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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
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イレギュラーですわ

「何かをやり遂げるって大変ですわよねえ」

「なんだ急に」


 平日、たまにはシュエリアの仕事姿でもみてやろうかと、喫茶に来ると、俺の接客を始めたシュエリアが何か言い出した。


「作者はもう何年も小説書いてるけど、一向にストーリー展開無いし。いつ終わるのかわからないし、本当にやり遂げることができるんですの?」

「怖いこと言うなよ」


 いろんな意味で怖い。明日あたり世界が終わってそうとか、発言のギリギリさとか。


「でもまあ、実際? ここまでなんだかんだダラダラとやってきているのだから、この先もきっとダラダラとやっていくのですわ」

「俺たちみたいだな」


 そういって店内を見る。

 みんな一生懸命働いているのに、俺の嫁ときたら、客としてきた夫とメタい会話だ。なんて残念な奴だろう。


「で、何しに来たんですの」

「今更だな」


 それは最初に聞いてくるかと思ったんだけどな。


「いや、この前六々ちゃんのお姉さんに会っただろ、なんか色々不穏な言葉も聞いちゃったし、六々ちゃんにも話を聞けないかなと」

「あー。あれですの」


 そういってシュエリアはちょっと呆れたようにため息をつく。


「なんだよ」

「いえね、わたくしも気になったから聞いてみたのだけれど」

「ほう」


 シュエリアも気にしていたとは、以外だ。


「ま、わたくしが話してもしゃあないですわね、六々呼び出しますわ」

「お、おう」


 なんだろう、別にシュエリアから話してくれても、いいんだが。なんでわざわざ。

 そう思いながらも待つこと数分。

 シュエリアはすぐに六々ちゃんを連れてきた。


「あの、なんで呼び出されたんでしょうか……まさか、姉のことですか?」

「お、察しがいい」

「はあ……」

「ん?」


 六々ちゃんがため息とは珍しい。明るく阿保で真面目な六々ちゃんだ。あんまりため息とか吐かないしネガティブ感情からは遠い存在だと思っていたが。


「姉は私について何か言ってましたか?」

「え? いや。普通にシュエリアがヤベェ奴だって話しただけ」

「そうなんですね……ユウキさんが言うなら、そうなんでしょうね」

「わたくしが何度言っても信じなかったのにめちゃくちゃあっさり信じますわね……」


 ふむ? どういうことだ??


「この子、姉が自分のことどう言ってたかって、そればかり気にして、わたくしの話なんて全然聞かないんですわ」

「あー」


 そうなのか。それでさっきの発言。


「でもなんでまた」

「私が悪いんです!」

「おおぅ」


 急に叫ぶ六々ちゃんにびっくりする俺と店内。

 どうしたどうした。


「私が白衣の天使にあこがれて地上に来ちゃったから……」

「うん?」


 そういや確かに、この子はそんな理由で地上に来たらしいけど。それが今なぜ。


「姉さんが神様をやっているのは、ご存じですか」

「知ってる。異世界人の行き来を管理してるって」

「はい。ですがそれは本来は私の仕事だったんです」

「ん?」


 なんでまたそういうことに?


「本来は私が神になってその仕事をするはずだったのですが……その、さっきも言った理由から地上に……逃げてきてしまって」

「白衣の天使になりたさに神様にならずに、責任逃れしてこっちにきたと」

「ぐはぁ!!」

「ユウキ、結構ざっくりと切り込みましたわねぇ」


 でもそういうことだろ? 多分。


「で、ですので……姉が私についてなにかこう、言ってなかったかなぁと」

「いや別に、何も」

「ですわね」

「そ、そうですか」


 ふむ。それにしても六々ちゃん、本来は神様になる予定だったのか。


「でもまあそれはさておき、聞きたいことがあるんだけど」

「あ、はい。なんでしょう」

「シュエリアのこっちにきた転移がイレギュラー的なことだったってのは本当?」

「はい。そうですね、本来シュエリアさんのようなバランスブレイカーは世界の移動は許されていません」

「ほうほう」

「まあでも、シュエリアさんが強く望めば、通っちゃうんですけど」

「そうなの?」


 俺の質問に、六々ちゃんはうなずく。


「はい。何せ神様でもシュエリアさんは怖いですから。最悪殴り込まれたら天界ですら崩壊しかねませんし。ぶっちゃけ我がまま言われたら通すしかないです」

「あー」

「なんですのその『シュエリアってそういうとこある』みたいな、悟った感じのあーは」

「その通りだよ」

「蹴りますわ」

「いだだだだ、言いながら脇腹抓るのやめてくれます?」


 まったく、こんなだから我儘を乱暴で通すと思われるんだぞ?


「っていうか神様でもシュエリアって怖いのか」

「神様だからこそかもしれません。シュエリアさんのヤバさを、どの種族より理解していますから」

「ほー」


 そういうもんかね。コイツ遊んであげれば無害だけどな。


「なんですのその顔は」

「いや、シュエリアって危険な力は持ってても、遊んでるうちはそうみえないなって」

「楽しく生きるには、強すぎる力は隠す方が無難ですわ」

「能ある鷹のようなことをいって」

「実際天才ですわ」

「さいですか」

「さいですわ」


 まあでも、そうか、シュエリアのこちらに来たのはイレギュラーで確定か。


「アシェに感謝すべきか?」

「ですわね?」

「私としては微妙な気持ちですが……」


 まあ六々ちゃんはそうかもな……。でも俺はやっぱり感謝だ。

 こんなかわいい嫁、アシェのおかげで出会えたのだから。


「さて、聞きたいことも聞けたし、帰るわ」

「え、遊んでいかないんですの」

「お前は働け」


 仕事中だろ……何考えてんだコイツ。


「しゃあないですわね……六々、お客様がお帰りですわ」

「は、はい」


 さて、こうして俺はシュエリアの異世界転移がイレギュラー案件だと知ったわけだが。

 別にそれがどうということがない、ただの遊びに来る口実というのは、うん、内緒にしておこう。


ご読了ありがとうございました!

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次回更新は次回日曜日の21:00までを予定しております。

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