トモリの弱点、ですわ
「トモリさん、何か良い装備ありましたか?」
「お~の~?」
「斧ですか」
いつも通りの……とは行かない休日。
俺達はとあるゲームを模した世界を旅していた。
「無い~よ~り~マシか~と~?」
「ですね、ともりさん持ちます?」
「いいえ~?」
俺の問いに首を左右に振りながら返事をするトモリさん。
斧はお気に召さなかったのだろうか。
「ゆっ君~丸ご~し~?」
「あぁ……俺の装備を心配してくれたんですね」
なるほど、そういう事なら貰っておこう。
「さて、斧があれば木は切れるし、木材……倒木でも探しますか」
俺がそう言うと、トモリさんはこくこくと頷きながら後ずさった。
……ん? なんで後ずさる?
「トモリさん?」
「ゆっ君~うし~ろ~?」
「後ろ?」
そう言われて振り向くと……。
「我々ではない!」
「スコーチじゃん」
そこにはこの世界名物、生きる屍、ウォーキングデッド。スコーチさんがいた。
「で、なんでトモリさんは一人で逃げようと」
「腐っててドロっとしたものは苦手なので」
「急にハキハキ喋るじゃん」
でも、なるほど。トモリさんにも弱点ってあったんだなあ。
というか……。
「え、じゃあこれ、どうしろと?」
「斧?」
「俺にやれと」
「(こくこく)」
「マジか」
この中で最強だと思ってた俺の嫁さんの内の一人、ここにきてまさかの一番の戦力外だと分かる。
これが異世界物なら逆パターンもいいところだ。
あ、異世界か。
「って考えてる場合じゃないな」
「頑張ってくださいー」
「ふごおお!」
「おぉ?!」
なんかよくわからんけど、襲い掛かってきた。
でもよかった。コイツ素手だわ。
「ってことで、フン!」
「ぐあ」
流石に相手が化け物でも素手相手に斧で負けることはなかった。
無かったんだが。
「コイツ一匹だけ?」
「まだいますよーーー」
さっきよりさらに遠くなった距離からトモリさんがまだ敵がいると教えてくれる。
で、周りを見ると……木の陰などに隠れてこちらを伺う影が5つ。
「いや、無理だろ」
多対一。全然勝てる気しない。
「なので、シュエリアー! 助けてくれー!」
俺は潔く最強にして万能の天才を呼ぶことにした。
あのチームならアシェもいるし、戦力的に十分だろう。
まあ、魔法とスキルが使えない縛りの段階で、アシェはただのポンコツだが。
「あれ? 聞こえなかったかな」
ちょっとしても救世主の登場が無いので、再度呼んでみる。
「シュエリアさーん」
……返事はない。まさかミュートかな?
「って言ってる場合じゃない?!」
「うごおお!」
俺の二度の呼びかけも空しく。シュエリアが来ない内に敵が動き出してしまった。
「シュエリア様ー! 助けて下さいー!!」
「うごおおおお!!」
「あらよっとですわ」
もう駄目かと思ったその瞬間。
「てい、や、とう、ですわ」
「おお」
シュエリアが現れて華麗にスコーチを蹴り倒していった。
「お、遅かったな」
「え、早いですわよ?」
俺とシュエリアの認識に若干の違いがあるけど、まあ、いいか。
「呼んだら一瞬で来るもんだと思ってた」
「来ましたわよ?」
「そうか?」
三度の呼びかけで漸く来たように思うのだが……ん?
「一応聞くけどさ。まさかだけど、『シュエリア様』って言ってから、来たとかじゃないよな」
「え、そうですわよ?」
「お前な」
この阿保なんつうやつだ。
こんな危険な世界で、切羽詰まった状況で様付けじゃないと来ないとか。
「敬意って大事ですわ」
「ソウデスネ」
まったく、なんて奴だ。
「で、トモリはあんな遠くで何してんですの?」
「どろっと腐ったものは苦手だそうで」
「マジですの」
俺の言葉にシュエリアが驚く。まあ、驚くよね。
「可愛い弱点もあったもんですわねえ」
「だよなあ。世の中にはアレらを蹴り飛ばす女が居るくらいだしな」
「今すぐ蹴ってやってもいいですわよ」
「すみませんでした」
とまあ、そんなわけで。
俺達の異世界での初戦闘は終わり……。
「トモリさん、帰って来て大丈夫ですよー」
「……は~い~」
トモリさんの新たな一面を知って、ちょっとトモリさんが可愛く思えたのであった。
さて、この後は……どうしようか。
もう約束の時間まで、残りわずかだ。
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