カラオケに行きますわ!
「暇ですわ~」
「ふむ……」
シュエリアと公園へ行った翌日。
さっそく俺とシュエリアは仲良く昼下がりを過ごしていた。
そりゃもう、シュエリアなんて暇だ暇だ言いつつも俺に抱き着いて離れないくらい仲良しである。
「シュエリアってデレるとこんな感じなのか……」
「何がですの?」
「いや……うん」
俺はてっきりシュエリアは付き合い始めてもあんまり対応が変わらないタイプかと思っていたのだが、思いのほか普通にデレるタイプだったようだ。
おかげでさっきからソファに二人並んで仲良く腕組状態だ。
「ねぇ~ユウキ~暇ですわ~」
「うーん」
コイツが暇だと言うのはいつものことだが、今日はどうやら何かやりたいことや話したいことがあるわけでもないようだ。
「何かしたいことないのか?」
「……そうですわねぇ……恋人っぽいことやりたいですわ?」
「うーん、デート?」
「それシオンとやったでしょう?」
「義姉さんとはしたけどシュエリアとはしてないだろ」
「そうですわね、キスもしてないですわね」
「義姉さんともしてないけどな」
「はえ?」
「ん?」
俺の言葉に素っ頓狂な声を出すシュエリアを見て、これは何か勘違いされている気がした。
「してないぞ? キスなんて」
「デートしたのに?」
「いやそれはしたけど、報酬だろ、あれは」
「そうですわね……で、キスは?」
「してないって」
「見てたのだけれど?」
「見られてたのか……いや、どこから見たのか知らんけど、頬にキスされただけだからな?」
「……マジですの?」
「マジ」
「じゃあわたくしが一番最初ですわね?」
「まあ、予定ではそうなってるかな」
「ふうん」
それだけ言って興味なくなったようにそっぽを向くシュエリア。
「で、恋人っぽいことしたいですわ」
「デート?」
「この会話ループするのかしら……」
「するな……」
「他にないんですの?」
そういって俺に寄りかかってくるシュエリア。
これはあれだろうか「暇だ暇だ」って甘えられているんだろうか。
「じゃあ皆で遊びにいくか?」
「うーん、悪くないけれど、どこに遊びにいくんですの?」
ふむ。確かにどこに行こうか……。
コイツが行ったことないところとかだと喜びそうだよなぁ……。
「カラオケとか?」
「カラオケって?」
「漫画とかで見たことないのか?」
「え、あれですの? あの小部屋で音楽ならして歌うやつですの?」
「うん、そう」
「実在するんですのね……」
「そこからかよ……」
まさかカラオケの実在を疑っていたとはな。
「そうとわかれば行かない手はないですわね?」
「乗り気になってくれてよかったよ。じゃあアイネとトモリさんにも声かけようか」
「デートじゃないんですの?」
「その話掘り返す?」
「……やめときますわ」
シュエリアは俺の腕から離れるとそう言いながら外出の準備を始めた。
「よし、じゃあ二人に声かけてくるからな」
「えぇ、30分後に出ますわよ」
「はいよ」
そう言い残して部屋を出て、俺は二人に声をかけに行った。
そして30分後。
「全員揃いましたわね!」
「声かけてない人までいるけどな」
「まあまあ、そういわずにお姉ちゃんも混ぜてよ~」
「リセリアはどうしたんですの?」
「リセっちはお留守番~」
「へぇ……」
あのリセリアがシュエリアの所に来るのに留守番とは。
まあ何かやらかして自宅謹慎という可能性もあるのかもしれないが。
というか義姉さん、振られてすぐでよく一緒にカラオケ行こうとか思えるな……すごい精神力だ、タフ過ぎる。
「それじゃあまあ、行きますか」
俺がそういうと、シュエリアと義姉さんが前で喋りながら先行し、俺達はカラオケに向かった。
数分後、カラオケ店内。
「これがカラオケ店ですのね……地味に煩いですわね?」
「まあ音楽とかCMとか流れてるしな」
「たまに奇声が聞こえますっ」
「それは声量のすごいお客さんだよアイちゃん」
「呪いの~唄とかは~」
「無いです」
「あらぁ~」
各々、初めてのカラオケに興味津々というのか、とにかく色々気になるようだ。
特にシュエリアとアイネは音が気になるらしく、さっきから周りの様子を伺いまくっていて挙動不審だ。
「お姉ちゃんが部屋を借りて来るからゆう君はシュエちゃんたち見てて?」
