青春ですわ
「あー、暇ですわ」
「つまりいつも通りだな」
いつも通りの休日、いつも通り暇にダラダラ過ごしているとシュエリアが暇だと声を出して主張してきた。
「そう、いつも通り暇ですわ」
「ドヤ顔で言う事か」
なんでドヤってるのかはさておき、まあそのくらい暇ということにしておいてやろう。
「さて、となるとどうしたものか」
このまま放っておくと何するか分からない上に暇暇五月蠅そうなのでなんとかしてやりたいところではあるのだが……。
「そうですわ、最近テニ〇リを観たのだけれど」
「ああ、あの超次元テニスな」
別に批判する気は毛頭ないがあれはもうテニスではない。超次元サッカーの部類だとは思うけど。
「青春学園って如何にも青春してそうですわよね」
「そうだな」
まあ名前からド直球だしな。
「という事で今日は」
「テニスか」
「アオハルっぽいことしますわ」
「わー、すっげえやりたくねぇ」
この歳で……という程の年でもないが、青春っぽい事とか言うのがもう既に恥ずかしいお年頃なのだ。
「あおは~る~ん~」
「あらトモリ、トモリもアオハルしたいんですの?」
「はい~」
部屋の前で会話を訊いていたらしいトモリさんがルンルンしながら入って来る。
「せっかくだから全員でアオハル体験ですわ」
「お~」
「おぅ……」
アオハルアオハルって……青春かあ……痛々しいことにならないと良いのだが。
「で、全員揃ってしまった訳だが」
「ゆう君はあんまり乗り気じゃないね?」
「むしろ義姉さんが乗り気なのが不思議だ」
「女子だからね」
「女子って歳じゃ」
「女子だからね」
「……はい」
なんか凄い圧を感じるのでこの話はここまでにしておこう。
「で、アシェはいいのか、青春とか、クサいとか言いそうなのに」
「それをやってるシュエリアを見るのが楽しいんでしょう」
「その結果お前もやるんだけどな」
たまに思うがアシェはシュエリアの無様な姿とか見たさなら何でもするところがある。何でかはまあ、言うまでもないだろうがそのために恥も忍ぶとは中々の覚悟だ。
「さて、それじゃあアオハル始めますわよ」
「具体的には?」
「え? ……あー……アレですわ、自転車二人乗りとか」
「今考えたな」
「今考えたわね」
「室内で自転車のお話しされてもっ」
「お外にでま~す~?」
「シュエちゃんらしいと言えばらしいけどねー」
シュエリアの意見に基本的に皆行き当たりバッタリ感を感じている様だ。
まあコイツはいつもそうだから、問題ない、いつも通りなのだから。
「とりあえずやってみるか?」
「そうですわね。まずはわたくしとユウキでやってみますわよ」
ということで俺達はシュエリアが創った異空間に出て、そこで色々試してみる、という事にした。
「さて、自転車と空間は用意されている訳だが。何故に河川敷」
「青春っぽいかと思いましたわ」
「本当に思い付きだなあ」
まあ気持ちはわからなくないんだけどさ。
「さてそれじゃあ――」
俺が自転車に乗ろうとすると、そこにはもう既に二人乗っていた。
シュエリアとアイネである。
「何してんだお前ら」
「何って、二人乗りでしょう?」
「にゃあ」
「うん、順番にツッコむけど、まずシュエリア、この場合運転は男だろ」
「そういう意見もあることは承知していますわ」
「なら何で思いきり自転車漕ぐ準備してんの?」
「敢えて女子がやる、それが面白いかと思って」
「なるほど、じゃあボケ終わったから交代しろ」
「しゃあないですわねぇ」
とりあえずボケたかっただけのシュエリアを退かして俺がハンドルを握る。
そして。
「アイネ、なんで買い物籠に入ってるんだ?」
「にゃあ」
「うん、一緒に乗りたいのはわかるけど、わざわざ猫の姿になってまで三人乗りしなくてもいいだろう」
「にゃー」
俺の言ったことを理解し、了承してくれたアイネが籠から飛び降りる。
これでようやく二人乗りの準備が整った。
一々ボケる連中なので話が先に進みにくいのはご愛敬といったところか。
「それじゃいくぞ」
「これどうやって後ろ乗るんですの」
「横乗りでもいいけど危ないから跨ぐように乗るのを推奨する」
「危険は魔法で回避できるから横乗りしますわ、カッコイイから」
「……まあそっちのほうが青春っぽいか」
「分かってますわねえユウキ」
今回の趣旨はそこなので、まあもういいだろう、危ないことなんてコイツ等には無いし。
「じゃ、改めて。行くぞ」
俺はシュエリアを乗せて、自転車を漕ぎ出す。
そして思った。
「二人乗り難しいな?!」
「そこで躓くんですの?!」
思ったより難しい二人乗りに耐えきれずコケる俺と魔法で飛ぶシュエリア。
せっかくなので俺も飛ばして欲しかったのだが。
「いやあ、ビックリですわ」
「俺も驚いたわ。思っていたより難しい」
「青春はユウキには早かったということですわね……」
「そんな遠い眼で言われるようなことでもないと思う」
青春なんて来なくても、今が幸せだったりするので別に構わない。
というかそもそもこんなハーレム状態で青春もクソも無いと思う。
「二人乗りが無理なら、他になんか無いんですの?」
「他に? んー」
他に、青臭くて、甘酸っぱくて、照れ臭いような、情熱を感じるような。何か??
