看病ですの?
「三度目のコロナワクチンを打って来たんだが。体調は良好だ」
「あら、そうですの。暇ですわ」
ある日の休日、俺はついに来た三度目をサクッと終わらせて帰宅し、その報告をサラっと済ませると、嫁もまたさも何一つ気にして無さげに答えた。
「暇って……あのな、これからもしかしたら体調を崩すかも知れないのでその場合の看病を頼みたいんだが」
「看病……?」
渋い顔でクエスチョンマークを浮かべる嫁に不安感しかない。
「具体的に何したらいいとか、わかるか?」
「魔法で治す」
「根本的解決! 確かにお前なら出来るだろうけどっ! そこはほら、夫婦の愛、嫁の甲斐甲斐しさが試されろよ!」
「だから魔法で……」
「ちょっと看病されたいんだろうが!」
「……なら最初からそう言えってんですわ」
俺が本心をぶっちゃけたところで、ようやく嫁に理解をしてもらえるのであった。
ちなみにその嫁はというと、ちょっと嬉しそうにしてる。
「仕方ないですわねぇ。例えばどんな面倒見て欲しいんですの? 下?」
「いきなり直球な上にそれじゃ看病ってより介護だろ」
「え、手抜きって介護プレイなんですの」
「アシェかお前は!」
「いくらわたくしでもアシェと一緒にされたら怒りますわ」
「アシェ可哀そうだな!」
本人の知らぬ間に勝手に名前を使われて勝手に否定されるアシェであった。
「そうじゃなくて、熱とか出たらベッドに寝かせて……」
「あぁ、添い寝ですわね」
「違うわ。なんで病人と一緒に寝ちゃうんだよ」
「じゃあお手上げですわね」
「手詰まり速いな」
コイツ寝る以外考えてないのかってくらい手詰まり速いんだけど何なの。
「看病する気あんまりないだろお前」
「無いですわね」
「じゃなんで嬉しそうな顔してたんだよ……」
「うん? なんだか面白い話になりそうだなと思っただけですわ」
「暇つぶしする気だっただけかよ!」
俺の嫁って超が付くほどマイペースなんじゃないかと思う。自分の事以外ってあんまり考えてなさそうに見える時がある。
「でも本当に悪い時は魔法で治しますわよ?」
「まあそりゃあ、治るのはありがたいけどさ。なんかこう」
「体調不良にかこつけて嫁に甘えたいと」
「うっ……ズバリ言われると情けないな」
ドヤ顔で言い当てられると、情けなさと照れくささでなんかもう、立つ瀬がない。
「まあいいですわよ。ちょっとした体調不良くらいなら魔法を使わずに看病してあげますわ」
「ホントか」
「えぇ。二言は。……………………無いですわ」
「今の偉い長い間はなんだったんだ」
「いえ、ふとした瞬間に飽きて魔法で治す自分を想像してしまっただけですわ」
「あぁ、目に浮かぶようだな」
コイツならある、やりかねない。
「で、看病ってなったら何して欲しいんですの」
「まあ、まず食事とか。消化に良い物がいいな」
「ビーフカレーと」
「なんで香辛料増し増しで重めなの選んだ?」
「うな重?」
「うな重の重は重めの食べ物って意味ではねぇからな?!」
「まあむしろ精が付きそうですわよねぇ」
「普通におかゆとかで良いんだよ」
「あぁ、熱々のおかゆを『あっつ! 熱っアッツッ』てリアクション芸人みたいに食べたいと」
「病人に何させようとしてんのお前。ちげぇよ。そこはふーふーしてくれないと」
「はぁっ」
「それ溜息じゃん……なんかテンション下がるからやめい」
病人の前で溜息とかコイツ、大丈夫だろうか。今は別に病人でも体調不良でもないが。
「ふーふーして食べればいいんですの?」
「なんで食べちゃうんだよ、食べさせろよ」
「どこに?」
「なんで誰に出なく何処になのかはさておき俺の口にだよ」
「どこの?」
「どこもかしこも無く顔のだよ! お前も大概下ネタ好きだな!」
って言うか男相手に言う事かよ。逆なら完全にセクハラだが。
「一々ふーふーするんですの?」
