テンションが上がりますわ
「暇ですわ」
「また言ってるよ」
「お母さんはそればっかりだよね」
いつも通りの休日。いつも通りの暇をした嫁とそうでもない娘。
ちなみにシュエリアは定位置だが娘は対面の席で勉強中だ。
「流石エルフの血を引くだけあってハイスペックだな。勉強教えるところないじゃん」
「そんなことないよ、勉強の仕方とか、色々教わってる」
「ちょっと、かまえですわ」
「かまえって言われてもな」
娘は勉強で忙しいし、俺はそれを見ているのでそこまで暇でもない。
「暇ですわ」
「抱き着くな」
「良いよお父さん、かまってあげて」
「いいのか?」
「うん、後は一人で出来る」
シュキがそういうならまあいいか。
さて、どうかまおうか。
「かまう気になったんですの?」
「なった。さて、どうしようか」
その気になったと言っても特に話題もパッとは浮かばない。
「それならテンションの上がる話をしたいですわ」
「ほう?」
テンションの上がる話か……。
「あぁ、さらっと人の心に返事するのやめろ?」
「そんなことより、聞いて欲しいですわ」
「そんなこと」
まあもう、いつもの事だから仕方ないが、うん……そんな事では無いと思う。
「この前駅のホームで上りエスカレーターに並ぶ長蛇の列を見たのだけれど」
「ほう」
「わたくしもエスカレーターで上ろうと思っていたわけですわ」
「で?」
「でも列に並ぶのは嫌だし、かといって割込みもしたくない、そこで見てみると横に誰も使わない階段があったのですわ」
「ふむ」
それで、どこでテンションが上がるのだろうか。
「そして気づいてしまったんですの。わたくしはエスカレーターに乗りたいんじゃなくてただ『上に上りたいだけ』だって」
「はあ」
で、どこでテンションが……。
「そう考えてみるとどうですの。なんかちょっとカッコいい感じがしてテンション上がって、階段を駆け上るわたくしが居るわけですわ」
「単純かお前」
というか阿保だな、コイツ。
「単純って言うか変な人だよね、お母さんって」
「失礼な娘ですわ、そこは一風変わったとかいう表現にしておくのですわ」
「国語の勉強になったよ。一風変わった変人だよね」
「失礼な部分が変わってねぇですわ」
敢えては言わないが、変人であってると思う。
「こんな母に育てられてなんでこうもしっかり者に育ったかな」
「反面教師にしたから」
「立て続けに失礼な娘ですわ」
まあでも、そのおかげでしっかり育ってくれて何よりだ。ちょっと癖があるが。
「冗談だよお母さん。私を育ててる間は真面目だったもんね。『こういうの』はお父さんの前だけだもんね」
「ちょ、要らん事言うんじゃないですわ」
「大丈夫、知ってるから」
コイツが本当は真面目な奴なのは知ってる。仕事もできるし。ふざけるのは俺の前くらいらしいのも。
まあ暇人なのは誰の前でもそうだろうけど。
「そんなわけで、ユウキもテンションの上がる話を」
「覚悟ってつけると何でもカッコよくなるぞ」
「それ某物語のパクリ臭いですわ……」
でもカッコよくてテンション上がるならそれでいいはずだ。
「階段を上る覚悟」
「まあそれっぽいですわね」
「娘を育てる覚悟」
「してなかったのお父さん」
「ツッコミを入れる覚悟」
「万全の態勢で挑んで欲しいですわね」
「勉強を見る覚悟」
「覚悟要るの? お父さん」
どうだろう、全体的にちょっとカッコよくなったのではないだろうか?
「まあでも、覚悟を決めるとちょっとカッコいいかもしれないですわね?」
「だろ?」
「仲いいなぁ」
なんか娘に生暖かい視線を送られている。むずがゆい。
「でもカッコイイでテンション上がっちゃうなら、お母さんはお父さんを見てるだけでテンション上がるってことだよね」
「ちょ」
「なるほど?」
まあシュエリアから見たらそうなるのか? どうなんだ??
「そ、そこまで単純なわたくしじゃないですわよ?」
「声が震えてるな、嘘くさい」
どうやらそこまで単純だったようだ。
「そ、そんなことよりそろそろお昼ですわねユウキ!」
「え、あぁ。そんな時間かあ」
まーたお昼落ちか、というか、逃げたなコイツ。
「まいいか。昼飯何が良いかな……」
「ふう」
「あからさまにホッとしてるねお母さん」
そこはツッコんでやらないのが優しさだと思うが、俺も気にはなったので敢えては言うまい。
「昼ごはんですわ!!」
「わーった。叫ぶな」
これ以上続けると嫁が変なテンションになりそうなので、昼飯を作りに行く。
さて、どんな料理ならテンションが上がるだろうか?
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