俺が迷走しているとアイネが手を挙げた。
「間接キスとかいいと思いますっ! 主にカル〇ス辺りが青春っぽいと思いますっ!!」
「体にピースは確かに青春っぽいですわね」
カ〇ピスか。飲料そのものが青春っぽさを感じさせるな、確かに。
「じゃあ買ってくるか」
「そんなこともあろうかと話を聞いた段階から用意していたお姉ちゃんだよ」
「先回りの仕方が相変わらずこえぇよ」
なんでこの人、他人の思考パターン完全に読み切ってるんだよ、怖いよ。
「まあいいか、で、これを回し飲みするのか?」
「順応早いですわね……回し飲みじゃあわたくし達全員間接キスでしょう。百合の趣味はないですわ」
「じゃあどうするんだよ」
「ここにあるカル〇スは五本、つまりユウキが全部に口を付けて、一人一本ずつですわ」
「俺の分がねぇ……」
いや、別にいいけどさ。カル〇スの一本くらいなくても。
「そこはほら、皆の分を少しずつ分けてあげて合計で一本みたいなもんですわ」
「さよで」
「さよですわ」
まあ構わない。むしろ丸っと一本飲みきるのって結構大変だし。
「さて、それじゃあまず俺が全員分口付けるぞ」
「なんだかイヤラシイ意味に聞こえるわね」
「言うかなとは思ったよ……」
アシェだったら絶対そういう風に受け取ると思った。うん。
「で、これをお前らが飲んだら青春の一ページって訳か」
「なんだかシュチュエーションがヤラセなだけに青春っぽさ皆無ですわね?」
「今更それ言う?」
青春っぽいことをしたいと言い出した本人が実際やるとヤラセっぽいとか言い出すか。
「ま、いいですわ。ゴクゴク」
「じゃあなんで言ったんだよ……」
相変わらずよくわからないところのある奴だ。って言うかかなり飲むな。
「お前どんだけ飲んでんだよ」
「喉乾いててついつい飲み干してしまいましたわ」
「そこは間接キスに照れつつちょっと飲むくらいが良いんだと思うけど」
「あー、その手がありましたわね。青春っぽいですわ」
「目的忘れてんじゃん……」
駄目だ俺の嫁、その場その場で自分のしたいことしかしてねぇ。
「さて、他の皆はどうですの?」
「ゆっ君の~味~?」
「カル〇スの味です」
「ににいにい様と間接キシュしましたっ!!!」
「落ち着けアイネ、テンパり過ぎだ」
「私、カル〇スって濃いめが好きなのよねぇ」
「カル〇スの話は聞いてねぇ」
「お姉ちゃんは間接キスだけじゃ満足できないかな!」
「お、おぅ」
なんか誰一人として青春を満喫していないんだけど、良いのかこれ。
ギリギリだがアイネはそれっぽいか? アシェの発言はなんかアシェが言った所為か変な意味に聞こえないでもない。カル〇スの好みの話だけど。
「まあ、全員楽しそうで何よりですわね?」
「うん? まあ、そうだな」
まあ確かに、楽しそうではあるし、楽しかったけども。
青春って難しいな。
「さて、次はどんな青春っぽいことをしようかしら。なんか無いんですの?」
「そうだな――」
なんか難しいけど、それっぽいことを考えてみる俺。
他の皆も一緒に考えている。
「運動して汗を流すとか?」
「確かに青春っぽいですわね。それじゃあ――」
とまあ、そんなこんなで、俺達の青春(?)はその後シュエリアが夕飯を要求してくるまで続いたのであった。
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