シュエリアの暇
「暇じゃないですわ」
「どういう宣言だ」
いつも通りの休日、シュエリアの部屋を訪れると、忙しい宣言(?)をされた。
「いつもとは違うことをしてみようと思って」
「もうその思考がいつも通りな気がする」
暇で暇で、暇を持て余して。そして毎日違った刺激を求めている。
それがコイツである。なのでいつもと違ったことをしてきたら、逆にコイツらしい。
「まあ、それはいいとして、今日は暇ではないんだな?」
「そうですわね、いつもとは違いますわ」
「じゃあ部屋にでも戻る――」
「暇ですわ」
「…………おい」
俺が部屋に戻ろうとすると、魔法で扉を封印し、俺を拘束魔法で拘束までして「暇」と宣言してきた。
何がしたいんだ。
「ユウキ、確かにわたくしは暇ではないと言いましたわ」
「おう」
「でも、だからと言って構ってほしくないわけではないんですのよ?」
「めんどくさ」
つまりあれだ。暇か云々はどうでもよく、構えと。
「まあ、いいか」
「ユウキのそういう順応するところ好きですわ」
「諦めともいうが」
順応というよりは、呆れとか、諦めだ。
「で、何したいんだ」
「構ってほしいですわ」
「アバウトすぎて」
ただ単純に構えと言われてもな。
「ゲームでもするか」
「ユウキ、ホントにゲーム好きですわね」
「お前もすきだろ?」
「まあ、そうですわね?」
ってわけで、二人でゲームをすることに。
それから一時間ほど経過。
「ユウキ」
「なんだ」
「もうちょっとイチャイチャしてるのがいいですわ」
「つまりゲームは」
「飽きましたわ」
「早いなぁ」
コイツの飽き性、どうにかなんねぇかな。
「イチャイチャなぁ」
「なんかないんですの?」
「なんか、なぁ」
俺が悩み始めること数分経過。シュエリアはなぜか急にナイフを取り出した。
「暇だから死にそうですわ」
「死にそうっていうか、うん、死にそうだな」
自害って意味だけど。
「お前は命を何だと思ってるんだ」
「とても大事で儚くて、それでいて意味を見出すことが難しいものですわ」
「すげぇややこしいこと言うじゃん」
つまり、なんだよ。
「で、暇ですわ」
「じゃああれだ」
「なんですの?」
「デートしよう」
「いいですわね」
ということで、早速デートすることに、したのだが。
「おうちデート最高ですわ!」
「お前ホントに暇なの?」
一歩も動く気のない自堕落なシュエリアさんは、おうちデートを満喫していた。
これでいいのか?
「ユウキに構ってもらってる認識さえあれば暇じゃないですわ」
「マジか」
俺に構われるのって忙しいのか。
「そういう意味じゃないですわね。そもそも暇の反対が忙しいっていうのもどうなんですの」
「違うのか?」
「わたくし個人の意見としては、満たされている、が反対語だと素敵ですわね?」
「おぉ」
まあ、忙しい、よりは前向きな感じはする。
「で、シュエリアは俺と一緒で、構われてると満たされるわけだ」
「……そういわれるとこっぱずかしいですわね?」
「お前が言い出したようなものなんだが」
何を恥ずかしがってんですかね。このエルフさんは。
「ユウキ」
「ん?」
なんかいつもとイントネーションが違うユウキだったので、つい疑問形で反応してしまった。
「愛してますわ」
「え、おう」
急に行われる愛の告白、なんだろう、なんか裏がありそうだ。
「わたくし、ユウキと出会えて本当によかったと思っているし、出会えて、ここまで一緒に歩んでこれたこと、これから先もそうであることが本当に幸せだと、感じますわ」
「お、おお?」
なんか急にいいこと風なこと言いだした。なんだなんだ?
「わたくし、ユウキと一緒にいて、人生はどう過ごすかも大事だけれど、誰と過ごすかも重要だって、気づいたんですの」
「そ、そうか」
それで、この話のオチはどこへ?
「だからユウキ」
「ん?」
そこでまた再度、俺の名を呼ぶシュエリア。
「おなかすきましたわ」
「いうと思った」
多分、全員、誰とは言わない全員が、言うと思ったんじゃないかな。
「今の流れからの魔球をよく読み切りましたわね」
「お前との話のオチって大体飯じゃん」
「……ですわね?」
と、いうことで。
シュエリアの暇はこれからもきっと続く。
俺といる時、居ない時。
何かをしているとき、してない時。
きっといつも暇で、満たされきれず、ずっと渇望して。
でもそれが、彼女の生きる原動力でもあって。
それがこの先ずっと続いて行くと予想できるのは。
案外悪くない。そう、思えたので。
「ビーフシチューにでもするか?」
「時間かけていいのを作ることを許可しますわ」
「はいはい」
俺は彼女に、その時々最高の時間を過ごしてもらえるよう、生きていくことにした。
それがきっと、俺とシュエリアの――。
「あー暇ですわ」
「はよしろってことね」
――永遠でつかの間の、暇なんだろうと、思った。
「なんかいい感じにまとめようとしてますわね」
「今の一言で台無しだよ」
さて、飯でも作るか。
ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。
今回を持って本作品は完結となります。
ここまで長い年月読んでくださった皆様に感謝を。
これから読んでくださる方もいれば、喜びを。
最後の最後までくだらない話をするシュエリアとユウキを今まで見守ってくださってありがとうございました。
それではまた、次回作などあれば、そちらで皆様と楽しい時間を共有できるといいなと思いますので。
どうぞよろしくお願い致します!