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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
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キャンプって何するんですの?

「暇ですわ」

「もうかよ」

 またしてもいつものように暇だと言い出すシュエリアだが、俺達はまだ、つい今さっきキャンプ場に着き、テントを組み立てたばかりだった。

 ちなみにテントは大き目な二ルームのテントだ。この人数なので広さが無いと大変寝難いのでこうなった。

 組み立ては義姉さんの指示に従ってやっただけだったので案外簡単に出来た。初心者にこれが最初からできるかは……よくわからないが多分出来るだろう。時間掛かりそうだけど。

 余談だが、シュエリアはペグをもって「ダウジングマシン?」とか言って遊んでやがったのでほとんど手伝ってない。

「まだテント張ったばかりだろ」

「ユウキ、いきなり下ネタはちょっとですわ」

「そっちじゃねぇよ! 状況的にわかるだろ!」

「これだけの美少女に囲まれた状況ならまあ、致し方ないですわね」

「だから違うって!」

「まあまあそう興奮しないで、落ち着くんですわ」

「違う意味で興奮するわ!」

「意味深的にですわね」

「駄目だコイツ早く何とかしないと」

 何を言ってもシュエリアの良いように解釈される気がしたのでもうツッコムのも止めた方が良い気もしてきた頃、アイネがせっせとこちらに走って来た。

「兄さまっ! あそこの池で魚を取って良いそうですよっ」

「お、釣りかあ」

「丁度暇だったからやってみてもいいですわよ」

「なんでお前ちょっと上からなんだよ……」

 まあ別にいつものことだから構わんけれども。

 楽しそうに走って「こっちですっ」とテンションの高いアイネについて俺達も池まで行く。

 ちなみに、ここの釣りも釣り具の貸し出しがあるので義姉さんから受け取っている。

「さて、釣り餌は……げっ、虫ですのね」

「シュエリア虫駄目なのか」

「駄目ってことはないけれど、駄目ってことはないですわ」

「雰囲気が全然駄目そうなんだけど」

 自然を愛するエルフという種族でも虫は苦手なようだ。シュエリアだけかも知れんが。

「疑似餌もあるみたいだけどアイネはどうする?」

「にゃっ?」

 俺がアイネに問うと、アイネは何故か湖に侵入していた。

「……何してんだアイネ」

「魚を捕ろうかとっ」

「まさかと思うけど、素手でか」

「猫故の技をお見せしようかとっ!」

「猫は別に素手で魚取らないけどな」

 素手で魚とりって、どちらかというと熊のイメージがある。

「と言ってる間にとうっ!」

「うおっ!」

「魚だけに?」

 シュエリアが阿保な事を言っているが、俺が驚いたのはアイネが本当に素手で魚を捉えて、陸に投げて来たからである。

「凄いなアイネ」

「えっへんですっ」

「猫って魚自前で捕れるんですのね」

「いや、それはアイネだけだと思う」

 それにしても凄い物だ。凄い、凄いんだが。

「アイネ、それは止めとこうか」

「にゃっ。にゃんでですかっ?」

「人目がないとは言えちょっとな……ていうかアイネずぶ濡れだし」

「おっとっ……飛沫まで計算してなかったですっ」

 どうやら水飛沫のことは頭に無かったようで、思いきり水を被ってしまったようだ。

「ついでに釣れなくなりそうだからな」

「そうですねっ、余り暴れると魚が逃げてしまいそうですっ」

「そうそう。だから大人しく釣りにしような」

 そんなわけでようやく俺達の釣りは始まったのだが……。

 三十分後。

「全然釣れねぇですわ」

「そ、そうだな」

「生餌なのにダメダメですっ」

 シュエリアは疑似餌だが、俺とアイネは生餌を使っている。

 とは言え釣果は良好とは行かず、むしろ最初にアイネが飛ばした一匹以外取れていないと言った状況だった。

「飽きましたわ」

「飽きちゃったかあ」

「まあ釣れないですからねっ」

 釣りは待ってる時間も楽しむものらしいが、やはり性分というべきか、シュエリアにはこういったのは合っていないようだ。

「他に何か無いんですの、キャンプ」

「そうだなあ、夕飯になればバーベキューとか」

「それオチの奴じゃないんですの」

「また飯落ちか。でもなあ」

 他にと言われてもキャンプ初心者の俺には思い付かない。

「義姉さんに訊いてみるか」

「そうですわね」