「ん、了解」
そうは言われたが、見てなきゃいけないって程変なことも……あ、シュエリアが小さいクレーンゲームに吸われて行った……アイネは相変わらず挙動が……あ、俺のほうに走ってきた。トモリさんは……唯一普通、魔王なのに。一番大人しい。
「どうしたアイネ」
「ここ煩くて落ち着かないですっ」
「致命的にカラオケ合ってないな……帰るか?」
「い、いえ、兄さまとシュエリアさんを二人きりにするのはちょっと妹として心配ですっ」
「いや……二人きりじゃないんだが……」
というか何を心配されているのだろうか。
……心配と言えばシュエリアと交際始めたの、まだ誰にも言ってないな。義姉さんから許可が出ているとはいえこれだけスピード交際だと何言われるかわからん……。
アイネは妹だが俺のこと大好きだし……いうべきか迷う。義姉さんは俺を諦めたらしいがそんな相手に堂々と交際してますと宣言するのもな……トモリさんにも、わざわざ言う必要あるだろうか……うーん。
などと考えていると、義姉さんがシュエリアの首根っこを掴んで戻ってきた。
「シュエちゃん達見ててって言ったのにー」
「ごめんごめん、アイネと話してたらつい考え事を……」
っと……この話はしないほうがいいか。
何をと聞かれて「シュエリアと交際してるのを公言すべきか迷ってました」とは言いづらい。
「そんなことより部屋行こうぜ」
「ん? そだね。いこっか」
そういうと義姉さんは前を歩き、それに引きずられる俺の彼女とそれに恐る恐るついていく妹とのんびりついていく魔王。
「この部屋だね~」
「割と広めな部屋だな」
通された部屋は広めに作られており、この人数ならそこまで狭苦しくない程度の広さだ。
椅子は柔らかいしテーブルもしっかりしてる、音響機器も真新しい物が揃っていて……って、まて。
「今更だけどここ、設備よくないか? 支払い怖いんだが」
「大丈夫だよゆう君、ここも私のお店だから支払いとか気にしないで?」
「ホントなんでもやってるな義姉さん……」
「なんでもってことはないよ~。カラオケとかゆう君好きかな~って思って始めただけだし」
「そんな理由で開業する奴他にいないだろうな……」
個人の為に経営するって、正気の沙汰じゃない。
「まあま、なんだかんだ儲かってるしいいんだよ。始めた理由と続いてる理由は必ずしも同じなわけじゃないんだよ」
「まあ、それもそうだろうけど」
「そんなことよりシュエちゃんたちがお待ちかね……っていうか、待ちかねて機械いじり始めてるからこの話はここまで! ……シュエちゃんそれ触っちゃダメ!」
義姉さんはそう言ってシュエリアの首根っこを掴んで俺の座った席の横にシュエリアを乗せた。
「ふう。ユウキ、ここの設備面白いですわよ? いじると音の大きさが阿保みたいに変わるんですの。さっき出た音がでかすぎて耳が痛いですわ!」
「お、おぅ……気をつけろよ?」
「えぇ、わかっていますわ」
義姉さんとの話中にそんなに大きな音はしなかったが……スピーカーの近くとか行ったのだろうかこの阿保は。
まあ、そんなことより今はカラオケをいかに楽しませるかを考えなくてはな。
一応、シュエリアは彼女になったわけですし、楽しませるのが交際の条件に提示されていたし。
「まず、カラオケって何するかわかってるか? シュエリア」
「ん、歌うのでしょう?」
「そう、で。これがデンモク、これで歌いたい曲を入れる。アニソンとかどうだ?」
「いいですわね、アニソン。どうやって入れるんですの?」
「それはここをこうしてだな……」
とりあえずシュエリアにデンモクの操作を一通り教え、後は好きにしてもらうことにした。
シュエリアは要領がいいので一度教えれば大抵覚えるし、下手にあれこれ楽しみ方を提示するより今はまずやりたいようにやらせておいたほうが後の楽しみも残るだろう。
そう思いつつ、俺は視線でアイネを探すと、アイネはトモリさんと一緒に義姉さんからカラオケの説明を受けているところだった。
アイネが俺の横にこないのは珍しい気もするが……トモリさんと仲良しだし、別に気にするほどでもないか。
「それで、これ、誰から歌うんですの?」
「ん、一番最初に行くか?」
