魔法学院ですわ
「暇ですわ」
「まさかの」
アルターの自宅から歩くこと5分、暇だとかぬかし始めた俺の嫁に驚く。
「だって歩いてるだけですわよ? 何が面白いんですの?」
「じゃあせめて話でもしながら歩こうか」
まあシュエリアの言ってることももっともといえばもっともだ。
とは言え俺としてはこのファンタジーな街並みとかも中々興味深く、特に読めない文字の看板とか見ると何屋さんなのか気になってしまうものだ。
「俺この世界の言葉とか分からないし、読めないんだけど大丈夫かね」
「え? あぁ、そうでしたわね。んじゃあ魔法でサクッと解決してあげますわ」
そう言うとシュエリアは特に何にもしなかった。が。
「あ、読める」
先程までわからなかった文字が読めるようになっている。
魔法の発動らしいモーションや詠唱も無く一瞬で解決するあたり流石としか言いようがない。
まあでも、もうちょっとファンタジーな演出が欲しいと思わないでもないが。
「それに言語も、さっきまで雑音レベルだったのが聞き取れるようになってるな」
ザワザワ聞こえていた程度の物がなんとなくだが聞き取れるくらいになっている。
流石に街中が賑わっているのもあって1つ1つの言葉を拾うのは難しいが。
「シュエリア、ありがとうな」
「どういたしましてですわ」
でもなんか、本当に異世界なんだなぁって実感できるのは今回が初めてな気がする。
トモリさんの世界行った時はほとんど何が何だかわからないで終わってしまったし、こうして街中をぶらりと散歩しながら、何てこともほとんどできなかったしな。
「学校まではどのくらいあるんだ?」
「そうですわね、すぐそこですわよ」
俺は馬車などが通る道などを見ながら俺達も馬車とかの方が良かったんじゃないのかと思ったりしつつ、それでも散歩の楽しみもあると思いつつ、とりあえず距離を聞いてみたのだがどうやらすぐそこらしい。
「家近なほうがいいでしょう?」
「まあ、通いやすいのはいいことだよな」
ふと、日本人の通勤、通学時間を想ってそう考えた。
「さ、付きましたわよ」
「おぉ、これが……」
そこには随分立派な門と、それに連なる壁があった。
正直壁と門がデカすぎて中が見えない。防犯意識が高い学校なのだろうか。
「入りますわよ」
「大丈夫なのか? 入れるか??」
なんかこの物々しさだと入るのに手間が掛かりそうなんだけど。
「止まれ、貴様ら何用だ」
「ほらきた」
もう絶対止められると思ったもんな。この人数でゾロゾロと学校に来るしかも見るからに大人が混じってる編成だ。学生じゃないんだから止められもするだろう。
「こんにちは門番さん、通してもらっていいかな?」
「なっ、これはこれは、シオン様でしたか。失礼ですがお連れの方たちとはどういうご関係で?」
「家族だよー。学校見学したいっていうから娘と一緒に来ちゃったんだけど、駄目かな?」
「いえっ、シオン様のご家族でしたら問題ございません、どうぞお入りください!」
なんか義姉さん待遇凄い良いな。
義姉さんはアルターでは一体何者なんだろうか。
とはいえ、何はともあれ、学校に入ることができた俺達は学内を散策することにした。
「ところで義姉さんは一体この世界では何やってるんだ?」
「ん? 何って、商人だよ。結構儲けてるから有名ってだけで」
「なるほど……」
それであの待遇なんだったら相当有名な商人ってことになるんだろう。
「後はこんな時もあろうかとこの学校には寄付金をかなり出してるからね、扱いもよくなるってものだよ」
「マジで抜かりねぇな」
この人のこういうところは本当に凄いと思う。異世界でも商人として大成している。まさしく天才だろう。
「こんな母には憧れたりしないのかシキは」
「お母さんはなんか怖いから憧れない」
「ひどっ!?」
さらっと酷いことを言われた義姉さん。ドンマイ。
「まあシオンって得体のしれない部分がありますわよね」
「そこら辺が怖いっていうのは確かにあるかもね」
「ぐはあっ」
エルフ二人からの追撃に義姉さんが文字通り崩れ落ちる。
「まあそのおかげでこうして学内を散策できるんだし。ほら、義姉さんも立ってくれ」
「ありがとうゆう君」
俺が手を伸ばすとその手を掴んで立ち上がる義姉さん。
「それにしても学生が意外と居るな」
「そだね、自主的に学びに来てる子とか、補修の子とか、色々じゃないかな」
シキとシュキが居る段階で学校自体は休日なのだろうけど、意外と学生が多く、賑わっていた。
「そういえばこの学校の名前は?」
「国立魔法学院アルトですわ」
「アルトね」
国立ってことは随分立派なのはその所為か。
「にしても本当に休日かこれ?」
「この学校は真面目な子多いからねー」
「そうなのか……」
それならまあ、シュキとシキも安心して通えるってものだろう。
不良の巣窟とかじゃなくてよかった。
「あ、おい! シュキ!」
「ん?」
「またかあ」
学内を散策していると、急にシュキの名を呼ぶ男の子の声が聞こえた。
シュキの反応を見るに、この声の主に呼ばれるのは少なくないことなのだろう。
「休日にまで通学か? 随分真面目なんだな!」
「え、いや。お父さんが学校見たいって言うから付き添ってるだけで」
「お父さん?」
そういってこのメンツ唯一の男である俺を見る少年A。
「コイツ……この人がシュキの?」
「そう、お父さん」
なんか今一瞬疑うような眼を向けられた上にコイツとか言われてしまった気がするんだが。
「そうか……それはまあいいとして、勝負しろ!」
「はあ、またかあ」
なぜかいきなり勝負を仕掛けられるシュキ。シュキの言葉から察するによくあることなのだろう。
「しょうがないな、一回だけだよ」
「よし! それじゃあ訓練所に行くぞ!!」
なんだか勝手に話が進んでいるがこれは逆らえない流れなんだろうな。
仕方ないから俺達はシュキと名前も知らない少年Aについていく事にするのであった。
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