月が綺麗ですわ
「月、綺麗ですわね」
「そう……か？」
夜。昼間のうちに騒がしくも準備をしていた月見を決行していたのだが。
生憎の曇り空、プラス雨で今俺たちはいつものように屋内でだらっとしている。
「風情がないですわね」
「いや、無いのは月だろ」
この場合見えない月を綺麗という方がおかしいはずだ。
見えないものは無いようなものなのだから、俺の反応はそこまで変ではないだろう。
「月の準備はどうなったんだよ」
「天気を魔法で変えたりしたら大変なニュースになってしまいますわ？」
「特段ニュースとまではいかないかもしれないが……まあ、いいたいことはわかるんだが」
わかるが……なんでこういうときだけ常識的なことをいうんだ？
「お前のことだから月見がしたいのなら、非常識なことをやってでも決行すると思ってたわ」
「ふむ。まあ、そういう手もありますわね？」
「あるんだ」
やっぱり非常識な嫁だった。
「でもまあ、そこはそれとしてですわ」
「それとして？」
「えぇ。それとして。月は別に用意があるから大丈夫ですわ」
「マジか」
そうかあ。別に用意があるのか。
それなら、うん、わざわざ天気を変える必要もないのか。
「ってわけで、行きますわよ」
「どこに」
「月光界という名の新しい世界を作ってありますわ」
「うわ」
非常識だ、とても。俺の嫁っていつもこんなんだな……。
「ってわけでみんな集まれですわ」
「はいはい。いくわよ、みんな」
シュエリアの言葉に、みんなを引き連れシュエリアの元に行くアシェ。
どうやら「月を用意する」発言をした張本人たるアシェはこの事実。新しい世界のことを知っていたようだ。
「さ、行きますわよー」
「は～い～」
というわけで、はい、着きました月光界。
「月でか」
「地球よりか月が近い感じしますわよねえ」
「そういう風にしたんだろ？」
「ですわ」
実際の距離が近いのか、魔法で距離感を調整しているのかは不明だが、大きくて煌びやかな満月が、そこにはあった。
「この世界なら年中無休で月と星空を楽しめますわ」
「なるほど」
シュエリアの発言とこの世界の名前から察するに、この世界に朝は無い。
夜だけの世界。月と星空こそがこの世界の常なのだろう。
「ってわけでユウキ」
「ん？」
「暇ですわ」
「おい」
まだ月見ただけだろうと、俺の心がツッコんでいる。
「月見ってなにしたらいいんですの？」
「月見て、うまいもん食って、飲んで、風情を楽しんだら気持ちよく寝ろ」
「なんか最後のは違う気がするわよ？」
「ゆう君の願望かなぁ」
俺的には「暇だ暇だ」と煩い嫁にはすやすやと眠ってほしい時もある。
つまり、うん、願望だ。
「ここらでユウキの余興を見たいですわね？」
「くだらないことだけどいいか？」
「いいですわ？」
「ふむ、じゃあ」
俺はみんなの前に立つ。そして。
「えー。こほん。月見とかけまして餅とときます」
「あら。そのこころは？」
「どちらも月（搗き）具合が大事でしょう」
「うわあ、つまんないですわねー」
「ひでえ」
いや、素人のネタなんてこんなもんだって。
「まあでも、頑張ったで賞ってことで、はいお団子」
「どうも」
この後、俺たちはしばらく月光界で月と星空を眺めながらだらだらと駄弁り、団子を食い、酒を飲んで過ごした。
そして後日。いつものごとく酒癖の悪い連中の後片付けを俺とアイネの二人で行うのであった。
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