「え、嫌ですわよ。まずは様子見からですわ?」
「なんのだ……」
「……空気を読む準備かしら?」
「なんの……」
「場のよ、いいから、わたくしより先に何人か歌うべきですわ」
「さいですか」
「さいですわ」
ということで、順番的にカラオケに来たことのある俺、義姉さん、ついでアイネとトモリさん、最後にシュエリアとなった。
「てことで最初は軽いのから行くかね」
「カラオケに軽いのとかあるんですの?」
「盛り上がるor疲れる曲は重い。あと歌詞が重い曲も」
「なるほどですわ?」
というわけで、ピピピッと曲を入れてみた。
入れた曲はもちろん――
『アンパ〇マンのマーチ』
「めちゃくちゃライトなの来ましたわね?!」
「ゆう君相変わらずだねぇ……」
「兄さまが好きそうですっ」
「……あらぁ~」
みんな俺の選曲に思うところあったらしく次々と声が上がる。
そしてトモリさんの本気の「どうしよう」といった反応が地味に一番傷ついた……。
しかし、曲が始まればなんてことなく。義姉さんが予め教えていたのか皆静かなものである。
とはいえ完全に私語厳禁というわけでもないので、シュエリアは小さな声で愚痴っていた。
「彼氏が、成人してる彼氏が、アンパン〇ンのマーチを熱唱する絵面で声出して笑ってはいけないとか、なんの拷問ですの……」
そんなにだろうか……。
そんなに酷いか、この状況。
よく見れば義姉さんは生暖かい目で見守ってるし、アイネは体を左右に振ってノリノリ。
トモリさんは……死んだ魚のような目でボーっとしてた。
そんなに酷いか?!
「……ふぅ、なんだろう。妙に傷つけられた気がする」
「アンパ〇マンのマーチはないですわね」
「名作だぞ? アンパン〇ン」
「そういうことではなく。成人男性の選曲として、無いって話ですわ」
「えぇ……」
それは偏見ではないだろうか、ほら、大人も楽しめるよ、アン〇ン。
「次のシオンは責任重大ですわ? 頼みますわよ、結城姉弟」
「お姉ちゃんはゆう君ほど尖ってないから普通の曲だよ?」
そういって義姉さんが入れていた曲は……。
『仰げば尊し』
「普通だけどっ!!」
「??」
俺のツッコミに何言ってるかわからないといった様子の義姉さんはそのまま普通に歌い続けた。
シュエリア達は何の唄かさっぱりわかっていない様子で。
「喘げ……罵倒……都市?」
「すげぇ酷い聞き間違いだな」
ちなみに、義姉さんの歌自体は普通以上に上手く相変わらず商売以外にも多才なのだと思い知らされた。
「いぇーーーいっ、歌い切ったぁ!」
「なんで仰げば尊しでそんなノリノリな感じになれるのか」
「とりあえず歌のテンションと全くあってないですわね?」
「いい歌だったですっ」
「ふふ~んふふ~ん~」
義姉さんの選曲に異議ありな俺とシュエリア、そしてよくわかってはいないようだが、いい歌だったっぽいと感じたらしいアイネとなぜか鼻歌を歌うほど気に入った様子のトモリさん。
トモリさんこういうの好きなのか……。
「思ったよりアイちゃんとトモちゃんは気に入っているみたいだよ?」
「思ったよりって……」
「いやー、正直ツッコまれるかなぁとは思ってたよね」
そう言いながら「たはーっ」とおどけて見せる義姉さん。
この人のボケはわかりにくいな……歌上手かったのも手伝ってマジでやってるのかと思った。
「さて……次は誰ですの?」
「ど、どうしましょうっ」
「おまかせ~しま~す~」
「は、はいっ」
どうやらアイネとトモリさんはトモリさんが順番を譲ってアイネが先になったようだ。
「そ、それではこれを行きますっ『蠟人形の館』っ!」
『選曲!!』
「あらぁ~?」
俺とシュエリアに義姉さん、三人揃ってのツッコミと一人だけよくわかっていない様子のトモリさん。
いや、これはツッコむわ、さすがに。
「きり~の~~たちこ~む~もりの~おくふかくぅ~~っ」
「まさかの音痴だと……」
「ただでさえアイネが『蠟人形の館』って段階で違和感ありますのに」
「かわいい声してヘヴィメタかぁ……」
「ふん~ふん~ふふん~」
「約一名ノリノリだし……」
しかも歌ってるアイネは思いっきり外れてるのに魔王様の方はメロディ合ってるし。
これ絶対歌うの逆だろ。
なんだろう……これ終わった後どんな反応すればいいんだ?
