初詣デートですわ
「初詣でデートと言われてもやることそんなになくね」
「いきなりぶっちゃけるわね」
年末年始の休日。俺とアシェ、トモリさんの三人はシュエリアによって初詣デートに送り込まれていた。
「とりあえずお参りにいきましょう」
「とりあえずでお参りに行く魔王って」
一応相手は神様だから、お参りっていうよりお礼参りっぽい構図が脳裏に浮かぶ。
とはいえ今は特にこれがやりたいというのが無いためトモリさんの案に乗っておくことにする。
「まあ行きますけどね、行きますけど、トモリさん変な事しちゃ駄目ですよ」
「しませんよ? 私はなんだと思われているんですか」
「魔王ですよ……」
自分の前職忘れちゃったのかなこの人。
「それじゃとっとこ行くわよ」
「ハム〇郎かよ」
まあ行くんだけどさ。とっとこ。
「何をお祈りしようか」
「私は子宝祈願にしとくわ」
「ガチの奴じゃん」
シュエリアの話があったからか、アシェもなんだかそういうのを気にし始めたようで。
それは何もアシェだけでは無いのだが……。
「トモリさんはどうするんですか」
「私は豊作祈願ですね」
「なんの豊作を願うんですか?」
なんだろう、想像がつかん。シュエリアならアニメの豊作とか言いそうだけど……。
「子種の?」
「おいなんてこと願おうとしてんだ淫魔」
思ったよりドストレートなセクハラ発言に俺もビックリである。
ついタメ口になってしまうくらいにはビックリした。
「駄目ですか?」
「駄目じゃないですけど人ごみでそういう発言は止めてください」
一部の人に「えっ?」って感じで見られてしまっていた。居た堪れない。
「トモリも子供欲しいと思うのね」
「変です?」
「そうじゃないけど、トモリってたまにユウキを食糧として見てる節があったから興味ないのかと思ってたのよ」
「なるほど、確かにそうですね。ゆっ君美味しいですから」
「やっぱり食糧としても見られてるんですね俺」
怖いわ淫魔。食われる。
「でも夫としても見てるのでセーフです」
「自分でセーフとか言いますか」
「セーフです」
「はあ」
まあトモリさんがそう言うのならそういう事にしておこうか。
「それでユウキは何を願うのよ」
「俺か? 俺は……」
俺は少し悩んだが、とりあえずこれ、というのを口にする。
「安産祈願かな」
「おめでただもんね」
「そうそう」
シュエリアが身籠ったので、とりあえず、子宝祈願とかしている彼女らの横で俺は安産祈願をしておくことにした。
「こればかりは運ゲーだから神頼みもしたくなるわよねえ」
「ですねえ」
「運ゲーとか言うなよ……」
ガチャとかじゃあるまいし、運ゲーて。
「さて、それじゃお祈りしますかね」
無駄話してる間にもちゃっかり順番待ちをしていた俺達は自分達の番が回って来るとお祈りを始めた。
「子宝に恵まれますように……」
「口に出すな」
「子種豊作、精子万来」
「ちょ、変な事言わないでくれませんか?」
この程度の事に地味に笑いそうになってしまった。悔しいものである。
とは言えこれでお参りも済んだわけだ。
「はあ、なんでお参り一つで疲れてんだろ俺」
「ツッコムからじゃない?」
「ならボケんなよ」
「え、無理」
「お前な……」
真顔で言われて返す言葉もない、新年早々アホなエルフで困ってしまう。
「私から下ネタ抜いたらただのエルフよ? いいの?」
「良いか悪いかで言ったらいいと思うけど」
「人格否定された気分だわ」
「そこまで行く?」
「嘘、冗談よ。でも下ネタは私のアイデンティティでもあるわ」
「さよで」
「さようよ」
まあそこまで言うならいっそ貫いていいと思う。
「まあでもそうなると淫魔のトモリと被るのよねえ」
「そうですねえ。キャラ被りは良くないです」
「トモリさんは義姉さんとも黒髪ロングが被ってますからね」
「はい……」
なんかトモリさんがしゅんとしてる。
落ち込んでるのか?