「ですねっ」

 シュエリア達の了解も得られたので早速義姉さんの元に行こうとテントに戻る。

「およ、釣りはもういいの?」

「まあ、釣れなくてな」

「シュエちゃんが飽きちゃったと」

「そゆこと」

 俺が簡単に説明すると義姉さんはそれを想像で補ってくれた。

 で、シュエリアはというと。

「シオン、何か楽しいこと無いんですの、キャンプ」

「うーん? そしたらエルフの森の探索でもしてきたらいいんじゃないかな。お散歩して自然を満喫するのも楽しみの一つだよ」

「自然を満喫……ねぇ」

 義姉さんの言葉に難色を示すシュエリア。

 まあコイツはずっと森で草花を愛でていて暇になってこっちに来たエルフだし、今更元の世界の植物を移植した森に興味も出ないのだろう。

「それ~ならわた~しも~」

「私も行きたいわ」

「おぉ、乗り気なのが二人も」

 ちょっと不満そうなシュエリアとは反対に楽しそうなトモリさんとアシェ。この二人はここの自然が気に入っている様だ。

「まあとりあえず行ってみますわ」

「うん、お姉ちゃんはここでバーベキューの準備でもして待ってるから行ってらっしゃい」

「義姉さん一人でいいのか?」

 流石に義姉さんだけに色々と押し付けるのは申し訳がない気がする。

「大丈夫だよ。準備するのも楽しいんだから。あ、そういう意味では取っておいた方がいっかなあ」

 そう言って笑う義姉さんを見て、まあそういう事ならと納得することにした。

「それじゃ、行ってくるよ」

「はーい」

 義姉さんに見送られて俺達はエルフの森の方へ足を運んだ。

「なんだか久しぶりだわこの空気。帰って来たー! って感じがしなくもないわね」

「しなくもない程度なのかよ。まあいいけど」

 エルフの森を散策していると、何だか感慨深そうだかそうでもないんだか、アシェが深呼吸とかしながらウンウンと頷いている。

そしてそんな落ち着いた雰囲気のアシェと対照的なのがトモリさんだった。

「木~くにゃく~にゃ~。草~ぼう~ぼう~」

「何が楽しいんだろう……」

「トモリもエルフの血筋なのかも知れないですわね……」

 あっちへ行っては木を撫でて、こっちに行っては草花を眺め、ふわっと笑うトモリさん。

 トモリさんって自然とか好きなんだな、何とも平和な魔王だ。

「まあ楽しそうで何よりだけど……シュエリアはどうだ?」

「わたくし? 別に、まあ、普通ですわね?」

「どっちだそれ」

 楽しいのか楽しくないのか……いや暇と言わないだけ楽しい寄りな気はするけども。

「楽しいって言うよりは懐かしいですわね。アシェみたいなもんですわ」

「なるほど、懐かしい、か」

 なんか落ち着くとか、そんな感じなんだろうか。暇だ暇だと言わないし。

「でも結局のところ見慣れたエルフの森って感じでつまらないですわね」

「駄目だったか」

 まあそんな事になる気はしていたので、別に特段なんとも思わないけど。

「それにしてもなんかエルフ達に見られてる感がするんだけど」

「まあそりゃあ、国ほっぽり出して異世界に遊びに出て帰ってこない姫とかが居たらああいう眼も向けられるでしょ」

「そんな奴がいるんですのねぇ」

「アンタの事よ」

「え、わたくしほっぽってなんて無いですわ。一応救ったでしょう」

「まあそうだけど……大半のエルフはアンタの事良く思ってないわよ」

「むぅ……」

 どうやらシュエリアはエルフ内では偉い立場ではあっても人気者ではないようだ。

「そろそろバーベキューでも行くか」

「ユウキが気を使いましたわ」

「そういうの言わなくていいから」

「言わぬが花って奴ですわね」

「わかってんなら言うな」

 それこそ言わぬが何とやらだ。

「おっかえりー、バーベキュー準備出来てるよー」

「おう、じゃあ始めるか」

 とりあえずシュエリアも飯でも食えば気分が上がって来るだろう。

 そう思い、俺は義姉さんを手伝う。

「腹減りましたわー」

「分かったから、手伝え」

「えー」

「えーじゃない」

 めんどくさがるシュエリアを働かせ、アイネやトモリさんも自主的に手伝いを始める。

 ちなみにアシェはどんくさくて危険なので見学だ。

 俺達のキャンプは、まだまだ続きそうだ。


ご読了ありがとうございました!

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次回更新は翌週の土曜日21:00までを予定しております。

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