これはアイネなりにボケているのか……それとも真面目にやっているのか……それによって反応が変わって――
「壁にー飛び散る~生き血のしぶき~が~」
「うーん……」
マジっぽい。アイネの表情を見るに一生懸命歌っている感じなのが伝わってきた。
それはそれでどう反応していいかわからないな……ネタならまだいくらかツッコミ様があった気もするが。真面目に下手なのが一番困る……。
「ふぅ……どうですか兄さまっ」
「えっ……あぁ、おう。よかったんじゃないか?」
「う? 微妙でした?」
「そ、そんなことは……」
「結構面白かったですわ」
「身も蓋もねぇな?!」
せっかく人が上手く誤魔化そうと思っているのに面白いってコイツ……。
「いやね、違いますわよ。興味深いジャンルだったって話ですわ?」
「へ? あぁ、そういう」
「いいですよねっヘヴィメタルっ!」
「はい~とっても~好み~です~」
「お姉ちゃんはちょっとわかんないかな~ははは」
俺がアイネの質問に困っていた間に、シュエリアがうまい返しをしてくれて助かった……。
こういう時、アドリブで上手いこと言えるといいんだろうけど俺には無理そうだ。
「次はトモリさんですよね?」
「は~い~」
と、言ってる間にも、トモリさんはデンモクを素早く操作し、選曲を終えた。
楽曲は――
『ふたりはプリキ〇ア』
『逆っ!!』
俺とシュエリア、義姉さん三人の声が見事にハモった瞬間、アイネとトモリさんはきょとんとしていた。
この二人……仲良く口裏を合わせていたりするんじゃないだろうな……。
「なんで魔王がプリ〇ュア……」
「あ、でもトモリの部屋って意外と可愛いもの多いですわよ?」
「え?! 見たことないな……トモリさんの部屋」
「女性の部屋を見慣れている男というのもそれはそれで普通に嫌ですわね」
確かにそうかもしれない……。
ちなみにそんな会話をしつつもちゃっかり歌の上手いトモリさんに拍手を送り、これでついに一周、シュエリアの番となった。
「で、どうだシュエリア、空気は読めたか」
「んーまあ、思ったより皆上手いですわね?」
「ほう」
「ということでわたくしも普通に歌いますわ!」
「普通に歌わない可能性もあったのか……」
何故空気を読むとそういうことになるのかはわからないが、それはそれで聞いてみたかった気もする。
「じゃあアクエ〇オンですわね……」
「また随分声高い曲選ぶなぁ」
いやまあ、コイツ見た目だけじゃなく声もキレイだから音痴でもない限りは似合うだろうなぁとは思うけど。
で、まあ、結果はというと。
「うっ……お姉ちゃんちょっとお花摘みに……」
「ずぅーん……」
「あらぁ……」
「……うん」
それはもう、言葉にならないくらい巧かった。
正直、最初は何を気にしていたのかわからなかったがコイツの唄を聞いて分かった。
真面目に歌うと巧すぎるのだ、このエルフは。
それはもう、義姉さんは感動で泣いてたし、アイネは露骨な実力差に落ち込んでるし、トモリさんは困ってるし、俺は言葉が出なかったくらい、そのくらい、えげつなく巧いのだ。
なので聞いた側が「この後に歌うのしんどいな」と思ってしまう。
それで「空気を読む」必要があったのだろう。が。
「お前空気読めよ」
「なっ、これでも空気読んだ結果ですわ? みんな上手いのだし、普通に歌ってもいいでしょう?」
「いや、お前と比べたら上手いとは言い難いわ。もうちょっと実力差考えろ?」
「シオンとかめちゃくちゃ上手かったですわよ?」
「確かに義姉さんは歌手レベル行ってるけどお前のはなんか次元が違う」」
「そ、そうかしら」
俺の言葉に照れるシュエリア。
褒めたつもりではないんだけどな……褒めてしまっているけど。
「単純にこう、レベルを下げて歌えないのか?」
「そこまで器用じゃないですわ……」
「うーん」
そうなるとバラードとか綺麗目な歌より元気いっぱい明るい歌とかにしたら目立たなくなるだろうか?
