植物園ですわ
「めっっっちゃ暇ですわ」
「暇だな」
いつも通りの日常にいつも通りの暇な時間。俺とシュエリア、他にもいつものメンバーも揃って部屋でだらだらと過ごしていた。
「庭先の紫陽花でも眺めていようかしら」
「それ楽しいのか?」
「元の世界に無かった植物なら多少は愛でてて楽しいですわよ」
「あ、そうなんだ」
それは知らなかった。知らない植物相手なら楽しいのか。
「それならシュエちゃん、植物園行かない?」
「植物園ですの?」
義姉さんから投げかけられた言葉に、そのまま返すシュエリア。
「そう。色んな植物が展示……見られるところだよ」
「へぇ、そんな場所があるんですのね」
「リセっちは凄く気に入ってたし、どうかな?」
同じエルフ(と言っても性格がまるで違うが)のリセリアが楽しんでいるのならシュエリアも多少は楽しめるだろうか。
「それ私も興味あるわ」
「アーちゃんも? そしたら皆で行こうよ」
「ちなみにどこにあるんですの?」
「結構前に上野に作ったんだよ~」
シュエリアの質問に即答した義姉さんにシュエリアが苦笑いだ。
「勝手に作っていいんですの?」
「フィクションだからね!」
「なんてメタいことを」
まあいいけど、今更だ。
そんなわけで俺達は上野植物園に行くことになり、足は義姉さんの車という事になった。
ちなみに車内の配置は義姉さんの要望により俺と猫のアイネが助手席で他三名が後部座席となった。
「態々車で行く距離なのか?」
「いやあ、新車にゆう君と並んで乗りたくて」
「そういえば義姉さんは会うたびに車が違う気がする……」
意外と車集めとか趣味だったりするんだろうか……。よくわからんけどまあいいや。
「シュエちゃんは植物とか好きなの?」
「え? まあ、程々にですわね。他のエルフ程愛してたりはしないですわよ」
「そーなんだ。まあでも程々にでも楽しめるといいね」
「そうですわねぇ」
そんな話をしながらも車は進み、暫くすると義姉さんの作ったと言う植物園に着いた。
「思っていたよりは小さい……か?」
「どんなの想像してたのかはわからないけど、植物園って動物園みたいに広大な敷地使ったりしないものが多いと思うよ?」
まあ植物を鑑賞する用の施設としては大きい気もするが、どうだろう。美術館とか、そのくらいの大きさかな。
「さて、シュエちゃんは楽しんでくれるかな」
「ゆうて植物ですわよね」
「未知の植物、楽しそうね」
「楽しみ~です~」
「思いの外トモリさんが乗り気だ」
アシェはまあ、錬金術とかで怪しい植物とか使ってたりするみたいだし、こっちは普通のエルフの感性らしいので植物は好きなのだろう。
一番微妙な反応なのはシュエリアだ。アイネは俺と一緒ならどこでも楽しいらしいので、まあそれはそれで論外な気もするが。
「それじゃあ楽しい植物園案内始めるよー!」
「楽しいとか言っちゃっていいのか? ハードルが」
「大丈夫! 基本シュエちゃんを迎えるのを想定して作ってあるから!」
「出たよ、特定の個人向け施設」
この人本当に収支とかについてどう思ってんだろう。我が義姉ながら変な人だ。
「とりあえずレッツゴー」
「はいはい」
義姉さんの案内で施設に入ると出入口で入場料をまず払う、はずなんだが今回は義姉さんがいるので顔パスだったようだ。
「本当に大丈夫なんだろうか。入場料は払った方がいいのでは」
「シュエちゃん向けだからね」
「それだとわたくしが金払わない奴みたいですわ」
確かにそう聞こえてもおかしくない、別にシュエリアは金に関しては結構ポンポン使う方なのでこのくらい普通に払うはずだ。
「まあまあ、身内特権だよ。気にしない気にしない」
「そういうもんかな」
「そういうもんだよー」
そんな話をしながら入った植物園、まずはどんな植物が……ん?