「人が気にしてること言うもんじゃないわ」
「あ、そうなのか。すみません、トモリさん」
「いえ、事実なので仕方ないです」
そう言うとトモリさんも気を持ち直したようで、しゅんとした様子が無くなった。
「まあでも、実際には若干髪色違うわよね」
「そうだな、トモリさんの黒髪って緑がかってるけど、義姉さんは紫っぽいし」
「まあ黒は黒ですけど」
「「ま、まあ」」
俺とアシェがトモリさんの自嘲気味な様子に同じ反応を返してしまう。
「さ、さて。次は何しましょうか」
「おみくじが良いかと思います」
「即答ですね」
さっきまでの雰囲気は嘘のように消え、即答する魔王、なんだかんだでこの魔王初詣楽しむ気満々だな。
「さて、おみくじか。何が出るかな」
「大吉以外出ないわ」
「でません」
「何処からその謎の自信来るんだ?」
なんでこの二人おみくじ相手にそんな自信満々なの。
「それじゃまずは俺から」
おみくじを引いてみると俺の運勢は凶だった。
「うん、ここで運使ってもしょうがないしな」
「前向きねぇ」
「ですねえ」
おみくじなんて所詮はコピーよ、気にするだけ損だ。
良いこと書いてあったらちょっと嬉しいくらいでいいのだ。
「で、お二人さんは?」
「私は当然大吉よ」
「私もです」
「なんでだよ」
なんか知らんけど負けた気がするのはなんでだ。
なんで当たり前のように宣言通りに大吉引いてんのこの二人。
「だから言ったでしょ、出るって」
「うわあ、腹立つドヤ顔だなあ」
これ俺の嫁の一人なんだよな……。
「でも大吉でも内容が微妙な事ってあるだろ」
「そうね、実際割とよくわからないわ、多分微妙よ」
おみくじって言い回しが古風なのか独特なのか、よくわからないが内容が読んでも分からない時ってあると思う。
待ち人、来るとか。来るって具体的にどうなんだとか。
「さておみくじも終わったし、後は出店くらいか?」
「そうね、周って見ましょうか」
「そうですねえ」
という訳で今度は出店を見て回ることにした俺達。
さて、何かめぼしいものは……。
「射的やるわよ!」
「そういうゲーム好きだよなエルフって」
「射撃ゲーは好きよ」
「なんだろう、言い方」
それだと近接攻撃が死んでるゲームみたいだ。
「いいからやるわよ」
「まあいいけど」
「いいですよ」
さて、ということで射的をすることになったのだが。
「一番大きな獲物を捕ったら勝ちにするわよ」
「何か言い出したけど、大丈夫か? 勝算あるのか?」
「無いわ!」
「ドヤ顔」
そこでドヤっても仕方ないと思うんだけど。
と、思いつつもとりあえず射的を始める。
俺が狙うのは簡単に取れそうなキャラメルだ。
理由はいくつかあるが一番の理由は適当なのを取っておけば大物狙ったアシェが自爆してくれると思ったからだ。
「ほい、ゲット」
「むぅ、やるわね」
「アシェの方は……うん?」
思った通りアシェさんは頭がアレなのかP〇5を狙っていた。
「アシェさんや、それは無理だと思う」
「当たっても全然これっぽっちも動かずダメなのよね……」
「わかってるなら狙うなよ」
コイツ阿保だな。
「トモリさんは……すげぇな」
トモリさんは小物ばかりだが数がしっかり球数分取れていた。これはトモリさんの勝ちだろう。
「何と言うか、予想通りの結果だったな」
「勝算なく挑むものじゃないわね」
「そうですねえ」
それに関しては同意するところである、まあそういうチャレンジ精神みたいなものはアシェの良いところな気もするが。
「他にも出店周りましょうよ」
「いいぞ」
「はい」
こうして俺達は出店を周り、最後にはお土産を買って、シュエリア達の待つ自宅へと帰還し、デートは無事に幕を閉じたのであった。
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