふらつかせた後にスイカを移動、認識を阻害。そして今回本当のことを言って指示するのは俺の担当だ。


「トモリさん、もう少し左を向いて前進してください!」

「あらぁ~?」


 俺がそう指示すると、トモリさんはその言葉の通りに動いてくれた。

 これならいけるかもしれない、と思ったが、他の奴らの誘導によってはそれも怪しい。何しろトモリさんは天然だ、何を基準に動くかわかったものではない。

 しかし。


『…………』

「そう、その調子! ……って、なんだお前ら、黙り込んで」


 俺以外の4人が黙り込んでいた。俺はその理由を考え、黙り込んだ4人の視線が酷く鋭く、一点に集中していることに気づいた。


「ぽよん、ぽよん。たぷん、たっぷん」

「あ、あぁ」


 スイカに向かって前進するトモリさんの胸。瑞々しく大きく育ったスイカ並みに大きい胸が歩くだけですら上下している。

 スク水なのに、ツインテールなのに、酷くセクシーでエロい。


「トモリー。胸にスイカ付いてますわよ~」

「トモリさんっ肩にスイカの重みを感じませんかっ?」

「トモちゃ~ん、スイカは真下だよ~、そう、真下……」

「これがジャパニーズ胸囲の格差社会……」

「お前ら、なんかホント全員ダメな奴だな」


 こいつらの言うスイカって、あれだろ、トモリさんの胸だろ。

 しかしトモリさんはともすれば天然、それもド天然。

 トモリさんは彼女たちの言葉を真に受けてスイカは目の前に、すぐ近くにあると勘違いして思い切りフルスイングしてしまった。

 結果は勿論、砂浜が思い切り割れただけ。

 そう『砂浜が割れただけ』だ。


「トモリさん、手加減をちゃんとしてくださいよ……」

「あらぁ……すみません~」


 この調子でやっていくと色々ダメになりそうだなぁ……。


「次は……リセリアだな」

「アイネさんに回してもらえばいいんですよね?」

「はいっ頑張って回しますね!!」


 例の如くアイネがリセリアを回し、シュエリアがスイカの位置を移動。

 正しい指示をするのは今度は義姉さんだ。


「リセリア~! スイカは真正面ですわ!」

「リセリアさんっスイカは真後ろですよ!」

「リセっち~、スイカは――」


 皆が各々思い思いの指示を出す中。シュエリアが指示した後に俺達が支持を出す前にリセリアは動き出した。


「姉様の言葉を信じます! いつだって私は姉様を信じてますからっ!! ふんっ!!」


 で、もちろん嘘を吐いていたシュエリアの言う通りに振られた木刀は虚しく空を切った。


「見事に外れたな」

「あの子ってわたくしの妹なのに馬鹿なのよねぇ」

「まあ好きな人を信じたい気持ちはわかりますがっ」

「そだねぇ、私もゆう君の事なら信じちゃいそう」

「あらあらぁ~」


 ほんと、これはゲームなのだから誰だけは信じるっていうのはどうかと思うのだが……。


「はいはい、次々~」


 ま、とりあえず進めるけどな、この分だと割れるまでかかりそうだし。

 ということで今度は正解の指示はまたも義姉さんでスタートだ。


「アイネ~! スイカは――」

「兄さまっ!!」

「ふぁ?」


 シュエリアが支持をいち早くしようとした直後、アイネから俺にお呼びがかかった。


「な、なんだ?」

「私は兄さまを信じます。スイカの場所を指示してくださいっ」

『…………』


 お前もかぁああああああああああ!! リセリアの後でなんで同じ過ちを繰り返そうとする?!


「いや、アイネ? お前な。俺が正しい指示を出す番だという保証はないんだぞ?」

「はい、わかってます。それでもいいんです。兄さまの指示に従い、もし過ちを犯しても。私、兄さまを信じることが出来ればそれだけでいいんですっ」

「…………」


 あかん、これは何かアカンよ。


「シュエリア……」

「ん? なんですの」

「俺にはアイネを騙すことは……できない」

「はぁ…………これはダメですわねぇ」


 シュエリアはそういうと、何かの魔法を唱えた。


「アイネ! スイカは左前方三歩くらいの位置だぞ!」

「はいっ兄さま!!」


 アイネはそういうと指示した通りの方向に移動し、木刀を振りぬいた。

 結果としては勿論、スイカは割れなかった。

 そりゃあそうだ、あの指示は嘘を吐けない俺の代わりに「俺の声で」嘘を吐いたシュエリアの指示なのだから。


「あれ? なんででしょう、スイカが割れていません」

「なんでも何も、嘘だったからですわ?」

「でもでも、ああいう風に言えば兄さまは嘘を吐けないと思うのですがっ」

「アレ計算して言っていたんですの? ……意外と腹黒いですわね……あの声はわたくしが魔法で複声したものだからユウキではなくわたくしの指示だったのですわ」

「な、なるほど……」


 そういう腹黒いのは知りたくなかった……。

 そう思いながらもシュエリアが俺の声を使って嘘を言ってくれたことには感謝する。まあ反面アイネはといえば「兄さまの声を聞き間違えるなんて」とか軽くへこんでるんだけど、この際これに関しては致し方ないとしよう。


 その後もスイカ割りは続き、なんだかんだキャーキャー騒いでは順番が巡り、最終的にスイカを割ったのはトモリさんだった。

 まあ割ったのはたまたま偶然? ……力加減を間違えて周囲の砂浜を吹き飛ばしてスイカが割れただけなんだが。


 スイカ割の後も競泳したり異世界風砂の城を造ったり、夜には花火を使用したシュエリアとトモリさん、アイネによるオタ芸の披露など、様々なことをして夏の海を楽しんだ。


 ちなみに今回はシュエリア曰く「夏は山より海の方が水着というサービスがあるから見栄えしますわね」ということで海だったが後日、リアルに後日、というか翌日に山に行きました。非常に疲れました。小並感。

ご読了ありがとうございます。

ご感想やご指摘いただけましたら幸いです。


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