夏と言ったら花火ですわね?
「そういえば夏なのに夏祭りとか行かないんですの?」
「は?」
ビーチバレーをした後、昼飯を食い終わるとシュエリアが妙な事を言い出した。
海に来てるのになぜ急に祭りの話になるのか。相変わらず唐突というかなんというか。
「行かないんですの?」
「……じゃあ今度、やるところがあったら行くか」
「むぅ、今度なんですのね」
「今行きたいって言ってもやってる場所なかったら仕方がないだろ?」
それにしても夏祭りか、そういえば最近そう言った物に参加した記憶はない。
「夏祭りって花火とか出店とかを楽しむものなのでしょう?」
「まあ、そうだな」
「でも花火だけなら買ってちょっと遊ぶのにちょうどいいのがありますわよね」
「あるなあ」
「まあ魔法でやった方が早いけれど」
「魔法使えないからな俺」
「作りますわよ?」
「色々問題あるから止めろ」
この世にある物全て「作れますわよ?」で作られてたら経済とか回らなくなりそうだ。貨幣とか作ったらもろ犯罪だし。
「さて、それで。シュエリアは花火がしたいのか」
「ですわね」
「今の会話の流れでそこだけ汲み取って理解できるの凄いわね」
昼飯後、早速ビーチに埋められたアシェが顔だけで話しかけて来る。
ちなみに埋まってる体はやたらとが繊細なタッチで芸術品と化しているがこれはシュエリアの仕業だ。
「まあ付き合い長いからな。てかアシェのそれ、本当に凄いな」
「こういうのをサンドアートって言うんですわよね」
「なんかちょっと違う気がしないでもない」
確かに砂の芸術ではあるのだが……。
「まあアシェは置いておくとして、花火は夜でいいだろ」
「じゃあ時間を加速して夜にしますわ」
「やめい」
コイツがどんな魔法を使う気かは知らんが世界全体が気づいたら夜だったなんてなったら洒落にならない騒ぎになる。
「むぅ。じゃあ暇ですわ」
「じゃあってなんだ……そうだな、とりあえず夜までに花火の事義姉さんに言ってみるか」
流石に打ち上げ花火は無理だろうが手持ちで遊べる花火くらいなら何とかなるだろう。
「そういえばシオンは何処にいるんですの?」
「別荘だよ。義姉さん暑いのあんまり得意じゃないからなあ」
以前海に来た時にも帰りには「暑いから来年は室内プールにしようね」とか言ってたしな。
「今頃クーラー効いた部屋でだらだらしてるだろ」
「えー、そんなことないよー?」
「うっわビックリした」
気づくと真後ろに義姉さんが居た。なんでだ?
「何で真後ろに……」
「どさくさ紛れに抱き着いてるし何なんですの……」
「いやあ、呼ばれた気がしたから出てきてみたんだけど?」
「まあ、丁度いいけどさ」
なんでこの人は呼ばれた気がするとかいう謎能力持ってんだろう。いつもそれで急に出て来るし。
「それで何の用だっけ?」
「あぁ。シュエリアが花火したいって言い出して」
「あー、なるほどー。お姉ちゃんに任せて!」
グッと握りこぶしを作って意気込む義姉さんだが、まさか打ち上げ花火とかしないだろうな。
「一応言っておくけど手で持ってする奴だからな」
「分かってるよー。流石に私そこまで非常識じゃないよ?」
「どの口が言うのか」
何かあるたびに施設を貸してもらっている立場で言うのもなんだが、非常識なほど手広く「俺達」のニーズに合わせた施設を提供してくる義姉さんは非常識だと思う。
「上の口だよ?」
「そういう事言ってんじゃねぇんだよ……」
隙あらば下ネタ吹っ掛けて来るのは何なんだ。
「さて、それじゃお姉ちゃんは準備があるからゆう君達は適当に暇つぶししててよ」
「はいよ」
と言ってもまだ花火をするには明るすぎる時間だ。
さて、何をして暇を潰そうか。
「シュエリア、何か希望あるか?」
「無いですわ」
「ドヤ顔で言わなくていいから」
なんでコイツは妙なタイミングでドヤ顔するんだろう、阿保だからだろうか。
「じゃあ砂の城でも作るか」
「あら、良いですわよ? わたくしの妙技見せて差し上げますわ」
「ねえ、その前に私出してくれない?」
「あ」
そう言えばアシェをすっかり忘れていた。