「なんか、臭くね」
「ですわね……」
なんかこう、臭い。この臭いはなんだ。
「ここは変な植物エリアだね」
「変な植物?」
なんだそれは、どういう意味だ。
「名前が変とか、形とか……後臭いのとか」
「最後のだけおかしくないか」
周りを見ると季節外れの銀杏に、他にも色々見慣れない植物がある。
そして臭い。
「ヘクソカズラなんて名前からして酷いし臭いよね! シュエちゃんほら、ヘクソカズラ!」
「ちょ、寄せなくていいですわ!!」
シュエリアの背中を押してまで見せようと……あるいは嗅がせようとする義姉さん。悪乗りしてんなぁ。
「こっちのオオイヌノフグリなんてアーちゃん好きそうだよね」
「これ何?」
「わかんないかー。イヌノフグリっていう草の種子が犬の陰嚢に似てるから付いた名前らしいんだけど、ちなみにフグリって言うのがワンチャンのそれを指す言葉らしいよ?」
「犬の……変な名前ね、気に入ったわ」
「でしょー!」
「何で妙な事に詳しいんだこの人……」
無駄知識ばっかり仕入れてないでまともな知識をもっとこう、活用して欲しい。
そしてなんだかんだ言いつつ楽しそうだなエルフ二人。目がキラキラしてるし。
「後はクサギでしょ、ワルナスビにジゴクノカマノフタとかあるよ!」
「グー〇ルで検索したら出て来たわ……妙なもん集めてまったく……」
「でもいいですわね、知らない植物がいっぱいありますわ。なんかちょっと楽しいですわ」
「マジか」
流石エルフというべきか、これで楽しいらしい。
……俺には植物見て楽しいと言う感覚はあまりないようだ。どっちかというとコイツ等の反応とか、変な事ばかり知ってる義姉さんの方が面白い。
「さてさて、御次のエリアはなんと、季節の花々です!」
「普通!!」
変な植物のエリアを抜けると、季節の花々と言いつつ、思いっきり紫陽花に偏ったエリアだった。
「これは、綺麗だな」
「でしょう」
「ですわね、美しいですわ。わたくしの方が」
途中まで良い感じだったのに最後の一言で台無しのシュエリアである。
「お前なんで花と張り合ってんの」
「いえ、なんか言わないと負けな気がして」
「何に負けるんだよ」
「自分に?」
「勝手に負けとけ」
阿保のシュエリアはさておき、この景色は中々絶景じゃないだろうか。
なんかまた季節が微妙に違う花が混じってる気がするが。
「何で季節が違う花とか植物まであるんだ?」
「植物園ってそういうものじゃない?」
「知らないけど、多分違う」
「そっかぁ、まあ魔法でね、リセっちがちょちょいっと」
「便利だな魔法」
魔法でと言っておけばいいなんて、まさしく魔法の言葉って感じだ。
「さて、絶景なのは良いとして、これ、俺暇だな」
「わたくしは結構楽しいですわよ?」
「わたしも~楽しいで~す~」
「それならいいか」
「シュエちゃん達にはだだ甘だなぁゆう君」
嫁が楽しそうなら問題ないって思うのは多分大抵の男がそうだと思う。いや、どうだろう。
違うかもしれないが、まあ、俺はそうなのだからいいだろう。
「十年くらいはここで暇を潰せますわね」
「それは~ちょっと~」
「それは流石に勘弁して欲しい」
エルフすげぇな。自然を、植物を愛でてるだけで十年行けるんだから。
「冗談ですわ。何ならもうお腹空いたから帰りたいですわ」
「さようで」
「さようですわ」
結局のところまたしてもオチが無く。
俺達の日常って何なのかなと思いながら、紫陽花の話で盛り上がるシュエリアとアシェ、トモリさんを見ながら帰る俺であった。
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