そう思い、俺はシュエリアに提案してみたのだが――
「っ――ふぅ、どうですの?」
「いや……」
シュエリア以外がちょっと引いている間にシュエリアに連続で歌ってもらったのだが……これが酷かった。
「器用に歌い分けてんじゃねぇよ」
「あら、また褒められましたわ」
「この場合褒めてないけどな」
声質的に合わなかったりして普通に聞こえるかと思ったがそうでもなかった。
すごく元気に可愛く歌い上げやがったので感動してしまった。
「シュエリア、お前本当に歌が巧いな」
「また褒められてるように聞こえるけど違いますわよね?」
「違うな」
コイツ凄いな。
見た目絶世の美少女で声もキレイで歌が巧いとか完璧かよ。
まあ、巧いけど手加減は下手なわけだが。
「でも彼氏的には声のキレイで歌が巧い彼女はポイント高い」
「急に素直に褒めてきますわね……」
素直に褒められて照れ臭いのか、甘えたくなったのか、よくはわからんが寄りかかって抱き着いてくるシュエリア。
これは悪くないな……うん、悪くない。
「にゃっ!?」
「あらぁ?」
「……あ」
「?」
そうだった。可愛い彼女の寄りかかりに舞い上がって忘れてた。
俺とシュエリアが付き合ってるの、誰にも言ってないんだった。
「どうかしたんですの?」
「シュエリアさん……兄さまに寄りかかったりしてどうしたんですかっ?」
「へ? あぁこれ。なんとなくですわ?」
う、うまい……か? 兎に角シュエリアらしいと言えばらしい。
なんとなく、面白そうだから、そういう理由は実に彼女らしい。
「そ、そうですかっ」
「えぇ。そうですわ?」
シュエリアの突然の行動に、アイネもギリギリ納得したようだ。
しかし。
「私はてっきり本格的に交際を始めたのかと思いまし……た~」
「ま、まさかぁ~」
「――えぇ。そのまさかですわ!」
俺の言葉にいい感じに乗ってきて暴露しやがる彼女。
いやまあ、隠さなきゃいけないことってわけでもないから、別にいいんだけど、この様子だとさっきの「なんとなく」発言は誤魔化す為ではなくガチだったっぽいな。
というかこれ、どうしたらいいんだ?
カラオケどころではなくなる雰囲気を感じるんだが……。
そう思っていると、部屋の扉が開いた。
「ただいま~……って、何してるの?」
「シュエリアさんが兄さまを篭絡しましたっ!!」
「人聞き悪いですわね?!」
「寝取り~ました~」
「いや俺誰とも付き合ってなかったし! まだそこまで行ってないから!」
「まだ……。行く予定ではあるんです……ね~」
「あぁ……いや……」
「ジィー」
俺の失言にツッコんでくるトモリさんと何か思うところありそうに見つめて来るシュエリア。
そしてこのカオスな状況を楽しそうにみている義姉さんと、グロッキーなアイネ。
アイネは俺のこと大好きだからこの事実がキツかったのかもしれない……。
「に、兄さま」
「ん、どうしたアイネ」
俺がアイネのことを想っていると、当人に話しかけられた。
「お、おめでとうっ……ごじゃいますっ!」
「……うん、ありがとう」
……噛んだな、明らかに動揺しながらも祝ってくれる妹の心意気は嬉しいが、大丈夫だろうか。
「アイネ、無理しなくても……」
「でいじょうぶでふっ」
噛みまくって、田舎訛りみたいになってしまっている。
これはやはりちゃんと説明するしかないのではないだろうか。
「あ、アイネ――」
俺がアイネに事情を話そうとすると、先ほどまで傍観していた義姉さんが割って入った。
「アイちゃん、次私と歌おうか!」
「へっ? あ……はいっ」
なぜ義姉さんがこのタイミングで割って入るのかはわからないが、ある意味助かったかもしれない。
義姉さんのことだから何か考えがあるんだろうし、それに急にカラオケで話すようなことでもないか、今度改まって話すとしよう……。
「ユウキさん、さっきの話ですが――」
「トモちゃんも一緒にねっ!」
「えっ……あらぁ~」
俺にさっきの話を続けようとしたトモリさんも義姉さんに首根っこ掴まれ絡まれていた。
これは明らかに先ほどの話を保留にしようと義姉さんが助けてくれているようだ。
しかし、なぜだろう。
確かに義姉さんは俺のことは諦めた風なことをいっていたが、ここで手を貸してくれえるというのはどういうことなのだろう。
後で何か見返りでも求められたりするんだろうか……。
そして状況がよくわかってないのか三人揃って歌おうとしているのに混ざっていくシュエリア。
その後。
カラオケは皆で楽しく歌い、飲み、食べ、楽しく終わった……が。
シュエリアと俺の関係について話すという課題は残ったままなのであった。
ご読了ありがとうございます。
感想、レビューなど頂けましたら幸いです。