「今の『あ』って忘れてた奴よね?」
「うん」
「否定しなさいよ!」
「嘘は付けないもんで」
「はいはいそうですか! さっさと出してよね!」
「何コントやってんですの」
別にコントのつもりは無いが、とりあえずアシェを出してやることにする。
「なあ、これって砂をどかそうとしてうっかり胸とか触っても事故だよな?」
「それを聞いた後だと故意だと思われますわよ」
「事故だよ事故」
そう言って俺は砂を退けるが、途中で気づいた。
「あ、でもシュエリアと違ってスレンダーだからうっかり引っかかる場所がない」
「アンタぶっ飛ばすわよ?!」
アシェが半ギレで砂から飛び出して来た。ある程度砂を退けたから自分で出られたようだ。
「まあまあ、そう怒るな」
「怒らせてる本人が言う?」
「わかった、すまん。本当の事でも言っていいことと悪いことがあった」
「謝ってないわよねぇそれ!」
やはりアシェは活きが良い。ついつい弄りたくなる。
「まあ冗談はさておき」
「冗談でも言っていいことと悪いことがあるわよ」
「悪かったって。で、砂の城だが、シュエリアがメインで作って俺は手伝う感じにしようと思う」
「いいですわよそれで」
「え、私は?」
「アシェは……なんか不思議な踊りでもしててくれ」
「何その無茶な上に関係ない注文!?」
「アシェなら出来ると信じて託すんだ」
「良いこと言ってる風に無茶ぶりしてこないでくれない?!」
どうやら駄目だったようだ。うーむ、しかしアシェって美的センスはどうなのだろう。行けるんだろうか。
「私だってエルフなんだから。美しい城くらい作れるわよ」
「そうか、じゃあせっかくだからアイネとトモリさんも呼んで皆でやるか」
そんなわけでビーチを散策しに行ったアイネとトモリさんを呼び戻し、俺達は砂の城を皆で作ることにした。
ちなみに俺は宣言通りシュエリアの助手。アシェは一人で作って、トモリさんとアイネは一緒に作るようだ。
「さて。無駄に大作にしようとして花火までに完成しないのは避けろよ?」
「もちろんですわ。夢の国にあるお城を作りますわ」
「結構大作なんですが」
アレ作るって正気かコイツ。
「もちろん大きさは小さめにしますわよ? 腰までくらいですわね」
「なるほど、それならまあ」
出来るかどうかはわからんが、まあ出来たら凄いのは間違いないからやってみたいという思いはあった。
「さ、とっととやりますわよ」
「おう」
と言っても、作業は基本的にシュエリアがするので俺は横でそれを見てたり、たまに霧吹きで固めたりするのを手伝う程度だった。
「ふっふっふ。完成ですわ!」
「おぉ、これはスゴイ」
相変わらず手先の器用なシュエリアである、当然完成度も馬鹿にならない。
もう夕暮れ時になってしまったが、まあこの完成度を求めていれば仕方のないことだろう。
ちなみにアシェは途中で城が波に持っていかれて心が折れて、アイネとトモリさんはサクッとそれっぽいのを作って他の遊びを始めてしまったので結果的に砂の城に力を入れていたのはシュエリアと俺だけだった。
「ふぅ。満足ですわ」
「いや、満足するには早いって」
砂の城は完成したが、そもそも俺達はまだやることがあるハズだ。
「あ、そうですわね、花火でしたわね」
「そうそう」
とは言えとりあえず作った砂の城。せっかくの完成度なのでシュエリアと共に写真に収めておきたい。
「シュエリアちょっと砂の城に寄ってくれ、写真撮るから」
「いいですわよ、ドヤァ」
「ドヤ顔好きだなお前。まあいいや」
パシャっと写真を一枚撮ると、それと同時にシュエリアが城を蹴り上げた。
「何してんだお前?!」
「いえ、急に矮小な何かを蹴り飛ばしてやりたい衝動に駆られてつい」
「何その衝動怖いんだけど」
まあ別に作ったのほとんどコイツだから良いけど、なんか勿体ないな。
「さて、花火しに行きますわよ」
「お、おお」
そんなわけで俺とシュエリアは二人、別荘で待っているであろう義姉さんの所に向かった。
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