「一々とか言うなよ。頼むよ」
「仕方ないですわねぇ。まあしないけど」
「しないのかよ!」
何でって聞いたらメンドクサイとか答えるんだろうなぁ。
「実際、面倒ですわ」
「人の心理描写に返事するな」
「他に無いんですの? 看病って」
「うん? そうだなあ」
他に、何だろうな。
「濡らしたタオルとかを絞って、おでこに?」
「ずぶ濡れのタオルを気管押し付けると」
「殺す気か。お前に優しさという物は無いのか」
「半分は優しさで出来てたらいいなぁとは思いますわ」
「バフ〇リンかよ。っていうか『いいなぁ』ってことはそうでないと言う事だな」
「まあ多分、ちょっとくらいはありますわよ、優しさ」
「不安だ……」
コイツが良い奴なのは知ってるが、どっちかというと「意外といい奴」な感じなので、面白半分に変な事をしてこないか非常に不安である。
「他には?」
「あー、汗拭いたりとかかな」
「ふむ。乾燥させると」
「何で逐一ボケて来るかな! 乾燥さすな!」
「汗で蒸れてて気持ち悪いから乾燥してサッパリしたいのではないんですの?」
「前半しか合ってねぇ! 後半はなんだ、俺は洗濯物か!」
「良いツッコミ頂きましたわ」
「そう言うのいいから!」
コイツ今日は調子いいな。調子よくボケてやがる。この阿保エルフめ。
まあ本人が非常に楽しそうなのでそれはそれでいいのだが。看病となったら話は変わって来るのでしっかり頼みたいところである。
「絞った濡れタオルとかで体拭いてくれるといいかな」
「濡れますわよね」
「そこは……どうなんだろう」
よくよく考えれば俺とて看病のちゃんとした知識なんて無い。
ぶっちゃけイメージでしかない。
「膝枕で寝かしつけるとかどうですの」
「まあ今回の場合体調不良ってだけだから移ったりしないし、悪くないな」
「添い寝でもいいですわね」
「それは毎晩そうだろ」
一緒に寝てない日なんて無いくらい毎晩一緒だ。
「それじゃあユウキはふーふーとあーんしてもらって、体を拭かれて膝枕で寝かしつけされたいってことでいいんですの?」
「なんかまとめに掛かってんな、まあ、そうだな、イメージではそんな感じかな」
「なるほど……魔法で治しますわね」
「結局しないのかよ!!」
ここまで話したのにしないのか。
「だってそんなの体調不良でなくてもしてあげられますわよ? それならすぐにでも治してあげたいのが人情ですわ」
「ま、まあそうかも知れんが」
体調不良の時に優しくされるのがいいんであって……ってことも……ない? ある? よくわからなくなってきたな。
「それにわたくし達って不老不死だから病気で死にゃあしないですわよ」
「病気って言うかこの場合は副反応な。まあそれはそうなんだが、病気にならないわけではないし、キツイのも痛いのも嫌だろ」
「だから魔法で治せるって言ってますわ」
「うむぅ……」
いやホント、その通りなんだけども。
「ユウキは看病そのものに憧れでもあるんですの?」
「いや、そんなことは無いと思う」
「じゃあやっぱり治しますわよ、体調悪くなったら。甘えたいなら甘やかしてあげるから。それは別の話ですわ」
「お、おう」
そんなわけで話は終わり迎えた翌日。
「全然元気だ」
「それは何よりですわね」
魔法の出番がないくらい元気な俺であった。
若干肩の痛みがある程度で、基本良好な体調である。
「これじゃあ魔法の出番も甘やかしも無しかな」
「甘やかしくらいはしてあげますわよ」
「マジか」
そんな訳でこの後、俺はシュエリアにたくさん甘やかされ、同時にそれを見かけたアイネ達にも構われて、非常に騒がしく、彼女らに看病は多分無理だなと思うのであった。
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次回更新は来週金曜日18:00までを予定しております。




