幕間 決意
三月某日。深夜。
わたくしこと、シュエリア・フローレスはとても困った状態にあった。
「なんで……あんなことに」
あんなことというのはアレだ……ユウキとシオンのデート。
元から二人がデートするのはわたくしも同意の上だったし? 別にそれ自体はよかった。
ちょっと悪いかなと思いつつも、尾行して様子を見るのも面白かったし。
でも、アレは、あれだけは予想外だった。
「なんで……キスしちゃうんですの……」
彼らが遊び終わり、秋葉原の街が静かになる頃、二人は公園のベンチで並んで座っていた。
最初はただの休憩だと思っていた。でも、違った。
「はぁ……なんで……」
もう、わけがわからない……。
なんでキスしたのか。お互いが好き合っているから?
なんでこんなに苦しいのか……。
なんで、なんで。どうして?
「ユウキは……シオンのことが好きなのかしら」
正直、ずっと、彼はわたくしのことが好きなのだと思っていた。
だって、嫁といいつつも何もしないわたくしを受け入れて、なんだかんだ言いながらも優しくしてくれた。
それに……何度かは可愛いとも言われたし……見た目が良いって褒めてくれるし……。
我儘も聞いてくれて、暇なときはいつだって付き合ってくれる。
わたくしが酷い扱いをしても冗談としてツッコんで笑ってくれる。
なのに、なんで?
「やっぱり……胸かしら」
そんなどうでもいい事を考えてしまう。
容姿には自信があるし、スタイルだって良いはずだ。
でもそれは全体のバランスの話で、女性らしい胸部をしているかと言われれば……。
「というか……もしかして、わたくしってユウキの事好きなんですの?」
今更だが、そう思った。
確かに最初から彼の事は気に入っていた。だけど異性として好ましく思うというのとは違った。はずだった。
「口にしたら、自覚症状が出てきた気がしますわね……」
そうなると話は単純だ。
好きな人と同棲していて、仮にも嫁なのにそれらしいスキンシップは無く。
あろうことか義姉のシオンに先を越された。
それでわたくしは……あれだ……妬いているのだろう。多分。
「ならやることは単純ですわね?」
ユウキとシオンはキスをした、だが、別に付き合っているとかではないはずだ。
大体ユウキの馬鹿正直な性格からしてわたくしと仮の夫婦でありながらなんの報告も無しに誰かと付き合うような奴ではない。
つまり、まだチャンスはある。
「これからは積極的に攻める……これですわね!」
そう一人結論付けると、わたくしはソファに倒れた。
「明日からはガンガン攻めていかないと……」
そう、思いながら、頭の中のユウキとシオンキスシーンを振り払うように、決意を新たに眠りについたのだった。




